翌日、朝食を取り、リーシアの武装を見立てるために、武器屋へ寄った。
武器屋の店主によると、リーシアにはサーベルが合っていると言うので、適当なものを見繕い、海岸へ向かった。そこで、皆はペックル着ぐるみに着替え、フィーロを先頭に海に入る。俺はフィーロに乗った。
ポイントに着くと、フィーロが俺を下ろして潜水する。俺は魔法を唱えて続いた。
やはり、着ぐるみの泳ぎとフライトの魔法の速度差は結構あり、俺は次第において行かれた。
俺が皆に追いつくと、戦闘は既に始まっていた。尚文が敵に囲まれていたので、ロックストームVを放ってその数を減らす。アタッカーの3人はいつものように敵を屠っているが、リーシアは何だかわたわたしている感じだ。
そのうちに、彼女が前へ出ようとしたので、俺は彼女に接触した。エア・ウォールに彼女を取り込んで会話する。
「おい、リーシア。不用意に前へ出るな。お前のステータスじゃ、大けがを負うぞ。」
「でも、支援魔法を掛けないと…。」
「いいから、後衛は後衛らしく、後方で待機していろ。うちの娘たちは賢い。必要なら向こうから寄って来る。いいから待機していろ。」
「分かりました。」
しばらく戦闘を続けていると、フィーロがリーシアに寄って来た。見ると、血が流れている。リーシアが何やら詠唱したのが分かった。多分、回復と支援魔法だ。フィーロが再び元気に魔物へと向かう。
幸い、こちらへ向かって来る魔物はほとんどいない。
リーシアに向かう魔物は若干居たので、石礫の魔法で援護・迎撃をする。彼女も自分の立ち位置を掴んだのか、怪我をして近づいてくる仲間たちのサポートを上手にこなしている。
そのうちに、魔物の出現が終わったので、尚文が浮上するようにジェスチャーで皆に知らせた。
浮上すると、尚文がリーシアに声を掛ける。
「どうだ、リーシア。」
「はい、慣れて来ました。それと、ずいぶん経験値が入るのですね。」
「海中の魔物は経験値が美味しいらしい。」
俺とリーシアは魔力水で魔力を回復させた。
そうして、次の戦闘ポイントへと向かう。
その日は昼食に戻った他は、一日海中戦闘に明け暮れた。
そうして、ホテルに戻ると、ステータスエンチャントで、レベルと引き換えに能力値を上げる。リーシアは魔力だ。
そうはいっても、あまり効率のいい能力値の上げ方ではない。尚文がぼそりとぼやく。
「レベルがやり直せると楽なんだがなぁ。」
すると、リーシアが意外な事を言った。
「レベルリセットは出来ますよ。」
「なんだ、それは。」
と尚文。
「犯罪者に対する刑罰として、レベルを1にリセットしてしまうと言うのが、行われる事があるそうです。聞いた話ですが。」
リーシアは答えた。
「そうか…。」
それを聞いた尚文は、考え込んだ。そうして、しばらくして、言った。
「みんな、そろそろ城下街へ、戻るぞ。」
カルミラ島の活性化ももう少しで終わりの様だし、次の波も近い。この辺が、潮時かもしれない。
翌日、俺たちは城下町へ向かった。移動手段は、尚文のポータルスキルだ。
フィーロが馬車の事を思い出して文句を言った。尚文は影に、港町で預けてある馬車を城下町まで運ぶ算段を付けるよう依頼し、フィーロを説得した。
城下街へ着くと、王城で、女王に会い、帰還とリーシアの件の報告をした。女王は、弓のパーティーと、余り不仲にならないように釘を刺したが、状況は理解してくれた様だ。
尚文は、女王にレベルリセットについて訊いた。リーシアの話の通りに、通常は囚人に対して行われる刑罰らしい。が、稀に本人から希望があり、施術することもあるそうだ。
例の龍刻の砂時計を使って行われるらしく、女王はいつでも実施出来ると許可を出してくれたが、尚文は今は時期が悪いと断った。
何せ次の波が二週間ほど後に控えている。今レベルリセットを行うと、ただでさえ使えないリーシアが、レベル一桁とか二桁前半で波と遭遇することになってしまう。ほとんど自殺行為だ。
次に武器屋へ顔を出し、主にリーシアの装備を整える。魔法鋼鉄のサーベルと魔法銀のリングメイルを纏ったリーシアは、見違えるように凛々しく見えた。
「アンちゃん、またもや別嬪さんを引っ掛けたなぁ。」
とからかうエルハルトに、尚文は仏頂面で返した。
それはそうと、さすがに懐が寂しくなって来た。海軍壊滅の影響で、今後はあまり金銭的な支援は出来ないと女王からも言われている。次の波は何とか乗り切れそうだが、その後はまた行商の旅でもするか。
その後、薬屋と魔法屋に寄り、ポーション類などを補充する。
それから、尚文がリーシアに言った。
「リーシア、強くなるために、俺から提案があるのだが。」
「はい?」
戸惑うリーシアに、ラフタリアが言う。
「偶然ですね、ナオフミ様。私も、リーシアさんに提案があります。」
ラフタリアは、リーシアの両手を取り、笑顔で言った。
「リーシアさん、ナオフミ様の奴隷になりませんか?」
リーシアは笑顔のラフタリアの顔をぽかんと見つめた。そこへ、尚文が声を掛ける。
「俺も言いたかったのはそういう事だ。リーシア、俺の奴隷になれ。強くなれるぞ。」
ぽかんとしていたリーシアの顔が怪しくなり、彼女に思考が戻って来る。彼女の口から半ば悲鳴が漏れた。
「ふえぇぇ!いやですぅ!助けて下さい!」
リーシアは脱兎のごとく駆け出した。
「リーシアさん、待って!」
引き留めるラフタリアの声に重なって、尚文が叫ぶ。
「フィーロ!逃がすな!捕まえろ!生きて帰すな!」
「アイアイサー!」
フィーロがリーシアを追うが、尚文の最後のセリフは何なんだ。悪乗りが過ぎるぞ。っと、魔物に変身したフィーロがリーシアをついばもうとしている。
「フィーロ、くちばしはダメだ!優しく捕まえるんだ。」
俺は叫んだ。
「はーい!」
フィーロはリーシアに追いつくと、彼女を蹴り飛ばした。
「ふえぇぇぇ!」
そうして、落ちて来た彼女を背中の羽根を広げて絡め捕ると、意気揚々と尚文の許へ戻って来た。
リーシアがパニックになっている。
「放して下さい!故郷へ帰るんですぅ!パパとママの所へ帰るんです!樹様あぁぁぁ!」
フィーロの羽根に拘束され、泣き叫ぶ様は、ある意味哀れだ。
「落ち着け、リーシア。生きて帰すなと言うのは冗談だ。フィーロ、放してやれ。」
尚文の言に、フィーロがリーシアの拘束を解く。彼女はフィーロの背中からぽてりと落ちた。瞳に涙を浮かべたリーシアが問う。
「奴隷にするのも冗談ですか?」
「それは本当だ。」
「ふえぇぇ!何でですか!?」
おどおどと逃げようとするリーシアに尚文が答える。
「逃げるなって!勇者には成長補正と言って、仲間の能力の伸びを良く出来る力があるんだ。俺の盾の場合、その成長補正を受けられるのが、奴隷か魔物なんだ。」
尚文は続ける。
「選ぶのは、リーシア、お前の自由だ。だが、奴隷にならないのなら、強くなる加護は、あまり受けられないぞ。」
「でも…。」
「別に、お前に拘束を掛けたり、何かを強要するつもりは全くない。俺は、お前に強くなる選択の一つを教えているだけなんだ。」
「本当に、我儘で困らせてしまう時以外は、何もしない方ですよ。私が保証します。」
ラフタリアが言う。
「私も、何かされた事は無いわ。」
とリファナ。
「ごしゅじんさまは、フィーロを滅多に縛らないよ。」
と三人が言うが、尚文に洗脳された様なこの面子の言葉では、説得力が薄いな。それでも、リーシアの警戒心が少しだけ薄れて来ているようだ。
「重ねて言うが、俺は手綱を握るが、お前を縛ったりしないと誓おう。だが、お前ももうレベル72だ。成長補正を受けるにも、限度があるだろう。奴隷になるのは強くなる一つの手段で、不可欠ではない。決めるのはお前だ。」
尚文は一気にしゃべってから、ぼそりと付け足す。
「樹の奴を、見返してやりたいんだろう?」
リーシアは泣き止んでいる。そうして、胸に手を当てて、決意を込めたような声を出す。
「決めました。私も奴隷にしてください!」
「それでいいんだな。」
「はい!私は強くなりたいんです!」
「それじゃあ、奴隷商の所へ行きましょう!」
ラフタリアがリーシアの肩を押し、いそいそと歩き出す。なんだか楽しそうだな。
奴隷商のテントに着くと、肥満紳士の奴隷商が出迎えた。用件を話すと、
「美少女の奴隷を増やす盾の勇者様に、私ぞくぞくしてしまいます。」
と目をぎらつかせて答える。尚文は仏頂面だ。
儀式を行う段になって、そう言えば、女王に頼めばロハで行なえたなと思い、若干後悔の念が走った。入れるのは、高度な奴隷紋なので、結構高い。まあ、上機嫌なラフタリアの顔を見ていると、いまさら言い出せないが。
奴隷紋を入れられたリーシアは、決意に満ちた表情をしていた。
「後悔は無い様だな。そんなに樹君に認めてもらいたいんだ。」
「はい。だから、盾の勇者様に鍛えてもらうんです。」
「そんなに言うんなら、とことんやってやる。覚悟するんだな。」
尚文のセリフに、リーシアがおびえた声を出す。
「ふえぇぇ!」
「そのふえふえ言うのも、今度からは無しだ。覚えておけ。」
「ふえ…はいっ!」
こうして、リーシアが新しい仲間に加わった。
私事ですが、母の介護が厳しくなって来ました。今後は投稿頻度が落ちるかもしれません。