転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第72話 奴隷集め

 俺たちは、奴隷商のテントへやって来ていた。リファナが感想を述べる。

 「なんだか懐かしいけど、あんまり来たくはないわね。」

 「そう言うな、リファナ。ここで人手を募る。」

尚文が言った。

 「奴隷を集めるのか?」

と俺。

 「そうだ。俺の盾の成長補正は、奴隷か魔物にしか効き目がない。フィーロのような例外はあるが、魔物はパーティーの行動が困難だろう。もちろん、使わないわけではないが。それに、奴隷は安価に集められて、しかも裏切る事はない。」

尚文は答えた。

 

 そこへ、奴隷商がやって来た。

 「これは盾の勇者様、お久しぶりでございます。」

 「お前は相変わらず、羽振りが良さそうだな。」

挨拶する奴隷商に、尚文は答える。よく見ると、怪しい燕尾服に光物のアクセサリーが増えている印象だ。

 「カルミラ島の波と、此度の霊亀騒動の活躍で、盾の勇者様の奴隷の評判は、うなぎのぼりとなっております。売り主の私の評価も天井知らずという訳です、ハイ。」

奴隷商はラフタリアとリファナを見ながら、ほくほく顔で言った。

 

 「それで、この度はいかなるご用件で?」

 「金貨30枚を預ける。亜人の奴隷を大量に欲しい。低レベルの奴が優先だ。」

尚文は言った。

 「そういえば、盾の勇者様は領地を授かったとの事。その開発のためですな。」

奴隷商は言う。

 「耳が早いな。まあ、そういうわけだ。」

尚文は答えた。

 

 「それで、ラフタリア、リファナ。ここにルロロナ村出身の奴隷がいたら、優先的にもらう。探してくれ。」

 「ナオフミ様、それはどういう…?」

戸惑うラフタリアに、尚文が言う。

 「よく尽くしてくれる、お前たちへの褒美だと思ってくれ。それに、出身者の方が、開拓がしやすいだろう。それと奴隷商。他の奴隷商人にも連絡して、ルロロナ村出身者を集めてくれ。すでに売られた後なら、買戻しも視野に入れてな。」

 「分かりましたが…。」

 「ラフタリアとリファナを使ってくれて構わない。とりあえずは予算内で頼む。」

 「単なる褒賞でない褒美で奴隷のやる気を上げるとは、私、感服でございますです、ハイ。」

奴隷商は言った。

 

 ラフタリアとリファナはテントの奥へ向かう。俺と尚文もそれについて行った。目的は、亜人が展示されているコーナーで、適当な奴隷を見定めるためである。

 彼女たちがさらに奥へ行く一方、尚文は鋭い目で幼い亜人奴隷を、奴隷商に質問しながら選別している。

 

 尚文が6人ほど奴隷を選んだ頃、奥へ行っていたラフタリアとリファナが戻って来た。奴隷を5人連れている。

 「ここにいたルロロナ村出身者は、この子たちだけです。」

リファナが言う。

 「そうか、わかった。奴隷商、この子たちももらう。それで、さっき言った他の奴隷商人への手配を頼む。ラフタリアとリファナを連れて、手分けをして見に行って来てくれ。」

と尚文は言う。

 「分かりました。では勇者様、しめて11名の奴隷の手続きをお願いします。お二方への案内は、部下をつけさせましょう。」

奴隷商は答えた。

 

 ラフタリアとリファナが出かけた後、奴隷たちを前に、尚文がちょっとした挨拶を始めた。

 「お前たち、俺がこれからお前たちの主人となる、岩谷尚文だ。お前たちには、これから魔物と戦ってレベルを上げたり、様々なことをしてもらう。」

尚文は奴隷たちを見回す。

 「言っておくが、俺は怠け者が嫌いだ。働きの悪いものは、奴隷商に買い戻してもらう。」

ここで、奴隷商が銅鑼を鳴らした。奴隷たちを怯えさせて、何がしたいのだ?尚文は続ける。

 「だが、言う事を聞いて、懸命に働くなら、日々の食事と温かいねぐらは保証しよう。よく考えて、俺に従ってくれ。」

 

 尚文の人相の悪さが効いているのか、先ほどの奴隷商の演出のせいなのか、奴隷たちは怯えている。女の子の中には、泣きべそをかいているものまでいる。

 そんな空気の中で、尚文は血をインクに垂らし、奴隷紋の儀式は行われた。

 

 尚文が奴隷商もとい魔物商に訊く。

 「馬車を引いたり力仕事をするのに適した魔物は、フィロリアル以外で何がある?」

尚文は、地球で言う牛のようなものを求めているのだろうか?

 「速度を気にしなければ、キャタピランドが好適でしょう。」

 「では、土壌を耕したり出来る魔物は?」

 「デューンという魔物がございます。」

 「それではフィロリアルを一匹、キャタピランドを二匹、デューンを三匹、卵の状態でもらおう。」

ほくほく顔の魔物商は、卵に魔物紋を施し、孵卵器も付けて寄越した。

 

 「勝彦、ここを任せていいか?武器屋や薬屋とかに顔を出してくる。」

尚文が言う。

 「それって…。」

 「半分は勧誘だ。新しい領地で彼らの協力を得られるなら力強い。それじゃあ、頼むぞ。」

尚文は、言い捨てて、出て行ってしまう。後には、にやにやしている奴隷商と、怯え切っている奴隷たちが残された。この空気、一体どうすればいいんだぁ~。

 

 俺は、とりあえず、奴隷商に金を預けると、奴隷たちを見渡した。気丈にも虚勢を張っているのが約二人、後は半べそをかいている。何か言わなくては。

 「俺は、尚文の従者、入江勝彦だ。お前たちの主人になった尚文は、四聖勇者の盾の勇者だ。人相も口も悪いが、お前たちが悪さをしない限り、味方になってくれることは、俺が保証しよう。」

奴隷たちはぼそぼそとしゃべりだす。

 「うそだぁ~。」

 「盾の勇者様って、あんな人なの?」

 「怖い…。」

 「でも、ラフタリアちゃん、リファナちゃんも、そんなことを言ってた…。」

あっという間にがやがやと騒がしくなったので、俺は引率の先生よろしく制止する。

 「はいはい、静かに!」

ここで奴隷商がまた銅鑼を鳴らした。奴隷たちが再び怯えだす。俺は奴隷商をにらみつけた。

 

 しばらく経つと、フィーロとリーシアが戻って来た。よくここにいるのが分かったものだ。野生の勘というやつかな。

 フィーロは人型になって、半ば目を回したリーシアを抱えている。

 「うー、気持ち悪いです。目が回ります。ここは天国ですか?樹様ぁ…。」

俺はリーシアの頬をぺちぺち叩いて正気へと戻した。

 「リーシア、しっかりしろ!」

 「はっ、ここは…?」

リーシアは薄暗いテントの中をきょろきょろと見まわす。

 「ここは奴隷商人の館だ。」

俺が答えると、

 「ここが、そうなのですね…。」

彼女は不思議そうに辺りを見回した。

 

 「ねー、ごしゅじんさまは?」

フィーロが言う。

 「いろいろと、挨拶回りだ。」

俺が答えると、フィーロは一旦テントの外へ行き、何やら荷物を持って来た。見ると、仕留めた魔物達だ。

 「かっちゃん、これ、おみやげ。ごしゅじんさまに、料理してもらおうと思ったのにー。」

フィーロは、獲物の束を俺に渡しながら残念そうに言った。

 

 「まあ、尚文はすぐに戻るだろう。」

フィーロのお土産を持て余しながら俺が言うと、奴隷商の視線に気づいた彼女は、俺の後ろに隠れる。

 「ねー、ここきもち悪い、外へ出よー。」

そういうフィーロの頭を撫でながら、

 「尚文が来るまで待っていような。」

と俺は言った。

 

 「天使だ…。」

 「天使だね。」

フィーロの姿を見た奴隷たちから声が上がる。

 「この子はフィーロ。俺たちの仲間だ。こんななりをして、魔物だから、悪い子は食べちゃうぞー。」

俺は多少おどけて言った。

 「フィーロ、食べないもん!」

フィーロがむくれる。

 

 「あの、この子たちは…?」

リーシアが訊いて来る。

 「新しく買った奴隷たちだ。領地の開拓に使う。リーシア、挨拶を。」

 「リーシアと言います。どうぞ、よろしくお願いしましゅ。」

リーシアは、挨拶を嚙んだ。

 

 しばらくして尚文が戻って来た。山ほど荷物を抱えている。

 「裁縫屋から適当な古着を分けてもらった。奴隷たちに着せてやってくれ。」

そういって、荷物を俺に渡す。中を開けると、古着が20着余り。早速、奴隷たちに配る。

 

 尚文が言う。

 「フィーロ、リーシア。戻ったか。どれ。」

早速リーシアのステータスを見る。

 「レベル18まで上がっているじゃないか。ステータスの伸びも悪くない。」

リーシアも彼女自身のステータスを確認する。

 「本当だ。すごいです。」

 

 「フィーロ、リーシア。戻ったばかりで悪いが、城へ馬車を取りに行ってくれ。預かってくれているはずだ。それとリーシア。俺たちはこれから領地へ向かうから、その旨と助力を女王にお願いしてくれ。それと、子供が使えるような中古の武器を分けてもらって来てくれ。それと毛布もだ。数は20だ。わかったな。」

 「はい、わかりました。」

 「わかった。ごしゅじんさま。」

出ていく二人と入れ違いに、ラフタリアとリファナが戻って来る。

 

 彼女たちは、4人の奴隷を連れていた。ルロロナ村出身なのだろう。

 「ナオフミ様、戻りました。」

とラフタリア。

 「それでは、さっそく契約の儀式を。」

と奴隷商が言う。

 

 「ラフタリアちゃん、怖い!」

 「リファナちゃん、この人が盾の勇者なの…?」

奴隷たちが、ラフタリアとリファナに二人ずつ、怖がって縋り付く。

 「ナオフミ様は、目つきが悪くて、嫌いな人がひどい目に合うと笑う癖があるけど、いい人ですよ。」

 「なおふみ様は、一見怖くて、伝説の勇者っぽくはないけれど、仲間になれば信じてくれますよ。」

二人がそれぞれに声を掛けるが、ビミョーに尚文をディスってるな。それでも、奴隷紋の儀式は無事に終わった。

 

 「勝彦、ラフタリア、リファナ、食料の材料を買い出しに行ってくれ。食事が済んだら領地へ出かける。奴隷商、場所を借りてもいいか?」

尚文が言う。

 「私共にも食事をふるまっていただけるなら、問題ありません。」

奴隷商は答えた。

 「そうか。それと、荷車を2台ほど手配してくれ。」

 「裏手に何台も転がっているので、適当なのを選んでくれて構わないです、ハイ。」

 

 俺は、フィーロのお土産を尚文に渡し、二人と出かけた。そして、彼女たちと協力して、食料をしこたま仕入れた。特に、日持ちする野菜類と調味料を多めに買った。何せ、約二十人分だ。これから領地で何日も過ごすことを考えると、かなりの量になった。

 奴隷商のテントへ戻ると、とりあえず荷車にこれからの分を置き、昼食の材料を尚文のところに持っていく。

 

 尚文は、女性二人と共に料理を始めた。必然的に、俺は奴隷たちの監督だ。懐いてもいないガキ共の世話は、正直言って神経を使う。

 そのうちに、辺りにいい匂いが漂って来た。尚文たちが作る料理-多分スープだろう。奴隷たちが腹の虫を鳴らし、よだれを垂らす。

 「おいしそう…。」

 「いい匂い。」

 「早く食べたい!」

奴隷たちの反応を見ながら、俺は言った。

 「尚文の作る料理は絶品だ。腹一杯になりたいのなら、いい子にしているんだぞ。」

 

 そんな時、フィーロとリーシアが戻って来た。

 「たっだいまー。わーい!ごしゅじんさまの料理!」

フィーロが目ざとく匂いを嗅ぎ分け、台所へと突進し、尚文に追い返される。

 「フィーロ、じきに出来るから、おとなしく待ってろ。」

 「ぶー。」

ぶー垂れて戻ってくるフィーロに、奴隷のガキどもの注目が集まる。

 

 「フィーロちゃん、魔物って、ほんとなの?」

 「うん、フィーロはフィロリアルだよ。」

そういって、フィーロは人型から魔物姿に変身する。

ガキどもから一斉に驚きの声が上がった。

 

 「フィーロ、狭いんだから、人型に戻れ!」

俺の声に、

 「ぶー。」

ぶー垂れながらも天使姿に戻るフィーロ。その周りを、ワイワイとガキどもが囲む。

 「フィーロちゃん、すごーい!」

 「どうやって変身するの?」

ガキどもはフィーロに興味津々だ。フィーロも幼子たちに囲まれて、まんざらでもなさそうだ。

 

 そうしているうちに、尚文の料理が出来上がった。奴隷商の部下がテーブルを運んできて、即席の食堂があつらえられる。

 メニューは、ウサピルをはじめとする魔物肉のスープに、野菜炒めだ。ガキどもは、よだれを垂らしながら配膳されるのを待っている。

 やがて、皆に食事が行き渡ると、尚文が言う。

 「よし、食っていいぞ!」

 

 号令と共に、ガキどもがスープをかっ込み、舌を蕩けさせた。

 「すげーうめー!」

 「おいしい!」

 「まこと、ほっぺが落ちそうです、ハイ。」

とこれは奴隷商だ。

 

 そのうちに、スープを平らげた奴隷たちが、お代わりを始める。配膳係をやっている女性陣は大忙しだ。おっと、お代わりをする中に、奴隷商とその部下が混じっている。尚文が渋い顔をしているぞ。

 それでも、奴隷たちは満足げに食事をしている。尚文は、見事に彼らの胃袋を掴んだ様だ。多分、計算もあったんだろう。

 

 食事を終えると、尚文が言った。

 「これから、俺たちの領地へ向かう。到着は、日が落ちた頃になるから、覚悟してくれ。フィーロとリーシアは馬車と荷車の用意を。勝彦、ラフタリア、リファナは奴隷たちを班に分けてくれ。馬車と荷車に分乗させる。」

 

 俺たちは、ラフタリアの発案で、ルロロナ村の出身者に、新たに獲得した奴隷を混ぜる形で、ガキどもを3班に分けた。

 一人、目つきが攻撃的な子がいたので、その子の班は馬車に乗せ、俺たちの監視下に置くことにした。ラフタリアとリファナは、それぞれ荷車に乗り、奴隷たちの話し相手を務めるつもりらしい。同郷の彼女たちが一緒だと、ガキどもも安心するだろう。

 

 馬車と荷車は、尚文たちが、荷物の載せ替えも含めて準備をしてくれていた。早速、奴隷たちを馬車と荷車に分乗させる。

 「みんな、準備はいいか。それでは、出発する!」

尚文の声に、俺はフィーロの手綱を叩いた。奴隷商がなぜか銅鑼を鳴らす。

 俺たちは、新しい領地へと出発した。

 

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