転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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皆さん、お久しぶりです。
実は、某シミュレーションゲームの7弾目が出たという知らせに触発されて、持っている初代(!)を引っ張り出して久々にプレイしたところ、見事にはまってしまい、仕事と介護以外の生活リソースをすべてゲームにぶっこむという中毒に近い状態になっていました。
ゲーム中毒には禁ゲームというのは解っているのですが、復帰するまでに約一月ほどかかりました。
更新が遅れたのはそんなしょーもない理由です。ご心配をおかけしました。



第69話 霊亀の首落とし その1

 やる事は斥候の時とほぼ同じである。鼬姿になったリファナを懐に抱え、フライトの魔法を発動させる。ジャンプの魔法を唱え、地面を蹴って飛び上がった。

 尚文を抱えなくていい分、速度と機動性は上がっている。俺は速度を重視して、低空で地面を何度も蹴って高速で移動した。

 

 やがて、小山のような霊亀が見えて来る。その首が、ゆっくりともたげられ、徐に口を開いた。

 俺は咄嗟に高くジャンプし、更にフライトで上昇する。刹那、足の下を雷撃が通り過ぎて行った。

 

 霊亀本体の攻撃はうまく躱したが、代わりに蝙蝠型の使い魔が寄って来る。俺はファイアーストームXを身に纏わせる。使い魔共は、次々に消し炭になって行く。

 

 俺は、降下して、地面を蹴って加速し、上昇する事を繰り返しつつ、霊亀の首を注視した。霊亀の首はこちらを向いていたが、その口が開かれる事は無かった。攻撃は躱される事が分かっているのだろうか。

 

 俺は、霊亀の側面から回り込むと、霊亀の甲羅を蹴って、上へと上がる。そうして、霊亀の首の後ろに駆け上がった。

 

 早速、雪男型の使い魔が襲ってくる。俺はファイアーストームXで迎え撃った。それでも寄って来る奴らには、懐から飛び出したリファナが対抗する。

 

 安心したのも束の間、いつの間にか、上空に蝙蝠型の使い魔が群れて来て、俺に向かって熱線を放って来た。

 アイスウォールVで防御し、ファイアーブラストVIIで迎撃する。

 リファナは、地上の敵で手いっぱいで、上空の蝙蝠型には手が回らないようだ。

 これでは、首落としに着手出来ない。

 少し考えた末、上空に、ファイアークラウドVを展開した。これで、リファナは、雪男型と、低空に侵入してくる蝙蝠型を相手どれば良くなる。

 

 敵に対処が出来たので、霊亀の歩みで揺れる中、首落としに着手する。

 首の端に向かって魔法を放つ。

 「シールドファイアーレーザーXVII!」

そのまま、20秒ほど掃射する。

 

 俺は、魔法を止める。うん、手ごたえが良くない。霊亀の首の肉は焼き切れてはいるが、地面を相手にした時のような切れ味が無いのだ。

 俺は相性かと思い、属性を変えてみる。

 「サンダーレーザーXVII!」

やはり20秒ほど掃射してみるが、ダメだ。ファイアーレーザーより成績が悪い。よく考えれば、霊亀は雷撃を吐くので、雷耐性があるのも当然か。

 

 ふと思いついて、水属性を試してみる。

 「ウォーターレーザーXVII!」

今度は良い感触だ…と思ったら、やはりダメだ。既にある傷口の部分では、面白い様に肉が崩れるが、固い表皮や新たな肉の部分では、効果が出ない。

 

 困った。八方塞がりだ。などと悩んでいられない。切るのがだめなら、穴を空ければ良い。そうして、穴同士を繋ぐのだ。

 金属板を切る際に、金ばさみが無い時、ドリルで沢山穴を空け、ニッパーで穴を繋ぐ、あの要領である。

 

 俺は魔法を放った。

 「ファイアードリルXVII!」

ファイアードリルとは、今まで使って来た必殺技と言える、ファイアーレーザーとロックレーザーの連続技を、エイリアスで定義したものである。ダサい名前だが、適当なのが思い付かなかったのでしょうがない。

 

 火柱の次に岩柱が撃ち込まれた穴からは、一瞬血が噴き出した。俺はその穴を覗いてみた。うん、行ける。きちんと貫通している。

 俺は、背中に背負ったバックパックから魔力水を取り出し、飲んだ。

 

 「調子はどう?」

使い魔退治に忙しいリファナが、声を掛けて来た。

 「予定が少し狂ったが、なんとか行けそうだ。」

俺は答える。

 「そう、頑張りなさいよ!」

リファナは言って、低空に侵入してきた蝙蝠型をかち割る。

 

 「ファイアードリルXVII!」

 「ファイアードリルXVII!」

 「ファイアードリルXVII!」

 「ファイアードリルXVII!」

 「ファイアードリルXVII!」

俺は、場所を変えては、魔法を撃ち込むと言う事を繰り返していた。そうして、バックパックの魔力水を飲む。

 

 俺は少し急いでいた。と言うのも、攻城部隊が接近してくるのが見えたからだ。早く首を始末しないと、雷撃で彼らが全滅してしまう。

 

 また、少しずつだが、霊亀の傷口が、徐々に再生して来ている。大した回復力である。あまり時間を掛けると、折角空けた穴が塞がってしまう事も考えられる。

 

 30カ所ほど穴を空け、霊亀の首がぐらぐらして来た時に、それは起こった。

 霊亀が突然、足に攻撃を始めていた攻城部隊に向かって、雷撃を吐いたのだ。当然、直撃を喰らった攻城部隊は黒焦げだが、首の穴からも雷撃が盛大に漏れ出して来た。俺は驚いて飛び上がる。

 

 霊亀の捨て身の攻撃だ。雷撃を終わった首の穴からは煙が立ち、肉の焼ける臭いが漂っている。この機を逃す事は無いだろう。俺は仕上げに移った。

 

 「ウォータレーザーXVII!」

水流で、焼けた肉を押し流していく。穴を繋げるニッパーの役目だ。表皮が残っている部分ではファイアーレーザーXVIIを併用しながら、魔法水を飲みつつ、霊亀の首を切り落としていく。

 

 首を半分ほど切り落としたところで、霊亀は沈黙した。が、念のため、首落としの作業を続けて行く。

 

 3分の2ほど切り落としたところで、嫌な音がして、霊亀の首が崩れ出した。自重に耐え切れなくなったのだろう。程なく、大音声と共に、霊亀の首は下に落ちた。

 

 「かつひこさん、やったわね!」

リファナが弾んだ声で言う。生き残った攻城部隊からも、歓声が上がっている。

 「ああ、ありがとう。」

俺は答えた。

 

 まだ余裕はあるが、精神集中を続けたため、精神的疲労が大きい。だが、まだやる事は残っている。

 俺はリファナを抱え、上陸部隊を支援すべく、霊亀から飛び降りた。

 




以下は、勝彦君が頑張っていた時の、尚文君視点の出来事です。

        69.5話 フィトリア再び

 盾の勇者岩谷尚文は、入江勝彦が霊亀の首根っこで奮闘しているのを、固唾を飲んで見守っていた。傍らにはラフタリアが、もう片方の隣には、フィーロが控えている。
 「かっちゃん、がんばれー!」
フィーロが無邪気に勝彦を応援する。
 「ふえぇぇぇ…!」
勝彦の魔法が火柱を上げるたび、後ろにいるリーシアが彼女独特の驚きの声を上げる。
 「リファナちゃん、頑張って!」
ラフタリアが魔物を蹴散らしているリファナに声援を送る。

 そんな時、フィーロの様子が変わった。ぶつぶつと独り言を言い出したのだ。
 「うん、ええと、あのね…、おっきな亀さんが…。」
尚文は彼女を見る。彼は、フィーロのアホ毛がせわしなく、ぴょこぴょこと動いていることに気付いた。

 エア電話の様に、フィーロは話し続ける。まるで、誰かと話している体である。
 「うん、わかった。ごしゅじんさまに伝えるねー。」
その言葉で、フィーロは‘通話’を終えたらしかった。見ると、アホ毛の動きも止まっている。

 尚文は訊いた。
 「フィーロ、一体誰と話していたんだ?」
フィーロは答える。
 「えっとねー、フィトリア!」
 「何だって!?」
意外な答えに、尚文は驚く。フィトリアからもらったアホ毛に、通信機能まであるとは…。

 「それで、フィトリアは何と?」
 「あのおっきな亀さんをたいじするのを、手伝ってくれるんだって。」
尚文の問いに、フィーロは答える。
 「もうそこまで来ているんだって。」
そうフィーロは付け加えた。

 その時だった。一人の伝令兵が、女王の許に走って来た。
 「報告します。馬車を曳いた巨大なフィロリアルが、我が軍に接近しています。」
 「それって…。」
 「フィトリアさんよ!」
言いかけた尚文に、女王の傍らにいたメルティの感激の叫びが被る。

 「何ですって!伝説の、フィロリアルの女王が…!」
女王は一瞬喜色を見せるが、すぐに咳払いをして、伝令兵に伝えた。
 「彼女に対して、一切敵対行為はしないよう、命令します。可能なら、こちらへ来るよう、誘導しなさい。」

 「分かりました!」
伝令兵は、命令を伝達するべく、下がる。
 女王は望遠鏡を取り出し、後ろの方を見た。
 尚文も望遠鏡を取り出し、同じ方を見る。そこには、砂埃から浮き上がって、眩く光った巨大なフィロリアルの姿が見えていた。彼が取り出したのは、いつか勝彦が襲撃者から奪った、魔力を見る遠眼鏡である。

 突如、巨大なフィロリアルの姿が消えた。女王は、驚いて、消えた砂埃の方角を見つめている。
 尚文の視界には、下の方に、眩く光る姿が見えていた。フィトリアが、巨大化を解き、幼女の姿になったのであろう。彼は、その事を、女王に説明した。

 尚文が、そのまま光を追っていると、こちらへと近づいて来る。
 「フィトリアが、こっちに来るぞ!」
彼は叫んだ。

 程なく、肉眼でも、幼女がこちらへ近づいて来るのが見えて来た。すごいスピードである。一部、制止しようとする兵たちを投げ飛ばしているように見える。
 「彼女の邪魔をするのではありません。」
女王が、拡声魔法で兵たちに命令し、道を開かせた。

 フィトリアは、あっという間に尚文たちの前に来た。そして、口を開く。
 「久しぶり、盾の勇者。霊亀への対応が決まったようだから、手伝いに来た。」
そうして、メルティの方を見ると、
 「メルたんも、元気そうで、何より。」
と言って、感激している母娘を見る。

 「私は、霊亀討伐軍を率いている、メルロマルク女王、ミレリア=メルロマルクです。女王フィトリアよ、お見知り置き下さい。」
女王が挨拶する。
 「分かった、よろしく。」
フィトリアの返事はそっけない。

 その時、霊亀の方で、眩い光芒が発生した。ついで、雷のような重低音が伝わって来た。霊亀が雷撃を吐いたのだ。攻撃中だった攻城部隊がそれに呑まれ、大部分が焼け焦げた骸になった。
 「ああ…。」
女王が自軍の被害に動揺する。

 「ところで、霊亀への対応とは、何のことだ。」
尚文がフィトリアに問う。
 「霊亀を討伐しようとするのは、世界の為ではなく、人々の為に、茨の道を選んだと言う事になる。」
フィトリアは、尚文を見る。
 「このまま霊亀の意思に任せれば、犠牲になった魂は、世界を救う礎になる。それを妨害するのは、世界を救う礎に、勇者たちがなると言う事。」

 「具体的には、どういう事なんだ?」
 「忘れた。フィロリアルは忘れっぽい。」
尚文の問いをフィトリアははぐらかすが、案外、本当に忘れているのかもしれない。そんなところが、フィロリアルにはある。

 「とにかく、成り行きにせよ、霊亀を討伐するならば、フィトリアは協力する。それで、事態はどうなっている?あの転生者が、首を落とそうとしているようだけれど。」
フィトリアが訊いて来た。尚文は答える。
 「首を落として、霊亀の動きを止めた後、上陸部隊を送り込んで、霊亀の心臓を止めるつもりだ。」

 「確か、心臓を封印するだけでは、霊亀は止まらないはず。」
フィトリアは返す。
 「だから、心臓を止めると同時に、勝彦が再度首を落とす手はずになっている。」
尚文は言った。

 「そうだ、フィトリア。お前、フィーロと通信出来るんだよな。」
 「冠羽を介して、意思疎通は出来る。」
尚文の問いに、フィトリアは答える。
 「だったら、今度首落としをする時に、勝彦について、奴を守ってくれないだろうか。」
 怪訝な顔をするフィトリアに、尚文は続ける。
 「心臓を止めると同時に、首を落とすために、心臓討伐班と勝彦で通信が出来ると好都合なんだ。お前が居てくれると、助かる。」
 「私を伝書鳩代わりに使おうと言うのね。分かったわ。あの転生者はまだ信用できないけれど、貴方の事は信じてあげる。」
フィトリアは言った。

 「それでは、よろしく頼む。」
尚文は、フィトリアに向かって手を差し出した。彼女はその手を握る。と同時に、何かが崩れ落ちる大音声が聞こえた。兵たちの歓声も聞こえて来る。
 見ると、丁度、霊亀の首が斬り落とされた、と言うより、その自重で崩れ落ちたところだった。
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