鈍い金属音と共に、尚文がラルクの攻撃を受ける。盾で攻撃を受け切ったはずなのに、尚文が痛みに顔を歪める。
「これで終わりだ!盾の坊主。」
ラルクが鋭いモーションと共に鎌を振り上げる。スキルを繰り出そうと言うのだろう。
「ファイアーアタックIX!」
「輝石・紅玉炎!」
俺の魔法はテリスにさえぎられる。
気合と共に、ラルクが鎌を振り下ろす。その切っ先は、尚文を切り裂いた。
「尚文!」
俺は叫んだ。
俺は目を覚ました。夢だ。横を見ると、尚文が浅い寝息を立てている。
時計を見ると、まだ真夜中と言っていい。なんて夢見だ。高鳴っている動悸を無理やり押さえつける。明日は当のラルク達とのレベル上げだ。寝不足になっている場合じゃない。
俺は無理やり目をつぶって、寝床に潜った。体は疲れているのに、思考は寝静まってくれない。俺は朝まで悶々として、寝返りを繰り返した。
翌朝。朝食を済ませると、俺たちは身支度をして、待ち合わせ場所に向かった。この島の先住民のトーテムポールがある広場だ。
程なくラルクとテリスもやって来る。時間も正確だ。律儀な連中であるのが分かる。
「今日はよろしくな、盾の坊主。」
「ああ。」
ラルクのテンションの高い挨拶に、尚文は低いノリで返す。俺の言が脳裏に残っているのか、それとも、坊主と言うフレーズが引っ掛かっているのか。
「よろしくお願いします、ラルクさん、テリスさん。」
ラフタリアが几帳面に挨拶を返す。
「ところでテリス、頼まれていたアクセサリーだが、こんな風に出来上がった。」
尚文は、懐から腕輪を取り出すと、テリスに渡す。
「俺は専門職じゃないから、そっちが思うとおりに出来たかはわからないぞ。」
テリスは、渡された腕輪を、傾けたりひっくり返したりして、いろんな方向から見つめた。
彼女の目から、涙があふれ、頬を伝った。尚文をはじめ、皆が動揺する。
「宝石が、喜びに満ちている…。ここまでの仕事をしてくれるなんて…。」
感無量と言う感じで、テリスが言う。
「泣く程の事か?」
ラルクが半ば呆れて言うと、
「分からないの、ラルク!まるで、新たな世界が開かれるほどの一品なのに!」
テリスが怒り気味に返す。
「ま、まあ、気に入ってくれたなら、良かったが…。それと、アクセサリーの代金なんだが…。」
尚文が、テリスの気迫に当てられた感じで、言う。
すると、テリスが、金貨がしこたま入った袋を尚文に渡した。その重さに、尚文が驚く。
「お、おい、これは…。」
「分かっているわ。こんなんじゃ、全然足りないわよね。」
とテリスは言い、ラルクに、
「ラルク、貴方のお金も、全部出して!早く!」
と迫る。
「えええ!」
ラルクが困惑している。
「金は、分割でいい。レベル上げに行くぞ。」
見かねた尚文が、助け舟を出した。
尚文が、俺に目配せをして来た。
『こんなお人好しの奴らが、敵になる訳がない。』
俺には、彼がそう言っているように思えた。
「坊主たちのレベル、案外高けーな。」
島に向かう舟の上で、ラルクが言った。
ちなみに、今の俺たちのレベルは、尚文が63、俺が58、ラフタリアが73、フィーロが67、リファナが40だ。俺と一緒にレベル上げをした分、ラフタリアが突出している。リファナはクラスアップしたばかりだ。
「お前たちは、幾つなんだ?」
尚文は問う。
「俺が56でテリスは52だな。」
俺たちよりも下だが、強さはレベルだけでは決まらない事は、俺たち自身が証明している。
「戦い方は、どうするんだ?」
ラルクが訊いてくる。
「盾のやる事なんて、一つだろう。敵の攻撃を防ぎ、仲間を守る。そうして、敵を押さえておいて、その隙に仲間に倒してもらう。ラフタリア、フィーロ、リファナが前衛、勝彦が魔法で後衛だ。」
尚文は答える。正確に言うなら、ラフタリアとリファナは遊撃だ。時々、俺の護衛に回ってくれる事がある。中衛がいない分の暫定的な処置と言う感じだが…。
「さすが、勇者様は、盾として徹底してるな。」
ラルクが茶化すように言う。尚文は渋い顔だ。
「俺はこの武器を使う。テリスは後ろから魔法担当だ。」
ラルクは鎌を手に取り言う。
「ええ、腕輪の力で、魔法がどれくらい強くなっているか、楽しみよ。」
テリスは、尚文にもらった腕輪を眺めて、言う。
「それじゃあ、ラルクはラフタリアたちと一緒に前衛を、テリスは勝彦とともに後衛を担当してくれ。」
尚文は言った。
フィーロはいつものように、魔物姿で泳ぎながら、時折魚の魔物を仕留めつつ、舟に並走している。おかげで、舟渡も含め7人、何とか一艘の舟に乗れている。
やがて、舟は島に着いた。
「ここは…。」
ラフタリアが呟く。というのも、昨日俺と二人でレベル上げをした島だったからである。
ここを決めたのは、勇者同士が干渉しないように、影から他の勇者たちの狩場の情報をもらっていた尚文なのだが、なんという偶然だろう。
俺とラフタリアは、その事を皆に告げた。
「それじゃあ、他の場所にした方が、良かったかな。」
尚文の言に、
「いや、ここの魔物との戦い方は分かっているから、かえってやりやすいと思う。」
俺は答える。
「皆さん、くれぐれも、食人植物には気を付けて下さいね。蔓で絡め捕って来ますから。」
ラフタリアは言った。
それから、皆で密林に分け入る。すると、ペンギンのような魔物がわらわらと湧いてくる。うーん。風景的に、ミスマッチだ。
「でやっ!」
ラルクが気合と共にジャンプして、魔物を一刀両断にした。
「ふふふ、はしゃいじゃって。」
テリスが笑う。
尚文は2、3匹の魔物を押さえている。ラフタリア、フィーロ、リファナはそれぞれの獲物に向かう。俺は、誰からもターゲットになっていない魔物に、魔法を放つ。
「サンダーブラストIII!」
3匹の魔物が感電して倒れる。
テリスが詠唱を始める。
『遍く宝石の力よ、私の求めに応じ、顕現せよ。我が名はテリス=アレキサンドライト。仲間たちよ、彼の者を打ち滅ぼす力と成れ!」
聴き慣れない詠唱だ。彼女の髪色が、赤く染まって行く。
「輝石・紅玉炎!」
彼女が叫ぶと、腕輪から特大の炎の塊が飛び出した。尚文に向かって。
「ナオフミ様!」
「なおふみ様!」
ラフタリアとリファナが同時に叫ぶ。次の瞬間、尚文が、掴んでいる魔物ごと、炎に包まれた。
「ごしゅじんさま!」
フィーロも叫んだ。
「大丈夫だ。テリスの魔法は、味方を傷つけたりなんか、しない。」
ラルクは言った。
確かに、魔物たちは燃えて崩れ去って行くが、尚文は無事な様だ。
「これほどの威力になるなんて…。」
テリスが腕輪を見つめ、つぶやく。
「驚いたぞ、攻撃されたのかと思った。」
戦いの後、尚文はテリスに言った。
「ごめんなさい。あの魔法は、敵にはダメージを与え、味方には癒しになるのよ。」
テリスは微笑んで言う。
「それにしても、魔法の威力が本当に向上したわ。いい腕輪を作ってくれて、ありがとう。」
「テリスが有り金はたけと言った意味が分かったぜ。坊主、ありがとうな。」
ラルクもお礼を言う。ポーカーフェイスで分かりづらいが、尚文も、まんざらでもなさそうだ。
その後、ドロップ品を山分けした後、尚文とラルクは、魔物の素材をそれぞれの武器に吸わせた。
それから、魔物を倒しながら、密林に分け入って、進んだ。
バシッと音がして、先頭を進んでいた尚文が、何かを掴んだ。草の蔓だ。
「皆、気を付けろ!」
尚文が叫ぶと同時に、
「うわっ!」
とラルクが叫び、転倒する。蔓に足を取られたのだろう。それでも彼は、引きずられる前に、鎌で蔓を切断し、立ち上がる。
テリスが詠唱を始める。ラフタリアたちは、蔓をそれぞれの武器で薙ぎ払う。
「ファイアーストームIII!」
俺は、超小型のストームを身体に纏わせて、蔓を焼き切りながら前に出る。すると、藪の奥に、見覚えのある袋が見えた。もしかしたら、昨日と同じ個体かもしれない。
「輝石・紅玉炎!」
テリスが魔法で皆を襲う蔓を焼いているのだろう。
俺は、食人植物に近づくと、徐に魔法を放った。
「ファイアブラストIX!」
火球が前方の藪の奥へ飛んで行き、爆発する。食人植物があったであろう場所は、木っ端微塵になった。戦果を確認してから、俺は魔法を放つ。
「ウォータークラウドV!」
類焼を防がなくては、山火事になりかねない。
「魔法使いのおっちゃん、スゲーな。」
ラルクが感嘆の目で見てくる。悪い気分ではないが、ラルク、お前もおっちゃん呼ばわりか…。
「皆、無事か?」
尚文が確認する。けが人はいないようだ。
「あれが、昨日、ラフタリアが捕まった植物か。」
尚文の言に、
「もう、言わないで下さい。」
ラフタリアが顔を赤らめて言う。
「それにしても、勝彦、やりすぎだ。素材が台無しだ。」
尚文が、俺を咎めて言う。
「すまん。でも、蔓と爆散した破片も残っている。」
俺は返す。
尚文とラルクは、素材を武器に吸わせた。
その後俺たちは、何度かこの島のボスに挑戦した。ボスが呼ぶ雑魚を、尚文がヘイトリアクションで集め、俺かテリスが魔法で一掃する。ラルク、ラフタリア、フィーロ、リファナがボスを切り刻んで討伐する。二回も繰り返せば、既に作業ゲーだ。
例の妙なドロップ品、‘ペングー着ぐるみ’がここでも出た。ラルク達に引き取らないかと勧めてみたが、やはり断られた。俺とラフタリアで取ったのも併せて、4着になった。性能はいいのだが、こう見てくれが悪いと…。とはいえ、捨て置くのも惜しい一品だ。機会を見て、売ってしまうのも手だろう。
俺のレベルが60を超えた。新しい魔法習得の選択肢が現れる。‘ライト’、‘フライト’、‘スチール’とある。すなわち、光、飛行、盗みだ。ライトはラフタリアが持っているし、スチールは、パンツを盗んでもなぁ…。と言う事で、俺はフライトを選択した。
皆に魔法習得の事を告げ、試してみると、どうやら自転車程度の速度で飛べるようだ。ジャンプの魔法を併用し、地面を蹴って進むと、それ以上の速度で進める。まるで、某鬼娘の飛び方である。
更に、こいつは他人へも掛けられるようだ。試しに、フィーロを飛ばしてみる。念願叶った彼女は、歓声を上げ、興奮している。俺が魔法を解除すると、不満げに、ぶーたれた。
そんなこんなで、日がすっかり傾いた。
「そろそろ、戻るか。」
「ああ。」
尚文の言に、ラルクが同意する。
帰りの舟では、心なしか、ラルク達の口数が少ない様に思えた。
「明日はどうするんだ?」
帰り際に、尚文が言う。
「後は、気ままにやるさ。」
ラルクは答えた。
「そうか。金が出来たら、持って来いよ。」
「分かったぜ、じゃあな、盾の坊主。」
「さようなら、皆さん。」
テリスが頭を下げる。
「ありがとうございました。」
「楽しかったー。」
「有意義な時間でした。」
皆、それぞれに別れを告げる。
「今度会った時も、一緒にやれると、いいな。」
俺の言に、ラルクは手を上げて応えた。
ホテルに戻って夕食の後、尚文は、ラフタリアのレベルをステータスエンチャントで調整した。レベル70を超えると、経験値の入りが悪くなることが分かったからである。
ラフタリアは、敏捷を上げる事を望んだ。よってレベルを下げる事を代償に、ステータスを上昇させる。
「ありがとうございます、ナオフミ様。」
ラフタリアは嬉しそうだ。