転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第61話 新しい仲間 その1

 「おい、尚文、証拠も無しに怒鳴り込んでも、一蹴にされるだけだぞ。」

俺は尚文に言う。

 「別に、考えも無しに突っ走っているんじゃない。」

尚文は答える。

 「影!影は居るか!」

尚文は叫んだ。

 すると、どこからともなく、忍者然とした影が現れた。

 「はい、でごじゃる。」

 

 「樹についている影と話せるか。」

 「承知でごじゃる。」

尚文の問いに、

 「では、ホテルの入り口で待っているでごじゃる。」

そう答えて影が消えた。

 

 そのまま走ってホテルのエントランスまで行く。すると、そこには影が二人待っていた。俺たちに張り付いていた影と、弓のパーティーに張り付いていた影だ。

 

 尚文は、弓の影(と呼んでおこう)に、冤罪の詳細-樹君のアクセサリーを誰が壊したのか-を訊いた。

 弓の影は、樹君の仲間達が犯人だと証言した。更に、事件の際、その事を樹君に訴えたが、彼は聞く耳を持たなかったと言う。

 

 「樹の奴…!」

影の証言は、尚文の怒りを増大させたようだ。

 「落ち着け、尚文。」

という俺の声もあまり耳に入らずに、弓のパーティーの部屋に向かっていく。

 そして、

 「樹~~~~!!!」

という怒声と共に、部屋の扉を強引に開け放った。

 

 部屋の中では、樹君達が談笑していたようで、突然の乱入者に、会話が途切れ、不快さを示す視線がこちらに突き刺さった。

 「な、なんですか!?」

と樹君。

 「貴様は盾の勇者!何の用だ!」

とこれは鎧だ。どうも名前が覚えられない。

 

 「何の用だ、だと?それは自分達の胸に訊け、クズども!」

尚文の大声に、弓のパーティーが威圧され、一瞬たじろぐ。

 「だから、一体どうしたと言うのですか。」

樹君が言う。

 「まだ分からないのか、この外道!」

尚文の怒りは収まらない。

 

 「さては、在らぬ嫌疑を擦り付けるつもりだな、盾の勇者!」

鎧がそう言って、尚文を取り押さえようとする。すると尚文は掴みかかってくる鎧を躱し、返す手で鮮やかな関節技を掛けた。

 「いだだだ!」

鎧が呻くが、何だかバチバチ言っている。尚文の攻撃は、伝説の武器の禁則事項に引っかかったらしい。彼は動じずに、大人しくなった鎧を放り投げる。

 「俺は樹と話す為に来たんだ。邪魔をするな、雑魚!」

そう言って、樹君を睨んだ。

 

 「お前、正義を主張するくせに、冤罪を人に擦り付けるとは、何も分かっていないんだな。」

尚文の言に、戸惑っていた樹君が、合点がいったとばかりに、答える。

 「全く、何を怒っているのかと思えば、その事ですか。あれは、彼女が悪いのですよ。」

 「影から裏は取ってある。犯人は、別に居るだろう。」

 「あんな忍者もどきより、僕は仲間を信じます。」

答える樹君の目が、若干泳いでいるような気がする。もしかしたら、彼も真相を解っているのか?

 

 「お前、この前の波で活躍したリーシアが、そんなにも許せなかったのか?」

尚文もそう感じたのだろう。核心を突く質問をして来た。

 「ち、違います!」

樹君は即答するが、狼狽が目に見えている。図星だな。

 

 「頼み込んでも仲間に戻してもらえないと知ったら、今度は他の勇者に告げ口ですか。彼女も、根性が腐っていますね。」

樹君が言う。その物言いには、俺もカチンときた。リーシアには悪いが、ここは言わせてもらおう。

 「身投げ…。」

 「?」

 「彼女は身投げをしたんだ。俺たちは彼女を助けて、事情を知った。そこまで彼女を追いこんだのは、君達の責任だ。彼女をパーティーから追い出すにしても、もっとやり方、言い方があっただろう。俺は、この件では、君達に非があると思う。」

 

 「身投げだって、どこまで本気なのか分かりませんね。どうせ、貴方達に気にかけてもらおうと、ふりをしただけでしょう。」

言った樹君を、尚文が殴った。一瞬、禁則事項のバチリと言う音がした。樹君は、唖然としている。攻撃力0の盾の勇者のパンチなので、痛みはないらしいが、俺たちの怒りは理解したようだ。

 「どうやったら、そんな事が言える!人が死のうとしたんだぞ!」

尚文は、怒りで沸騰している。

 

 「百歩譲って、僕たちに非があるのは認めましょう。それでも、身投げするような心の弱さも含めて、彼女の弱さが問題なのです。もともと、リーシアさんに、戦いは向いていなかったのです。今回の件は、そんな彼女にパーティーを抜けるように、僕の仲間たちが仕組んだことです。言ってみれば、彼女の行く末を思うばかりに、強硬な手段に出た結果と言えるでしょう。。」

 「待て、何の話をしている?」

樹君の弁明に、尚文が口を挟む。

 

 「弱い彼女に対し、僕たちはパーティーを抜けるように再三促して来ました。でも、彼女は頑として受け付けない。今回の事は、彼女が故郷で戦いを離れた幸せな生活が出来るようにと、わざと冤罪を仕掛けたのです。」

おっと、何だか美談に持っていこうとしているな。だが、その行動には、肝心なことが抜けている。

 「だったら、その仕打ちは、彼女の心に対する配慮に欠けているな。弱いのは、リーシア自身も承知しているはずだ。そんな彼女を騙し打ちの様にパーティーから放り出したのは、結局、彼女を説得するのが面倒に感じたからではないのかね?」

俺は言った。

 

 「では言いましょう。彼女は弱すぎて、戦力的に厳しいんです。育てれば何とかなるかと思いましたが、変わりませんでした。彼女は戦いを離れ、故郷に戻った方が幸せになれるのは、明白なのです。」

 「問題はそこじゃない。仲間であったリーシアに対する心ない仕打ち、すなわち、彼女へのメンタルケアが足りないと言ってるんだ。」

樹君の発言に、尚文が言う。

 「そもそも、リーシアを弱い弱いと言うが、お前は、それほど強いのか?どうせ、俺の言った強化法などは実施していないのだろう。その自慢の弓で、俺を射抜いてみろ、この卑怯者!」

 「お、おい。尚文…。」

怒りに任せた尚文の言に、俺は狼狽する。

 

 「言いましたね!」

挑発に乗った樹君が弓を引き絞り、放つ。尚文に命中した弓は、カンと音を立てて弾かれた。

 「そんな…。」

 「化け物め。」

樹君の配下が呻くように言う。

 

 樹君が部屋の奥へと後退し、弓を弾き絞る。

 「イーグル・ピアシング・ショット!」

こんな狭い場所でスキルか!?その名の通り、光の鷲に見える彼のスキルを、尚文は首根っこを掴んで消散させた。

 「お前流に言うなら、外道の攻撃など通用しないってか!」

尚文は独り言ちた。

 樹君は、悔しげにそんな尚文を見つめる。

 

 「正義感が強すぎて問題はあるが、勇者としてはまともな奴だと思っていたよ。残念だな、樹。」

尚文は踵を返す。

 「リーシアは俺が引き取る。後でお前が欲しいと思うぐらいに、俺が強く育ててやる。」

 「あ、貴方にそんなことを言われる筋合いはありませんよ!もう、僕に近寄らないでください!」

 「ああ、分かった。」

言い捨てると、尚文は部屋を出た。俺も彼に続いた。

 

 

 俺と尚文は、仲間の許へ戻って来た。

 

 「リーシアは大丈夫か?」

尚文が訊く。リファナが答える。

 「すっかり回復したみたいよ。なおふみ様は?」

 「樹に文句を言って来た。」

 「ふえぇ!」

尚文の言に、リーシアが呻く。

 

 「リーシア、お前は俺が引き取る。俺がお前を強くしてやる。」

 「ふえぇ、強引ですぅ。」 

 「リーシア、お前は強くなりたくないのか?樹を見返そうとは思わないのか!?このままでは、お前はただの負け犬だぞ。」

リーシアは尚文を見つめ、少し考えている。やがて、彼女は言った。

 

 「強くなりたいですぅ。」

 「だったら、決まりだな。お前たち、彼女をパーティーに入れる。そして、強くしてやるんだ。どうか、協力してくれ。」

尚文が言う。

 

 「分かりました。リーシアさん。一緒に頑張りましょう。」

ラフタリアが挨拶する。

 「おねーちゃん、泳げるようになろーね。」

とこれはフィーロ。

 「よろしくね。」

とリファナ。

 

 「入江勝彦だ、よろしく。」

俺はリーシアに改めて握手を求めた。

 「はい。」

リーシアが握り返す。

 「俺は盾の勇者、岩谷尚文だ。改めて、よろしく。」

 「分かりました。ナオフミ、さん。」

若干戸惑いつつも、リーシアは挨拶を返す。

 

 「それじゃあ、ホテルへ戻って、昼食にしよう。その後、改めて話をしよう、リーシア。」

尚文が言う。

 

 昼食では、リーシアが自分と樹君の出会いを話したりして、若干打ち解けて来た様だった。

 それ自体は喜ばしいが、リーシアの話し方には未だ樹君への崇拝のようなものが残っている。そして、悪徳貴族の生贄にされそうになっていたリーシアを樹君が助けたという話には、マッチポンプの臭いがプンプンする。

 ラフタリアとフィーロは気づいていないが、リファナはその辺感づいたような言動を見せている。

 

 その後、尚文と俺は、面接よろしくリーシアからいろいろと訊いた。そうして、数分後、頭を抱えた。

 リーシアのレベルは68だと言う。想像以上に高い。これは、今後の伸びしろがあまり見込めないことを意味する。

 そうして、本人が告げたステータスの値が低すぎる。ほとんど、雛の頃のフィーロと変わらない値だ。樹君が捨てたがったのも頷ける低さである。

 救いなのは、魔法が、ほぼ全属性使える事。それにしては魔力が低いが。

 

 取り敢えず、パーティー内での彼女の役割を考えてみる。

 尚文が訊いた。

 「リーシア、樹のパーティーでは、お前はどういった立ち位置だったんだ?」

 「はい、私としては、どちらかと言えば魔法が得意だったのですが、樹様が前衛を望まれたので、クラスアップで近接戦闘能力を上げました。でも、弱いのは変わらなかったので、場合によって前衛と、支援・回復の後衛を担当していました。」

リーシアが答える。‘樹様’はやめろと尚文が彼女に告げた。

 

 話を聞いたところ、最悪だ。もともと後衛向きだったのを、無理やり前衛向きに仕立てたため、長所が消え、どっちつかずになったということだろう。典型的な器用貧乏だ。

 盾のパーティーの支援・回復は尚文の担当だが、タンク役のため前に出る事も多く、十分にその役を果たせない事もある。リーシアに、その辺を補ってもらうのが理想なのだが、それにしては魔力が足りない。

 アタッカーはフィーロ、ラフタリア、リファナの3人がいるから間に合っているが、リーシアは魔力を使い切った後、前に出てもらう事も考えなくてはならない。にしては、ステータスが低すぎて、かすり傷でも致命傷になりそうだ。

 

 3人だけでなく、皆も交えてあーだこーだ話し合った結果、リーシアには後衛をやってもらう事で意見が一致した。魔力が切れた後は、俺の護衛をしてもらう事になった。はっきり言って、護衛などいらないが。

 

 明日は海中戦闘をしてみる事になった。ペックル着ぐるみが足りないが、俺の分をリーシアに譲る事にした。

 エア・ウォールで全身を覆ってしまえば、水中でも問題はないし、フライトで最低限の機動は確保できる。

 

 夕食の後、風呂に入って親睦を深め、その日は早めに寝た。

 

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