俺たちはその後、森へ分け入った。カルミラ島では危なくて出来なかった、リーシアの前衛としての能力を見るためである。
リーシア一人で前に出てもらう。
「どうせ相手は、ウサピルとかヤマアラとかだ。気楽にやれ。」
尚文が声を掛ける。
「はいっ!」
リーシアは緊張の面持ちだ。
そのうちにウサピルが湧いた。ありゃりゃ、二匹だ。一匹魔法で無力化しようと思ったが、その時、リーシアが素晴らしい動きを見せた。
一匹の攻撃をバックステップで躱し、残る一匹を串刺しに。返す刀でもう一匹に切りつけ、輪切りにした。さすが、腐ってもレベル70越えである。
「素晴らしい動きだったぞ、リーシア。」
尚文が彼女を褒め、解体作業に移る。
しかし、なんか、リーシアの態度がおどおどしている。何故だろう。
ウサピルの解体が終わると(一匹はフィーロが食った)、森の深部に分け入る。相変わらず、先頭のリーシアは緊張している。声を掛けようとした時、ヤマアラが出現した。
ヤマアラは、序盤では攻撃力の高い敵である。どうするのか見ていたら、ヤマアラの突進を見切り、サーベルで脳天を突いた。見事である。
しかし、相変わらず態度が怪しい。
ヤマアラの解体をラフタリアとリファナに任せ、リーシアを呼びつけ、尚文と三人で話す。
「何でそんなにおどおどしているんだ?」
尚文が訊く。
「ふぇ…。いつ皆さんから声が掛かるか、緊張しまして…。」
「どういうことだ?」
リーシアに詳細を聞く。すると、弓のパーティーでは、小間使いよろしく、いつも何か言われていたそうだ。曰く、
「もっと、前に出ろ!」
「後ろに下がれ!」
「回復魔法だ!リーシア。」
「皆に支援魔法を掛けろ!」
「敵に範囲魔法だ!」
エトセトラ、エトセトラ…。
好き勝手に言う仲間の指示を、全部受けていたらしい。そりゃあ、混乱して、まともな動きが出来なくなるはずだろう。使えなくなる訳だ。
見たところ、もともと、状況判断はできる娘である。それを、弓のパーティーでは、よってたかって惑わせていたようだ。
奴等、クラスアップで近接を上げさせ、リーシアの長所を奪っただけではなく、いらぬ助言で彼女を混乱させ、状況判断まで狂わせてしまっていたようである。とんでもない!
俺と尚文で、もっと自信を持って、自分で判断して良い事を告げ、戦闘を継続する。
今度は、ドタバッタが集団で湧いて来た。リーシアが詠唱する。
尚文が前に出て、彼女を庇う。
「アル・ファスト・アイスシャワー!」
リーシアの範囲魔法だ。氷の礫が空から降って来て、次々とドタバッタを射抜く。残りは、アタッカーの3人が片付けた。俺の出番がない。
リーシアの戦闘の資質は、もともとは結構高い様である。それを、弓のパーティーの連中が、ダメにしていただけなのだ。光明が見えて来た。
後は、低いステータスの問題さえ解決出来れば…。
「今度は、もっと高レベルの敵と、戦ってみよう。」
尚文が言った。
一旦、森を抜ける。そうして、尚文、ラフタリア、リーシアがフィーロに乗った。俺は、鼬姿になったリファナを抱える。
フィーロが駆け出す。俺は、フライトとジャンプの魔法を発動させ、フィーロを追った。
街道をしばらく走り、一つ山を越え、しばらく森に分け入った辺りに、次の狩場はあった。
今度は皆で敵に当たり、パーティーとしてのフォーメーションを確認する。リーシアは、予定通り、最初は後衛だ。
しばらくすると、気性の荒い熊である、ウォーベアーが集団で出て来た。
尚文とリーシアが支援魔法を掛ける。俺は、熊達にサイコストームIV を掛けた。敵が怯んだところで、ラフタリア、フィーロ、リファナと尚文が前に出る。
尚文がヘイトリアクションを発動し、熊達の攻撃が彼に向かったところで、アタッカー3人が波状攻撃を掛ける。俺とリーシアは、熊達の動きを見て、攻撃魔法で支援する。
程なく、熊達は全滅した。リーシアの働きは問題なく、パーティーとしても統率が取れている。
尚文は、ラフタリアから剣を借り、早速熊の解体にかかったが、当のラフタリアが発言した。
「あの、ナオフミ様、その…剣なのですが…。」
「何だ?そう言えば、少しくたびれて来た様に見えるな。」
尚文が答える。
「剣の強度が、どうやら私の全力に、耐えられなくなって来た様なのです。」
ラフタリアが申し訳なさそうに言う。
「何だって!…そうか。まずいな。」
尚文が思案する。
すると、フィーロが近づいて来て言う。
「フィーロの爪も、力を入れると曲がって来るの。」
見ると、フィーロの爪もボロボロだ。
こいつはまずい。ラフタリアの剣も、フィーロの爪も、店で売っている最上級品だ。それより上を求めるなら、オーダーメイドしかなくなる。しかし、それは、金も時間も掛かる。
それにしても、ラフタリアもフィーロも、化け物じみて来たな。まあ、元々フィーロは魔物だが。カルミラ島でステータスエンチャントを散々繰り返したせいだろう。
尚文はしばらく考えると、盾を操作した。そうして、しばらくぶつぶつ言うと、盾から剣と爪を取り出した。尤も、爪の方は人間の腕に装着するもので、クローと言った方がいいだろう。
「ドロップ品だが、取り敢えず、これらを代替に使えないか?データでは、強度と攻撃力はあるようなんだが。」
尚文が言う。
ラフタリアが剣を拾い、2,3回素振りをした。最後は全力で振ったように見える。フィーロも、人型に戻り、クローを腕に装着して振った。こちらは最初から全力のようで、風切り音がすごい。
ラフタリアが言う。
「強度的には大丈夫なようです。ただ、少し癖がありますね。」
「この爪曲がんないよー。でも、ちょっと変な感じ。」
フィーロも似たような感想を言う。強度はあるが扱いにくいと言う事か。
「すまんが、それで我慢してくれ。後で武器屋の親父の所に寄って、調整をしてもらおう。」
尚文が解体を再開しながら言った。
解体が終わると、次の敵を探す。
今度出て来た敵は、スライムだ。俺とリーシアで魔法攻撃を浴びせて、殲滅する。が、リーシアの魔力が尽きてしまった。
打ち合わせでは、俺の護衛に就く事になっていたが、敵があまり強くない事と、本人の意欲もあり、前衛をやってもらう事になった。
それから、3度ほど敵と衝突したが、リーシアはそつなく前衛をこなした。及第点の動きと言えるだろう。
日が傾き始めた頃、俺たちは帰路についた。
城下街へ戻ると、再び武器屋へ寄る。
エルハルトに事情を話し、ドロップ品の剣と爪を預ける。
「こいつらの使い勝手を、もう少し良く出来ないか?」
「アンちゃんの頼みだからやってみるが、2、3日くれないか。」
「分かった。頼む。」
尚文のエルハルトへの信頼は絶大だ。
そこへ、城からの使いがやって来た。女王から勇者に用件があるので、至急王城まで参上して欲しいと言う。俺と尚文は顔を見合わせた。一体何だろう。
特に断る用事もないので、俺たちは王城に向かった。
王城へ着くと、早速謁見の間に通される。そこには、3勇者のパーティーが既に居た。
「これで皆様揃いましたね。」
玉座に座る女王が言う。
「勇者を勢揃いさせて、一体何の用事だ。こんな暇があったら、レベル上げに行きたいのだが。」
と剣の勇者錬君が不機嫌そうに言う。
「そうです。波も近いのに、僕たちに余分な時間はありません。」
弓の勇者樹君も不満気に言う。
「まあまあ、どんな用事か、聞くだけ聞こうじゃないか。」
槍の勇者元康君が場を取り繕うように言う。
「で、女王、俺たちに何の用だ。」
尚文が言った。
「皆様には、これから、波までの間、戦闘訓練を受けていただきます。」
と女王は言った。
「戦闘訓練だって!?」
と元康君。
「そんなもの、必要ない。俺は効率的にレベル上げをしている。」
錬君が言う。
「波が近いんです。そんなものをしている暇があったら、少しでもレベルを上げるべきでしょう。」
樹君が発言する。
それにしても、レベルレベルって、未だにこいつらゲーム感覚が抜けていないな。そもそも、今までの波の戦いで、強さはレベルだけで測れないと言う事は、思い知っているはずだろうに。こいつら、学習能力が無いのか?
女王が言う。
「それでははっきり言いましょう。盾の勇者以外の3勇者の皆様。あなた方は、はっきり言って、弱すぎます。それは、過去の波の戦いが証明しています。恐らく、あなた方は、レベルと別の所の、戦い方というものが分かっていないのだと、思わざるを得ません。そこで、剣技、格闘術、魔法学など、戦いの知識を、我が軍の精鋭から学んでいただきます。」
「必要ない!」
「面倒だな。」
「やりたくありませんね。」
3勇者は拒否をする。
「お前たち、せっかくプロから戦い方を学べるんだ。いい機会だと思うぞ。」
尚文の言葉も彼らには届かないようだ。
「仕方ありませんね。」
女王がため息をつく。
「戦闘訓練を拒否するなら、今後、勇者様方への援助金は無しにします。」
「「「横暴だ!」」」
3勇者が口を揃えて言う。
「そう思われるなら、あなた方も、イワタニ様と並ぶくらいに強くなって下さい。その為の方法を提示しているのです。更に、イワタニ様から、強くなるための強化法が示されているはずですが。」
女王は言う。
「それを怠っている為に、このような事態に陥ったと考えて下さい。そもそも、あなた方には、強くなってもらわないと、我々も非常に困るのです。」
前回の波での体たらくの自覚はあるのだろう。3勇者は押し黙った。
「ところで、イワタニ様のパーティーも、戦闘訓練を受けていただきたいのですが、よろしいですか?」
女王の問いに、尚文が答える。
「望むところだ。こちとら、あらゆることを手探りで、我流でやって来たんだ。プロから手ほどきを受けられるなら、こちらから頼みたい。」
確かに、ラフタリアの剣技は我流で、その所為かイドルに敗北し、悔しい思いをしている。フィーロは本能のままに戦っているだけだし、リファナの格闘術も、カンは良いが所詮は我流だ。
魔法知識も魔法書を読んではいるが、独学である。この際、学べるのなら学んでおきたいところだ。
「それでは、昼食の後、早速訓練を始めましょう。屈強の騎士が、貴方様方の指導をいたします。」
と女王は言った。
その後、大広間に移動し、皆で昼食を取った。
酒は出なかったので、いつかの懇親会の様にトラブルは起こらなかった。バイキング形式ではなく、それぞれのパーティーがテーブルを囲んでいるのも、要らぬ騒動防止になっているのだろう。
しかし、場の空気は微妙だ。まあ、和気あいあいとはならないのは分かるが、何だか、俺に向けられる視線が怪しい。懇親会でのされた時のことを、根に持っている奴がいると見える。
こんな調子で、うまく合同訓練が出来るかは疑問なのだが、まあ、やってみるしかないだろう。
その後、俺たち含め勇者パーティーは、城の中庭に集められた。