転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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皆さん、お久しぶりです。
実は、9月中旬に、いまさらながら、新型コロナに罹患いたしました。それから、一か月半ほど、後遺症に苦しんでおりました。
詳しくは、あとがきにて。



第65話 変幻無双流

 翌日。

 今日は、午前中、格闘術の訓練が行われると言う。

 朝食の後、中庭に集合する。

 他の勇者パーティーも、報奨金無しが響いているのか、概ね集まっているようだ。と思ったら、槍のパーティーの女どもの姿が見えない。未だ眠ーいとか言って、ベッドの中なのだろうか。なんだか、うらやましいぞ。こちとら、ラフタリアの指導の下、恒例の朝の運動を済ませてからの訓練である。

 

 見ると、エクレールもまだ午前中というのに来ている。しかもこちら側だ。一緒に訓練を受けようと言うのか?騎士に格闘術はそぐわないと思うが。

 

 皆の前に進み出る者がいる。小柄な老婆だ。ありゃりゃ、見覚えがあるぞ。いつかの波で、村を志願兵と一緒になって守った、やたら強い老婆だ。

 

 「我はエルラスラ・ラグラロックじゃ。変幻無双流を扱う者ですじゃ。変幻無双流は万能の戦闘術。勇者様方が習得すれば、必ずその強さを引き上げる事が出来ますじゃ。」

尚文がババアと呼んでいる、元気すぎる老婆が挨拶をする。格闘術(とも違うようなのだが)の戦闘顧問は、どうやら彼女の様である。

 

 老婆は続ける。

 「変幻無双流とは、気を扱うものですじゃ。気とは、体内に溜めて扱う、自然の精神エネルギーと言ったものですじゃ。気の扱いを覚えれば、勇者様方がスキルを使う手助けにもなれますし、魔法の扱いもうまくなりますじゃ。」

 

 老婆は傍らの、大きめの石を拾った。

 「例えば、こんな事も出来ますじゃ。」

老婆は片手で石を持ち、もう片手の人差指で、徐に石を突いた。次の瞬間、石は粉々に砕け散った。嘘だろ。

 

 「これは、気を指先に集めて、一気に放出することで石を破壊したのじゃ。」

皆が唖然としているのを、老婆は満足そうに見つめる。

 

 「これから、気を扱い、身体に溜める訓練として、座禅をやってもらいますじゃ。座って瞑想するのは、気を感じるのに最適なのですじゃ。」

老婆が言うと、後ろから男が棒を持ってやって来る。たぶん彼女の息子だろう。そうして、棒の一本を彼女に渡す。警策と言う事なのだろう。座禅の作法は、日本と同じような感じらしい。

 

 「まずは、胡坐をかいて座り、目をつむり、呼吸を整えてもらいますじゃ。」

老婆は率先して胡坐をかいて座った。皆もだらだらと胡坐をかく。俺も足を組んで目をつむった。そして呼吸を意識して一定にする。このまま瞑想するのはやぶさかではないが、気を感じて溜めるとは、どういう事なのだろう。

 

 「そのまま、心を無にして瞑想してもらいますじゃ。雑念がある者は、わしと息子が警策で喝を入れますじゃ。うまくすれば、おなかの辺りに、何か温かいものを感じて来ますじゃ。それが、気を感じる第一歩になりますじゃ。」

 老婆が言いながら、立ち上がって歩き出す気配がする。

 

 バシッ!

 「ぎゃぁ!」

早速、誰かが警策で叩かれたのだろう。声からすると、元康君か?抗議の声が聞こえるが、警策の打撃音が二度三度重なる。結構スパルタの様だ。

 俺は、無意識に魔力を展開し始めたのに気付いて、慌てて引っ込めた。そう言えば、こういう感じの精神集中は、辺りに魔力を張り巡らすのに何度かやっている。警策にぶたれるのもアホらしいので、俺は真面目に瞑想を行った。

 

 警策の打撃音が聞こえてくる事数十回、老婆とその息子が近づいて来る気配がする。

 俺は無意識に魔力を展開し、引っ込めると言う事を繰り返していたが、面倒なので気にしない事にした。その張り巡らした魔力に、二人が引っ掛かったのだ。

 

 「ほう。」

老婆が感心した声を出す。

 「盾のパーティーの皆様は、皆堂に行っていらっしゃる。素質のある者ばかりじゃ。それと、おぬし。」

老婆が俺の肩に手を掛けた。俺は目を開けて老婆を見る。

 「気を辺りに巡らせて、それに合わせて魔力を張り巡らすと言う事を、既に行っておる。どういう事じゃ。」

 

 「気云々は解らないが、こう言った精神集中の状態で、警戒のために魔力を展開する事は、何度か行っている。」

俺は答えた。

 「ほーっ、ほーっ。実戦の中で、気の使い方を既に習得していると言う事かえ。大したものじゃ。」

 

 老婆は次にリーシアに近づく。

 「おぬし、おぬしの素質は大したものじゃ。気の溜め方が秀逸じゃ。我が変幻無双流の後継者たる素養を秘めていますじゃ。」

 そう言いながらリーシアを押し倒し、身体のあちこちを揉みしだく。

 「ふえぇぇぇ!な、何をするんですかぁ!」

リーシアは叫びながら抵抗するが、老婆に苦も無く組み伏せられて行く。

 

 「ババァ!何を!」

 「リーシアさんに何をするんですか!」

尚文が叫ぶと同時に、ラフタリアがリーシアを助けようと割って入る。

 

 「ラフタリア嬢も大した素質じゃ、我が門下生にふさわしい。」

老婆は言いながら、飛び掛かって来たラフタリアをいなし、リーシアと一緒に組み伏せて行く。

 「え?えっ?」

あっという間に動けなくなって、ラフタリアが困惑の叫びを上げる。

 それにしても、老婆の下で組み伏せられる美少女二人。縄があれば、なんか変なシチュエーションになってしまいそうだ。

 

 「おい、ババア、何やってるんだ!」

尚文が怒声を上げる。

 「面白そう、フィーロも交ぜて!」

突っ込んで来たフィーロを片手でいなしながら、老婆が弁明する。

 「すまん、聖人様。おぬしのパーティーメンバーの素養の高さに、ついはしゃいでしまいましてな。特におさげの子の素質は素晴らしい。我が後継者になりえますじゃ。どうです、聖人様。この子を我に預けてみませんかの。変幻無双流の立派な使い手に育てて見せますじゃ。」

 

 「申し出はうれしいが、今は波が近い。波が終わったら考えよう。とにかく今は、二人を放してくれ。」

尚文が言う。

 「そうか、残念じゃが…。」

二人を老婆が放す。

 「えー、もう終わっちゃうのー。」

と、フィーロ。

 

 「ラフタリアちゃん、大丈夫。」

リファナが駆け寄って、気遣う。

 「大丈夫だけど、おばあさんに組み伏せられて、まるで動けなかった。ちょっとショックだわ。」

とラフタリアが嘆く。

 

 「ほーっ、ほーっ。気を扱えるようになれば、こんな事は朝飯前じゃ。精進するがよろしい。」

老婆はラフタリアに向かって微笑むと、壇上へと戻った。

 

 「皆の者、気を感じられた者は少なかったが、初日はまあ、こんなもんじゃろ。続ける事で、開花する才能もある。明日からに期待じゃ。にしても、おぬしたちには、瞑想という漠然なものよりも、より具体的な目標があった方が良さそうじゃ。」

老婆はそう言い捨てると、中庭の片隅に歩いて行った。そこには、頑丈そうな石の壁が、十数個立てかけられていた。

 

 「瞑想を続ける者は続けて良いが、そうでない者は、この石壁崩しに挑戦するが良いじゃ。」

そう言うと、老婆は石壁を人差し指で突いた。途端に、爆発した様な音がして石壁に穴が開いた。

 「このように、指に気を乗せて突くのじゃ。穴を空けずとも、削るだけでも良い。指先に集中して、やってみるのじゃ。」

 

 老婆の発言に、無理だと言う声が多数上がる中、石壁に近づき挑戦する者がちらほらと出て来た。その中には、リーシアもいる。

 フィーロも真っ先に石壁に取り付き、指で突いて穴を開けたが、老婆に注意された。

 「おぬし、それは気ではなくて本来の怪力じゃ。それでは修行にならん。」

言われたフィーロはぶー垂れる。

 

 俺も前に出て、人差し指で、力を入れずに石壁を突いてみる。気云々は未だ分からないが、指先に魔力を集中してやってみる。何度かやっている内に、指先に温かいものを感じるようになって来た。

 

 「ふえっ!やった、やりました!」

見ると、リーシアがなんかはしゃいでいる。よく見ると、指先に石の欠片をつまんでいる。彼女、突きで石壁から欠片を剥ぎ取ったとでもいうのか。なんか、すごい。

 

 「おお、こんなに短時間に、大したものじゃ。さすがわしが見込んだだけはある。」

老婆が駆け寄って、その肩を叩いて称賛する。リーシアの方は、また何かされるのかと、若干引き気味だ。

 

 俺は、何度か突きを繰り出すうち、指先にじゃりっという粉の感触を覚えるようになって来た。心なしか、石壁の、指を当てている部分にも、窪みが出来ているような気もする。果たして、俺が気によってやった事なのだろうか。

 それよりも、指先に集中させた魔力の通りが、以前よりもずっと良くなっている気がする。そっちの影響の方が大きいのだろう。

 

 老婆はと見ると、木の棒を持って、尚文に挑んでいる。模擬戦と言う事なのだろうか。

 老婆が攻撃をすると、尚文がもんどりうって倒れた。彼の防御力を抜くとは、さすが戦闘顧問を任されるだけある。これも、気の力なのだろうか。

 尚文は、自身に回復魔法を掛けながら、心配して駆け寄ってきたラフタリアとリファナに、大丈夫だと言っているようだ。

 

 後で聞いてみると、防御力比例攻撃などの対処法を、老婆から教わっていたらしい。

 

 そんな事をしている内に、午前中の訓練は終わった。

 正直言って、良く分からないと言うのが正直な感想だ。

 だが、心なしか、魔力の操作が以前より楽になっているような気もする。試しに、石壁にフィーロが開けた穴をロックウォールで塞いでみると、割と短時間でぴったりと穴を塞ぐ事が出来た。いつか王城で閉じ込められた時に、ガスの流入孔を塞いだ際は、もっと苦労したような記憶がある。

 これが、気を習得した効果と言う事なのだろうか。

 

 それから、昼食の後、エクレールの指導で剣技訓練を行った。

 俺は、剣技が苦手だと言う事が分かって来たが、それでも、一生懸命に行った。それだけに、他のパーティーのやる気の無さが、若干鼻についた。

 

 夕食の後は魔法学の座学だが、これは、欠席が多くなって来た。

 今後を考えると、暗雲垂れ込めると言った感じである。

 




油断して、公共交通機関にマスク無しで乗ったところ、コロナをもらっちゃいました。
発熱したのは一晩だけなのですが、咳と喉のかゆみが二週間ほど続き、その後頭がぼーっとする症状が、一か月ほど続きました。いわゆる、ブレインフォグというのでしょうか。
とても、執筆どころではありませんでした。
皆様もお気を付けを。
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