転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第76話 槍の勇者の捕縛 その1

 槍の勇者捕縛作戦だが、先ずは人選である。

 「まず俺と、勝彦だな。」

と尚文は言う。

 「なぜだ?」

俺が問うと、

 「俺が持っているように、元康の奴も、ポータルスキルを持っているに違いない。そこでだ、勝彦には、精神魔法で、奴のSPを削ってもらいたい。そうすれば、逃げられる可能性は少なくなるだろう。」

と答えた。さらに、尚文は続ける。

 「そして、元康が苦手にしていると思われるリファナ、逆に、好意を寄せていて、矛先が鈍るであろうラフタリアとフィーロ。と、こんなところか。誰か、他に意見はあるか?」

 

 するとキールが挙手をして、

 「にーちゃん、俺も行きたい!」

と勇んで言う。が、尚文は首を振る。

 「だめだ。クラスアップしたばかりのお前では、実力不足だ。」

キールはしょんぼりとうなだれて、ラフタリアに慰められている。

 

 「他にないな。」

尚文は、確認を取ると、リーシアを見て、

 「リーシア、お前には、村の留守を頼みたい。」

と言った。

 「は、はい。お任せくだしゃい。」

リーシアは、相変わらず大事なところで返事を噛む。

 

 翌日、俺たちは朝食後に、皆に見送られて出発をした。

 フィーロに馬車を引かせ、情報にあった元康君の仲間-エレナというらしい-のもとへ向かう。彼女は、今両親が営む商会で働いているとの事だ。

 

 「このメンバーだと、なんだか、昔に戻ったみたいですね。後、メルティちゃんがいれば、逃避行をしていた時みたいです。」

ラフタリアが懐かしそうに言う。って、懐かしげに言う事か?あの頃は、結構大変だったと思うのだが…。まあ、彼女にとっては、いい思い出に昇華されているらしい。ある意味、神経太いな。俺は、フィーロを御しながら思う。

 

 「ラフタリア、最悪、元康との戦闘になる。油断は禁物だぞ。」

尚文が釘を刺す。

 「ええ、解ってます。大丈夫です。」

ラフタリアは答える。

 「槍の勇者なんて、へっちゃらよ。」

とリファナ。

 「槍の人は、フィーロが蹴っ飛ばすよ!」

フィーロが威勢よく言う。

 

 途中、とある町で休憩していると、広場で人だかりが出来ていた。

 皆で何だろうと覗いてみると、剣の勇者錬君と、縛られながらもにやにやしている、一見して盗賊と分かる男達。なんか、どこかで見た構図だな。

 錬君が、必死に盗賊を捕らえたと説明しているが、盗賊達は、自分達は悪い勇者に襲われた被害者だと主張している様子である。そういえば、盗賊の何人かには見覚えがある。懲りない奴らだな。

 

 「よう!」

尚文が錬君に声を掛ける。

 「そこに居るのは尚文じゃないか!」

 「久しぶりだな。」

錬君が尚文を手招きし、現在の窮状を訴える。

 

 「う~ん。仕方ないな。この場は俺に仕切らせろ。」

そう言うと、尚文はフィーロを呼んだ。

 「は~い!」

人々がどよめく中、魔物姿のフィーロがやって来る。が、盗賊達の一部は驚愕し、震えだした。

 

 尚文は言う。

 「お前等も懲りないなぁ。旗色の悪い奴に捕まったら自分は被害者ですって言い張れると本気で思っていたのか?」

 「う、うるせえ!」

盗賊は反抗的だが、尚文はフィーロに対してやんわりと言った。

 「召し上がれ。」

 「わ~い!」

フィーロが舌なめずりをする。

 

 一部の盗賊達は震え上がった。

 「俺達が犯人です! どうか助けて!」

訝しげに反論する他の盗賊に対して、彼らは慌てて言う。

 「あの人食い鳥に丸呑みされるよりはマシだぁ!」

フィーロは若干不満そうだが、盗賊達は命乞いをし、アジトの場所を白状した。

 「と言う訳だ。そいつらは俺が悪名高い時も同じように冤罪を掛けようとして来たんだ。みっちり絞ってくれ。」

 「は、はぁ…。」

 自警団の連中も呆気にとられた表情だ。

 

 「それでだ、勝彦、皆を率いて盗賊のアジトへ行き、ひと稼ぎして来てくれ。俺は錬と少し話す。」

尚文が俺に言う。

 「分かったが、剣の勇者は捕まえなくて良いのか?」

 「女王からの依頼は槍の勇者の捕縛だ。それに、錬には、山で勇者達と対峙した時に、唯一話を聞いてもらった恩もある。今度は俺が話を聞いてやりたい。」

 「わかった。」

 

 それで、俺は、ラフタリアたちと盗賊のアジトへ行き、盗賊達を捕らえて宝を強奪した。いや、宝を奪還した。これが正しい。

 

 急いで戻り、自警団に捕らえた盗賊共を引き渡す。

 尚文はというと、錬君には逃げられたという。

 霊亀に挑んだ剣のパーティーは、全く歯が立たず、錬君を除いて全滅したらしい。それを、ゲーム知識を振りかざして無謀な特攻をしたお前のせいだと正論をぶつけると、錬君はキレて、尚文を攻撃し、歯が立たないと分かると、目くらましをして逃げて行ったそうだ。

 

 「あいつがあれほど甘ったれだとは思わなかった。」

尚文はため息交じりに言う。

 「まあ、女王には報告するが、錬の奴は後回しだ。今は、元康の事を考えよう。」

少しの休憩の後、俺たちは出発した。

 

 それから、半日経たずに俺たちは目的地に着いた。

 そこは、なかなか大きな商店で、一人の女が、暇そうに座っていた。彼女がエレナらしい。

 

 俺は、路地に馬車を止めると、フィーロの引き綱を解いた。フィーロが人型に戻る。

 尚文が、俺たちを引き連れて、女のもとへ向かう。女が怪訝な顔をする。

 「誰?お客さん…じゃなさそうね。」

女が訝しげに訊く。

 「お前がエレナだな。」

尚文が言う。

 「俺は、盾の勇者、岩谷尚文だ。」

尚文が名乗ると、エレナは合点がいったといった顔をする。どうやら、頭の回る女らしい。

 

 「盾の勇者直々のお出ましとなると、モトヤス様の事ね…。」

彼女は、めんどくさそうに答える。

 「それと、ビッチの行方もな。」

尚文が付け足す。

 「分かったわ。立ち話もなんだから、中に入って。」

エレナは言った。俺たちはどやどやと、商店の中に入った。若干狭いので、気を利かせたリファナが鼬姿になって、尚文の肩に乗る。

 

 「で、霊亀を呼び出したあたりから、事情を話してもらおうか。」

と尚文。

 「もう、何度も話したことだけど、情報を提供することで、私、放免されているのよね。仕方ないから、話すわ。」

エレナは、だるそうに話し始めた。

 

 「剣、弓のパーティーを追って城下町を出た後、モトヤス様は、奴らより先に、エクストラモンスターでレベルアップをするぞ、なんて謎の事を言って、馬を走らせたわ。そうして、霊亀国へ着くと、ある廃寺へ潜り込んで、古そうな石像の前で、何やら儀式を始めたの。それが終わる頃、警備兵が駆けつけて来たけど、モトヤス様は構わず、石像を破壊したわ。当然、いきり立った警備兵と一悶着あったけど、そのうちに、地震が起きたの。そうしたら、ひるんだ警備兵をモトヤス様は気絶させたわ。そうして、皆について来いと言って、外に出ると…。」

 

 槍のパーティーが廃寺から出ると、もうもうとした砂ぼこりの中で、山が立ち上がるところだった。

 「なに、あれ!」

ビッチの叫びに、槍の勇者元康君が返す。

 「あれが霊亀だ。なあに、図体はでかいが、見掛け倒しだ。」

 「あんなのと戦うのですか?」

とエレナが問うと、

 「適正レベルは60のモンスターだ。俺たちはレベル80を超えているから、楽勝で倒せるはずだ。こいつは倒した後の経験値と、その素材がおいしいんだよ!」

と元康君は答える。

 エレナは、彼が何を言っているのかよく解らなかったが、彼が絶対の自信をもって、お気楽に戦いに挑もうとしていることは分かった。

 

 その無根拠の自信に導かれて、槍のパーティーは、逃げ惑う避難民の流れに逆らって、霊亀のもとへ急いだ。

 途中、蝙蝠型の使い魔が襲ってくる。元康君は、それらを先頭で突き伏せながら、小山のような霊亀へと向かう。

 エレナは、自信満々の元康君に反して、この化け物のような怪物に対する不安が増大していった。

 

 やがて、使い魔を排除しながら、一行は霊亀の顔を近くに見える位置にたどり着いた。

 元康君が力を溜め、必殺技を放つ。

 「喰らえ!イナズマスピアー!」

槍から放たれた閃光は、見事霊亀の顔に命中し、僅かな傷を作った。しかし、それもすぐに再生されてしまう。

 

 「あ、あれ?おかしいな。…もう一度だ!イナズマスピアー!」

もう一度攻撃する元康君だが、結果は大差なかった。蚊に刺されたほども感じずに、霊亀は進攻を続ける。

 その時、エレナは、他の何者かが霊亀と戦っている気配を感じ取った。同時に、身の危険を感じた。槍のパーティーの最大火力である元康君の攻撃が通じないのだ。自分たちがあがいても、たかが知れている。

 

 そう考えると、彼女の決断は早かった。

 「みんな、俺は霊亀に突っ込むから、援護を頼む!」

元康君が叫んだが、エレナは踵を返した。ビッチともう一人の女も同じ考えに至ったらしい。彼女たちは、バラバラになって、霊亀から逃げ出した。

 

 「…そうやって、必死になって霊亀から逃げた後、途中の町に籠って、様子を見ていたら、霊亀が倒されたって言うじゃない。それで、実家に帰って来て、保護を求めたの。おかげで実家は継がされるし、あることないこと根掘り葉掘りしゃべらされるしで、うんざりだわ…。」

 

 「だから、私はモトヤス様の行方は知らないし、ビッチたちともはぐれたから、どこにいるのかもわからないわ。」

エレナは、相変わらずだるそうに言う。

 「何のかんのであれでも勇者様だから、死んでいないと思うけど。それと、ビッチも悪運が強いから、どこかで生きていると思うわよ。」

 

 そうして、エレナは尚文の方を向いて言う。

 「あんた、あの化け物を倒したんだってね。すごいわね。あの底辺から成りあがって来るなんて。失敗したわ。取り入る相手を間違えたわ。」

そうしてため息をつく。

 「まあ、モトヤス様にはレベルも上げてもらったり、いろいろと贈り物をもらったりで、いい思いをしたし、家の手伝いっていう面倒な仕事さえ我慢すれば、それでいいわ。」

 エレナの話は終わった。

 

 腕組みをして聞いていた尚文は、仏頂面で言う。

 「で、お前は何も知らないんだな。」

 「ええ。」

 「それでも、元康やビッチの行きそうな所の見当はつくだろう。話してもらうぞ。」

尚文が言う。

 

 その時、リファナが、

 「なおふみ様、向こうから、誰か来ます。」

と彼の肩の上から警告を発する。とフィーロが、

 「なんだか、槍の人のにおいがするよー。」

と言った。

 

 見ると、ぼろ布に身を包み、槍にも見える棒切れを持った男が近づいて来ている。

 「ラフタリア、リファナ。幻影魔法でエレナ以外を隠せ!そうしたら、店から少し離れるぞ。」

尚文が指示を出す。ラフタリアとリファナが魔法を詠唱する。

 

 「エレナは元康を引き留めておいてくれ。」

尚文の頼みに、

 「分かったわ。」

エレナが了承する。

 

 やがて、幻影魔法が発動し、俺たちを隠した。俺たちは少し離れて、エレナと男-槍の勇者元康君の会話に聞き入った。

 

 「エレナ! 良かった。生きていたんだな!」

元康君がエレナに呼び掛ける。

 「あら、槍の勇者様じゃない。」

エレナは淡々と答える。その態度に元康君は戸惑いの声を漏らした。

 

 「ど、どうしたんだい?」

 「どうしたんだいと言われましても。」

 「本当に心配したんだぞ。」

 「心配されるような程では無いですよ。それよりも良く生きてましたね。」

 「当たり前じゃないか。エレナ達がいるのに、俺が死ねる訳が無いだろう?」

 元康君は、久々の仲間との再会で、楽しそうに答えている。逆にエレナは氷点下のテンションだ。目付きが冷たい。まるでゴミを見るような視線とはこのことだろう。

 

 「ナオフミ様、捕えないのですか?」

ラフタリアが問う。

 「待て、様子を見てみよう。」

尚文が若干ほくそえんで言う。なんだか、良からぬ事を考えているな。

 

 「また、一緒に世界を救いに行こうぜ!」

元康君がエレナを熱く誘うが、エレナは、

 「すいません。家業を継がされてしまいまして、もう一緒に行く事は無理です。」

とつれない返事だ。意図していない拒絶に、元康君はすごく困惑している。

 

 「なあ、本当にどうしたんだ? いつものエレナじゃないぞ。」

 「そう言われましても…、槍の勇者様、あなたと一緒に行動するのはもう限界だったんですよ。」

 「な、何を――」

 「名声があって、金の回りも良かったのはもう昔、今の貴方はなんですか?正直、疲れてしまったんですよ。貴方の仲間で居る事には。」

 「お、俺の何処に問題が?」

 「何時でも何処でも女の子を勧誘しますし、女心を全然理解していませんし、女の子を侍らすのは、一種のステータス程度だったんですよね。」

 

 「ナオフミ様、笑ってます。」

ラフタリアが言う。

 「だってさ、元康が青ざめているんだぜ。」

 「それよりも捕まえませんか?」

 「待てっての、もうちょっと見ていたい。」

尚文が悪そうに笑う。

 

 「私なんか誘っている暇があったら、早く城に戻った方が良いんじゃないですか?」

エレナが元康君を諭す。

 「ぐ……。」

 「貴方はもう落ち目なの、私と付き合いたかったら出世なさって。盾の勇者の様に。」

エレナは決定的に元康君を拒んだ。

 

 「ナオフミ様!」

ラフタリアが怒る。さすがの尚文も重い腰を上げた。音を立てない様に、会話を続ける二人に近づく。そして、元康君の肩を掴んだ。同時に、幻影魔法が解除される。

 

 「な、尚文!」

元康君が驚いて声を上げる。

 「よう、久しぶりだな、元康。俺が居るという事の意味、解るよな?」

 「ぐ……エレナ、俺を売ったのか!?」

元康君が愕然とする。

 「人聞きの悪いを事を言わないで。私は強い者の味方よ。今も昔も。」

エレナは飄々と答える。

 「さあ、貴方も盾の勇者と同じく、捕まって強くなって。盾の勇者がそうだったように、貴方も一からやり直せば良いのよ。」

 「エ、エレナ…!」

 

 元康君はぼろ布を脱ぎ去り、槍を構える。さて、俺の出番だ。俺は魔法を放つ。

 「サイコ・トリプルアタックXIX!」

 「ふががっ!」

精神魔法を食らった元康君が、悲鳴を上げて跪く。

 「念のため、もういっちょ!サイコ・トリプルアタックXIX!」

俺はもう一度魔法を放つ。

 「ふみぎゃっ!」

元康君は、踏んづけられた猫みたいな声を上げる。

 「くそっ!SPが…。」

どうやら、元康君のスキルつぶしには成功した様だ。

 

 「事情を知りたい。城に来てもらおうか。」

尚文が言う。

 「悪いがその話には乗れない。俺は身の潔白を証明しなければならない。」

元康君が答える。

 「身の潔白って…別にお前を殺すつもりは微塵も無い。というか波での戦いをサボられる方が困るんだよ。何度も言うが、俺は防御の専門であって攻撃がほとんど無いんだよ。」

 「俺は犯人じゃない!」

 「聞けよ!」

 「仲間と再会して世界を救うんだ!」

 「だから――ああもうめんどくせぇな!」

尚文が頭を掻きむしる。

 

 「ともかく、一度城に来い。お前が犯人じゃないなら来てくれるよな?」

 「断る!」

 「お前、俺には同じ事言ったよな? 立場が逆ならソレかよ。それとも俺と同じで何か理由でもあるのか?」

 「ない!」

 「お前な…。」

 「だが、俺はここで捕まる訳にはいかない!」

 

 全然話が通じない。尚文は眼で皆に合図を送った。全員が戦闘態勢を取る。

 「素直に同行してください。」

とラフタリア。

 「さもないと、痛い目にあいますよ。」

とリファナ。

 「んー?」

フィーロは一見やる気無さそうだが、魔物姿に変身する。

 

 「私もご一緒しましょうかね。」

エレナが受付から出て、元康と敵対する。

 「さあ、年貢の納め時だぞ、元康。」

 「あんまり暴れないでほしいわね。店の商品が壊されると困るの。」

 

 しばしの睨み合いの後、一番最初に飛び出したのはリファナだった。彼女の見えない攻撃が元康君を襲う。彼は必死に槍の柄で攻撃を受け流すが、二、三ケ所に傷を負って後退した。

 次にラフタリアが切り掛かる。元康君はその攻撃を中途半端に受け、打撃の重さにバランスを崩した。

 「そこ!」

すかさずフィーロが突進し、元康君の股間を蹴り上げた。

 「ぎゃぁぁぁ!」

元康君は悲鳴を上げて虚空に打ち上げられ、失神して地面へと落ちた。泡を吹いている。こりゃあ、また、潰れたな。

 

 尚文は徐に元康君に近づくと、憐みの視線を向けた。そりゃあ、男なら思いは同じだ。そうして、魔法を唱える。

 「ツヴァイト・ヒール!」

これで元通りなんだから、魔法は便利だ。

 

 それから俺たちは、元康君の持ち物を探って取り上げると、彼を縛って拘束した。

 「案外楽でしたね。」

とラフタリア。

 「スキルの使えない元康なぞ、こんなもんだろ。勝彦のおかげだな。」

尚文が俺をほめる。

 「フィーロもよくやったでしょー。ほめてほめてー。」

 「お前はちょっとやりすぎだ。少しは加減しろ。」

言いながら、尚文は人型に戻ったフィーロの頭を撫でる。

 

 「ありがとう、お前のおかげで助かった。」

尚文が、エレナに礼を言う。

 「別に、どうってことないわ。私は私の役目を果たしただけ。それとも、私と組んでくれるの?」

 「それは御免こうむりたい。」

 「でしょうね。それじゃあ、また機会があったなら。」

そういって、エレナは受付に引っ込んだ。

 

 フィーロが縛られた元康君を引きずって、馬車の所まで運ぶ。馬車のところまで来ると、元康君が目を覚ました。

 「ここは…。」

縛られているのを悟ると、

 「そうか、俺、捕まったんだな…。」

尚文が元康君に言う。

 「これから、お前を城に連行する。いいな。」

 「仕方ないな。」

元康君があきらめたように言う。

 

 「でも、その前に、ちょっと、トイレだ。なんだか、あそこがむずむずするんだ。縄を解いてくれ。」

元康君の主張に、俺は尚文を見る。

 「漏らせ、と言いたいが、そういう訳にもいかないだろう。そっちの影でさせて来い。」

尚文は言う。

 俺は、元康君の拘束を半分解いて、物陰へ連れて行った。

 

 「向こう向いてろ!」

 「そういう訳にはいかん。」

元康君は、鎧の前を開けようと、カチャカチャと音を立てる。俺は、さすがに野郎のモノは見たくないと目を逸らした。その隙をつかれた。

 

 俺が元康君を再び見ると、彼は何かを飲んでいた。どこから取り出したのだろう?その疑問と共に、俺は反射的に魔法を唱えた。

 「サイコ・トリプルアタックXIX!」

元康君は悲鳴を上げたが、ひるまずに、槍を掲げて、言った。

 「ポータルスピア!」

元康君の姿がぶれ、光に飲まれた。そうして光が収まると、元康君も消えていた。

 

 「どうした!」

尚文たちが駆け寄ってくる。俺は、顛末を話した。

 「一瞬目を離した隙に、逃げられた。すまん。」

俺は頭を下げる。

 「たぶん、槍から魂癒水を出したんだろう。お前の不注意だが、仕方ない。こちらも、槍に持ち物が残っている可能性を気を付けるべきだった。」

尚文が言った。

 

 「これから、どうするんです。」

リファナが言う。

 「エレナに、元康が立ち寄りそうな場所を聞いてみよう。奴も文無しに近いはずだ。拠点があるなら立ち寄って立て直すだろう。そこでもう一度探してみよう。」

尚文は、そう言って、エレナのいる商店に戻って行った。

 

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