転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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日曜日のサイバー攻撃には驚きました。
運営様、素早い復旧、ありがとうございました。



第59話 三度目の波~扇の勇者

 俺が即死を免れたのは、ひとえに最高級ローブのおかげだった。俺は、全身の痛みに耐えながら、反射的に、尚文の許へ跳躍した。

 血まみれの俺に、尚文が動揺する。

 「治療を…。」

と呪文を唱えようとする尚文に、俺は叫んだ。

 「攻撃が来る!防御だ!尚文。」

奴だ。グラスが現れたのだ。

 

 「輪舞破ノ型・亀甲割!」

声と共に光の奔流が俺に向かってくる。尚文が俺をかばって盾で光を受ける。

 「ぐおおお!」

尚文の呻きを聞きながら、俺は回復薬を取り出し、あおる。続けて、魔力水も飲んだ。なんだか、吐き気がする。損傷した身体が、薬の作用に耐えられないのだろうか。

 

 俺は、グラスの気配を探った。俺を仕留めそこなったグラスは、沈没しかかった船のマストに立ち、旗艦に攻撃を仕掛けていた。あえなく旗艦は大破し、女王たちは海へ投げ出される。グラスは、こちらへと、浮いている破片を足掛かりに飛び移って来た。そして、ラルクへと話しかける。

 

 「ラルク、貴方ほどの手練れが、一体何をやっているのです。」

 「お嬢、面目ない…。」

 「転生者の魔法使いから殺れと、言ったはずです。」

グラスは鋭い目で、俺を睨みつけた。

 

 俺はその視線を、攻撃魔法で返す。

 「サイコアタックXV!」

グラスが悲鳴を上げる。追撃をしたかったが、傷の所為か精神集中がうまく行かず、魔法の連射が出来ない。

 

 グラスが憎々しげに言う。

 「ナオフミ、貴方はまだ、転生者を使役しているのですか。勇者にあるまじき所業です。やはり、貴方は敵のようですね。」

尚文が答える。

 「勝彦は仲間だ。転生者かどうかは関係ない。グラス、ラルクとテリスと、仲間だったんだな。お前達とは出来れば戦いたくない。話し合いに応じてくれないか。」

 「笑止!あなた方と私たちは、戦う運命にあるのです。テリス!」

ラルクの治療をしていたテリスが、別の魔法の詠唱を始める。合成スキルか?俺はテリスを攻撃した。

 「サイコアタックX!」

テリスの魔法が破られ、グラスがこちらを睨みつける。

 

 テリスが懐から小瓶を取り出す。俺は吐き気をこらえつつ、魔法を放つ。

 「ロックアタックIII!」

前回の失敗を鑑み、今回は必中魔法だ。狙い違わず小瓶に石礫が命中し、瓶が割れ、破片と中身がテリスへとかかった。

 

 フィーロはラルクを牽制しつつ、リファナを守っている。

 ラフタリアと尚文が詠唱を始める。こちらも合成スキルを使うと言うのだろう。

 「輪舞破ノ型…」

 「サイコアタックXV!」

攻撃しようとしたグラスに、俺の精神魔法が命中する。

 怯んだグラスに、合成スキルを完成したラフタリアが切り込む。グラスは鉄扇を構えて、ソードブレイクを試みる。と、ラフタリアが消えた。その後に、ソウルイータシールドが現れ、グラスの精神力を吸い込んだ。

 「ぎゃあああぁ!」

グラスが派手に悲鳴を上げる。

 

 俺は、リファナの側に移動した。そして、フィーロに、

 「お前も攻撃を。」

と言った。

 「うん、わかった。」

そう言って、フィーロはグラスへ突進した。と、そうはさせじと、ラルクがフィーロに斬りかかる。

 「はいくいっく!」

フィーロが矛先をラルクに変え、連続攻撃を叩き込む。手負いのラルクはそのすべてを躱す事は出来ず、吹き飛ばされる。

 

 「アル・ツヴァイト・オーラ!」

尚文が、強化支援魔法をパーティーに掛ける。

 「輪舞零ノ型・逆式雪月花!」

グラスから全方位への攻撃が来るが、俺はリファナを抱えて上に逃げた。ラフタリアもフィーロも攻撃を躱している。

 

 俺は着地すると、再度魔法を放った。

 「サイコアタックXV!」

グラスが悲鳴を上げる。彼女の身体が透け始めている。

 そこへ、フィーロとラフタリアが攻撃を仕掛ける。フィーロの蹴りは鉄扇に防がれたが、ラフタリアがグラスを袈裟切りにする。グラスは、後ろに下がった。物理攻撃は、余りグラスには効かないと見える。

 

 尚文が、ラフタリアに声を掛ける。

 「ラフタリア、魔力剣は持っているな。」

 「はい。」

 「だったら、最大出力で、グラスにぶちかませ!」

 「分かりました。」

 

 その時、ラルクがグラスに何かを投げた。

 「お嬢!これを!」

グラスはそれをキャッチし、飲んだ。多分、魔力水か魂癒水だ。すると、半透明だったグラスが元に戻った。いや、より輪郭がはっきりし、前より生き生きとして見える。

 

 「サイコアタックXV!」

俺は魔法を放つ。グラスは悲鳴を上げるが、あまり効いていない感じだ。俺は、魔力水を飲んだ。しかし、吐き気が強く襲ってくる。もう、あまり持たないかもしれない。

 尚文が傍に来て、俺とリファナにヒールを掛けて来た。

 

 ラフタリアとフィーロが、再びグラスに迫った。

 「すぱいらるすとらいく!」

フィーロの必殺技がグラスに命中した。が、同時にグラスの鉄扇の横薙ぎが、フィーロの脇腹をえぐった。羽毛と鮮血がほとばしる。

 「たあああぁ!」

気合と共に、ラフタリアの突きがグラスへと突き刺さった。同時に魔力剣の刀身が眩いばかりに輝いた。

 「うぐっ!」

呻いたグラスが、ラフタリアの鳩尾を鉄扇で突く。

 「ぐふっ!」

ラフタリアは吹き飛ばされた。

 

 と、グラスの腹部で爆発が起こる。ラフタリアが手放した魔力剣が、過剰出力に耐えきれず暴発したのだろう。

 「ラフタリア!」

倒れたラフタリアに、尚文が駆け寄る。怪我をしたフィーロも寄って来る。

 「サイコアタックXV!」

俺は、牽制の為魔法を放つ。そうして、盛大に吐いた。もう限界なのか。

 グラスは悲鳴こそ上げたが、まだ戦闘力を残している。

 

 「アル・ツヴァイト・ヒール!」

尚文は、パーティーに回復魔法を掛けながら、盾をラースシールドへと変えた。

 「おい、尚文。」

 「お前たちは、もう限界だ。後は、俺がやる。」

憤怒に呑まれまいと、必死の尚文が言う。

 

 「輪舞無ノ型・月割り!」

 「ぐあああぁ!」

グラスの攻撃が来て、尚文がうめき声をあげる。防御力比例攻撃なのだろうか。

 「ダーク・カース・バーニング!」

尚文のカウンター攻撃が、グラスを襲う。呪いの炎に包まれつつも、グラスはひるまない。

 

 ラフタリアが起き上がって、盾に気付いて叫ぶ。

 「ナオフミ様!いけません!その盾は…。」

リファナも気付いて状況を把握しようとして、盾に気付いて愕然とする。

 「なおふみ様、止めて下さい!」

 「ごしゅじんさま!」

 

 しかし、尚文は止まらなかった。彼は、詠唱を始める。

 『その愚かなる罪人への罰の名は、神の生贄たる絶叫!』

 「よせ!尚文!」

 『我が血肉を糧に生み出されし竜の顎により激痛に絶叫しながら贄と…』

 「イワタニ様!」

女王の声が響いた。ついで、魔法の詠唱が聞こえた。弓のパーティーの、リーシアだ。

 「ファスト・ウインド・ブロー!」

呪文と共に、複数のルコル爆樽が、グラスの頭上に巻き上げられた。

 

 俺は、最後の力で魔法を放った。

 「ファイアーアローII!」

炎の矢はルコル爆樽を爆発させ、周りの爆樽も連鎖的に爆発し、辺りにルコルの実を撒き散らした。

 「流星盾!」

尚文が盾を変化させ、咄嗟に防御の障壁を張る。

 

 グラスは酒の原液をしこたま被った。彼女はうずくまった。そこへ、ラルクとテリスが駆け寄る。

 グラスが、ラルクとテリスに支えられ、何とか立ち上がるが、酔っ払って、ままならない様子に見えた。

 そんな彼らに、尚文が近づく。

 「どうも俺は、ルコルの実が効かない体質らしくてな。これくらいじゃあ、何ともない。どうする。まだやるか。」

 

 グラスが何か言おうとするが、それを遮って、ラルクが言った。

 「勝負あった。時間切れだ。お前達の勝ちだよ。ナオフミ。いや、なんか言いずらいな。やっぱり、坊主でいいか。」

 「また時が来れば、相まみえましょう。」

テリスが言った。

 

 「二人とも、何を…。今倒さねば、ナオフミはさらに成長し、彼の者は倒せなくなります。」

グラスが呻くように言うが、足元がおぼつかない。

 「吐きそうなくせに、何言ってるんだよ、お嬢。じゃあな、坊主。」

そう言うと、テリスの魔法なのか、三人の身体が光った。

 「ラルク!」

尚文が叫ぶ。

 そのまま三人は、波の割れ目まで飛んで行き、そこで吸い込まれて、消えた。

 

 波の割れ目が消え、ワインレッドに染まっていた空が、通常の青空に戻る。波が終わったのだ。

 

 小舟で近づいて来た三勇者のパーティーが、次元の勇魚の死骸に上陸し、それぞれの勇者を介抱する。

 その中になぜかメルティ王女が居て、俺たちに近づき、魔法で治療を始めた。有り難い。

 「アル・ツヴァイト・アクア・ヒール!」

水の治癒魔法が、それぞれの傷ついた身体に浸み込んでいく。

 「みんな大丈夫?」

 「うん、大丈夫だよ、メルちゃん。」

メルティの問いに、フィーロが答える。

 

 しばらくして、魔物達の掃討も完了し、女王の勝利宣言に、兵士たちが勝鬨を上げる。

 それにしても、被害は甚大だ。8隻あった大艦隊が、今や大破2隻と中破1隻の3隻のみ残存、大部分の生存者は、脱出艇に乗っている状態である。

 それでも、俺たちは生きている。波を退けたのだ。

 

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