転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第64話 剣技訓練

 甲冑を着て、兜を脱いだ騎士が、前に進み出る。女だ。背はラフタリアよりやや高い程度。ストロベリーブロンドの髪を後ろで束ねた、ラフタリアに匹敵する美女だ。

 

 「私は、エクレール・セーアエット。この度、皆の訓練を受け持つ事となった。若輩者だが、精一杯役目を務めさせていただく。至らぬところもあろうが、よろしく頼む。」

彼女の挨拶に、他のパーティーから雑談が漏れる。女騎士と言う事で、侮っているのだろうか。そもそも、やる気がないのか。多分、後者だろう。

 

 それにしても、クソ真面目な挨拶だ。本人の性格がうかがい知れる。

 家名がセーアエットと言う事は、ラフタリアたちの故郷を治めていたと言う貴族の、娘辺りなんだろうか。

 

 「それでは、諸君らの基礎体力を見ようと思う。先ずは、ここを10周ほど走ってもらおう。もちろん、装備込みでだ。それでは、始め!」

そう言うと、エクレール自ら率先して走り出す。

 

 盾のパーティーは俺も含め、彼女に続いた。それに比べ、他のパーティーはやる気がなさそうにだらだらと走り出す。前途多難だ。

 

 3周ほどすると、リーシアの息が上がって来た。ローブの俺と違って、リングメイルアーマーを着て走るのは、低ステータスの彼女には辛かろう。

 

 尚文がエクレールに話しかける。

 「もう少し、速く走ってもいいか?少々物足りない。」

 「貴殿のペースで走って、構わない。私が合わせる。」

エクレールが答えると、尚文、ラフタリア、フィーロ、リファナの4人が、俄然ペースを上げた。フィーロに至っては、スキップをしているかのような軽快さだ。ステータスエンチャントの賜物である。

 

 俺は、ペースを上げたエクレールについて行く事に腐心した。俺は、魔力以外のステータスをあまり上げていないが、軽装であることが幸いになっている。それでも、息が上がりかけているが、太っていた頃に比べると、雲泥の差だ。

 

 他のパーティーはと見てみると、槍のパーティーの女どもは、早くも歩いている。剣のパーティーは概ね真面目に走っているが、弓のパーティーは人によりまちまちで、だらだらと走っている。

 

 気付くと、前を行く尚文が、リーシアを背負って走っている。周回遅れになった彼女を、拾ったのだろうか。にしても、大した体力である。

 

 いい加減息が切れた頃に、俺は10周を走り終えた。エクレールも息を切らしている。

 反面、先頭を走っていた尚文たちは、全く平気な様だ。唯一、リーシアだけがぐったりとしている。

 

 「盾の勇者様方の体力は、大したものだ。かなりの研鑽を積んだとお見受けする。」

エクレールが言うと、

 「いや、トレーニングをしていたのはラフタリアだけだ。多分、カルミラ島でレベルアップしたせいだろう。」

尚文が答える。

 「それでも、レベルアップにかまけて、鍛錬を怠っている自覚がある。本当は、真面目に訓練をすべきなのだろうが、レベルだけですべてを解決出来てしまうのは、問題があるだろう。」

 

 「そのために、私が居て、今回の訓練の意義があるのだ。心配する事は無い。それにしても…。」

 エクレールは他のパーティーを見る。丁度、フラフラになった剣のパーティーがゴールしたところだ。剣の勇者錬君も、かなり消耗している。

 弓のパーティーも疲労困憊で走っている。槍のパーティーに至っては、疲労さえしていない。談笑しつつ歩いている。やる気ゼロである。

 

 「他の者たちの基礎体力の無さは、問題だ…。」

エクレールがため息をつくようにつぶやく。

 

 他パーティーのクールダウンを待っている間に、先に、エクレールが盾パーティーの稽古をつけてくれると言う。先ずは自己紹介をする。

 

 現状での実力を見たいとのことで、パーティーメンバーで組み手をすることになった。組み合わせは、ラフタリアとリーシア、フィーロとリファナ、俺と尚文で、獲物は木剣である。もちろん、尚文は木剣を持てないので、俺の攻撃を防御することになる。

 それにしても、ラフタリアとリーシアでは実力が離れすぎやしないか。エクレールめ、体格だけで、組み合わせを決めたな。

 

 始めの声と共に、俺は、尚文に斬りかかる。と、隣でものすごい音がした。見ると、リーシアが宙を舞って飛んでいる。木剣を振ったらしいラフタリアは、あわあわと慌てている。

 俺は、リーシアの落下点を見て取り、サンドウォールの魔法を唱えた。

 「ふえぇぇぇ!」

悲鳴と共にリーシアが落下する。

 

 尚文が言った。

 「ラフタリア、手加減をしなくちゃ、ダメじゃないか。」

 「しました、しましたけど…。飛んでっちゃったんです…。」

ラフタリアが答える。なんだか、尻尾が垂れている。落ち込んでいるな。

 にしても、軽く振っただけで人を吹っ飛ばす腕力…。剣をひん曲げるだけはある。

 

 横を見ると、フィーロとリファナが組み手を始めていた。

 敏捷さに物を言わせて先手を取ろうとするリファナと、何だかそれに合わせて遊んでいるようなフィーロ。鼬姿であったなら、リファナの速度にフィーロはついて行けないのだろうが、リファナが亜人姿の今は、フィーロに余裕があるようである。

 背中の羽根でまるで飛んでいるように見えるフィーロに、リファナが渾身の突きを入れようとして、フィーロの持つ木剣にいなされている。

 本気でやったなら、リファナの剣は飛ばされているのだろうが、フィーロはうまく加減しているようだ。尤も、彼女にとっては、それは遊びに過ぎないのかもしれない。

 

 「カツヒコ殿!」

二人の組み手に見とれていたら、エクレールに注意された。俺は、気合を入れて、尚文に斬りかかる。

 とは言っても、今まで海千山千を相手にして来た尚文の防御と、俺の素人剣術では、全く勝負にならなかった。どこに打ち込んでも軽くいなされ、最後には、尚文のシールドバッシュに、俺は剣を取り落とした。両腕が痛い。しびれてしばらくは使い物にならない感じだ。

 

 「そこまで。」

エクレールが一旦組み手を止める。

 そうして、組み合わせを変えて、再開する。新たな組み合わせは、尚文とラフタリア、俺とリーシアだ。

 フィーロとリファナは実力が見て取れたと言う事で、取り敢えず見学だ。それを告げられると、フィーロがぶー垂れた。やはり、彼女にとっては、楽しい遊びだったんだろう。それが中断されるのが、不満なのだ。

 

 俺はリーシアと対峙する。まだ、木剣を持つ両腕がしびれている。

 本当は、尚文とラフタリアが気になるが、よそ見をすると、またエクレールに叱られそうだ。

 「本気で来い!ラフタリア!」

尚文の声が聞こえる。

 

 俺はそっちを見たい衝動を抑えて、リーシアに打ち込んだ。俺の面をリーシアは木剣ではじいた。俺は木剣を落としそうになり、両の腕に力を込めた。そこへ、リーシアの突きが来た。

 「ふべっ!」

彼女の突きは狙い違わず、俺の左鎖骨付近に入った。俺は倒れて、痛みに七転八倒する。

 

 「カツヒコさん、大丈夫ですか?」

大丈夫じゃないっての。俺はうずくまり、痛みに耐えた。リーシアが手を出してきたので、それを握り、起き上がった。

 

 何とか横を見ると、ラフタリアが尚文に打ち込んでいた。右、左、上、下。フェイントも含め、ラフタリアは色んな所から撃ち込み、尚文の防御を崩そうとしているが、尚文の盾は揺るがない。

 「はあっ!」

ラフタリアが気合を込めて渾身の一撃を放った。ものすごい音がして、彼女の木剣が粉々に割れた。尚文は、盾を構えて防御の姿勢を崩さなかった。

 荒い息遣いのラフタリアが言う。

 「やっぱり、ナオフミ様には敵いませんね。」

 「いいや、本物の剣だったら、俺もどうなっていたか…。ラフタリアは本当に強くなった。」

尚文が答えた。

 

 「そこまでっ!」

エクレールが組み手を止める。

 「いやあ、ナオフミ殿の防御は大したものだ。私でも有効打を入れる自信はない。」

 「俺の防御は、我流なんだがなぁ。」

言う尚文に、

 「さすが、三勇教教皇を始め、並み居る敵を下したその実力は、本物だと言う事だ。」

エクレールは褒めたたえる。

 「一方、ラフタリア殿は、まだ伸びしろがあるようだ。腕力をうまくコントロールするようになれば、今よりももっと強くなれるだろう。」

 「強く、なれますか?」

訊くラフタリアに、

 「もちろんだ。」

エクレールは答える。

 

 「フィーロ殿は掴みどころが無いが、ある意味完成しているとも言える。リファナ殿は少々剣筋が荒いが、敏捷さを生かし、振りをもっとコンパクトにすれば、伸びるだろう。」

エクレールはリーシアを見る。

 「リーシア殿は剣筋は良いが、やや受けに回りがちなきらいがある。もう少し、気持ちを強く持ったらどうか。」

 

 エクレールは俺を見た。

 「カツヒコ殿は、もっと鍛錬が必要だ。」

 「俺は魔法使いだから、普段は剣を扱わない。自衛のために、ナイフ位は持っているが。」

俺は言った。

 「ならば、リーチに頼らない剣捌きを覚えたらどうか。魔法使いとは言っても、接近戦をするリスクはゼロではないだろう。剣技は無駄にならないと思うが。」

エクレールの言葉に、俺は素直に頷いた。

 

 「この後、他の者たちの稽古を付けなければならない。部下を寄こすから、その者に訊いて、剣の素振りをやっておいてくれ。」

エクレールは言うと、剣のパーティの方へ歩いて行った。

 

 しばらくすると、エクレールの部下がやって来た。そいつの指導で素振り稽古が始まるが、何だかいちいち細かい。剣の持ち方から素振りの姿勢まで、事細かに指導してくる。

 俺、ラフタリア、リーシアの3人は神妙に聞いているが、後の二人、特にフィーロは面倒臭そうな感じだ。もちろん、木剣の持てない尚文は見学である。

 

 俺は、ナイフでの剣技について訊いてみた。すると、速度を上げて、相手の懐に飛び込むようにする事、振りをコンパクトにし、相手の動きをよく見る事など、至極まっとうな答えが返って来た。

 この男、指導が事細かいのは、指揮官と同じくクソ真面目なだけで、技量は十分にあるようだ。

 

 指導中に、他パーティーの様子を窺うと、剣の勇者錬君が、エクレールに散々打ち負かされているのが見て取れた。スキル無しでは、勇者様もその程度なのだろう。自分たちの技量不足を自覚してくれると良いのだが。と思ったら、エクレールが急に吹っ飛ばされた。多分、スキルを使ったんだろう。稽古でも、勝たなくては満足出来ない、子供のような所業だ。

 

 そのまま素振りを続け-尚文はエクレールの部下と組み手を行った-、額に汗が垂れてきた頃、時間が来て剣技の訓練はお開きとなった。

 

 夕食後は、魔法の座学が開かれた。盾のパーティーは、意外にも、飽きっぽいと思われたフィーロも含めて全員参加である。

 

 俺は、この世界の魔法は使えないが、魔法の種類と詠唱を覚える事で、いち早い敵の魔法に対する対策を講ずる事が出来るようになる。いつかのサイレンスの様に、厄介な魔法は存在するのである。

 

 ラフタリアとリファナは、新しい属性の魔法を使える兆しがあるようで、特にリファナは、光属性の魔法を習得出来そうである。これで、ラフタリアに劣っていたリファナの幻影魔法も、その精度が上がるだろう。尚文との合成スキルも期待出来る。

 

 フィーロは、相変わらず風属性だけだが、新しい魔法を覚えている。

 途中から、メルティが顔を出したので、フィーロのやる気が大いに上がったようだ。二人で和気あいあいと魔法学に励んでいる。

 

 尚文も、支援・回復魔法を改めて学び直しているようだ。

 

 ただ、他の勇者パーティーからの出席者が少ない。クズ王から水晶玉が配布され、その時に必要な魔法を覚えているので、それで十分だと思っているのだろうか。

 少なくとも魔法の詠唱と効果を覚える事は、その対策をするのに無駄にはならないのだが…。

 

 こうして、初日の魔法学講座は一応の成果を見せたのだが、剣技訓練と同様、他の勇者パーティーのやる気が問題の様である。

 

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