転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第71話 爵位

 俺とリファナは、歓喜の声に包まれて、廃墟の村へと入った。早速、女王母娘が迎えてくれる。

 「霊亀の首落とし、お疲れさまでした。これで、この世界は救われます。」

女王は深々と頭を下げる。俺は恐縮した。

 「ところで、女王フィトリアは?」

女王が問う。

 

 「それが、聖地へ帰ってしまった。」

俺は答えた。女王が、目に見えて落胆する。

 「なんで、止めなかったのよ!?」

メルティが語気を荒げる。

 「取り付く島もなかった。」

俺は答える。

 「なによ、それ。何とかして引き止めなさいよね。…まあ、仕方ないわ。ナオフミたちを迎えに行きましょう。」

メルティが促し、俺たちは例の寺院に向かった。

 

 それから10分ほどして、突入部隊が戻って来た。先頭は、尚文、ラフタリア、フィーロ、リーシアの、俺たちのパーティーメンバーと、ババアだ。守備部隊の兵士たちから歓声が上がる。

 だが、後続の攻撃部隊、魔法部隊の有様を見て、その歓声は止まった。

 

 まず、数が2/3ほどに減っている。生き残った者も、無傷のものは少なく、簡易担架で運ばれていたり、負傷兵同士で支えあったりして、惨憺たる様子だった。姿だけを見るならば、まるで敗残兵である。女王も一瞬言葉を失ったが、それでも、尚文の前に進み出る。

 

 「盾の勇者様。霊亀の心臓討伐、ご苦労様でした。貴方様方の働きに、どんなに感謝しても、足りません。本当に、ありがとうございました。」

 「頭を上げてくれ、女王。結果的に、霊亀の心臓を止めることは出来たが、攻略部隊すべてを守る事は出来なかった。俺の責任だ。すまない。」

女王と尚文はお互いに頭を下げる。女王は言った。

 「戦闘には、犠牲は付き物です。お気になさる事はありません。皆、世界を守るために、戦ったのです。イワタニ様の働きで、世界は救われました。」

 

 「ところが、そうとも言えないようだ。」

尚文は言った。

 「青い砂時計の数字が7から8になり、約4か月のタイマーがセットされている。波のカウントは止まったままだが。」

 「新たな厄災の始まりだと…?」

 「そう考えた方がいいだろう。ところで、フィトリアは?」

 

 「首を落とすとすぐに、聖地へと帰って行った。」

尚文の問いに、俺は答えた。

 「そうか。奴に、この事を相談したかったんだがな…。」

 「フィトリアから、伝言がある。これからも、試練は続く。油断するなとのことだ。それと…、」

俺はリーシアを見ながら言った。

 「三勇者は全員健在だそうだ。居所までは教えてくれなかったが…。」

 

 「じゃあ、樹様は、生きているのですね!?」

リーシアは涙ぐむ。

 「とりあえず、よかったですね、リーシアさん。」

とラフタリア。

 

 「それでは、他の勇者様方は、どこにいるのでしょう?」

女王が言う。

 「分からない。だが、ゲーム知識で霊亀をなめてかかって、実際に戦ってみて歯が立たなかったんで、逃げ出したっていう感じなんだろうな。」

尚文が言う。

 「それでは、落ち着いたら、他の勇者様方を探すのが必要になるでしょう。」

女王は憂いた表情を見せた。

 

 「試練というと、期限と共に、また四霊獣が暴れだすのでしょうか。」

 「分からんが、その可能性が一番高いな。勝彦は、何かわからないか?」

尚文が問う。

 「分からない。竜は最後だと思うから、麒麟か鳳凰と言うところだと思うが…。」

俺は答えた。

 「そのことについては、古文書を調べさせてみましょう。」

女王は言った。

 

 「イワタニ様方は、どうぞお休みになって下さい。私は、霊亀の死骸の処分を諸外国軍と話し合って来ます。」

 「ありがとう。それでは、少し休ませてもらう。」

女王の言葉に、尚文は答えた。

 

 俺たちは、霊亀の背から降り、連合軍の宿営地の天幕で休息をとった。俺と尚文は一緒、女性陣は別の天幕である。

 横になった尚文がぼそりと言った。

 「連合軍の兵士が弱かった。」

 「そうだな。」

俺は答える。エクレールの指揮した騎士隊にしろ、攻城部隊にしろ、霊亀の攻撃は強力だったが、余りにも脆すぎた。霊亀体内の突入部隊も、同じような有様だったんだろう。

 「波を、いや、これからの災厄を生き延びるためには、俺たちで何とかしなくてはならないと思う。だが、圧倒的に、人手が足りない。」

 

 尚文は寝返りを打って、俺の方を見る。

 「そこでだ、女王に領地をもらって、そこを拠点に私兵を養成しようと思う。勝彦はどう思う?」

俺は、短い思案の後、答えた。

 「賛成だ。というより、それしかないだろう。俺たちが兵士を訓練する手もないわけではないが、いろいろと問題がありそうだ。」

兵士たちの平均レベルは65と聞いている。そこから鍛えても伸びしろは少ないし、何より、これまでの兵士の訓練の在り方にケチをつける行為に等しい。各方面からクレームがつきそうだ。

 

 「そこで、領地の場所なんだが…。」

俺と尚文はしばらく語り合った。

 

 

 その夜は、戦勝会という体のささやかな宴になった。俺も尚文も、戦闘の経過報告は済ませている。

 そんな中、尚文が女王に呼ばれる。

 「イワタニ様、この度のご活躍、目覚ましいものがありました。お礼申し上げます。そこで、報奨金ですが、金貨50枚ほどをお渡し出来るかと存じます。」

 「大丈夫なのか。軍の損害も軽微ではないだろう。」

尚文が答える。

 「確かにそうですが、日数的に、霊亀との戦闘が予想より少なくて済みました。臨時に組んだ予算が少し余りましたので、イワタニ様に差し上げるわけです。しかし、このような少額では、貴方様方の働きには見合いませんが…。」

 

 「そう言ってもらえるのなら、俺から要求がある。」

 「なんですか?」

尚文の要求に、女王が戸惑う。

 「領地が欲しい。」

尚文の言に、女王が意表を突かれたような表情を見せる。

 「あの、イワタニ様は、そういう欲求は無かった様にお見受けしたのですが…。もちろん、当方は構いませんが、理由をうかがっても、よろしいでしょうか?」

 

 「失礼な発言になるのを、承知してもらえるだろうか。」

尚文が、険しい表情で語りだす。

 「はい。」

 「今回の作戦で、連合軍の戦力がなければ、俺たちは負けていた。それは大前提として受け取っていてほしい。」

尚文は、少し間を置いた。

 「それでも、連合軍の兵士が、弱かった。」

その発言を聞いて、連合軍の将軍たちがいきり立つ。だが、一人の副官がそれをなだめた。

 「確かに、我々の兵士に比べ、盾の勇者様のお仲間たちは、獅子奮迅の働きをしていると聞いています。」

 

 尚文は続ける。

 「このままでは、これからの災厄に対抗するのは難しい。そこで、貰った領地を拠点にして、私兵を養成したいと思う。」

 女王が言う。

 「お考えは分かりました。それで、具体的な希望はございますか。誰か、地図をこれへ。」

 「ああ、希望する領地は決まっている。」

運ばれた地図の一点を尚文は指さす。ラフタリアとリファナが息を呑む気配がした。そこは、彼女たちの生まれ故郷、ルロロナ村跡の廃墟がある地域だった。

 

 女王は心なしか微笑んで、言った。

 「盾の勇者様が、亜人とゆかりのある、その地域を所望するとは…。しかし、この地域は廃墟になっていると聞いていますが。」

 「一から開拓して作った方が、俺好みに出来て良い。それに、こういう場所の方が、他の貴族とのしがらみはないはずだ。」

 「貴族といえば、領地を与えるからには、イワタニ様には爵位を受けていただきます。よろしいですね。」

尚文は、露骨に嫌な顔をする。

 

 「断れないのか。」

 「そういうわけにはいきません。」

と女王。

 「だったら、一代限りの爵位で頼む。」

女王は考え込む。

 「でしたら、伯爵位がふさわしいでしょう。」

 「それって、世継ぎ問題が生まれるものではないのか?」

 「イワタニ様の子孫が継承すれば、問題ありません。」

女王の発言に、尚文が渋い顔をする。トラウマが刺激されたのだろう。

 

 「仕方ないな。それと…。」

尚文は俺の方を見る。

 「勝彦にも爵位をやってくれ。俺の代わりに領地を治めてもらう事もあるだろう。」

 「へっ!?」

思わず変な声が出た。尚文はと見ると、少しいたずらっぽい目をしている。お前も矢面に出ろという事なのだろうか。

 

 「だったら、準男爵なんかいいんじゃない。」

メルティが口を出す。俺の知識では、準男爵とは名ばかりの爵位で、ほぼ平民の扱いだったはず。はやり奴隷に正式な爵位はまずいという事だろう。

 「そうですね。王都へ戻ったら、二人の爵位の授与式を行いましょう。」

 「大げさなのは、くれぐれもやめてくれよ。」

尚文が言った。

 

 そのあと尚文は、ラフタリアとリファナに引っ張られ、質問攻めにあっていた。尚文にとっては、サプライズプレゼントのつもりでも、二人の心中は穏やかではないだろう。

 

 

 二日ほど後。俺たちはメルロマルクの城下町へ戻った。早速王城に呼びつけられ、報奨金の贈呈と爵位の授与式が行われる。

 尚文は、あらかじめ教えられたとおり、儀礼用の剣を手に取り、作法通り、女王に剣を捧げる。女王は受け取った剣を尚文の肩に当て、祝詞を唱えた。

 「これでイワタニ様は伯爵となりました。これからも、メルロマルクのため、世界のために尽くすことを希望します。」

と女王は言った。

 

 そのあとは俺の番だ。見よう見まねで剣を女王に捧げ、祝福を受ける。準男爵の出来上がりだ。女王の言葉に、俺は、何とも言えない居心地の悪さを感じた。貴族なぞ、ガラじゃない。まあ、それは尚文も同じだろうが。

 

 「この後は、どうするんだ?領地の視察にでも、行くか?」

儀式の後、俺は尚文に訊いた。

 「そうだな…。まずは人手が欲しいところだが、その前に…。」

尚文はリーシアの前に向き直る。

 「リーシア、先送りにしていた、お前のレベルリセットをやっておこうと思う。どうだ?」

 「ふぁい!わかりました。」

話を振られたリーシアは、驚きつつも、承諾する。

 

 「ところで、勝彦はどうだ?より成長を望むなら、俺の奴隷になってレベルリセットでやり直す選択もあるが…。」

 「やめておこう。レベルを下げた時の弱体化が俺では甚だしいし、カルミラ島でのステータスエンチャントの効果を捨てるのも惜しい。」

尚文の問いに、俺は答えた。

 

 「それでは、龍刻の砂時計のところへ行こう。」

尚文が言った。

 

 20分後。

 リーシアは緊張の面持ちで龍刻の砂時計の前に立っていた。傍らには、なぜか担架が置かれている。リファナが訊いた。

 「この担架は何のためなんですか?」

担当の兵士が答える。

 「レベルリセット後、その反動で動けなくなる場合がありますので、そのためです。」

 「ふえぇぇぇ!」

聞いたリーシアが不安げに声を上げる。

 

 「リーシア、いい加減覚悟をしろ。それでは、やってくれ。」

尚文が言う。

 

 兵士が呪文を唱え、床に魔法陣が浮き出る。リーシアがまばゆく光り、彼女が声にならない声を上げた。刹那、光と魔法陣が消え去り、静寂が戻った。リーシアは以前と変わらない風で、立ちすくんでいた。

 

 「リーシアさん、大丈夫ですか。動けますか?」

ラフタリアが声をかける。

 「はい、大丈夫、です。」

リーシアが、まるで金縛りが解けたといった感じで、緊張を解いた。

 

 「おねーちゃん、いつもと変わらないねー。」

フィーロが言う。

 「成功、したんだよな?」

尚文が兵士に訊く。

 「はい、レベルリセットの儀式は、滞りなく行われました。」

兵士が戸惑いながら答えた。

 

 尚文が、彼女のステータスを確認する。

 「確かにレベル1になっているが、ステータスの低下はそれほどでもないな。」

おそらく、これまでのレベル上昇に伴うステータスの向上が、あまりにも少なかったという事なのだろう。その少ない加算分が、レベルリセットで失われたが、ステータスは大まかにはたいして変化しなかったという結果になったのだろう。その証拠に、リーシアの動きは以前とほとんど変わらないように見える。

 

 外に出た後、尚文がフィーロに言った。

 「フィーロよ、リーシアを連れて、街の外へ行って来い。それで、魔物を狩って、彼女のレベルを上げるんだ。リーシアも、レベル1じゃ困るだろうし、俺たちも困る。頼むぞ、フィーロ。」

 「アイアイサー!」

フィーロが即答する。

 いわゆる、パワーレベリングというやつだ。尚文が、パーティー構成を変更する。

 

 フィーロは、魔物姿になると、おろおろしているリーシアを蹴り飛ばし、落ちて来た彼女を、羽でがっちりと拘束した。そして、ふえふえ騒ぐ彼女に構わず、脱兎のごとく街の外へ駆け出して行った。

 「大丈夫ですか?ナオフミ様。」

とラフタリア。

 「多少スパルタだが、大丈夫だろう。それに、これからのためには、リーシアにレベルを上げてもらわないと、困る。」

尚文が言った。

 

 「これからのためとは?」

戸惑うラフタリアに、尚文が答える。

 「人を集めるんだ。」

 

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