俺たちは、カルミラ島に一度接舷し、集められた水兵や冒険者を乗船させ、再び出航した。恐らく、海上で波が発生すると思われるからだ。早速勇者たちが彼らを分隊に編成する。
俺たちが乗っているのは旗艦だ。女王やメルティも同乗して、指揮を行っている。
尚文に訊くと、波まで5分程だと言う。彼は、蛮族の鎧を身にまとっている。城下街で、修理が終わったものを調達して来たらしい。
俺たちは、海上戦闘は慣れていないが、今回覚えた俺の‘フライト’が役に立つだろう。
と、別の船の上に、ラルクとテリスの姿が見えた。彼らも冒険者として参戦する様だ。
やがて、世界がひび割れたような音と共に、俺たちは波の現場に転送された。
視界が回復すると、船が海の上に浮いている事を確認する。どうやら、目論見通り、海上で波が発生したらしい。彼方に波の割れ目が確認出来、そこから、魔物たちが湧き出している。遠くで詳細は分からないが、どうやら半魚人風の魔物が多そうだ。
すると、あちこちの船から、樽爆弾が投下された。ルコル爆樽だ。爆雷の様に時限発火で爆発し、中身のルコルの実を周りに撒き散らすものだ。強烈な酒の素であるルコルの実なら、魔物を酔わせて麻痺状態に出来るらしい。
動かなくなって海面に浮いて来た魔物達に、兵士たちが弓を射る。
また、冒険者の中の水棲系の亜人たちは、海中に飛び込み、戦闘を開始している。
リファナは二段階変身をし、海面を、ルコル爆樽の破片を足掛かりに滑るように移動して、魔物を狩っている。
小物の掃討は順調な様だ。
「勇者の皆さんは、波のボスを討伐して下さい。」
女王の指示が飛ぶ。
俺はフライトで空中へ舞い上がり、それらしき魔物を探した。味方が苦戦している海域に、時々ファイアーブラストVを撃ち込みながら、俺は目を凝らした。
その時、別の船の見張りが、
「大型の魔物がいます!」
と声を上げた。
そちらへ向かうと、その船に件の魔物が体当たりした。メリメリ、バキンという大音声と共に、たちまちその船は中破する。
俺が、味方撃ちを恐れて魔法を躊躇している内に、魔物は海中に潜ってしまった。あてずっぽうに、ロックブラストXVを撃ち込んでみたが、どうやら外れたようだ。代わりに大波が起こり、中破した船の被害が大きくなる。やってしまった。
「行くぞ!フィーロ!」
尚文の声が聞こえたので旗艦をうかがうと、魔物姿のフィーロに乗った尚文が、海へ飛び込むのが見えた。良く聞こえないが、フィーロはぐずっているようだ。ルコルの実の臭いが気になるのだろう。
ヘイトリアクションで、魔物を引き付けるのだろうか。それならば、やりようがある。俺は、彼らの許へ向かった。
件の魔物の黒い影が、尚文を追いかけているのが見える。フィーロの泳ぐ速度は速いが、魔物のそれはもっと速い。
もう少しで追いつかれそうと言う時に、フィーロがなんとジャンプした。足がかりもない海面から空中へだ。大した鳥である。俺は意識を集中して彼らに魔法を掛ける。
「フライト!」
そのままフィーロが空中へ飛んだ。魔物がフィーロを追ってジャンプし、全身を空中へ現した。
尚文が叫ぶ。
「今だ!みんな、この‘次元の勇魚’を攻撃するんだ!」
件の魔物は、そういう名前らしい。
尚文の叫びに呼応して、旗艦から攻撃が飛んだ。
「流星剣!」
「流星槍!」
「流星弓!」
三勇者のスキルだ。余り、効いてはいない。その後に、それより重い攻撃が次元の勇魚に着弾する。弩弓の様だ。どうやら、船備え付けの大型の弩弓であるバリスタで、ラフタリアが攻撃したらしい。
次元の勇魚が海面に落ちる前に、俺も魔法を放つ。
「ファイアーストームXV!」
筒状の炎が魔物を焼く。奴の鰓を焼く事が出来れば、窒息死に追い込める。そう思ったのだが、炎を纏ったまま海中へ沈んだ次元の勇魚は、まだ動いている。
俺は魔法をコントロールして、尚文とフィーロを海面に下ろした。
次元の勇魚が再び浮上し、鼻面についている角を海面から出した。すると、その根元が怪しく光った。そこから伸びたビームが船の一隻を捉えたかと思うと、たちまち爆発、炎上した。って、怪獣映画じゃないんだぞ。光線砲を備えた魔物って、何なんだ。
次元の勇魚が次の船に向かった。その船には、多数の冒険者が乗り込んでいる。その中の一人、ラルクが尚文に向かって叫んだ。
「ナオフミ、さっきみたいに、怪物を空中に誘い出してくれ!」
尚文は次元の勇魚へと向かった。すると、次元の勇魚が方向転換して、尚文を追いかけ始める。ヘイトリアクションを使ったのだろう。フィーロが加速する。そうして、再び空中へ舞い上がった。俺はフライトを発動して、フィーロの飛行をサポートする。
次元の勇魚がジャンプし、再度その姿を空中に曝した。
三勇者が再び攻撃する。
「雷鳴剣!」
「サンダースピア!」
「サンダーショット!」
しかし、次元の勇魚にはほとんどダメージはない。直後に、ラフタリアが放ったバリスタが鰓付近に命中した。怪物が苦悶する。
「輝石・爆雷雨!」
「合体技、雷電大車輪!」
ラルクとテリスが放った合成スキルが、次元の勇魚を直撃する。電光の嵐に切り刻まれて、怪物のあちこちから血が噴き出す。
俺は、フィーロに掛けたフライトを解除する。フィーロは滑空しながら落下し、次元の勇魚に対して必殺スキルを放つ。
「すぱいらるすとらいく!」
尚文を乗せているから回転はしなかったが、鋭い蹴りが次元の勇魚の脳天に命中し、その全身を海面に叩きつけた。
その時、断末魔の様に、次元の勇魚の角の根元が光った。鼬の最後っ屁のごとく、光線で辺りを薙ぎ払おうと言うのだろう。
俺は距離を詰め、魔法を放った。
「ファイアーレーザーXV!」
炎の奔流は狙い違わず怪物の発光器官に命中し、貫いた。余熱で周りの海水が蒸発し、次元の勇魚の頭部が白い水蒸気で包まれた。
怪物は、それきり動きを止めた。どうやら、討伐に成功した様だ。俺は、海面に浮いている次元の勇魚の死骸に着陸した。尚文とフィーロも、海面から上がって来た。ラルクとテリスも、海面を跳躍して死骸に降り立った。更に、後ろを窺うと、三勇者が舟に乗って接近している。ラフタリアとリファナも同様だ。やがて、彼らは死骸に上陸した。
「ありがとう、助かった。さすがの強さだな。」
尚文がラルクに言った。
「まあ、守るだけの盾じゃあ、倒せないものなあ。」
ラルクが返す。
「それって…」
「おーい、尚文。それにおっさんも、ご苦労さん。」
元康君が声を掛けて来る。
「それと、あんたもお疲れさん。」
ラルクにも声を掛ける。錬君と樹君も歩み寄って来る。
尚文が言う。
「お前たち、一体、何しに来たんだ。」
錬君が答える。
「決まってる。ドロップ品だ。」
樹君が続ける。
「波の魔物のドロップ品は、僕たち勇者のものです。」
尚文があきれて言う。
「対して活躍もしていないくせに。いいか、こいつを倒したのは…。」
それを遮るようにラルクが言った。
「勇者…ねぇ。冗談きついぜ。こんな弱っちい奴らが、世界を守る勇者だと?!」
三勇者は戸惑い、そして怒りを顕わにした。
「はぁ…?!」
次の瞬間、ラルクの斬撃が三勇者を襲い、彼らを、俺たちの後ろに来ていたラフタリアとリファナの前に、吹き飛ばした。
「ナオフミ様!」
「なおふみ様!」
ラフタリアとリファナが駆け寄って来る。
「ラルク、一体、どういうことだ!?」
尚文が問いかける。
「お前が、本当に盾の勇者だとはな。まったく…どうしてこうなっちまったんだか…。」
ラルクは、独り言のように答える。そして、尚文を見て、宣言した。
「どうもこうもない。ナオフミ、俺たちの世界のために、死んでくれ!」
ラルクが持つ鎌の刃が、ギラリと光った。