転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第54話 ラルクとテリスとレベル上げ

 鈍い金属音と共に、尚文がラルクの攻撃を受ける。盾で攻撃を受け切ったはずなのに、尚文が痛みに顔を歪める。

 「これで終わりだ!盾の坊主。」

ラルクが鋭いモーションと共に鎌を振り上げる。スキルを繰り出そうと言うのだろう。

 「ファイアーアタックIX!」

 「輝石・紅玉炎!」

俺の魔法はテリスにさえぎられる。

 気合と共に、ラルクが鎌を振り下ろす。その切っ先は、尚文を切り裂いた。

 「尚文!」

俺は叫んだ。

 

 俺は目を覚ました。夢だ。横を見ると、尚文が浅い寝息を立てている。

 時計を見ると、まだ真夜中と言っていい。なんて夢見だ。高鳴っている動悸を無理やり押さえつける。明日は当のラルク達とのレベル上げだ。寝不足になっている場合じゃない。

 俺は無理やり目をつぶって、寝床に潜った。体は疲れているのに、思考は寝静まってくれない。俺は朝まで悶々として、寝返りを繰り返した。

 

 翌朝。朝食を済ませると、俺たちは身支度をして、待ち合わせ場所に向かった。この島の先住民のトーテムポールがある広場だ。

 程なくラルクとテリスもやって来る。時間も正確だ。律儀な連中であるのが分かる。

 「今日はよろしくな、盾の坊主。」

 「ああ。」

ラルクのテンションの高い挨拶に、尚文は低いノリで返す。俺の言が脳裏に残っているのか、それとも、坊主と言うフレーズが引っ掛かっているのか。

 「よろしくお願いします、ラルクさん、テリスさん。」

ラフタリアが几帳面に挨拶を返す。

 

 「ところでテリス、頼まれていたアクセサリーだが、こんな風に出来上がった。」

尚文は、懐から腕輪を取り出すと、テリスに渡す。

 「俺は専門職じゃないから、そっちが思うとおりに出来たかはわからないぞ。」

 

 テリスは、渡された腕輪を、傾けたりひっくり返したりして、いろんな方向から見つめた。

 彼女の目から、涙があふれ、頬を伝った。尚文をはじめ、皆が動揺する。

 「宝石が、喜びに満ちている…。ここまでの仕事をしてくれるなんて…。」

感無量と言う感じで、テリスが言う。

 「泣く程の事か?」

ラルクが半ば呆れて言うと、

 「分からないの、ラルク!まるで、新たな世界が開かれるほどの一品なのに!」

テリスが怒り気味に返す。

 

 「ま、まあ、気に入ってくれたなら、良かったが…。それと、アクセサリーの代金なんだが…。」

尚文が、テリスの気迫に当てられた感じで、言う。

 すると、テリスが、金貨がしこたま入った袋を尚文に渡した。その重さに、尚文が驚く。

 「お、おい、これは…。」

 「分かっているわ。こんなんじゃ、全然足りないわよね。」

とテリスは言い、ラルクに、

 「ラルク、貴方のお金も、全部出して!早く!」

と迫る。

 「えええ!」

ラルクが困惑している。

 「金は、分割でいい。レベル上げに行くぞ。」

見かねた尚文が、助け舟を出した。

 

 尚文が、俺に目配せをして来た。

 『こんなお人好しの奴らが、敵になる訳がない。』

俺には、彼がそう言っているように思えた。

 

 

 「坊主たちのレベル、案外高けーな。」

島に向かう舟の上で、ラルクが言った。

 ちなみに、今の俺たちのレベルは、尚文が63、俺が58、ラフタリアが73、フィーロが67、リファナが40だ。俺と一緒にレベル上げをした分、ラフタリアが突出している。リファナはクラスアップしたばかりだ。

 「お前たちは、幾つなんだ?」

尚文は問う。

 「俺が56でテリスは52だな。」

俺たちよりも下だが、強さはレベルだけでは決まらない事は、俺たち自身が証明している。

 

 「戦い方は、どうするんだ?」

ラルクが訊いてくる。

 「盾のやる事なんて、一つだろう。敵の攻撃を防ぎ、仲間を守る。そうして、敵を押さえておいて、その隙に仲間に倒してもらう。ラフタリア、フィーロ、リファナが前衛、勝彦が魔法で後衛だ。」

尚文は答える。正確に言うなら、ラフタリアとリファナは遊撃だ。時々、俺の護衛に回ってくれる事がある。中衛がいない分の暫定的な処置と言う感じだが…。

 「さすが、勇者様は、盾として徹底してるな。」

ラルクが茶化すように言う。尚文は渋い顔だ。

 「俺はこの武器を使う。テリスは後ろから魔法担当だ。」

ラルクは鎌を手に取り言う。

 「ええ、腕輪の力で、魔法がどれくらい強くなっているか、楽しみよ。」

テリスは、尚文にもらった腕輪を眺めて、言う。

 「それじゃあ、ラルクはラフタリアたちと一緒に前衛を、テリスは勝彦とともに後衛を担当してくれ。」

尚文は言った。

 

 フィーロはいつものように、魔物姿で泳ぎながら、時折魚の魔物を仕留めつつ、舟に並走している。おかげで、舟渡も含め7人、何とか一艘の舟に乗れている。

 

 やがて、舟は島に着いた。

 「ここは…。」

 ラフタリアが呟く。というのも、昨日俺と二人でレベル上げをした島だったからである。

 ここを決めたのは、勇者同士が干渉しないように、影から他の勇者たちの狩場の情報をもらっていた尚文なのだが、なんという偶然だろう。

 

 俺とラフタリアは、その事を皆に告げた。

 「それじゃあ、他の場所にした方が、良かったかな。」

尚文の言に、

 「いや、ここの魔物との戦い方は分かっているから、かえってやりやすいと思う。」

俺は答える。

 「皆さん、くれぐれも、食人植物には気を付けて下さいね。蔓で絡め捕って来ますから。」

ラフタリアは言った。

 

 それから、皆で密林に分け入る。すると、ペンギンのような魔物がわらわらと湧いてくる。うーん。風景的に、ミスマッチだ。

 「でやっ!」

ラルクが気合と共にジャンプして、魔物を一刀両断にした。

 「ふふふ、はしゃいじゃって。」

テリスが笑う。

 

 尚文は2、3匹の魔物を押さえている。ラフタリア、フィーロ、リファナはそれぞれの獲物に向かう。俺は、誰からもターゲットになっていない魔物に、魔法を放つ。

 「サンダーブラストIII!」

3匹の魔物が感電して倒れる。

 

 テリスが詠唱を始める。

 『遍く宝石の力よ、私の求めに応じ、顕現せよ。我が名はテリス=アレキサンドライト。仲間たちよ、彼の者を打ち滅ぼす力と成れ!」

聴き慣れない詠唱だ。彼女の髪色が、赤く染まって行く。

 「輝石・紅玉炎!」

彼女が叫ぶと、腕輪から特大の炎の塊が飛び出した。尚文に向かって。

 「ナオフミ様!」

 「なおふみ様!」

ラフタリアとリファナが同時に叫ぶ。次の瞬間、尚文が、掴んでいる魔物ごと、炎に包まれた。

 「ごしゅじんさま!」

フィーロも叫んだ。

 「大丈夫だ。テリスの魔法は、味方を傷つけたりなんか、しない。」

ラルクは言った。

 確かに、魔物たちは燃えて崩れ去って行くが、尚文は無事な様だ。

 「これほどの威力になるなんて…。」

テリスが腕輪を見つめ、つぶやく。

 

 「驚いたぞ、攻撃されたのかと思った。」

戦いの後、尚文はテリスに言った。

 「ごめんなさい。あの魔法は、敵にはダメージを与え、味方には癒しになるのよ。」

テリスは微笑んで言う。

 「それにしても、魔法の威力が本当に向上したわ。いい腕輪を作ってくれて、ありがとう。」

 「テリスが有り金はたけと言った意味が分かったぜ。坊主、ありがとうな。」

ラルクもお礼を言う。ポーカーフェイスで分かりづらいが、尚文も、まんざらでもなさそうだ。

 

 その後、ドロップ品を山分けした後、尚文とラルクは、魔物の素材をそれぞれの武器に吸わせた。

 

 それから、魔物を倒しながら、密林に分け入って、進んだ。

 バシッと音がして、先頭を進んでいた尚文が、何かを掴んだ。草の蔓だ。

 「皆、気を付けろ!」

尚文が叫ぶと同時に、

 「うわっ!」

とラルクが叫び、転倒する。蔓に足を取られたのだろう。それでも彼は、引きずられる前に、鎌で蔓を切断し、立ち上がる。

 

 テリスが詠唱を始める。ラフタリアたちは、蔓をそれぞれの武器で薙ぎ払う。

 「ファイアーストームIII!」

俺は、超小型のストームを身体に纏わせて、蔓を焼き切りながら前に出る。すると、藪の奥に、見覚えのある袋が見えた。もしかしたら、昨日と同じ個体かもしれない。

 「輝石・紅玉炎!」

テリスが魔法で皆を襲う蔓を焼いているのだろう。

 

 俺は、食人植物に近づくと、徐に魔法を放った。

 「ファイアブラストIX!」

火球が前方の藪の奥へ飛んで行き、爆発する。食人植物があったであろう場所は、木っ端微塵になった。戦果を確認してから、俺は魔法を放つ。

 「ウォータークラウドV!」

類焼を防がなくては、山火事になりかねない。

 

 「魔法使いのおっちゃん、スゲーな。」

ラルクが感嘆の目で見てくる。悪い気分ではないが、ラルク、お前もおっちゃん呼ばわりか…。

 「皆、無事か?」

尚文が確認する。けが人はいないようだ。

 「あれが、昨日、ラフタリアが捕まった植物か。」

尚文の言に、

 「もう、言わないで下さい。」

ラフタリアが顔を赤らめて言う。

 「それにしても、勝彦、やりすぎだ。素材が台無しだ。」

尚文が、俺を咎めて言う。

 「すまん。でも、蔓と爆散した破片も残っている。」

俺は返す。

 尚文とラルクは、素材を武器に吸わせた。

 

 その後俺たちは、何度かこの島のボスに挑戦した。ボスが呼ぶ雑魚を、尚文がヘイトリアクションで集め、俺かテリスが魔法で一掃する。ラルク、ラフタリア、フィーロ、リファナがボスを切り刻んで討伐する。二回も繰り返せば、既に作業ゲーだ。

 例の妙なドロップ品、‘ペングー着ぐるみ’がここでも出た。ラルク達に引き取らないかと勧めてみたが、やはり断られた。俺とラフタリアで取ったのも併せて、4着になった。性能はいいのだが、こう見てくれが悪いと…。とはいえ、捨て置くのも惜しい一品だ。機会を見て、売ってしまうのも手だろう。

 

 俺のレベルが60を超えた。新しい魔法習得の選択肢が現れる。‘ライト’、‘フライト’、‘スチール’とある。すなわち、光、飛行、盗みだ。ライトはラフタリアが持っているし、スチールは、パンツを盗んでもなぁ…。と言う事で、俺はフライトを選択した。

 皆に魔法習得の事を告げ、試してみると、どうやら自転車程度の速度で飛べるようだ。ジャンプの魔法を併用し、地面を蹴って進むと、それ以上の速度で進める。まるで、某鬼娘の飛び方である。

 更に、こいつは他人へも掛けられるようだ。試しに、フィーロを飛ばしてみる。念願叶った彼女は、歓声を上げ、興奮している。俺が魔法を解除すると、不満げに、ぶーたれた。

 

 そんなこんなで、日がすっかり傾いた。

 「そろそろ、戻るか。」

 「ああ。」

尚文の言に、ラルクが同意する。

 帰りの舟では、心なしか、ラルク達の口数が少ない様に思えた。

 

 「明日はどうするんだ?」

帰り際に、尚文が言う。

 「後は、気ままにやるさ。」

ラルクは答えた。

 「そうか。金が出来たら、持って来いよ。」

 「分かったぜ、じゃあな、盾の坊主。」

 「さようなら、皆さん。」

テリスが頭を下げる。

 「ありがとうございました。」

 「楽しかったー。」

 「有意義な時間でした。」

皆、それぞれに別れを告げる。

 「今度会った時も、一緒にやれると、いいな。」

俺の言に、ラルクは手を上げて応えた。

 

 ホテルに戻って夕食の後、尚文は、ラフタリアのレベルをステータスエンチャントで調整した。レベル70を超えると、経験値の入りが悪くなることが分かったからである。

 ラフタリアは、敏捷を上げる事を望んだ。よってレベルを下げる事を代償に、ステータスを上昇させる。

 「ありがとうございます、ナオフミ様。」

ラフタリアは嬉しそうだ。

 

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