アクィラの翼   作:音恩

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第1話

アクィラの翼 1

 

 

 

 『完璧な少女』だった……。

 

 繰り返し見る夢に出てくる少女をそう評価した。

 

 まるで銀の装飾を施された鋭い剣を思わせるような、綺麗で艶のある銀の髪。

 人形かと見間違う思うほど、繊細に職人が作りあげたかのように整った顔立ち。

 触れただけで穢れてしまうかもしれないほどの雪のように白い肌。

 黄金色の瞳を持った両目。

 男が持つ女に対する理想全てを持ち合わせているかのような少女だった。

 

 

「また、会えたな……」

 

 

「………」

 

 

 彼女は何も答えなかった。

 俺をジッと見つめている瞳からは何も読みとることはできない。

 彼女が何を思い、何を感じているのかは俺には分からないが、俺はただもう一度、彼女に会いたかった。

 何故だかは分からない。

 理由なんてものはない。

 俺は彼女にもう一度会いたかった。

 

「綺麗な髪だな……」

 

 初めて会ったときと同様に俺は彼女の髪を褒めた……。

 

 

 

 

 

1話「一つの心臓に、二つの翼」

 

 

 

 大型の飛行軍艦、その窓際の座席の一つで目覚める。辺りは薄暗く、廊下からも物音一つしないことからまだ夜明け前なのだろう。

 

「また、あの夢か……」

 

 そう呟き、座りっぱなしで寝てしまい固まった筋肉が悲鳴をあげる。

 曲がった身体を起こし、そして窓際横のカーテンを開けて外の様子を伺う。

 

  軍艦は灰色の分厚い雲を進んでいる。おそらくは乱層雲の中で高度は5000〜6000mぐらいだろうか。

 

 外の様子を確認した後、再び物思いに耽る。

 

 もうこれで何度目だろうか、あの夢を見るのは。

 

 海に沈んだ街、薄紅色の花びらが舞う中、銀髪の少女と対峙する夢。

 夢の中の少女はこちらの呼び掛けにも問いかけにも応じようとはしない。

 彼女はこちらを見つめる表情は固かったが、僅かに憂いているのが見てとれた。

 

 この夢が何を意味しているのかわからないし、そもそもこの夢に現れる少女に見覚えがない。

 だがしかし、夢の中の自分は決まってこの少女と再会することを切望していた。

 

『再会』

 

 つまりはこの夢の場面の前にも彼女と出会っていることになるが、それについても一切の情報がなかった。

 

 そう思案を巡らせていたらいつの間にやら窓からは薄っすらと朝日が差し込んでいた。

 

 再び窓を覗く。

 

 高い、とても高い空の上。

 

 乱層雲を抜け、目前には青い空。白い雲。目下には雄大に広がる海。

 

 人間が最初にこの景色を見たときはどのように感じたのだろうか?

 

 情報化が進んだ社会では、映像技術の発展により自分の目で見たことがなくとも写真や電子データでいくらでも閲覧することができる。そのため、現代人は何かを見て感動するという事が減ってしまった。

 

 

「そろそろ到着だ。準備しておけ」

 

 

  座ったままの俺に後ろ側から声がかかる。

 もう、そんな時間だったかと時計を見る。

 しかし、腕時計の針は到着時間よりかなり前の時間を指していた。

 

「時差があるって言っただろ。きっちり2時間早めとけと言ったはずだ」

 

「そういえば、そんなこと言ってたか?」

 

今はこの広大な空を飛ぶ飛空戦艦に乗っている。

 今目の前にいる彼は俺と同じ戦艦の軍人。彼は心底呆れた顔をし、「相変わらず軍人としての自覚がない」などと愚痴を聴こえるように零している。

 

「景色なんて見てて楽しいか?」

 

「どうだろうな……」

 

 眠気もないし、他にやることがないから外を見ていただけだ。

 この俺が乗っている母艦は何だったか忘れたが、何とかっていう最新のエンジンを使っているらしく、従来の母艦クラスの船艦よりも速いスピードが出るらしい。

 太陽を見ていると昇りがとても早く、時間の流れがまるで違うように感じた。

 実際はそんな変わらないのかもしれないが……

 

「綺麗だな……」

 

 海に映る太陽を反射した光が、キラキラとした鋼鉄の破片を思わせた。

 その破片はまるで儚い心を写しているかのようで、綺麗だった。

 

「新しい装備の使い方は覚えたか?」

 

「ああ、バッチリだ」

 

 とりあえず即答しておいたが、本当はまだマニュアルに目を通していない。

 それ以前に、新しい装備があるなどと今の今まで知らなかった。

 

「おまえが、即答するときは大抵は良くない方向に事が進む」

 

「大丈夫だよ。心配するな」

 

 作戦開始まで、あと20分近くある。

 5分くらいで流し読みすれば、なんとかなる………かな、多分。

 最悪、分からないものには触れなければ良い。

 

「悪いな。いつもいつも俺の事を気にしてくれて」

 

「いつもいつも、おまえが適当だからだ」

 

 今回は俺が作戦の要になる。

 その俺が『こんなん』なので心配にもなるのは当たり前なのだろう。

 

「おまえに緊張をするなって言っても、緊張とは無縁そうだが………。それでも気をラクにしていけよ。いつも通りのおまえの力を発揮すれば良い」

 

「そのアドバイスはありがたく心に仕舞っておくよ」

 

 別に俺が力を発揮するわけじゃない、俺が乗る機械が力を発揮するだけだ。

 そこに俺の力が介在する余地はない。

 俺が功績を挙げたとしても本当に褒めるべきは兵器を作った技術者に対してだろう。

 

「そろそろ行く。おまえも配置に着いておけよ」

 

「ああ、分かってる」

 

 俺は重い腰をあげ立ち上がる。

立ち上がると同時に防弾ガラスの窓の向こうにある太陽の直射が目に入り、とても眩しかった……。

 

 

※

 

 

 

『総員戦闘配置。配置後、準備出来次第、順次発艦する』

 

 耳が痛くなるほど大きい音量でアナウンスが流れる。

 俺は発艦する機体に乗り込み点検準備を終えた。

 まあ、面倒なので細かいことはすべてメンテナンスを行う専門家に任せている。俺がやることは本当に『機械』に乗るだけなのだが……。

 

『アルマ大尉、時間通りに来てなによりだ』

 

 無線で俺の名前が呼ばれた。

さっき、俺のことを注意してた男だ。

 きちんと機体に乗ったかどうか心配になったのだろう。

 そういう、心配性のコイツの名前は確か…………

 

「なんだったけ……?」

 

『?………なにがだ? 何か問題でもあったか?』

 

 不審がられた。

 一応、形の上では上官のはずなのだがどうにも長い名前で覚えにくい。

 覚えてる限りでは階級は中佐だったはずだ。

 

「あー、いや。すまん、なんでもない」

 

 俺はすぐに問題はクリアだと伝える。

 本来なら上官に対して、こんな口ぶりをするのは常識外れもいいとこだし何度も注意されているのだが、何故かクビにもならずズルズルと軍人を続けて大尉にまでなってしまった。

 まあ、俺を辞めさせられない理由があるにはあるのだが…。

 

「この機械も俺も、すこぶる気分上々だ。任せろ!」

 

 心配性の中佐を安心させる為に息巻いてみせたが………。

 

『おまえに気分が上下する人間性があったんだな……』

 

「それは、言いすぎ……」

 

 いったい人のことを何だと思っているのやら。

 

『それに「機械」じゃなく正式に名前があるだろ……。まあ、それはいいか………生きて戻れよ』

 

「運が良ければな。アンタも死ぬなよ」

 

 名前か……。

 そんなものに意味はない。

 名前をつけたからと言ってそれに魂が宿る訳でもなければ俺のやる気が上がる訳でもない。

 

 

 

『ヘリオスV-II 発進準備完了。これより発進する!』

 

 

 

 きたか、と思い身体を硬直させて衝撃に耐える姿勢をとる。

そして、次の瞬間には……

 

ゴオオオオォォォォ!

 

 もの凄い轟音と振動と共に、俺が乗せた鋼鉄の塊が空を舞った。

 脚はきちんとコックピットのブレーキ操作についているにもかかわらず、身体は宙に浮いたような不思議な感覚が身体を襲う。

 

「ヘリオスV-II 異常なし。当機はこれより作戦行動にうつる」

 

 空の膜を突き抜けたようなイメージ。

 鉄の塊である機械は、より速く空の道を疾走する。

 海に巨大な影が出来るほどの低空飛行を続け、目標の地点まで真っ直ぐに向かう。

 

「レーダージャミング開始。目標が目視出来次第、攻撃を開始する」

 

 海に浮かぶ都市。

 そう呼ぶべきなのだろうか?

 老人から子供まで幅広く人間が住む機械が海に浮いている都市。

 巨大ながら自力で動く推進力を持ち、要塞にもなりうる巨大な都市国家。

 

『全機体に繋ぐ、目視出来る距離に到達した瞬間に最新兵器を使った奇襲射撃を行ってもらう、その後は各自で敵のアクィラを殲滅せよ。艦砲射撃のタイミングはこちらから伝える。以上だ』

 

 あと、10秒ほどで海の都市が目視出来る距離までになる。

 俺はとりあえず、新しい押しボタンスイッチとかないか機体の中を見渡す。

 しかし、目当てのものはなく困り果てた。

 

『目標地点。攻撃を開始せよ!』

 

 そういえば、と思い記憶を掘り返してみる。

 メンテナンスのときにミサイルの取り付けの代わりに何か違うものを取り付けていたような気がしたのを思い出した。

 

「じゃあ、これかな〜…」

 

ポチッとな……。

 

『発射!!』

 

 俺は20機以上ある仲間の中で1秒ほど遅れて拡散型ビーム砲を発射した。

 

 直撃だった。

 

 都市が一瞬の内に火の海へと変わり燃え盛っていた。

 目に焼き付けた映像は行った行為の意味とは真逆に神秘的な神々しい炎の色を魅せてくれた。

 

『敵の迎撃機出現! 近衛クラス3機、残りは全て量産機です!!』

 

 炎の中から、白をベースにした都市を守護する天使を模した機械仕掛けの人形が現れる。

 アシスタントの情報通り中型〜大型の翼を持った獣が敵アクィラに随伴するように飛んでいる。

 彼らは街を守護する為に陣形を取る。

 

「これより、作戦通り敵アクィラを殲滅する」

 

 自分の機体についてくる仲間は4機。その他の仲間も5機でチーム編成を行い、お互いをカバーする陣形をとる。

 

「あ、えーと………各自『戦闘形態』近接有視界戦闘体制をとれ」

 

 別に俺が指示を出さずとも、俺以外の全員はみんな優秀なので既に戦闘体制に入っている。

 戦闘形態では飛行機のような形から人型の機械人形に変わる。

 あちらが天使ならば、こちらは黒や赤をベースにした色の機体が多いので悪魔のような姿かもしれない。

 しかし、白だろうが黒だろうがただの人を殺す道具なのはどちらも変わらない。

 

「先遣隊、先陣を切れ」

 

 本隊で指揮官である俺が動くのはもう少し後だ。

 仲間が特攻していく中で戦闘が始まり激化していく。

 戦闘領域から少し離れた場所から戦闘経過を暫く観察し、敵の戦力がどの程度かを図り自分達の今後の行動や作戦指揮をとる。

 

 

「と言っても、一通りの作戦は事前に全員に通達されてるんだけどな……」

 

 そんなことを呟きながら、白と黒の機体がぶつかり濃く紅い爆炎の“命”の花が散るのを鑑賞する。

 ぶっちゃけ、俺が細かな指示を出さなくても、俺みたいに適当にやってなければ皆やることは頭に入ってるはずだ。

 ともかく俺は近衛クラス以上の性能を持つ敵でも現れない限り動くことは少ない。

 

「暇だな」

 

 退屈は人を殺せると誰かが云っていた気がするが至極尤もだ。

 周りが必死こいて命を張ってるにも関わらず俺はほとんど何もしていない。

 

「こんなに怠けてて良いもんかねぇ……」

 

『大尉、何かおっしゃいましたか?』

 

「いいや……ただの独り言だ。気にするな」

 

 無線を付けっ放しにしていたので独り言を待機中の部下に聞かれたようだ。

 

『また作戦中に考え事ですか。勘弁してくださいよ? 今回はあの【神速】が相手なんですから。』

 

「へー、そうだったのか。初めて聞いた」

 

『………(心配になってきた)』

 

 敵の量産機の半分くらいは味方が撃ち落とした。

 味方も少しは堕とされ減ってはいたが、こちらは万全の準備で挑んでいるため相手にとって分が悪いことは否めない。

 

「そろそろ敵さんも本腰入れてくる頃かな?」

 

 俺の見たて通り敵の近衛クラス3機が先遣隊を蹴散らしながらこちらに急接近してきた。

 

「これよりアルマ隊は近衛クラス3機の排除に移る。総員俺に続け!」

 

『イエッサー!』

 

 慣れない大声で士気を高め、返事の良い新人達を引き連れて敵にバルカン砲を撒き散らしながら接近する。

しかし……

 

「うわ、はやっ……」

 

 接近してきた3機全てがこちらの速度性能を遥かに凌駕していた。

 

『こ、こちらに接近しています!』

 

「見れば分かる」

 

 あろうことか敵の内1機が単独でこちら側に切り込んできた。

 

「アレは俺が何とかするから、お前等は残りの2機の相手してろ。60秒後に戻る」

 

 まるで弾丸のように突っ込んでくる白い機体に向け、俺はビームライフルを正確に撃ち込む。

 しかし……

 

「ビームジャマーってヤツか」

 

 レーザーあるいはビーム系の射撃は基本的には光を集束し一点に集めて、鉄を貫通するほどの熱エネルギーを生み出す。

 虫メガネを太陽にチラつかせて紙を燃やすのと同じ原理だ。

「ビームジャマー」は光の収束を邪魔するガスで機体を覆い、熱エネルギーが集まるのを邪魔している。

もちろんガスは気体であるため機械ボディの周りに常にあるわけではなく、こちらがロックオンし、ビームが発射されるのを感知し自動でガスを噴出している。

 

 

「バリアみたいだな。カッケぇー……うおっと!」

 

 白い機体の突進をバック噴射で紙一重で避ける。

 だが、相手もブレーキを掛けこちらにすぐに向き直り、まさに大型の剣の形をしたブレードで連続で攻撃を繰り出してきた。

 

「斬り合いするの? 風流だなぁ」

 

 こちらもブレードを出して相手の攻撃を受け止めた。

 だが、お互いに大きく剣同士が弾かれ反動でこちらの腕がもげた。

 この剣は「レイジングハート」と呼ばれ、チェーンソーのような仕組みで刃の回転を単純に更に高速化したもので、受け太刀のようなことをすればブレードが反動で壊れるかアームごと吹き飛ぶ。

 もちろんお互いにだ。

 

 バキンッ…と鈍い音と共にお互いの右アームが吹き飛んでいく。

 

 相手はもう1本片手からブレードを出現させ連続で攻撃を繰り出してくるが、俺はそれよりも速く拡散型ビーム砲を近距離で撃ち込む。

 本来なら、こんな接近した場合でのビーム砲は自殺行為だが、相手がビームジャマーをオフにしていないことに賭けて利用させてもらった。

 賭けは成功し、相手と自分の視界は一瞬だがガスで覆われる。

 相手は視界が覆われパニックになったのか一時距離を取ろうとしだが、俺は距離を離さず逃げようとする白い機体の胸の部分、搭乗者がいるであろうコックピットに後ろから回り込みブレードで突き刺し貫通させた。

 

「……」

 

 ブレードを引き抜くと白い機体は力なく海へと落下していった。

時計を見ると既に30秒は過ぎていた。

 

敵が海に沈んでいくのを確認し俺は一息ついた後、部下達の方を見やるといまだ近衛クラス2機と交戦中の様だ。

 

「いやだなぁ……アレに混ざるの」

 

 こちら側の味方はワラワラと攻め込んでいるにもかからわず、たった2機に苦戦を強いられていた。

 俺は参戦するため、すぐさまジェット形態に変形させ、全速力で部下達のもとへ向かう。

 

 そして、敵の攻撃有効範囲の手前で戦闘形態に戻り、近衛クラスの片割れに奇襲で斬り掛かるも、右腕部分を斬り落とすのみで回避され、堕とすことはかなわなかった。

 

「うへぇ……仕留めきれなかったか」

 

 そう軽口を叩いている間に片割れは体勢を立て直し、もう一機の近衛クラスと共に間合いを詰めてきた。

 どうやら挟み撃ちで叩きにくるつもりらしい。

 

 片方が正面から中距離攻撃を仕掛け、それに反応している隙に死角からもう片方が斬り掛かってくる。その攻撃を躱し中距離型のミサイルを仕掛けるもバルカンで落とされ回避される。

 もう一方の機体に間合いを詰めるも今度は先程の機体にビームライフルで牽制され近づけない。

 

「もしかしたらこれは堕とされるかもな……」

 

 他人事のように俺は呟きながら、ヘリオスの操縦モードをオートマチックからミッションモードに変更し、左足の甲でギアをセカンド、サード、フォース、そしてトップへと一気に蹴り上げる。この機体は操縦者への安全を考慮してミッションモードでしかトップギアまで上げられない設計になっている。

 

「さて、仕切り直しといこうか」

 

 自分の右手側にあるアクセルグリップを全開まで回し加速する。

そして一瞬遅れて、急激な加速で身体に強烈なGの負担がのしかかる。

 

(速すぎて舌噛みそうだ…)

 

 体感でおよそ10秒。

 2秒で一機目との間合いを詰め、2秒の間にビームライフルで敵アクィラのコックピットを撃ち抜き、4秒で少し離れたもう一機との間合いを詰め、最後の2秒でもう一機を一刀両断、この僅かな時間で近衛クラス二機はただの鉄クズとなり海に落ちていった。

 

「今度はキッチリ60秒か。目が回りそう……」

 

 だが、そうこしているうちに一息付く間も無く、量産機の軍勢が太陽を背に一斉攻撃を仕掛けてきた。

 

「こいつらはオトリか」

 

 俺は回避しつつ素早く武器の設定を切り替える。

 その後、太陽の光源側にいる敵アクィラの軍勢に目掛けて拡散型ビームライフルを放つ。

 そして四方八方に散らばった閃光が一ヶ所に固まっている敵アクィラを撃ち抜く。

 だが、流石に数が多く仕留めきれない。

 

「あわわわわ………」

 

 ビームの雨のすき間を縫うも回避しきれずに所々にダメージを蓄積する。

 同じように俺の味方機も狙われ、すでに堕ちている者や損傷が過大していっている。

 

「後ろ失礼するよー……」

 

『え……? 大尉?……がっ!!?』

 

 俺は1番近くにいた味方に接近し後ろからブレードで突き刺した。

 そしてそのまま光源側の敵に突っ込むように加速していく。

 もちろん接近していく上でビームの雨の密度は高くなり攻撃は集中されるが、さっき手に入れた『盾』が上手い具合にビームを貫通せずに役立ってくれた。

 

「あと、2発か……」

 

 拡散型ビームライフルの残数を横目で確認しながら、それを敵陣形の真ん中に撃ちつける。

 

 俺が充分に近付き攻撃したことにより、敵は回避することに専念しバラけはじめる。

 だが、バラけたことにより敵の 陣形は崩れ統率力を失いはじめた。

 さらに味方が俺に追い付き、敵の残りに反撃を開始する。

 

「おー、みんなガンバれー」

 

 応援しつつ、しばらく待つと味方は光源側からの奇襲を行った部隊を残らず排除し始める。

 統率を失えばこちらの敵ではない。

 もはや、勝負決していた。

 

「これは、もういらないか…」

 

 俺は盾を海に捨て味方に加勢していった……

 

 

※

 

 

「さて、今度こそ終わりかな。ぼちぼち戻るか。……えーと、あー、あー、聞こえる? アルマ隊はこれより本隊に合流する」

 

 戦闘が終わり無線で部下に指示を出す。

 操縦モードをデフォルトのオートマチックに戻した。

 そしてジェット形態に変形し、北の合流地点を目指す。

 

 

『アルマ大尉。熱源反応を探知。艦砲射撃が来るので退避を!』

 

 

 本隊に合流した直後に無線が入る。

 相手は主力三機と大隊が落とされはしたものの、これが本命だったらしい。

 おそらく本隊と合流して的がデカくなったところを狙いすましたのだろう。

 遥か水平線の向こうで、これから命を奪うであろう光が卑しく煌めいた気がした。

 

 

「直撃コースかな?」

 

 

 流石に情報が遅過ぎる、回避する時間はない。

 なんとかしてみようと考えてみるが、やはり意味はないと思考を打ち切る。

 意味のないことに時間を割く意味はない。

 

 それよりも残りの命の時間に何を思考するべきかを考える。

 

「……っ!」

 

 だが、そうこうしているうちに巨大なビームの光が視界を覆う。

光を遮るために、まぶたを閉じるが何も見えないワケじゃない。

 むしろ、自分の心のすべてがクリアに見えた。

 自分の心はいつも形のない何かだった。

 物を盗んでも、人を殺しても、女を犯しても形を得ることはない。

 だが、形はなくてもそこに明確な意思がある。

 その意思はいつも欲にまみれた黒い人間であって『人』ではない何かだった……。

 どんな状況でも、自分が自分でなくなることを嫌った結果かもしれない。

 

 

「マニュアル読んでなかったの謝っときゃ良かったかな……」

 

 

 そんなどうでもいいことが頭の中をよぎった……。

 つまり、自分の人生はかなりどうでもいいことの塊だったのだろう……。

 そう、俺は結論づけた。

…………………

…………

 

 

 だが……

 

 

「……………ん?」

 

 

 すごい爆音がした気がしたが、まだ自分が生きていることに気がつく。

 光が目に入り、まだチカチカするが視界を開くと案の定生きていた。

 

『アルマ大尉? 無事か!?』

 

「そのようだが……」

 

 通信で状況を聞いてみると、敵の主砲は本隊の丁度中心に目掛けて撃ち込んだようだ。

 もちろん仲間は半数以上を失ったが、敵の主砲はこちらの本隊全体を覆うほどの太さは無かったようだ。

 チームとして立て直すのは難しいだろうが、とりあえずは自分は生きていた。

 本隊の端にいたことも幸いしているだろうが、助かったのは本当に運のようだ。

 

 

「ビビッて損したかな?」

 

 

 ある意味では良い体験だったが、あまり心臓にはよろしくない。

 

『こちらフィリップ中佐だ。アルマ大尉、どうやらしぶといみたいだな』

 

「おかげさまでな…」

 

 中佐が無線で直接俺に話しかける。

 

『敵母艦掃討任務に伴い神衣の「解放」の使用を許可する。今作戦の最大の敵は敵増援の母艦の主砲だ。あれほどの威力ならば主砲の第二射まで時間がかかるはず。その間に仕留めろ』

 

 

「ああ……了解した」

 

 

 俺は生返事に応えると中佐が少し笑った声が聞こえた。

 

『これは、個人的な会話だが……。さっきのは流石にお前でも肝を冷やしたか?』

 

「どうかな……? どちらかと言えば諦めがついた感じだったかな」

 

 諦め……とも違うかもしれない。

 だが、それ以上の言葉を見つけることは出来ないので、その本心を口にする必要はないと感じた。

 

 

「………」

 

 

 俺は自分が笑っていたのに気がついた。

 その歪んだ笑みを誰も見てもいないにもかからわず片手で隠すように抑える。

 

『健闘を祈ってるぞ』

 

「そりゃどうも…」

 

 

 小うるさい中佐との通信を切った。

 母艦が視認できるところまでヘリオスを飛ばし、攻撃目標から迎撃されにく向きに回り込み、再び戦闘形態に変形する。

 敵母艦は戦艦と空母を掛け合わせた航空戦艦タイプで多くの国家がこのタイプを採用している。その航空戦艦の攻撃を躱しながら母艦に少しずつ近づく。

 

 

「このぐらいの距離か……」

 

 

 俺は腰の右側に刺してある銃を手に取り、モニターのすぐ下にあるガンホルダーに銃口から差し込む。

 それに反応したヘリオスより背中部分に格納していた天使の翼を思わせるそれらが排出され、右翼と左翼の付け根同士が結合し巨大なアーチェリーの弓のような武器に変形する。

 そしてその巨大な弓をヘリオスの右手部分に装着させ、敵母艦へと照準を合わせる。

 

 

「アンタらに恨みはないが仕事だからな。悪く思わないでくれ」

 心にも無い事を呟き、銃のトリガーを引く。

 

 

 刹那、辺りは強い光に包まれた。

 弓から放たれた濃縮された核融合エネルギーが敵の母艦を一瞬にして消し炭にする。そして光が収まった後には煙が巨大な入道雲のように立ち昇っていた。

……………

………

…

 

 

※

 

 

 神衣の力、そしてその適格者・カルディアの力を存分に発揮したアルマの姿をモニター越しに複雑な気分で見やる。

 

「素晴らしいですね。これがアルマ君と神衣の本来の力ですか……。フィリップ中佐は彼が部隊に入るのをあまり好まなかったようですが」

 

 自分の名前を言われ、モニターから特務士官に目線を移す。

 

「戦力にならないとは言っていません。彼は掴み所がなく、自分には手を余す存在というだけです」

 

 こう言ってはアレだがアルマの考えを一度たりとも読めたことはない。

 直属の部下が何を考えているのか分からないとは上官としては畏怖すべきことだ。

 特にアイツは、急に反旗を翻して今からあの兵器の銃口をこちら側に向けてもおかしくないような奴だ。

 最初からアイツは俺たちのことは味方とも敵とも思っていない、物の見方や価値観が違いすぎるのだ。

 

 

「確かにアルマ君は、まだ見ぬ脅威だが……。彼が分家筋とは言えルイゼンハート一族の一員である限り私達には牙を向くことはないさ」

 

 

「そうだと良いのですが……」

 

 

 確かに無駄に敵をつくるような奴ではない。

 だが、苦戦を嫌いもすれば好みもするような矛盾点を持っている。

 そもそも、理解出来ないからこそ自分は脅威だと感じているのだ。

 

 

「アルマ・ルイゼンハート…」

 

 

 アルマはルイゼンハート帝国である皇族の1人。創成期から存在するルイゼンハートの血を引き分き、軍人として教育を施されたらしいが全くその振る舞いは出来ていない、というよりあえてしていない様にも見える。

 ルイゼンハート家からの推薦もあり、彼の態度には多少なりに目を瞑っているのだが…

 

 

「お前は、いったいその目で何が見えているんだ?」

 

 

 今回の自治都市侵攻作戦においてルイゼンハート帝国軍第一中隊はかなりの損害を被ったが、作戦はアルマによって完遂された。

 だが、その事実はお前にとって何の意味もないことなんだろう。

 その見えている世界を自分にも見せて欲しい。

 

 純粋にそう思った。

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