転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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更新遅くなりました。
親戚に不幸があったり、プライベートでバタバタして、なかなか執筆と向き合えませんでした。



第74話 千客万来

 翌日、朝食の後、尚文が奴隷たちに話しかけた。

 「昨夜、脱走者が出た。港町で、シルトベルトへ逃がしてくれるという組織の存在を信じてのことだったらしい。お前たち、そんな話を聞いたことがあるか?」

尚文の問いかけに、奴隷たちがぼつぼつと話し出す。

 「そういや、そんな話を聞いたことがあるな。」

 「でも、ここは飯はうまいし、ラフタリア姉ちゃんたちは親切だし、脱走なんて考えたことは無かった。」

 「うん、その話は、すっかり忘れていたわ。」

 

 「お前たち、そういう話があったなら、早く報告しろ。」

尚文は不機嫌そうに言う。

 「脱走者には罰を与える。ただ、それで脱走したことはチャラだ。以後、彼らをあざけったり、仲間はずれにしたりすることを禁じる。いいな!」

 「「「はーい。」」」

尚文の宣言に奴隷たちは素直に応じる。

 

 「それから、魔物たちがそろそろ孵化するだろうから、彼らの世話係を決めたいと思う。希望者は、居るか?」

尚文の問いに、女子を中心に数名が挙手をする。

 「分かった。お前たちは今日から魔物の世話をするんだ。取り敢えずは卵の様子を見張って、孵化したら、そうだな…勝彦の指示を仰げ。」

 「え?」

 

 尚文は俺に言う。

 「勝彦、今日はここに残って、彼らと脱走した連中の監督をしてくれ。」

 「うん、わかった。で、何をやらせる?」

尚文は、脱走者への罰として、地面を耕して畑を作らせることを考えていると告げた。そうして、俺にいくつかの種を握らせる。そう、バイオプラントの種だ。

 「なるほど、こいつを植えれば、食料問題はほぼ解決するな。」

 「ああ、万一暴走したら、お前の魔法で燃やしてくれ。そうはならないと思うが。」

 「了解だ。」

 

 尚文たちは、フィーロの引く馬車(+荷車)に乗って、遠出をするようだ。確かに、近場の魔物を集中して狩ると、生態系に異変が生じる恐れがある。

 「それでは、行って来る。後は頼んだ。」

そう言って、尚文たちは魔物狩りとレベリングに出かけた。

 

 俺は残った奴隷たちを連れて、魔物の卵の孵卵器が置いてある家の残骸へとやって来た。

 「魔物の世話係には、この卵を見張ってもらうが、一人居れば十分だな。交代で見張ってくれ。残りの者は、良かったら、畑作りを手伝って欲しいのだが、どうだろうか?」

俺の問いかけに、

 「うん、いいよ。」

と快諾の返事が返って来た。

 「じゃあ、見張りを決めて、残りの者はついて来てくれ。」

 

 農具は、若干朽ちていたが、そこかしこの家の物置の残骸から見つかった。まだ使えそうだ。

 俺は、奴隷たちに農具を持たせ、尚文から指示されていた区画を示した。

 「この辺を掘り返して、畑にするんだ。魔物の世話係は、石が出て来たら取り除いて、隅へ集めてくれ。また、大きめの雑草も取り除いて同様に集めてくれ。」

俺は、脱走した3人を見て言った。

 「それじゃあ、頑張って耕そう。」

 

 俺も農具を持ち、堅い地面を掘り返した。地味にきつい作業だ。すぐに額に汗がにじんで来る。それでも、少しずつだが、畑が形になって来る。

 

 小一時間ほどして、卵の見張りをしていた子が、孵化した事を告げに来た。

 「孵化したのは何の卵だ?」

と俺が訊くと、

 「多分、キャタピランド。」

と答える。

 

 俺は、魔物の世話係の連中に、集めた雑草を持って行って、孵化した幼虫が食べるかどうか試すように言った。早速彼らは草の束を抱えて家へと向かう。

 

 残った脱走者3人と俺は、農具を再び振るう。だが、10分もしない内に、世話係の一人が伝令に来た。

 キャタピランドは雑草を食べたという。それはいいが、別の卵が次々に孵化したのだという。フィロリアルの卵以外、つまり、キャタピランドがもう一匹と、デューンが3匹。

 キャタピランドは雑草を食わせておけば良いが、デューンはどうしようって…、所詮はでっかいミミズか…。俺は伝令の子に、デューンを畑まで運んで、放つように告げた。デューンは土を食わせておけば何とかなるだろう。

 それと、フィロリアルの卵ももうすぐ孵るだろうから、魔物の干し肉を細かく刻んで、水につけてふやかしておくよう指示を出した。

 

 しばらくして、3匹のデューンが畑に放たれた。彼らはうねうねと土に潜っていく。これでいいんだろうか。

 さらに30分ほどしてフィロリアルの雛も孵ったらしい。世話係たちは忙しそうだ。

 

 そんなこんなで畑を耕していると、村に馬車の集団がやって来た。割とつくりのいい馬車が6台ほど。いったいどこの所属なんだろうかといぶかっていると、聞き覚えのある声がした。

 「ナオフミー!あたし自らやって来たんだから、出迎えなさいよー。どこにいるのー?」

この声は、第二王女メルティだ。

 ここで、尚文が俺を居残りにした意図が分かった。彼は、メルティの来訪を予測していたに違いない。俺に、王女様の相手を押し付けようというのだろう。俺は、軽くため息をつく。

 

 もちろん、ほっておく訳にもいかないので、奴隷たちには作業を続けるよう言い残し、メルティのもとへと赴く。

 「メルティ王女。突然のご来訪、いかがなされました?生憎と、伯爵は留守でございますので、私が、ご用事を受けたわまります。」

精一杯の敬語を駆使して挨拶をする。が、

 「カツヒコか…。なに、その言い方。少し気持ち悪いわね。いつもの口調でいいわよ。」

俺の礼儀を彼女はバッサリと切り捨てる。かわいくない。まあ、気さくなのは彼女の美徳であるが。

 

 「わかった。尚文は奴隷たちを連れてレベリングに行って留守だ。で、メルティの用事は?」

 「支援物資と霊亀の素材が運ばれて来たので、持って来たのよ。それと、開発の支援をする兵士もね。それで、ナオフミはこの村を主に開拓しているみたいだけど、隣町はどうするのかしら。その辺を、相談したかったのよね。」

メルティは言う。

 「支援の物資と兵士はありがたく受け取るが、隣町の事は聞いていない。どういうことか、話してくれるか。」

 

 「うん、この地方の中心は、もともと隣町だったのよ。最初の波で、廃墟になっちゃったけど。それで、新領主のナオフミへの期待から、移住希望者が結構いるのよ。この村では、そういうのは受け付けていないんでしょう?」

 「ああ、基本、尚文の奴隷ばかりだな。戦力として育てる腹積もりもあるし。」

俺は答える。

 「だったら、隣町を移住者の受け皿にするために開発しておくのがいいんじゃないかと思うの。その為の人手と資材も持って来ているし。基本、あたしがやるつもりだけど、ナオフミにも領主として顔を出して欲しいのよ。出来れば、町の方が本拠地だというニュアンスで。」

 

 「それは、こっちとしては有り難いし、尚文も挨拶ぐらいになら出向いてくれると思うが、メルティは、公務の方は大丈夫なのか?」

 「これも公務なの。母上から言われたのよ。領地の開拓を覚えて来なさいって。なんで、ナオフミのためにあたしが苦労しなくちゃならないのよ。」

メルティは愚痴を言うが、その顔つきは、決していやでは無さそうに見える。

 「とにかく、ナオフミが帰るまで、少し待たせてもらうわよ。ああ、兵士と資材は、自由に使っていいわ。」

 「それでは、遠慮なく人手を使わせてもらう。今まで、屋根のある建物がなかったからな。今取り敢えず使っている家をまともにする必要がある。」

俺は言った。

 「もてなしは出来ないが、尚文が帰るまで休んでいてくれ。」

 

 「そうか、ナオフミ殿はいないのか。ならば、私も待たせてもらおう。」

いつの間にか、俺のそばに、女騎士が寄って来ていた。戦闘訓練の時俺たちを指導した、桃色髪の女だ。確か、エクレールと言ったか…。

 

 「エクレール嬢、なぜあなたがここに…。」

俺は訊いた。

 「父の跡を継いで、この地域の提督を拝命したのだ。一応、この地域の貴族たちを監督する立場にある。それで、ナオフミ殿に挨拶をと思ったのだ。まあ、これからメルティ王女と共に、隣町に滞在する予定なので、これから会うこともあるだろう。」

彼女は答えた。

 

 「それにしても、まいってしまうわ。」

メルティが愚痴を言う。

 「どうしたんだ。」

 「教皇が持っていた聖武器の模造品の修理が終わったんだけれど、扱える人がいないのよ。試射ぐらいは出来たのだけれど、スキルを扱える人がいなくてね…。やっぱり、勇者じゃなくちゃ、ダメなのかしら。」

 「教皇は、勇者のスキルを使っていたぞ。」

俺は疑問を口にする。

 「そうなのだけれど、三勇教は、勇者スキルの使用法を秘匿していて、その方法を書いた書物を処分してしまったらしいの。再現が出来ないのよ。」

 「そうか。」

 「行方知れずの勇者たちが見つかるまで、あの武器はお蔵入りかしら。少しもったいないわ。」

メルティはため息をついた。

 

 そうして、メルティとエクレールは馬車へと戻った。

 

 俺は、兵士たちに指示をして、現在休息に使っている家を修復してもらう事にした。兵士たちは、建築の心得がある者たちらしく、手際良く作業を進めていく。

 

 それから、俺は、奴隷たちの監督に戻った。脱走を試みた3人は、真面目に畑を耕している。予定の区画のほぼ半分ほどを掘り起こしているようだ。大したものである。

 俺は、出来上がった畑に、そっとバイオプラントの種を植えた。そうして、ウォーターボ-ルで水を発生させ、掛ける。デューンに種を食われないか、ちょっと心配だが、まあ、土壌改良用の魔物なので、その辺の分別はあるだろう。

 魔物の世話係は、元気なフィロリアルの雛に振り回されながらも、幼体たちの世話を出来ている様だ。

 

 そうして、忙しく兵士と奴隷たちの監督をしていると、馬車がもう一台村へとやって来た。これは、奴隷商の馬車だ。

 俺が出向くと、例の不気味な肥満紳士が、奴隷を二人連れて馬車から降りた。この村の出身者が新たに見つかったらしい。貴族辺りからの買戻しが出来たと言った所なんだろうか。

 

 話を聞くと、案の定、その通りだった。尚文の登録をするために、ここまで連れて来た様である。

 「盾の勇者様は、お留守ですかな?なら、帰るまで、待たせていただきますです、ハイ。」

奴隷商が言う。彼の口調からは、ある種の期待が感じられる。もうすぐお昼だ。飯の相伴にあずかろうという魂胆なのだろう。

 

 しばらくして、尚文たちが戻って来た。荷車に、獲物をたんと積んでいる。早速、皆で昼食の用意を始める。

 尚文は、まずメルティに捕まり、隣町に関する相談を受けている。先刻俺と話した通り、自分が隣町の開発をするので、領主として挨拶に来るよう、話をつけたようだ。

 エクレールも挨拶を済ませている。

 次に奴隷商が尚文に血をもらい、連れて来た奴隷の登録を済ませた。彼らは、そのままラフタリアに連れられ、飯の準備に合流した。

 

 尚文は、メルティの持って来た霊亀の素材を検分した。それは、肉や骨と皮、鱗や甲羅、内臓や血など、多岐にわたっていた。尚文は、それらを盾に吸わせ(内臓の一部や血肉は既に吸わせていた様だが)、余った肉は料理の材料へとまわした。

 

 しばらくして、昼食が出来上がった。メルティやエクレール、兵士たち、奴隷商も呼んで、昼食がふるまわれる。

 「うーん、普通ですな。」

 「ありふれた味だわ。」

期待していたらしい奴隷商とメルティが、若干の失望を込めて感想を漏らす。まあ、尚文は最初指示を出しただけで、実質料理には関わってなかったからな。

 

 「そろそろ、調理班を作るべきかな。」

尚文がボソッと漏らす。皆、最低限のレベル上げは出来ているので、役目を分化するのには、いい頃合いかもしれない。

 「俺は、メルティと隣町へ行かなくてはならない。勝彦、人選はお前に任せる。ラフタリアとも相談して、調理班を立ち上げてくれ。」

 尚文の言に、俺は了解をする。

 

 昼食を終え、メルティと奴隷商がそれぞれ出発の準備をしている時に、もう一台、馬車がやって来た。なんだか、御者に見覚えがある。と思って記憶の底を探ってみたら、ライヒノットの所のメイドさんだ。馬車の扉が開くと、中からキールが飛び出して来た。

 「ラフタリアちゃん!リファナちゃん!盾のにーちゃん!」

キールがまさに犬のようにラフタリアたちの所へ駆け寄る。

 「俺、強くなったんだぜ!レベルは20になった。」

彼は自慢げに言う。

 

 ついで、ライヒノットが降りて来て、尚文に挨拶をする。

 「盾の勇者様、伯爵位の授与、おめでとうございます。領地を得られたとの事なので、キールを連れて来ました。」

 「分かった、ありがとう。」

 

 それから、見覚えのある亜人の子が二人、馬車から降りて、尚文に挨拶をする。イドルの屋敷からキールと一緒に助け出した娘たちだ。

 彼女たちに関して、ライヒノットは、彼女たち自身の希望もあり、自分の領地で育てたいと申し出た。尚文は、彼女たちの意思を確認して、了承する。

 

 それから、尚文は、思い出したように、ラフタリアたちと話しているキールに向かって言った。

 「キールよ、もっと強くなりたいか?」

 「当たり前だぜ、にーちゃん!」

キールは即答する。

 「なら、俺の奴隷になれ。幸い、奴隷商がここにいるから、登録はすぐ出来る。」

 「えっ、どういう…。」

戸惑うキールに、ラフタリアが、盾の成長補正の件を説明する。

 

 彼は、しばらく考えていたが、

 「解ったぜ!俺、にーちゃんの奴隷になる!」

と、決心をした。

 尚文は、帰り際の奴隷商を呼び止め、キールの奴隷登録をした。

 

 そのまま尚文は、メルティと共に隣町へ向かった。若干名の兵士は、村の開発のためにここに残る。奴隷商も、城下町へと戻る。

 

 俺は、ライヒノットたちに、残り物で悪いがと言い添えて、昼食を勧めた。彼らはいったん遠慮したが、結局は食卓に着いた。

 

 その間に、片付けを終えた奴隷たちから調理班を募った。結構希望者が多い。俺は、ラフタリアと相談し、希望者全員で夕食を作らせることに決めた。霊亀の肉を初めとして、食材は余っている。準備の手際で、適性を判断するのである。監督は、ラフタリアとリファナに任せた。

 

 脱走者3人と魔物班、調理班以外は、午前と同じく遠出をしてレベリングに出かけてもらう。付き添いは、リーシアと馬車を引くフィーロだ。

 

 昼食を終えたライヒノットが、自分の領地へ戻るという。早めに出ないと、今日中に帰れないらしい。こんなところでも、普通のフィロリアルとフィーロの速度差を実感する。尚文によろしくとの言伝を受け取って、彼らを見送った。

 

 俺は、畑作りの監督に戻った。植えておいたバイオプラントが既に実っている。大した成長速度だ。俺は、実を収穫し、それらを新たに畑に植えた。

 

 それから、俺たちは夕食まで畑を耕した。

 畑に放したデューンは問題なく活動しているようだ。呼べば浮上して、その頭をこちらに見せる。結構可愛らしいかもしれない。

 魔物班が追加の食料を求めて来たので、取り除いた雑草と、バイオプラントの実を渡した(フィロリアルのみならず、キャタピランドも食べるようだ)。

 

 夕食が出来上がってしばらく経って、畑の予定区画の整備が完了した。やれば出来るものだ。俺は3人にねぎらいの言葉を掛け、休むように言った。

 それから調理班から人を借り、バイオプラントの実の収穫を行った。こいつは放っておくと際限なく増えて、制御が効かなくなる。農耕班も必要になるだろう。後で尚文に進言しよう。

 なし崩し的に脱走者の3人に決まる気もするが、例の小生意気なガキ-レノと言う名前らしい-は、戦闘のセンスがあるので惜しい気もする。

 

 更にしばらくして、尚文とフィーロたちが帰って来たので、そこで夕食になった。




原作ではキャラ被りのため性転換されてしまったキール君ですが、本作では男のままでいきます。
確かにキャラは被っているのですが、大きな問題ではないと判断しました。
何より希少な男子キャラです。この方が、盾パーティーの中ではアクセントになると思います。
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