転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第73話 奴隷の鍛錬と脱走

 俺たちは、予定より少し遅れて、ルロロナ村の廃墟跡へ着いた。理由は、奴隷たちの体調をおもんばかって、フィーロの速度を少し抑えた事、にもかかわらず、馬車酔いする奴隷たちが続出したので、3度の休憩を挟んだ事などである。

 着いた時は、奴隷たちは気息奄々で、馬車や荷車から降りるとへたばってしまった。女性陣が彼らの面倒を見、俺と尚文は朽ち残っている建物を調べ、状態のいい物を休憩場所として整えた。そうして火を起こし、奴隷たちを導いて、とりあえず横にさせた。

 

 そのあと、尚文とラフタリアとリファナで遅い夕食を作り始めた。メニューは、弱ったガキどもにも食べやすいようにと、雑炊の様だ。

 出来上がるまで、俺とフィーロとリーシアで、辺りの警戒をした。ついでに3人で、トイレ代わりの穴を掘る。

 俺は、魔力を辺りに広げて漂わせ、魔物の警戒をした。すると、向こうの茂みにバルーンが数匹潜んでいることが分かった。アイスストームで殲滅し、素材を回収する。

 

 しばらくして、雑炊が出来上がった。匂いにつられ、奴隷の何人かはふらふらと立ち上がって、鍋へと向かう。その先頭にいるのはフィーロだ。尚文は苦笑しながら、彼女に雑炊をよそってやる。

 他の者にも雑炊を配り、遅い晩餐が始まった。体調の悪かった者も、雑炊をすすると元気を取り戻しているようだ。さすが、盾のチート料理だ。

 

 食事が終わると、奴隷たちは、毛布にくるまり寝始めた。さすがに、疲れているのだろう。そんな彼らを、ラフタリアとリファナが面倒を見る。

 食事の片づけを終えると、ずっと馬車を引いていたフィーロは除いて、残った尚文と俺とリーシアの3人で、交代で魔物などへの警戒の番をする。

 幸い、数匹のバルーンの他は魔物は出て来ず、概ね平和な夜を過ごした。幸いと言えば、雨が降らなかったのも幸運だった。

 

 翌朝。

 尚文が朝食の鍋を叩く音で、皆目を覚ました。夜の見張りの順番は、尚文が最後だったが、一人で朝食を作ったらしい。全く、誰かを起こせばいいものを。尚文が言う。

 「今日から、魔物と戦ってもらう。まずは、村の周りの魔物を掃討してもらう。これは、俺たちが安全に暮らすために必要な事だ。概ね、バルーンが相手になるだろうから、お前たちでも対処出来るだろう。お前たちの中には、戦いが苦手な奴もいるだろうが、最低限、自分の身は守れるぐらいにレベルは上げてもらう。」

尚文は、奴隷たちを見回す。

 「また、俺たちの持って来た食料は無限ではない。これからお前たちは、魔物を狩って、自分たちの食料は自分たちで手に入れなくてはならない。その辺は、わかるな。もちろん、戦い方は、俺たちが教える。安心してくれ。それでは、飯にしよう。」

 

 それから、皆に粥が配られ、朝食となった。相変わらず尚文の作る料理は、評判が良い。ガキどもも、大半の者が笑顔になった。

 

 朝食の後、俺たちは、奴隷たちを5つの班に分けた。これから、辺りの魔物を掃討するのだ。と言っても、出てくるのは、バルーン程度の弱い魔物ばかりだろう。

 奴隷たちには武器を与え、尚文、俺、ラフタリア、リファナ、リーシアの5人でそれぞれ監督をする。フィーロには、少し遠出をして、魔物を狩ってくるように言いつける。もちろん、昼食のためだ。

 

 俺のもとには、3人の奴隷が割り振られた。一人は、あの気の強い男の子だ。俺は、各々にナイフを持たせ、素振りをさせる。一人いる女の子は多少へっぴり腰だが、まあ、何とかなりそうだ。男の子の二人は、まあまあ様になっている。

 

 俺は、3人を引き連れて、辺りに魔力を漂わせる。早速、バルーンが2匹、探知に引っかかった。俺は、奴隷たちをその方向へ導く。

 バルーンが、彼らを察知して、動き始めた。俺はタイミングを計って、魔法を放った。奴隷たちの前へ躍り出たバルーンの眼前で、サンダーブラストが炸裂した。バルーンが戸惑ったように動きを止める。俺は叫んだ。

 「今だ、奴らをナイフで刺せ!」

 男の子二人が前に出てバルーンを刺す。バルーンが小気味よく割れ、彼らに経験値が入る。俺は、

 「よくやったぞ!」

と言って、彼らの頭を撫でてやった。一人はうれしそうな表情だったが、気の強い方は、なんだか迷惑そうだ。

 更に、出て来たバルーンを同じように魔法で牽制し、今度は女の子に仕留めさせる。

 

 後は同じように、出てくる魔物をサンダーブラストで牽制し、動きが止まったところを奴隷たちに攻撃させた。獲物はバルーンを始め、ルーマッシュやウサピルも出て来た。ウサピルに対しては、精神魔法で狂気状態にさせ、抵抗が無くなったところを奴隷たちに仕留めさせた。

 

 小一時間もすると、村の周りから、魔物が駆逐された。奴隷たちは、レベルが3程度に上がったようだ。

 

 それから、班編成を少し見直し、少し遠出しての魔物退治が始まった。

 俺たちは、奴隷たちを、ルロロナ村出身と、そうでない者とに分けた。

 

 ルロロナ村出身者は、ラフタリア、リファナ、ペックル着ぐるみを着たリーシアが率いて、海の魔物を討伐させる。引率者三人がまず海中に入り、大物の魔物を駆逐してから、奴隷たちに小物を片付けさせるのである。

 

 他の者は、俺と尚文が率いて、近くの森へ分け入った。バルーンの他に、ウサピルやヤマアラなどが出て来たが、尚文が抑え、俺が精神魔法を使い、奴隷たちに倒させた。もちろん、倒した魔物は解体し、昼食の材料にする。

 

 日が中空に差し掛かった頃には、奴隷たちのレベルは上がり、腹をぐうぐうと鳴らし始めた。レベルを上げると体が急成長し、その反動で空腹になる、亜人特有の症状だ。

 

 ちょうどフィーロが戻り、その背中から獲物の束を下したところで、魔物退治は一時中断となり、昼食の準備が始まった。

 昼食は、海の幸、山の幸をごっちゃにしたバーベキューだ。捌いた魔物たちを、尚文を初めとした俺たちが片っ端から焼き、焼いたそばから奴隷たちが平らげていく。もちろん、フィーロも食欲を全開にしている。

 

 尚文が確認すると、海組はレベルが10程度に、山組は7~8程度になっているようだ。まあまあの値である。

 

 若干の小休止の後、午後も同じように奴隷たちのレベル上げを行った。ただ、フィーロは今度は海組に参戦させた。大型の魔物の排除を彼女にさせるのである。

 

 かすり傷を負う奴隷たちは結構居たが、尚文とリーシアの回復魔法で何とかなった。そうして、日の落ちるころには皆レベルが15を超えるようになった。それに比例して、奴隷たちがぐうぐうと腹を鳴らし、空腹を訴える。

 

 晩飯は、魔物の肉の水炊きと、魚の魔物の煮物だ。尚文の料理は、奴隷たちの胃袋をしっかりと掴んでおり、

 「盾のにーちゃんの飯はサイコー。」

 「ごはんとってもおいしー。」

といった声があちこちから聞こえてくる。そういえば、尚文の呼び方が、怖い盾の勇者様から盾のにーちゃんに代わっているぞ。奴隷たちに懐かれている証拠だ。若干なめられているような気もするが。

 

 そんな風に、新領地二日目は過ぎた。一日目と同じようにラフタリアとリファナが奴隷たちの面倒を見、フィーロを加えた尚文、俺、リーシアの4人が交代で夜中の番をした。

 

 

 それは、夜、俺の見張り番の時に起こった。

 魔力を辺りに漂わせ、警戒していると、移動する3つの気配が探知に引っかかった。だが、魔物ではない。移動方向が村から外へ出ていこうとしている。すなわち、脱走者である。

 俺は魔法を放った。

 「ロックウォールII!」

 「ロックウォールII!」

 「ロックウォールII!」

 脱走者の足に、岩の重しを付加する。脱走者が、転ぶ気配があった。俺は、寝ていた尚文を起こし、状況を報告する。

 

 「エアストームIII!」

俺は魔法で竜巻を起こし、脱走者を慎重に吸い上げた。そうして、そのままストームを移動させ、3人を俺と尚文の前にぽてりと落とす。

 「いてっ!」

 「いたいっ!」

 「ひいっ!」

脱走者は、男の子に女の子が二人だった。男の子は、例の小生意気なガキである。騒ぎを聞きつけて、ラフタリアとリファナも起きて来た。

 

 脱走者は、足の重しでうまく動けないでいる。彼らに尚文が詰問する。

 「なぜ、脱走しようとした?言う事を聞かなければ、奴隷商に買い戻させると言ったはずだが。」

男の子は、悔しそうな顔を俺たちに向ける。

 「理由を言わなければ、罰を与えた後、奴隷商のところへ連れていく。それとも、フィーロのえさになるのがいいかぁ。」

 尚文が脅すように言う。男の子は血相を変えた。

 「言う。言うから、こいつらには、手を出さないでくれ。俺がだまして、連れ出したんだ。」

 

 女の子二人をかばっている。結構、男気のあるやつだ。尚文が言う。

 「考えてやろう。じゃあ、脱走した理由を話せ。」

男の子がぽつりぽつりと話し始めた。

 

 彼の話を要約すると、こうだ。

 なんでも、港町には、奴隷たちをシルトベルトへ逃がす組織があるらしい。そこで彼らは、檻の中にいるうちに聞いた頼りない噂を信じて、港町に向かうべく、脱走したのだ。

 

 尚文は考え込むと、ラフタリアとリファナに、そんな話を聞いたことがあるかどうかを尋ねた。彼女たちは知らないという。となると、その噂は最近発生したことになる。

 「それは、嘘だな。」

尚文は言った。

 

 俺も同意見だった。メルロマルクとシルトベルトは仲が悪いが、現在は戦争状態にない。いくらシルトベルトが亜人至上主義で、亜人奴隷を見過ごせないからと言って、他国に潜入までして救出活動をやるとは考え難い。メルロマルクの反感を買い、二国間の緊張を強いるだけで、うまみがほとんどない。

 誰が得をするかという考え方からすると、おそらく、奴隷商人のマッチポンプだ。うわさを流した彼らは、脱走した奴隷たちを捕らえ、非合法の商品として、再度売りに出す。元手が掛からないので、ぼろい商売になるはずだ。

 

 動揺する男の子に、俺は自分の考えを話した。世の中には、善意だけではなく、悪意にまみれた事実があるのだという事を言い添えて。彼は、混乱したようだった。

 「俺も、勝彦の考えは、的を得ているように思う。」

尚文は言った。

 「善意の第三者は居ないことは無いが、それよりも、悪意を持った連中の方が多いのが世の中の仕組みだ。悲しいがな。」

 

 尚文は、脱走の首謀者の男の子を見る。

 「俺たちの所に留まるか、奴隷商の檻に戻って、再度脱走を試みるか、よく考えろ。お前が決めるんだ。」

そうして、彼はラフタリアを見て、言った。

 「ラフタリア、後は任せる。」

 

 俺は、ロックウォールを解除した。足枷が無くなった女の子たちをリファナが抱き寄せ、ラフタリアは男の子の目を見て話し始める。

 「あなた、ずっとつらい目にあって来たのね。でも考えてほしい。ナオフミ様は、奴隷だからと言って、私たちを縛ることは無いわ。今は、無理やり魔物たちと戦わされている様に感じるかもしれない。でも、それは、将来、貴方たちのためになると思ってのことなのよ。今までのことと、ここでのこと、どちらがつらかったのか、どうか、考えてほしい。…」

 

 ラフタリアの説得は続いている。リファナも、女の子たちに話しかけている。俺は、彼らがここに残るような気がした。

 俺は、尚文に声を掛けると、見張り番へと戻った。

 

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