転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第55話 覗き騒動

 その後、皆で風呂へ向かった。ホテル自慢の大浴場である。露天風呂で、海が見えるらしい。いわゆる、オーシャンビューという奴だろう。

 入り口で女性陣と別れ、尚文と一緒に脱衣所で服を脱ぐ。

 「お前は本当に痩せたなぁ。」

 「尚文は、少し肉を付けた方がいいかもしれない。」

などど、馬鹿話をしながら風呂に入る。なんか、デジャブだ。

 

 かけ湯をし、湯舟に浸かろうとすると、先客がいた。槍の勇者、元康君だ。会いたくない奴が居たと言う事で、尚文は顔をしかめる。

 「二日酔いは大丈夫なのか?」

尚文は声を掛ける。元康君は、初日の酒盛りの際、尚文に続いて、酒の素であるルコルの実を食べた結果、急性アルコール中毒でぶっ倒れたらしかった。もちろん、尚文は平気だ。如何に尚文がウワバミか、良く分かるエピソードだ。

 「てめえがそれを言うのか?」

 「お前が俺に続いて勝手にルコルの実を食ったんだろう。自業自得だ。」

 「お前は別の日本から来たらしいし、特異体質なんだな。」

元康君は勝手に納得している。俺たちは湯に浸かった。

 

 その時扉が開き、剣の勇者錬君一行と、弓の勇者樹君一行がどやどやと入って来た。四聖勇者が勢ぞろいである。

 時を同じくして、女湯との境である垣根を越えて、魔物姿のフィーロが男湯に飛び込んで来た。男達が驚いてどよめく。

 「どうしたんだ、フィーロ。」

尚文が言った。

 「フィーロ、ごしゅじんさまと一緒に入りたい。」

フィーロの言に、

 「お前は鳥だ。別の湯に入れ。というか、風呂じゃなく、行水でもしていろ。」

尚文はつれなく返す。

 「やー。」

フィーロはいやいやをした後、

 「じゃあ、人型になったら、一緒にいていい?」

と言う。

 「人型になったら、お前は女だ。女湯へ行け。」

尚文が答えると同時に、元康君が、

 「フィーロちゃん、ぜひ天使の姿に!」

涎を垂らさんばかりの勢いで言う。

 「やー!」

フィーロは魔物姿のまま、尚文の後ろに隠れた。

 「まあ、仕方ない。抜け羽とかは、ちゃんと処分するんだぞ。」

 「わーい。」

許可をもらったフィーロは、嬉しそうに、尚文に並ぶ。

 「…フィーロちゃんと混浴。」

元康君が、なんかいやらしい目をして、こちらへ近づいてくる。フィーロが再び尚文の背に隠れた。

 

 フィーロの登場に呆気に取られていた他の面々も、湯船に浸かった。湯船の人口密度が一気に上がる。

 「でさ、お前ら、仲間の子たちで、一番の美人って誰だと思う?」

 元康君がはしゃぐ。どうでもいい話に、尚文はげんなりしている。その尚文に、

 「後さ、お前ら、もうヤった?俺は…フフ。」

と彼が一番嫌いであろう話を振っている。それにしても、モテてうらやましい限りだ。

 

 「なあ、尚文、お前はもうラフタリアちゃんと、ヤったんだろ?」

渋い顔の尚文に、元康君は重ねて問う。まったく、相変わらず空気の読めない奴だ。

 「なぜ俺に話題を振る。」

仏頂面になって、尚文は言う。

 「いいじゃねえか、少しは話せよ。取り敢えず、美少女ランキングを話そうぜ。」

元康君は、一人で盛り上がっている。まさに修学旅行のノリだ。

 「断る。」

 「不毛ですね。」

 「趣味じゃないな。」

樹君や錬君も、口では興味無さそうだが、顔つきを見ると、まんざらでもなさそうな感じである。

 

 「俺的には、アバズレとフィーロちゃんとラフタリアちゃんとリーシアちゃんかな。」

元康君が、勝手にランキングを発表する。

 「そうですね、アバズレさんは、元姫ですからね。性格が悪いらしいですが、僕には普通に対応していましたし。」

樹君が、話に乗って来る。不毛ではなかったのか?

 「まあ、女王は性格が悪いと言っていたが、俺も気にならなかったな。」

錬君も乗り気になっている。趣味じゃなかったのでは?

 

 「ねえ、フィーロ可愛い?」

突然、フィーロが尚文に訊いた。

 「さあな。」

気の無い返事に、フィーロがぶーたれる。

 「俺の中では、フィーロちゃんが一番可愛いよ。だから、天使の姿になって。」

元康君が懇願するが、

 「やー!」

フィーロは一言で切り捨てる。

 

 「おっさんはどう思ってるんだ?」

なんと、元康君が俺に訊いて来た。相変わらずのおっさん呼ばわりにカチンと来ながら、一応答える。

 「パーティーメンバーは皆好きだぞ。ラフタリア、フィーロ、リファナ、皆可愛い。」

 「リファナ?そんな子、居たっけ。」

元康君が首をかしげる。そういえば、リファナは、元康君には、ほぼ獣人姿しか見せていない感じだしな。あの姿と美少女然とした本性は、結び付かないだろう。

 

 「まあ、美少女ランキングは、みんな俺と同じ認識でいいんだな。」

 「まあ、大体はそうですよね。顔だけならですが。」

元康君の確認に、樹君が答える。尚文と錬君は黙ったままだ。

 

 「フィーロ、そろそろお姉ちゃんたちの方に、帰るね。」

 「ああ、さっさと行け。ここには危険な奴がいるからな。」

尚文の言に頷くと、フィーロは垣根を飛び越えて、女湯へと戻って行った。

 その後を元康君はしばらく見つめ、吸い寄せられるように垣根に近づいた。

 「ここは、男ならお約束の、ノ・ゾ・キをするのが勇者としての務めだよな。」

と、とんでもない事を言う。いや、修学旅行のノリなら、ごく自然な流れか。

 

 「ほら、お前たちも、気になるだろう?」

元康君の誘いに、

 「駄目ですよ、そんな事をしては。」

言葉とは裏腹に、樹君が垣根に近づいて行く。弓のパーティーの鎧ことマルドや、その他の男達も、興味があるのか湯船から上がっている。

 

 「く、地味に高いぞ、この垣根。樹、お前が足場になれ!跳んで見るとばれる!」

 「何でですか!背丈や年齢を考えて、元康さんが足場になるべきでしょう!」

 「それでは俺が、女湯という秘密の花園を見れないではないか!」

どちらが足場になるか、言い争っている。不毛だ。勇者のやる事じゃないぞ。また、そんな話し合いがあちこちで起こっているようだ。

 

 「くだらないな。」

尚文は言った。

 「俺は出る。お前はどうする、勝彦。」

 「これも、男の付き合いと言う事だ。」

 「お前もか、勝彦。まあ、程々にな。」

そう言って、尚文は湯船から上がり、脱衣所へ向かった。

 

 すると、脱衣所からの扉が開き、ガタイのいい若い男が入って来た。ラルクだ。

 「おお、盾の坊主。お前も、ここの温泉に入りに来たのか?」

 「俺たちは、ここのホテルに泊まっているんだよ。」

 「結構羽振りがいいんだな。で、もう出るのか?」

 「あいつらが覗きをするらしい。とばっちりを受けない内に、お前も出た方が、いいぞ。」

尚文が忠告すると、

 「待て、ノゾキ、だと。」

言いながら、尚文の手を握る。

 「そんな素晴らしい催しに参加しないとは、一体どういうことだ?」

尚文が顔をしかめる。ラルクは、覗きをするべく垣根の側で何やらやっている元康を見る。

 「彼が同志か!」

 「ん、何だ。」

元康君がラルクを見る。

 「素晴らしい、ぜひ俺も、その計画に参加させてほしい。」

 「おお!」

一瞬で、二人が意気投合する。

 

 「ほら、盾の坊主も、こっちへ来るんだ!」

 「断る!」

 「だが、これは男の本懐…。美女の裸体を拝むのは、崇高な儀式なんだ。参加しないのは、女性に失礼だぞ。」

ラルクが覗きの意義を、とうとうと語る。尚文の中で、彼の株が大暴落するのが見て取れた。

 

 「なあ、尚文、お前はラフタリアちゃんと、どこまで行ったんだ。裸に興味…あるんだろ。」

元康君が訊く。

 「一緒にいる、背の高い方の子だろ。ありゃあいい線行ってるんじゃないか。」

 「またか、だからそんな関係は無いと言ってるだろう。」

 「いいや、ラフタリアちゃんは、きっと思っているぞ。」

 「いいな。俺もテリスとあんな空気を出したいもんだぜ。」

ありゃりゃ、二人、付き合っていなかったのか。

 

 「何を戯けたことを。」

 「それなら、ラフタリアちゃんが迫ったとかさ。」

 「迫るとか、それこそあり得ないだろ。あいつは子供だぞ。」

 「じゃあさ、ラフタリアちゃんが、服を脱いだとかないのか?」

根負けしたのか、うんざりした顔で、尚文は話し始めた。それによると…。

 

 いつか、行商の途中に寄った、温泉街での話らしい。多分、俺が風呂にに入っていた時だろう。

 湯上りのラフタリアが、尚文に話しかけた。そうして、自分を覆っていたタオルを外し、裸体を尚文に見せたと言う。

 「どうですか?」

恥ずかしそうに言う彼女に、尚文は、

 「まあ、だいぶ良くなったんじゃないか。出会った頃とは雲泥の差だ。」

と言ったそうだ。

 「え、あの…それだけですか。」

ぽかんとするラフタリアに、

 「いつまでも裸になっていると、風邪を引くぞ。」

と追い打ちをかけた尚文。その直後、フィーロがやって来てグダグダになったらしいが…。

 初耳だ。うらやましすぎるシチュエーションだが、ラフタリアが可哀想になるほどの鈍感っぷりだ。恐らく、尚文にとっては、子供の戯れに過ぎないのだろう。

 

 「「この、鈍感野郎―!」」

元康君とラルク、二人が拳を尚文に振るう。尚文は両手でそれを受け止めた。

 「それは露骨なアピールだろうが!据え膳を食わぬとは、不届き者が!」

 「女子が、裸を見せて、食べて下さいと言ったのを、無下に扱うとはけしからん!」

 「何を馬鹿なことを。重ねて言うが、ラフタリアは子供だ。しかも、クソ真面目なな。そんなことを考えているはず、無いだろう。」

 「筋金入りなのか…信じられねぇ。」

 「もしかして、坊主、こっちか。」

言いながら、ラルクが怪しげなサインを指で作る。その意味を尚文は理解したらしい。

 「誰がホモだ!ふざけんな!女どもにばれても、助け舟は出さないからな。勝手にやってろ!」

怒りながら、尚文は出て行った。

 

 その後、元康君主導で覗きの作戦会議が開かれる。

 「よし、作戦の第一段階。上から見るか、覗き穴を作るかだが…。」

俺は、徐に湯船から上がった。そうして、話し続ける元康君に近づく。

 「何だ、おっさん。」

 「諸君。俺の魔法が、皆の助けになるだろう。」

 「あ、今日披露した、フライトっていう飛行魔法だな。」

ラルクが納得する。

 「飛行魔法…なんて素晴らしい。」

元康君が感動している。

 早速元康君に掛ける。

 「フライト!」

元康君の身体がふよふよと浮かぶ。俺は何度か魔法を掛け直して、丁度浮力と体重が釣り合う辺りで調整した。

 「そのまま垣根を伝っていけば、上から覗けるだろう。」

俺は言った。一人程度なら、自在にコントロール可能だが、多人数となるとコントロールし切れない。浮かばせるだけなら多人数でも行けそうなので、後は自分で何とかしてもらおう。

 そのまま、ラルク、三勇者、その取り巻きの何人かに、魔法を掛ける。鎧ことマルドは放って置く。あいつは嫌いだ。

 

 浮力を得て宙に浮かんだ男たちが、垣根を掴んで上に登って行く。なんだか、一種壮観な眺めだ。

 おっと、このままでは、一番乗りを奪われてしまう。俺は自分に魔法を掛ける。そのまま、垣根の上へと上昇する。

 うーん。なんだか湯気で良く見えない。肌色っぽい塊は視認出来るのだが…。

 男たちも、そろって垣根から顔を出す。その時だった。

 「おねーちゃん、上!」

フィーロの声だ。すると、ラフタリアの詠唱の声が聞こえる。俺は魔法を解除して、飛び降りた。ジャンプの魔法で着地する。次の瞬間、

 「ツヴァイト・ライト!」

ラフタリアの魔法で、辺り一面が眩く光った。男たちの悲鳴が上がる。

 「目が…!、目が!」

強い光で目晦ましを食らったんだろう。俺は目につく者から、下に下ろした。今急に魔法を解除すると、墜落して怪我を負わせてしまう。

 

 「あんたたち!何やってんの!許さないからね!」

ビッチの声が聞こえる。

 「この魔法はかつひこさんね!一体、何に使ってるの!」

リファナの声だ。いかん、バレてる。俺は、背に腹は代えられず、魔法を解除した。

 「ふぎゃっ!」

墜落した男たちの、情けない悲鳴が起こる。あれ?ざっと見まわしたところ、元康君がいない。

 「元康様!何やってるんですか!?」

ビッチの声と共に、女たちの悲鳴が上がる。元康君め。身を乗り出し過ぎて、女湯に落ちたな。

 

 それから俺は、そそくさと脱衣所に戻り、手早く服を着た。このまま逃げてしまおう。そう思って扉を開けると、タオルを巻いたリファナが仁王立ちで立っていた。

 「逃がさないからね!ファスト・ファイアブラスト!」

次の瞬間、俺は炎に包まれた。

 「あち、あち!」

 「逃げると黒焦げだからね!」

 「分かった。」

俺は観念した。

 

 10分後。俺は男たちと共に、ホテルの廊下に正座していた。横には、ボコボコになった元康君もいる。俺の首には、

 『私が覗きの首謀者です。』

と書かれたプラカードが下げられている。

 俺は、正座は平気な人なので問題無いが、この扱いは心に痛い。まあ、首謀者と言うのは違うと思うが、状況証拠では仕方ないのだろう。

 「全く、いい年して、何やってるんですか。」

投げられたラフタリアの言葉が痛い。

 

 そのまま小一時間ほど、俺たちは正座させられた。ビッチたちのお小言付きである。特にラルクはテリスにこっぴどく説教をされていた。ご愁傷さまである。

 

 もうそろそろ解放される時間だと思った頃、尚文がラフタリア、フィーロ、リファナを引き連れてやって来た。一見して風呂上がり。一緒に家族風呂にでも入ったんだろうか。

 尚文が、俺の首のプラカードを見て、

 「言わんこっちゃない。」

とあきれて言った。

 うらやましいぞ。欲の無い者の勝利と言う訳か。なんか違うような気がするが。

 「かっちゃん、反省したー?」

フィーロが声を掛けて来る。

 うーん、微妙だな。男たるもの、覗きはロマンだろう。次はバレないよう、一人でこっそりやろう。

 

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