転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第8話 矛盾の決闘

 城の大広間は、巨大な立食パーティーの会場と化していた。波を無事退けたお祝いの宴と言う事らしい。

 三勇者とそのパーティー、貴族たちと冒険者たち、騎士たちが歓談しながら、思い思いに楽しんでいるようだった。

 そんな中、俺とラフタリアは、初めて見るような上等で上品な料理を、取り皿に取り分け、がっついていた。それでもラフタリアは女の子、太るからと少しためらいを見せている。成長期の食欲魔人ぶりが嘘のようだ。また、彼女が遠慮しているのは別の理由もある。尚文君が、料理に全く興味を示さず、窓枠に腰掛け、何か考え事をしているからだ。

 ラフタリアは、ミートパイと思しき料理を取り分け、尚文君の所へ持って行っている。半ば強引に食べさせているみたいだ。なんとなく、うらやましい。

 そんな中、騒ぎが起こった。槍の勇者元康君がやらかしたらしい。俺は食うのを中断して、二人の元へ向かう。やはり、尚文君に、ラフタリアを解放しろと、決闘を迫っているのか。まるで、いちゃもんである。そもそも、当人であるラフタリアの意思を無視している。

 そこへ王様の声がかかる。曰く、決闘せよと。さもなければ、ラフタリアを没収するというのだから、無茶苦茶だ。奴隷制度を黙認しているのはお前だろう。それを覆すことをやっていいのか。

 抗議の声を上げようとしたラフタリアが、兵士に拘束される。おい、丁寧に扱えよ!

 まあ、クズ王に逆らっても、事態は悪化するばかりだ。俺は声をかける。

 「ラフタリアは、俺の奴隷でもある。俺も決闘に参加させてもらう。」

俺は、槍の勇者を見ながら言う。

 「いいな、元康君。」

元康君は、うろたえながら、承諾する。後ろにいたビッチ姫が、慌てて王に駆け寄る。ざまあみろ。無抵抗の盾の勇者をいたぶるつもりだったんだろうが、そうはいかん。

 「では、槍の勇者と盾の勇者とその従者たちの決闘とさせてもらう。」

王が言う。

 「ラフタリアは参加させられるんだろうな。」

尚文君が言う。

 「馬鹿な、決闘の賞品を参加させられるものか。」

王は答える。それは、まだいい。が、その後がひどかった。

 「なお、使用魔法は補助魔法のみとさせてもらう。城を壊されても困るからな。」

 なんだと!これは、明らかに、盾のパーティー唯一の攻撃力である俺つぶしである。そもそも、その論拠は何だ!宮廷お抱えの魔術師にでも、結界を張らせればいいだけの話だろう。怒り心頭の俺に、ビッチ姫があかんべーをする。この地雷女!

 俺は、怒りを抑えて何とか冷静になろうと努めた。そうして、名案が閃いた。俺は言う。

 「王様、俺の使う魔法は、この世界のものと違う。補助魔法と攻撃魔法の区別がない。」

 「それならば、相手を傷つける魔法すべてが、攻撃魔法となる。」

かかった!俺は言う。

 「なら、相手を拘束する魔法は、補助魔法でいいんだな。」

王がうろたえる。俺は元康君に、

 「それでいいな。」

と確認する。元康君は、自らのプライドがあるのか、承諾する。こいつ、分かってないな。

 俺は、尚文君にウインクをする。

 「俺に、策がある。絶対、ラフタリアを取り戻そう。」

 「あ、ああ。」

 尚文君は、戸惑い気味に答えた。

 

 城の中庭が、即席の決闘場となった。火が焚かれ、テラスには見物人が集まる。その中に、剣の勇者と弓の勇者もいるようだ。

 やがて、口上が述べられる。曰く、この決闘は、メルロマルク王と教皇立ち合いの神聖なものである…って、そんなわけあるか。この茶番劇を、俺はひっくり返してやる。

 やがて、決闘が開始された。

 「始め!」

の声とともに、元康君が雄たけびを上げて突っ込んでくる。俺は徐に魔法を放った。

 「アイスウォールIV!」

だが、その標的は、後方にいる女3人だ。効果範囲をやや広めにし、3人を氷壁に閉じ込める。

 これが俺の策である。本来、防御に使うウォールを、対象に重ねて使ったらと考えたのだ。案の定、相手を閉じ込めてくれた。女王の使うアイシクル・プリズンと同等の効果があるはずだ。効果時間は30秒に設定する。それ以上だと、窒息させてしまう危険がある。

 尚文君に突っかかっていた元康君が、驚いて動きを止める。俺は続けて魔法を放つ。

 「アイスウォールV!」

元康君が、氷壁に閉じ込められる。俺はナイフを抜いて、元康君の後ろに回り込む。後は、ウォールが切れた時、ナイフを首筋に突き付ければいい。チェック・メイト!

 と、元康君を包んでいた氷が、バリンと割れた。元康君は、俺に向かって槍を振るう。俺は、転がって避けたが、左肩に痛みを覚えた。続く攻撃は、エアストシールドが防いでくれた。俺は、這う這うの体で、尚文君の元へ駆け戻る。

 「すまん、尚文、しくじった。」

どうやら、ウォールは勇者にはあまり効かないらしい。俺の左肩は、ローブが裂け、若干出血している。まだ戦闘可能であるのが救いだ。

 「乱れ突き!」

元康君がスキルを繰り出してきた。俺は横っ飛びに避ける。どうやら、標的は尚文君のようだ。若干の傷を負っている。

 元康君の取り巻きが息を吹き返してきたので、再度アイスウォールをかける。地味に魔力を食うな。

 「貴様!」

元康君が、俺に槍を向ける。と、そこへ、尚文君が雄たけびを上げて突っ込んだ。そして、元康君の腹を殴る。元康君が顔をしかめた。彼の腹には、バルーンが噛み付いていた。尚文君が、マントの下のバルーンを見せる。会場がどよめいた。尚文君がうそぶく。

 「どうせ負けるなら、精一杯、嫌がらせをしてやるよ!」

 俺は、ロックウォールで元康君の足を覆った。案の定、彼はコケる。尚文君は、バルーンを投げ入れてから、シールドプリズンで元康君を囲った。中では、元康君の悲鳴が響く。

 ビッチ姫たちが復活したので、再度アイスウォールで閉じ込める。さすがに、魔力が持たないか…。

 シールドプリズンが消え、中から憔悴しきった元康君とバルーンが転がり出る。

 「さっさと負けを認めろ、元康。いい加減、醜態をさらすな。」

尚文君が、勧告する。

 「だ、誰が、降参なんて…。」

元康君が青い顔で言う。

 「だったらなあ、お前の顔と股間を、集中的に攻撃してやるよ!面と玉が無けりゃ、お前なんぞ、ただのキモオタだからな!」

尚文君が、バルーンを持って言う。

 「不能になりやがれ!」

 その時、火の手が上がった。ビッチ姫だ。野郎、火の魔法でアイスウォールを溶かしたな。反則じゃねーか。次の瞬間、ロックウォールを唱えようとした俺は、尚文君共々、風の魔法に吹き飛ばされた。あの女!

 俺は起き上がると、ロックウォールを地雷女と元康君に唱える。だが、俺は慌てすぎていた。魔力をすべて使ってしまったのだ。マインドダウンだ。俺は昏倒する。わずかな意識で起き上がろうとしたが、それもすぐに、闇の彼方へと消えてしまった。

 

 「う…」

俺は、しびれる頭を抱えて起き上がった。左肩も痛い。次の瞬間、大きなくしゃみが出た。城の中庭だった。もう火が落とされ、月明かりが差し込んでいた。誰もいなかった。いや、

 「カツヒコ様…。」

 ラフタリアが、尚文君を膝枕して、佇んでいた。尚文君は眠っている。その頬には、涙の跡があった。

 「カツヒコ様、大丈夫ですか。」

 「ああ、何とかな。それより、何があった。」

俺はラフタリアに聞いた。まあ、原作通りになったんだと思うが。

 案の定、俺たちは決闘に負け、ラフタリアの奴隷紋は解除された。尚文君は、絶望に沈んだ。そんな尚文君を、ラフタリアは説得する。彼女は、奴隷でなくなった後も、尚文君に付き従ったのだ。ラフタリアの思いは通じ、尚文君は、彼女の成長した姿を認識する。そのあと、錬君と樹君が、ビッチ姫の反則を指摘し、決闘の決着はうやむやになったのだ。

 俺は、近づいて、ラフタリアの頭を撫でてやった。

 「な、なんです?」

ラフタリアは、戸惑っている。

 「分からなくても、いいんだ。」

と俺は言う。

 「ラフタリアは、尚文だけでなく、みんなを救ったんだよ。」

ラフタリアはきょとんとしている。

 ラフタリアが尚文君の心を救わなければ、彼は、盾のカースシリーズに飲まれていたはずだ。そうして、呪いの炎がすべてを焼き尽くした。そう考えると、ラフタリアの功績は大きい。

 「冷えてきたな、毛布を取ってくる。」

俺は城の中へ入った。左肩の出血は止まっていた。城の中は広く、毛布を探すのに手間取った。戻って、毛布をラフタリアと尚文君にかけてやると、尚文君が起きてしまった。

 「気分は?」

 「ああ、悪くない。」

尚文君の表情は、憑き物が取れたように和らいでいた。もっとも、目つきは未だに鋭いが。

 さすがに、吹きさらしの庭では寝られないので、俺たちは、寝場所を探した。で、あてがわれたのが、今は使われていない、埃っぽい使用人の部屋だった。

 ラフタリアが、余り食事をしていない尚文君を気遣って、食料を探しに行った。やがて、サンドイッチのようなものを抱えて戻ってきた。

 「キッチンで、破棄されるものを分けてもらってきました。あまり、おいしくないかもしれませんが。」

 ラフタリアが差し出すと、尚文君が、一口齧る。

 「あ、あれ。」

 「どうしました。」

 「味が、するんだ。嵌められてから、今まで、何を食っても、味がしなかったのに。」

尚文君は涙ぐんでいる。

 「良かったな。」

と俺は言った。

 「これからは、一緒に美味しいものをたくさん食べましょうね。」

ラフタリアが言う。

 こうして、決闘は終わった。原作の結末を覆すことはできなかったが、結果オーライだろう。

 俺たちは、狭い部屋で、雑魚寝になって就寝した。

 

 翌日、朝食を済ますと、俺たちは謁見の間に通された。他の三勇者も一緒だ。報奨金をもらえるらしい。その額は、元康君が銀貨4000枚、錬君と樹君が銀貨3800枚、俺たちが銀貨500枚だった。なんなんだ、この差は。しかも、決闘の後、ラフタリアの奴隷紋を解除した代金と相殺して、報奨金は無しという。俺たち三人はいきり立った。

 が、幸い、樹君と錬君が、俺たちの弁護をしてくれたので、報奨金はもらえる事になった。

 大体、波の死傷者が一桁で済んだのは、俺たちの活躍である。俺たちが村を守らなかったら、一体、どれだけの人が死んだことやら。

 「では王様、私たちはお暇させていただきます。勇者様方、正しい判断に感謝いたします。」

とラフタリアは言った。俺たちは、城を後にした。

 




思うところあって、ストックを書き直すことにしました。
よって、ストックがなくなったので、以後は不定期更新となります。
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