城の大広間は、巨大な立食パーティーの会場と化していた。波を無事退けたお祝いの宴と言う事らしい。
三勇者とそのパーティー、貴族たちと冒険者たち、騎士たちが歓談しながら、思い思いに楽しんでいるようだった。
そんな中、俺とラフタリアは、初めて見るような上等で上品な料理を、取り皿に取り分け、がっついていた。それでもラフタリアは女の子、太るからと少しためらいを見せている。成長期の食欲魔人ぶりが嘘のようだ。また、彼女が遠慮しているのは別の理由もある。尚文君が、料理に全く興味を示さず、窓枠に腰掛け、何か考え事をしているからだ。
ラフタリアは、ミートパイと思しき料理を取り分け、尚文君の所へ持って行っている。半ば強引に食べさせているみたいだ。なんとなく、うらやましい。
そんな中、騒ぎが起こった。槍の勇者元康君がやらかしたらしい。俺は食うのを中断して、二人の元へ向かう。やはり、尚文君に、ラフタリアを解放しろと、決闘を迫っているのか。まるで、いちゃもんである。そもそも、当人であるラフタリアの意思を無視している。
そこへ王様の声がかかる。曰く、決闘せよと。さもなければ、ラフタリアを没収するというのだから、無茶苦茶だ。奴隷制度を黙認しているのはお前だろう。それを覆すことをやっていいのか。
抗議の声を上げようとしたラフタリアが、兵士に拘束される。おい、丁寧に扱えよ!
まあ、クズ王に逆らっても、事態は悪化するばかりだ。俺は声をかける。
「ラフタリアは、俺の奴隷でもある。俺も決闘に参加させてもらう。」
俺は、槍の勇者を見ながら言う。
「いいな、元康君。」
元康君は、うろたえながら、承諾する。後ろにいたビッチ姫が、慌てて王に駆け寄る。ざまあみろ。無抵抗の盾の勇者をいたぶるつもりだったんだろうが、そうはいかん。
「では、槍の勇者と盾の勇者とその従者たちの決闘とさせてもらう。」
王が言う。
「ラフタリアは参加させられるんだろうな。」
尚文君が言う。
「馬鹿な、決闘の賞品を参加させられるものか。」
王は答える。それは、まだいい。が、その後がひどかった。
「なお、使用魔法は補助魔法のみとさせてもらう。城を壊されても困るからな。」
なんだと!これは、明らかに、盾のパーティー唯一の攻撃力である俺つぶしである。そもそも、その論拠は何だ!宮廷お抱えの魔術師にでも、結界を張らせればいいだけの話だろう。怒り心頭の俺に、ビッチ姫があかんべーをする。この地雷女!
俺は、怒りを抑えて何とか冷静になろうと努めた。そうして、名案が閃いた。俺は言う。
「王様、俺の使う魔法は、この世界のものと違う。補助魔法と攻撃魔法の区別がない。」
「それならば、相手を傷つける魔法すべてが、攻撃魔法となる。」
かかった!俺は言う。
「なら、相手を拘束する魔法は、補助魔法でいいんだな。」
王がうろたえる。俺は元康君に、
「それでいいな。」
と確認する。元康君は、自らのプライドがあるのか、承諾する。こいつ、分かってないな。
俺は、尚文君にウインクをする。
「俺に、策がある。絶対、ラフタリアを取り戻そう。」
「あ、ああ。」
尚文君は、戸惑い気味に答えた。
城の中庭が、即席の決闘場となった。火が焚かれ、テラスには見物人が集まる。その中に、剣の勇者と弓の勇者もいるようだ。
やがて、口上が述べられる。曰く、この決闘は、メルロマルク王と教皇立ち合いの神聖なものである…って、そんなわけあるか。この茶番劇を、俺はひっくり返してやる。
やがて、決闘が開始された。
「始め!」
の声とともに、元康君が雄たけびを上げて突っ込んでくる。俺は徐に魔法を放った。
「アイスウォールIV!」
だが、その標的は、後方にいる女3人だ。効果範囲をやや広めにし、3人を氷壁に閉じ込める。
これが俺の策である。本来、防御に使うウォールを、対象に重ねて使ったらと考えたのだ。案の定、相手を閉じ込めてくれた。女王の使うアイシクル・プリズンと同等の効果があるはずだ。効果時間は30秒に設定する。それ以上だと、窒息させてしまう危険がある。
尚文君に突っかかっていた元康君が、驚いて動きを止める。俺は続けて魔法を放つ。
「アイスウォールV!」
元康君が、氷壁に閉じ込められる。俺はナイフを抜いて、元康君の後ろに回り込む。後は、ウォールが切れた時、ナイフを首筋に突き付ければいい。チェック・メイト!
と、元康君を包んでいた氷が、バリンと割れた。元康君は、俺に向かって槍を振るう。俺は、転がって避けたが、左肩に痛みを覚えた。続く攻撃は、エアストシールドが防いでくれた。俺は、這う這うの体で、尚文君の元へ駆け戻る。
「すまん、尚文、しくじった。」
どうやら、ウォールは勇者にはあまり効かないらしい。俺の左肩は、ローブが裂け、若干出血している。まだ戦闘可能であるのが救いだ。
「乱れ突き!」
元康君がスキルを繰り出してきた。俺は横っ飛びに避ける。どうやら、標的は尚文君のようだ。若干の傷を負っている。
元康君の取り巻きが息を吹き返してきたので、再度アイスウォールをかける。地味に魔力を食うな。
「貴様!」
元康君が、俺に槍を向ける。と、そこへ、尚文君が雄たけびを上げて突っ込んだ。そして、元康君の腹を殴る。元康君が顔をしかめた。彼の腹には、バルーンが噛み付いていた。尚文君が、マントの下のバルーンを見せる。会場がどよめいた。尚文君がうそぶく。
「どうせ負けるなら、精一杯、嫌がらせをしてやるよ!」
俺は、ロックウォールで元康君の足を覆った。案の定、彼はコケる。尚文君は、バルーンを投げ入れてから、シールドプリズンで元康君を囲った。中では、元康君の悲鳴が響く。
ビッチ姫たちが復活したので、再度アイスウォールで閉じ込める。さすがに、魔力が持たないか…。
シールドプリズンが消え、中から憔悴しきった元康君とバルーンが転がり出る。
「さっさと負けを認めろ、元康。いい加減、醜態をさらすな。」
尚文君が、勧告する。
「だ、誰が、降参なんて…。」
元康君が青い顔で言う。
「だったらなあ、お前の顔と股間を、集中的に攻撃してやるよ!面と玉が無けりゃ、お前なんぞ、ただのキモオタだからな!」
尚文君が、バルーンを持って言う。
「不能になりやがれ!」
その時、火の手が上がった。ビッチ姫だ。野郎、火の魔法でアイスウォールを溶かしたな。反則じゃねーか。次の瞬間、ロックウォールを唱えようとした俺は、尚文君共々、風の魔法に吹き飛ばされた。あの女!
俺は起き上がると、ロックウォールを地雷女と元康君に唱える。だが、俺は慌てすぎていた。魔力をすべて使ってしまったのだ。マインドダウンだ。俺は昏倒する。わずかな意識で起き上がろうとしたが、それもすぐに、闇の彼方へと消えてしまった。
「う…」
俺は、しびれる頭を抱えて起き上がった。左肩も痛い。次の瞬間、大きなくしゃみが出た。城の中庭だった。もう火が落とされ、月明かりが差し込んでいた。誰もいなかった。いや、
「カツヒコ様…。」
ラフタリアが、尚文君を膝枕して、佇んでいた。尚文君は眠っている。その頬には、涙の跡があった。
「カツヒコ様、大丈夫ですか。」
「ああ、何とかな。それより、何があった。」
俺はラフタリアに聞いた。まあ、原作通りになったんだと思うが。
案の定、俺たちは決闘に負け、ラフタリアの奴隷紋は解除された。尚文君は、絶望に沈んだ。そんな尚文君を、ラフタリアは説得する。彼女は、奴隷でなくなった後も、尚文君に付き従ったのだ。ラフタリアの思いは通じ、尚文君は、彼女の成長した姿を認識する。そのあと、錬君と樹君が、ビッチ姫の反則を指摘し、決闘の決着はうやむやになったのだ。
俺は、近づいて、ラフタリアの頭を撫でてやった。
「な、なんです?」
ラフタリアは、戸惑っている。
「分からなくても、いいんだ。」
と俺は言う。
「ラフタリアは、尚文だけでなく、みんなを救ったんだよ。」
ラフタリアはきょとんとしている。
ラフタリアが尚文君の心を救わなければ、彼は、盾のカースシリーズに飲まれていたはずだ。そうして、呪いの炎がすべてを焼き尽くした。そう考えると、ラフタリアの功績は大きい。
「冷えてきたな、毛布を取ってくる。」
俺は城の中へ入った。左肩の出血は止まっていた。城の中は広く、毛布を探すのに手間取った。戻って、毛布をラフタリアと尚文君にかけてやると、尚文君が起きてしまった。
「気分は?」
「ああ、悪くない。」
尚文君の表情は、憑き物が取れたように和らいでいた。もっとも、目つきは未だに鋭いが。
さすがに、吹きさらしの庭では寝られないので、俺たちは、寝場所を探した。で、あてがわれたのが、今は使われていない、埃っぽい使用人の部屋だった。
ラフタリアが、余り食事をしていない尚文君を気遣って、食料を探しに行った。やがて、サンドイッチのようなものを抱えて戻ってきた。
「キッチンで、破棄されるものを分けてもらってきました。あまり、おいしくないかもしれませんが。」
ラフタリアが差し出すと、尚文君が、一口齧る。
「あ、あれ。」
「どうしました。」
「味が、するんだ。嵌められてから、今まで、何を食っても、味がしなかったのに。」
尚文君は涙ぐんでいる。
「良かったな。」
と俺は言った。
「これからは、一緒に美味しいものをたくさん食べましょうね。」
ラフタリアが言う。
こうして、決闘は終わった。原作の結末を覆すことはできなかったが、結果オーライだろう。
俺たちは、狭い部屋で、雑魚寝になって就寝した。
翌日、朝食を済ますと、俺たちは謁見の間に通された。他の三勇者も一緒だ。報奨金をもらえるらしい。その額は、元康君が銀貨4000枚、錬君と樹君が銀貨3800枚、俺たちが銀貨500枚だった。なんなんだ、この差は。しかも、決闘の後、ラフタリアの奴隷紋を解除した代金と相殺して、報奨金は無しという。俺たち三人はいきり立った。
が、幸い、樹君と錬君が、俺たちの弁護をしてくれたので、報奨金はもらえる事になった。
大体、波の死傷者が一桁で済んだのは、俺たちの活躍である。俺たちが村を守らなかったら、一体、どれだけの人が死んだことやら。
「では王様、私たちはお暇させていただきます。勇者様方、正しい判断に感謝いたします。」
とラフタリアは言った。俺たちは、城を後にした。
思うところあって、ストックを書き直すことにしました。
よって、ストックがなくなったので、以後は不定期更新となります。