転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第67話 対霊亀軍議と出陣

 「以上が、現在判明している霊亀のあらましです。」

進行役の神官が説明を終えた。

 

 今は、対霊亀に関する軍議の真っ最中である。

 古文書と、混乱した霊亀国から伝わるか細い状況から、霊亀の情報をまとめている。

 

 広間の中央には、霊亀の立体映像が映し出され、その周りには、得られた情報が文章や図やグラフで映し出されていた。さながら、魔法でのプレゼンテーションソフトといった趣である。もし、日本に持っていけたら、結構売れるんじゃないかと思えるほどの出来だ。

 

 霊亀の大きさは、全長500メートル超と言ったところ。想像していたより、小さめである。と言っても、小山が動いている様なものには変わりないが。

 多分、首の直径は50~60メートルと言ったところだろうか。これなら、俺の最大出力のレーザー魔法の掃射で、何とか落とせそうだ。

 

 古文書から得られた霊亀の討伐法は、心臓を封印する古代魔法と言うものだった。だが、俺が思い出した、首を落とす事に関しては、何も記述が無かった。

 よって、軍議は、どうやって霊亀の心臓を止めるかという方針へ進んで行った。

 

 「霊亀の体内へ、どうやったら侵入出来るのだ?口からでは、危険が多すぎる。」

 「いっその事、背中へ‘裁き’を落として、開いた破孔から侵入したらどうか。」

 「いや、‘裁き’を動いているものに当てるのは困難だ。霊亀の動きを封じる必要がある。」

 「討伐隊を霊亀に侵入させるためにも、霊亀の動きを止める必要があるが、一体、どうすればいいのだ。」

 

 色々な意見が飛び交うが、決定的な案は出ないようだった。

 俺は許可を取って、発言した。

 「霊亀の動きを止めるために、一度、霊亀の首を落としたらどうだろう。首を落とせば、いくら何でも活動は一時止まると思うが。」

 

 俺の発言に、胡散臭そうな目が一斉に向けられた。

 「言うは易いが、行いは難い。どうやったら、そんな事が出来る?」

 「そもそも首を落とせるなら、霊亀の討伐は完了するであろう。」

 「貴様、首と心臓の同時破壊が必要とか申しておる輩だな。世迷い言は止めるが良い。」

 

 「俺のレーザー魔法の掃射なら、おそらく、首を落とす事は可能だろう。それとも、他に有効な手段があるのか?」

俺は言った。

 

 「その方法だと、霊亀に近接する必要があると思うが、霊亀の周りには、魔物が生まれていると言う。それをどうやって突破する?」

比較的肯定的な意見の将軍が発言する。

 

 「俺は飛行魔法が使える。魔物を回避する事も出来ると思う。」

俺は言った。

 

 「なんと、飛行魔法だと。それなら、首を落とすより先に、霊亀への斥候をお願いしたい。霊亀の背中には村があったと言うし、その現状と、行方不明の勇者様方の動向、霊亀体内への侵入路の捜索を頼みたい。」

将軍の一人が言う。尤もな意見だ。

 

 「承知した。俺と仲間の一人…。」

リファナの事を想定している。鼬姿の彼女なら、懐に忍ばせる事が出来る。

 「それと…。」

あと一人ぐらいなら運べるが…。

 「俺が行こう。」

尚文が立ち上がって、言った。

 

 「おお、盾の勇者様が行って下さるか。ならば、安心だ。」

将軍たちの間から、安堵が漏れる。さすが、勇者の信頼は絶大だ。

 

 「偵察はそれでいいとして、先ほどの、首を落とす件だが…。」

将軍の一人が発言する。

 「それは、実際に魔法の威力を見せた方が良いだろう。」

俺は答えた。レベルXVIIのレーザー魔法は、まだ試していないので、俺自身も試し打ちをしてみたい気持ちがある。

 

 リユート村の近くに、小高い丘があったはずだ。あそこなら、魔法の試し打ちをしても、影響は少ないはずだ。何より、リユート村では、尚文がポータルを取得しているので、すぐ移動できる。

 そんな事を、俺は提案した。

 

 女王が言う。

 「カツヒコ氏の魔法の威力が不明のままでは、軍議が進みませんね。本来なら、軍の演習場で、魔法の威力の披露をしてもらうのが筋なのでしょうが、リユート村で披露してもらった方が、時間の節約になるようです。盾の勇者様、すみませんが、リユート村まで、皆を運んでいただけませんか。」

 

 女王の申し出を、尚文は承諾した。

 その後、皆を転移魔法でリユート村へ運び、そこから5分ほど歩いて、件の丘の麓に着いた。

 

 俺は5メートル程度にまで丘の斜面に近づき、皆に警告を発した。大部分の将軍たちが、胡散臭そうな顔をする。

 俺は、徐に魔法を放った。

 「ファイアーレーザーXVII!」

照射時間は5秒ほど。数度の角度の掃射をする。ヤバい。輻射熱が半端ない。このままでは、7秒ほどの照射が限界かも知れない。何らかの対策が必要だろう。辺りに熱気が漂い、土の焼ける臭いがする。

 

 土手にレーザーを撃ち込まれた丘は、溶けて、人の身長ほどの破孔を作っていた。もちろんその穴は、奥につれて、縦に大きくなっている。掃射の所為だ。貫通はしなかったようだが、手ごたえはある。

 

 将軍たちは、魔法の威力に驚愕していた。

 ラフタリアが、ライトを唱え、光球を穴の中へ投げ入れて、照らす。すかさず測量班が、穴の深さを測定した。結果は86メートル。まずまずの値ではないだろうか。

 

 俺の魔法の威力が実証されたので、尚文が、皆を王城へ戻す。

 戻ってからは、軍議の流れが変わった。首を落とす事を前提に作戦が組まれた。偵察で、体内への侵入路が見つからない時は、活動が止まった霊亀に‘裁き’を落として突入口を開く事とされた。

 

 俺からは、魔力水を相当数用意することを要求した。

 「後、突入する際、魔物たちを引き付ける囮をやってもらえるとありがたい。ある程度は対処できるが、万全を期したい。」

俺の言に、

 「承知した。我が配下の勇猛さを、とくと見せてくれよう。」

いかつい顔の将軍が答えた。

 

 軍議は終わった。図らずも、俺は作戦の最重要人物となった。

 俺たちは、自室に戻った。

 

 「勝彦がこんなに積極的になるとは、珍しいな。どうしたんだ?」

訊いてくる尚文に、俺は答える。

 「霊亀の討伐法を思い出した時から、俺がやらなくてはならないと、考えていた。メルロマルク軍に期待は出来ないし、パーティー全員で掛かれば首を落とせるだろうが、心臓との同時破壊が出来なくなる。」

 

 この世界の兵器は、ほぼ中世ヨーロッパ並みだ。霊亀に有効なのは、攻城兵器だろうが、大型投石機や弩弓が関の山の様である。後は、爆薬はあるが、それこそ霊亀が止まらないと、有効活用出来ない。

 大国フォーブレイには大砲があるらしいが、彼の国は遠すぎて、参軍が間に合いそうになかった。それに、ライフリングの技術はないだろうから、威力も知れている。

 残念ながら、俺たちのパーティー以外は、それほどあてには出来ない感じである。

 

 「それでだ、首を落とす際に、リファナを直衛にもらえないか?リファナさえ良ければだが。」

俺は、彼女を見ながら、尚文に訊く。

 「どういうことだ?」

 「俺が霊亀に攻撃している時に、襲って来るであろう魔物達から、守ってもらいたいと思ってね。まあ、一人でも対処は出来るが、魔力は食うし、首への攻撃にも支障が出る。それに、リファナなら、容易に抱えて飛ぶ事が出来る。」

 

 「事情は分かったわ。」

とリファナ。

 「私は、なおふみ様の判断に従う。どうしますか?」

彼女は尚文を見る。

 「勝彦を守ってやってくれ。それに、心臓討伐は狭い体内で行なう。お前の敏捷さが生かせない恐れがある。」

尚文は答えた。

 「分かりました。」

とリファナは言った。

 

 「ところで、霊亀の偵察の際に連れて行く仲間の一人って、私の事ね?」

彼女は俺を見て言う。

 「そうだ。両脇に一人ずつ抱えて、二人運べない事は無いが、リファナなら懐に抱えられる。飛行時の機動性が上がるし、安全性も高くなる。」

俺が言うと、

 「いやよ。私はなおふみ様に抱えてもらうわ。」

とリファナはつれない返事をして、鼬姿になると、尚文の胸に飛び込んだ。

 

 「お、おい、リファナ…。」

尚文が戸惑って、彼女を引き剥がそうとする。

 「わーい、フィーロも!」

フィーロも尚文に抱き付く。

 「こら!二人とも、止めなさい!ナオフミ様が困っています。」

とラフタリアが制止しようとするも、二人はなかなか離れない。

 俺はもつれ合う4人を眺めながら、若干の羨ましさと共に、これから霊亀と対峙する使命感を覚えていた。

 

 

 翌日の午後、メルロマルク軍と共に、俺たちは出陣した。と言っても、いつもの馬車をフィーロが引き、行商の旅とあまり変わりなかった。だが、変わったことが二つ。周りが軍隊である事と、馬車に同乗者が居たことだ。

 「聖人様。お世話になりますじゃ。」

ババアとその息子が、俺たちの馬車に乗り込むことになったのだ。なんでも、軍の馬車は性に合わないのだそうだ。

 エクレールも、騎士隊の司令官として参軍しているらしかった。

 

 俺たちは、途中で諸外国の軍隊と合流しながら、霊亀のもとへ向かった。周りは、争いの予感でピリピリしていたが、その中で、フィーロだけは相変わらず呑気だった。ただ、皆に速度を合わせなければならないので、彼女は少し不満そうだったが。

 

 出発してから一日半、すなわち、二日目の夜に、霊亀国の軍隊と合流した。対霊亀戦で壊滅したと思われていたので、予想外の事だった。

 彼らは、霊亀を止めるべく波状攻撃を繰り返したが、効果はなく、戦力は半減していた。そして、最終決戦の地を探すべく、霊亀に先回りしてここに来たと言う。

 

 早速、彼らを交えて軍議が行われた。彼らにはこちらの作戦を説明した。彼らからは、霊亀の細かい情報がもたらされた。その中で重要だったのは、霊亀は人里を必ず攻撃していると言う事だった。しかも、人口の多いところを優先的に。

 憂慮すべき事だが、この事は、霊亀を誘導出来る可能性を示唆している。実際、我が軍の進軍につれ、霊亀は進路を変えたと言う。つまり、人の沢山居る所へ、霊亀は向かうらしいのだ。

 

 俺たちの作戦を聞き、霊亀国軍も、諸外国軍も、俺個人頼りのものに、胡散臭さを隠さなかった。

 それを払拭するため、俺がレーザー魔法を試射して見せると、彼らは手のひらを返したように納得した。今回は、20秒の掃射を行い、地面に大穴を空けて見せたのだ。

 そのため、‘シールドファイアーレーザー’という魔法を定義した。正体は、身体にアイスウォールを纏わせて輻射熱を防ぎながら、ファイアーレーザーを放つのである。

 

 何のかんので、我が軍は7000を超える陣容になって来ているので、霊亀は一直線にこちらへ向かって来ている。

 細かい作戦を決定するためにも、直ちに霊亀の偵察が必要との結論がなされた。

 

 翌日未明に偵察を決行すべく、俺と尚文とリファナの3人の斥候隊と、魔物を引き付ける囮部隊の準備が成された。

 状況をあまり理解していないフィーロがついて来たがったが、何とか説得して、ラフタリアとリーシアの3人で留守番をしてもらった。

 

 翌早朝に、早めの朝食を取ると、3人の、

 「行ってらっしゃい」

の言葉に送られて、俺たちは出発した。

 




霊亀の大きさは、首の直径を50~60メートルと決め、そこから逆算しました。
原作では100メートルぐらいありそうなのですが、それでは、首を落とすイメージが湧かなかったので、サイズダウンしています。
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