尚文が叫ぶ。
「ラルク、どういう事だ。お前が、異世界の勇者って言うのは、本当なのか?!」
「何?!どうしてその事を知っているんだ?!」
ラルクが驚き、返す。
「やはり、そうか。こっちにも、情報通が居るんだよ。」
尚文が答える。
「そうか、なら、解るな。俺たちが、お前を倒さなくてはならない事を。」
ラルクが言う。
「いや、解らない。俺が知っているのは、お前たちが異世界から来た勇者だと言う事と、俺を殺そうとしている事だけだ。俺は、その理由を知りたい。」
尚文は言った。
「何だ。それなら何も知らないと同じじゃないか。」
ラルクは答えた。そして、苦しそうに続ける。
「いいか、俺たちの世界も、波の危機に瀕している。ここと同じようにな。そうして、生き残る事が出来るのは、あちらかここか、一方の世界だけだ。俺たちは、自分たちの世界が生き残るために、こちらの世界の希望である勇者-つまりお前だ-を殺さなくてはならない訳だ。」
尚文は唖然としている。
俺はぼんやりと思い出した。波は二つの世界の融合現象である。それにより、世界は不安定になり、崩壊する。したがって、どちらかの世界しか、生き残ることは出来ない。確か、そんな感じではなかったか。いや、未だ頭がはっきりしない。よく思い出せない。
「つまり、あんた達は、俺たちの敵だっていう訳だな。」
倒れていた元康君が、起き上がって言う。
「よくも不意を突いてくれたな。」
錬君が、ラルクを睨みつけ、剣を構える。
「悪人は、成敗しなくてはなりませんね。」
樹君が弓を構え、放った。
放たれた弓を鎌ではじいて、ラルクが言った。
「寝てればいいものを、偽物の勇者さん達よ。」
「偽物だと!」
錬君がいきり立ち、ラルクの懐に飛び込んだ。元康君も雄叫びを上げて、突っかかる。錬君が剣を振るうが、ラルクに余裕で躱され、後頭部に肘打ちを食らって倒れた。元康君の突きは鎌の柄で受け流され、続く斬撃で、元康君は再び吹き飛ばされた。
「流星弓!」
樹君のスキルがラルクを襲うが、ラルクは鎌を回してはじき返す。
テリスが詠唱をし、魔法を樹君にぶつける。
「輝石・紅玉炎!」
樹君が炎に包まれ、悲鳴を上げて倒れこんだ。
「全く、邪魔をすんなよ。俺たちの標的は、本物の勇者だけだ。」
ラルクは、気絶した錬君の首根っこを掴み、尚文の前に放った。
「言っとくが、お前には、何の恨みもないぞ、ナオフミ。」
「ええ、良くしていただいたのに、こんな事になって、心苦しく思います。」
テリスが言った。
俺はフィーロに、気絶した三勇者を、一カ所に集めるように言った。フィーロは不満げだが、俺の言に従う。
俺は、尚文と話しているラルクとテリスに、口を挟んだ。
「ラルク、本当に、殺し合うしか手段はないのか?俺たちと一緒に、二つの世界が生き残る手段を探してみないか?」
「そんなものは、散々探したよ。でも、そんな都合の良い方法は、無かった。俺たちの世界を救うには、そこにいる勇者のナオフミを倒すしか、方法はないんだ。」
ラルクは憎々しげに言った。
「少々あきらめが早すぎだな。絶望の中から希望を見出すのが、真の勇者なんだぜ。」
俺は言った。
「そうだ。お前たちの世界で方法が見つからなくても、俺たちの世界には、共存の方法があるかもしれない。俺たちが殺し合う必要はないはずだ。」
尚文が叫ぶ。
「じゃあ、具体的には?」
ラルクが問う。
「それを、これから一緒に探すんだ。」
尚文は答えた。
「話しにならないな。そんな確証の無い事で、俺たちの世界の未来を掛ける訳にはいかない。」
ラルクは言った。
「交渉決裂か…。力づくで行くしかないな。」
俺は戦闘態勢をとった。
「おい、勝彦…。」
まだ戸惑っている尚文に構わず、俺は先制攻撃を放った。
「サイコアタックXV!」
「サイコアタックXV!」
「サイコアタックXV!」
精神攻撃魔法を、テリスに向かって連射する。彼女はショックを受けた様にうずくまった。俺は、懐から魔力水を取り出し、あおる。
「必中魔法を隠していやがったのか…。テリスを狙うなんて、汚いぞ!」
ラルクが叫ぶ。
「回復役や後衛から狙うのは、
俺は答えた。
ラルクに支えられたテリスが、ポーションの小瓶を取り出して飲もうとする。そうはさせじと、俺は魔法を放った。
「ロックアローIII!」
小瓶を狙った石の矢を、ラルクは叩き落す。
ラルクが鎌を振り上げて突っ込んで来る。すんでのところで、尚文が割って入り、盾と左手で鎌をがっちりと押さえる。こちらへちらりと投げられた視線に、若干怒りが混じっている。勝手に戦端を開いた事に、怒っているんだろう。
しかし、ぐずぐずしていると、たぶん奴が来る。それまでに、ラルクとテリスは無力化しておきたい。
「仕方ない。ラフタリア!フィーロ!リファナ!ラルクと戦うぞ。出来る事なら降参させて、話を聞いてもらうんだ。」
尚文が叫んだ。
「降参だと、誰がするかよ!」
ラルクが蹴りで牽制し、鎌を尚文から引きはがす。
俺は魔法を放った。
「サイコアタックXV!」
「サイコアタックXV!」
ラルクのスキル封じのための精神魔法攻撃だ。ラルクは片膝をつく。
そこへ、ラフタリアとフィーロが左右から挟撃した。ラルクが右手の鎌でラフタリアの、空中から現れた鎌を左手に持ち、フィーロの攻撃を受けた。
と、ラルクがのけぞる。幻影魔法を掛けていたリファナの、喉笛を狙った攻撃が、すんでのところで躱されたのだ。ラルクはバックステップする。
「いやあ、危ない危ない。嬢ちゃんたち、すげーなぁ。」
ラルクが軽口を叩く。
テリスは、飛んで来る矢を魔法で防いでいる。女王がラルク達を賊と認定し、討伐命令を出したのであろう。
テリスは、新たな魔法を詠唱する。
俺は、それを妨害するべく、テリスに精神魔法を掛ける。
「サイコアタックXV!」
テリスはそれに耐え、魔法を発動した。
「輝石・流星炎雨!」
空から拳大ほどもある大きな炎の塊が降って来て、周りの船を貫いて行く。旗艦は防御魔法に守られて無事だが、その他の船は、火災を起こし、沈没していく。味方は大混乱となった。
「サイコアタックXV!」
俺は再度テリスに攻撃した。
一方、ラルクは見えない攻撃を鎌の柄で受け、下がる。リファナが追撃をしているのだ。
フィーロが魔法を詠唱する。
ラフタリアも姿を消し、攻撃を掛けるが、すんでのところでラルクに躱される。
「ツヴァイト・トルネード!」
フィーロの魔法がバランスを崩したラルクを襲い、肩を持ち上げられたラルクが半ば吹き飛ばされる。それでもラルクは素早く受け身を取って立ち上がるが、肩口がざっくりと裂けていた。フィーロの魔法の効果だ。
「ラフタリア!」
尚文がラフタリアを呼ぶ。合成スキルでも仕掛けるのだろうか。
リファナの攻撃を鎌の柄で受けていたラルクが、突如鎌を放り出した。そしてファイティングポーズを取る。そうして、右フックを放ったかと思うと、鼬姿のリファナの姿が現れ、ふっ飛んだ。あのスピードの、しかも幻影魔法の掛かったリファナを捉えたと言うのか。
「リファナちゃん!」
ラフタリアが突進し、ラルクに斬りかかった。ラルクはそれを躱し、鎌を掴んで反撃をする。と、ラフタリアの姿が消え、そこにソウルイーターシールドが現れ、ラルクの精神力を吸収した。合成スキル‘ハイディングシールド’だ。ラルクが怯んでいる隙に、フィーロがリファナを回収する。
テリスがラルクに駆け寄り、魔法で肩を治療する。
「いやあ、楽しいな!」
ラルクが呟く。その意図が読めず、尚文が怪訝な顔をする。
「カルミラ島では、魔物ばかり相手をして来たからな。人相手の戦闘は、やはり気持ちがいいぜ!」
ラルクはそう言うと、こちらに突進して来た。
リファナの回復をしていた尚文が、立ち上がってラルクの攻撃を受ける。が、次の瞬間、うめき声を上げて飛び退いた。何の変哲もない攻撃に見えたが、ダメージを喰らったのだろうか。俺は、牽制のため魔法を放つ。
「サンダーブラストX!」
ラルクは爆発する雷球に巻き込まれつつ、後退する。
尚文がラルクに視線を向ける。ラルクが言う。
「今までと勝手が違うっていう顔だな。」
尚文が応える。
「まさか、防御力比例攻撃なんて、使って来るとはな。」
防御力比例攻撃だって、そんなのあるのか!?
「ふん、カマをかけて来たんだろうが、正解だ。盾の勇者には、効果絶大の攻撃法だ。これまでは後手に回って来たが、今度はこちらから行くぜ!」
ラルクは言うと、こちらに突進してくる。
その時、空中に大音声が響いた。
「盾の勇者様、お下がりください!」
女王の声だ。俺は、上空に表れた光の文様を見逃さなかった。俺は魔法を放った。
「ウインドブラストXIII!」
ラルクと俺たちの間で、風の奔流が爆発する。両者はそれぞれに吹き飛ばされた。
俺たちは、三勇者が気絶しているところまで吹き飛ばされた。尚文が起き上がりながら、
「勝彦、一体どうしたんだ?!」
と訊いて来る。俺は早口で答えた。
「尚文、防御だ!‘裁き’が来る!」
尚文は上を見上げた。光の文様が濃くなっている。
「エアストシールド!セカンドシールド!流星盾!シールドプリズン!」
尚文が次々と防御の盾を繰り出す。
次の瞬間、何か巨大な力の奔流が、直近に着弾した気配が感じられた。何とも言えない圧力のようなものが、シールドプリズン内にも伝わって来る。
船にいた魔導士の人数は限られているし、前よりも威力は小さいのだろうが、さすが儀式魔法‘裁き’である。
しばらくして、尚文がシールドプリズンを解除する。眼前に飛び込んで来たのは、焼け焦げて、一部が焼失した次元の勇魚の死骸だった。
その焼け残った部位に、男女の姿があった。上半身に火傷を負いながら、なおも鎌を構えているラルクと、それを残る魔力で必死に治療しているテリスだった。
「なあ、ラルク。もう、いいだろう。これで終わりにしないか?」
尚文が言った。
俺も前に出て、彼らに近づきながら言った。
「それとも、動けなくなるまでやった方がいいか。それは、不毛だろう。」
それは、俺の油断だった。
「何をやっているのです!」
女の声が響いた。
「輪舞零ノ型・逆式雪月花!」
次の瞬間、俺は全身を切り刻まれた。