転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第7話 波との戦い

 翌日、目を覚ますと、二人は既に起きていた。少し寝坊をしたらしい。久々に、酒を飲んだせいか。

 慌てて身支度をする。尚文君が回復薬を渡してくれる。

 「波の当日だというのに、余裕だな。」

 「ぬかせ。」

悪態をつきながら、装備を確認する。回復薬、魔力水が2本ずつ。足りないが、こんなものだろう。

 外へ出ると、冒険者たちや騎士たちが、そこかしこにたむろしていた。一応、波への備えと言う事なのだろうが、実際に対応出来るのは、波の場所へ転送される勇者のパーティーだけだろう。

 通りの向こうに人が集まっている。見ると、弓の勇者一行のようだ。歓声を送られている。

 俺たち盾のパーティーには、そんなものはない。気づいた者は、眉をひそめて遠ざかっていった。

 まだ閉店している店屋の裏のわずかな空き地に陣取る。あとどれぐらいか?と尚文君に聞くと、あと5分ぐらいだと答えた。

 ラフタリアが口を開いた。

 「ナオフミ様。」

 「なんだ。」

尚文君が無表情で答える。

 「私は、貴方に買われて良かったと思っています。貴方は、私の病を治し、温かい食事を与え、私に生きる意義を教えて下さいました。そして、戦う理由を示して下さいました。あの波に立ち向かう理由を。」

ラフタリアは顔を上げて、尚文君を真っすぐに見つめる。その紅茶色の瞳には、彼女の決意が輝いていた。

 「私は貴方の剣です。どこへだって、ついて行きます。」

尚文君は、ラフタリアを見て、つぶやくように、ただ一言、

 「そうか。」

と言った。そんな尚文君を見て、ラフタリアは、首を垂れた。

 俺は、ラフタリアの頭に手を載せ、ポンポンと撫でてやった。彼女はわずかに顔をほころばせた。

 「そろそろだ。」

 ステータス魔法の画面を見ていた尚文君が言う。

 やがて、世界の一部が割れるような音と共に、俺たちの視界が白く染まった。

 

 視界が通常に戻ると、俺たちは、森の外れにいた。見上げると、空がワインレッドに染まり、一部がひび割れたように欠けていた。その割れ目から、何かが零れ落ちている。よく見ると、それは魔物だった。

 「これが、災厄の波か…。」

俺が感嘆していると、尚文君が、

 「ここは、どこだ。」

と言った。

 「リユート村付近です。」

状況判断に優れたラフタリアが、遠くに見える村を指さして言う。その村にも、魔物たちが降って来ているようだ。

 と、複数の足音が聞こえた。見ると、俺たち以外の三勇者のパーティー合計15人が、一斉に駆け出していた。彼らは何か照明弾のようなものを空へ打ち上げると、波の中心へ向かって駆けていった。

 「騎士団に場所を教えて、ハイお終いってか。」

尚文君が、憎々しげに言う。

 「勝彦、ラフタリア、村へ向かうぞ!」

 「はい!」

 「おう!」

俺たちは、村へと駆け出した。

 

 村では、駐留していたわずかな騎士と冒険者が、空からあふれ出てくる魔物と戦っていた。が、多勢に無勢、防衛線が破られるのは、時間の問題だった。

 「勝彦、ラフタリア。お前たちは、村人の避難誘導をしろ。」

 「ナオフミ様は?」

とラフタリアが訊く。

 「俺は、魔物を引き付ける。」

と答える尚文君に、俺は異議を唱える。

 「俺も残る、尚文。」

 「なんだと。」

 「俺は、魔力が尽きるまで、お前の援護をする。そのあと、ラフタリアと交代だ。攻撃力0のお前だけを残すわけにはいかないさ。」

 「私もそう思います。」

ラフタリアが賛成する。

 「分かった、援護を頼む、勝彦。」

 「おう。」

俺は、近くにいた冒険者を襲っている巨大な蜂に、ファイヤーアローを放つ。蜂は、一瞬で燃え尽きた。ラフタリアが、村の奥へと消える。

 「尚文、出来るだけ、魔物を集めてくれ、俺がストームで片づける。」

と俺が言うと、尚文君は頷いた。そして、雄たけびを上げて、魔物の中へ突っ込んだ。

 「いいか、お前たち、魔物たちは俺が引き付ける。その間に、態勢を整えるんだ。」

尚文君が冒険者たちに言う。必死に魔物の注意を引く尚文君を見て、冒険者たちが必要以上に退く。おいおいお前たち、それはないだろう。まあ、下手に邪魔されるよりは、マシか。

 尚文君は、魔物を引き付けながら、逃げ遅れた人々を、エアストシールドやシールドプリズンで救っている。

 「勝彦!」

逃げ場がなくなった尚文君が叫ぶ。俺は徐に魔法を放った。

 「ファイヤーストームIV!]

炎の嵐が、尚文君を中心に巻き起こる。大小の魔物たちは、一瞬で燃え尽きた。が。やべえ。魔力消費が半端ない。範囲指定を広めにとっているせいだ。まあ、3回ぐらいなら打てるだろう。そのあとは、ラフタリアの奮闘に期待だ。

 それから、尚文君が魔物を集め、俺が焼き払うという作業を繰り返した。併せて、100体は倒したろうか。それでも、魔物たちは減らない。

 「一体あいつら、何やってるんだ。」

波の中心を見ながら、尚文君が愚痴る。俺は、魔力が尽きたことを告げ、ラフタリアを呼びに走った。うん、頭がくらくらする。マインドダウン寸前だ。魔力水をあおる。

 ゼイゼイと俺の息が切れた頃、炭鉱の近くで、子供をあやしているラフタリアを俺は見つけた。俺はラフタリアの手を打って、タッチをする。

 「へ?」

ラフタリアがきょとんとする。そうか、こういうゼスチャーは、こっちの世界にはないのか。

 「尚文が待っている。行け!」

と言うと、ラフタリアは、

 「はい!」

と言って駆けだしていった。

 残された子供をあやそうとすると、盛大に泣かれた。まいったな…。

 それでも、十数分で、村人の避難誘導は終わった。ラフタリアの手際が良かったせいだ。

 俺は、尚文君たちと合流するべく、駆け出す。

 魔物と戦っている彼らを見つけた時、空が明るくなり、いつもの青空になった。どうやら、波が終わったようだ。しかし、魔物たちは、まだ残っている。

 「ファイヤーボールIII!]

俺は魔法を放ち、尚文君の背後を襲おうとしていた巨大なゾンビを焼き払った。

 「勝彦!」

 「カツヒコ様!」

俺は二人に応える。

 「あと少しだから、さっさと片付けようぜ。」

 見ると、騎士団の一小隊も、魔物と戦ってくれているようだ。

 俺は続けざまにファイヤーボールを放って、大型のゾンビを狙い撃ちにした。小型のゾンビは、ラフタリアと騎士団が駆逐していく。俺は、最後の魔力水を飲んで、上空を飛んでいる昆虫の魔物をファイアクラウドで焼き払った。程なく、魔物たちは全滅した。

 「私たちは、勝ったのでしょうか?」

 ラフタリアが、つぶやくように言う。尚文君は何も言わなかった。が、間違いなく、俺たちの勝利だよ、ラフタリア。何せ、生き残ったのだから。

 騎士団が引き上げていくのを、俺たちは黙って見送った。入れ替わるように、村の者たちが、俺たちの前に並ぶ。

 「勇者様、ありがとうございました。」

村長が頭を下げる。

 「貴方様がいなければ、皆、助かっていなかったと思います。」

 「なるようになっただけだろ。」

尚文君が、面白くなさそうに言う。

 「いえ、貴方がいたから、私たちは、こうして生き残る事が出来たんです。」

 「このご恩は、一生忘れません。」

村人が、口々にお礼を言う。

 「勝手にしろ。」

と尚文君はそっぽを向く。

 やがて、村人たちは立ち去って行った。

 「感謝されましたね…。」

ラフタリアが言う。

 「そうだな。」

 「私みたいな人、少しは、減らせましたよね。」

 「お前は頑張ったよ、ラフタリア。」

と俺は言う。感極まったのか、ラフタリアは涙ぐんでいる。

 「魔物、いっぱい倒しました。」

そのまま、尚文君の肩に、額を付ける。尚文君は、ラフタリアの頭を、抱えるように撫でる。

 俺は、思いっきり、伸びをした。魔力水で魔力は回復しても、精神的疲労は色濃く残っている。俺は首を振ると、

 「二人とも、お疲れさん。」

と言った。

 そういえば、3人とも、泥にまみれている。俺は、魔法ウォータークラウドでシャワーを浴びることを提案する。木陰で魔法を発動させ、一人ずつ水浴びをする。

 「これから、城へ行かなくちゃならないからな。」

尚文君は言う。

 「行かなくてもいいんじゃないか。」

俺は言う。アホな決闘は、スルーするに越したことはない。

 尚文君は、援助金が惜しいと主張した。反対する根拠を提示するわけにもいかず、俺たちは、城へ向かうことになった。まあ、何とかなるだろう。

 

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