アクィラの翼   作:音恩

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第3話

アクィラの翼3

 

 

 

 

 世界は反転する。

 彼の心は二つに砕かれた。

 彼らの心は互いが互いの存在を認めることはなかった。

 全く同じ心を持つ存在にもかかわらず違う道を選んだ。

 彼はきっと、自分で自分を殺すために生まれたのだ。

 

 

 世界は反転する………

 

 

 

3話「完璧な少女」

 

 

 

 

 自分で自分の姿を鏡で見るたびに自分は人間ではないんじゃないか、と思い始めたのはいつの頃だろうか……

 

 私は鏡の前に立ち、その場でくるりと身体を回転し、純白のドレス姿の自分の身体を見渡す。

 

 

「自意識過剰かな……?」

 

 

 綺麗な銀の色の髪に、黄金色の瞳。

 それに寒気がするほど整った顔立ち。

 白すぎる肌もあってか、まるで人形のようだ。

 それに、その白い肌を強調するようにドレスの背中部分はパッくり割れており露出が多く、余計に肌白さが目立つ。

 

 自分が美しい姿をしていることは純粋に嬉しいが、それでもここまで整っていると怖くもある。

 サフィーナ・アン・プランケットは本当に人なのか自分でも疑ってしまう。

 

 

「吸血鬼だったりしてね」

 

 

 不意にそんな言葉が私の耳もとで囁かれる。

 くすぐったい気持ちもあったが決して嫌な気分にはならなかった。

 

 

「クレア様、やはり私にはこんなドレスは似合いませんよ…」

 

 

 私の背後に立つ少女にそう言い放つ。

 彼女はときどき私のことを吸血鬼なんじゃないかと言うが、吸血鬼とは金髪に紅い目だと相場が決まっている。

 白い肌を持ち美しい女性の姿をしているという点では類似しているが、吸血鬼などただの妄想の産物だ。

 金髪だと言うのならば、今私の背後にいる彼女が綺麗な金髪をしている。残念ながら瞳の色は紫だが。

 

 

「サフィには、そのドレスが似合ってるよ。せっかく綺麗な姿で生まれてきたんだからもっとオシャレしなきゃ」

 

 

「クレア様の方がお綺麗ですよ」

 

 

 私はクレアの方に向き直り、クレアの着るドレスをまじまじと観察する。

 薔薇のような紅い色をベースにした、綺麗なドレス姿だ。

 特徴のある彼女の綺麗な金髪と大きい紫色の瞳を強調して際立たせている。

 しかし、胸元あたりが少し窮屈に見えた。

 

 

「少しサイズが小さいですか? 私の見たてが見誤りましたでしょうか?」

 

 

「いいえ、そんなことないわ。少し胸の谷間を作るためにサフィが選らんだものより、あえて1サイズ小さいのを選らんだのよ」

 

 

「また、そんなことを…」

 

 

 クレアの胸は充分にある。私よりも………私よりも遥かに大きい。(自分の胸を見て)

 何もそこまでやる必要性を感じえない。

 

 

「男の視線を釘付けにするには、胸が1番よ。完璧ボディの超絶美少女である私に死角はないわ。……まあ、サフィはサフィで需要アリそうだけど」

 

 

「喧嘩売ってますよね」

 

 

 クレアも充分に美人だし私なんかよりも遥に輝いているのは認める。

 くっ……この胸がもう少しあれば!

 と言うよりも『本当のお姫様』なのだからそんな男性に対して誘惑じみたことは個人的にはして欲しくない。

 

 

「この私、クレアリージュ・シャーロット・ソル・レオノールの専属侍女なんだからもっと自信を持ちなさい」

 

「侍女だからこそ影に徹するべきかと……」

 

「つまんないこと言わないで」

 

 

 頬を膨らませてムスッとされてしまった。

 クレアはレオノール家の第二王女であり私を侍女として雇っている雇い主であり友人でもある。

 だからこそ、ご主人様の従者として、友人としてもストリップショーの女性のようなことはさせたくありません。

 

 

「とにかく今回の初顔合わせは重要なものなんですから、私が指示した通りのサイズに着替え直して下さい」

 

「むっー、重要だからこそ必要なことでしょ〜?」

 

「い・い・か・ら……着替え直して下さい」

 

「ふぁい…」

 

 

 どうやら、私の誠意(睨み)が伝わったようです。

 私はメイキング担当にクレアの着替えの手伝いをもう一度お願いをして、クレアに着替えを促した。

 クレアは着替えを済ませると「これで良いんでしょ?」とむくれた顔をしていました。

 

 

「それよりも、私はドレスではなく従者らしい服装をすることを許可して下さい……。なんというか少し恥ずかしいです。っていうか、私関係ないですよね」

 

「それこそダメ。私だってドレスは恥ずかしいんだから。私だけ恥ずかしい思いをさせる気?」

 

 クレアの従者 兼 護衛付きの私は、いつでも何かあったときの為に動ける格好にしておきたかった。

 

「それはそうですが……クレア様はアホぅなので何もないところでつまづかないか気が気でないのです」

 

「今サラッと馬鹿にしたわよね…」

 

 レオノール家の代表としてクレアは今ここにいる。

 些細なことでもクレアの名前に傷が付くなんてことはさせたくない。万全の力でお助けしたいと言う気持ちが私の心には芽生えている。

 

「まあ、なにかあってもドレス姿のサフィが私を助けてくれるんでしょ? なんたって私の王子さまなんだからね」

 

 

「私は女性です」

 

 

 私は冷たく言い放つがクレアは「冗談冗談………半分は」とちょっと危ない発言をしています。

 だけど、今は私がクレアの隣にいますが、クレアもいつか相応しい良家の子息と結婚して本当に彼女の隣に王子様がいるようになれば、私がいつまでも彼女と一緒にはいられなくなるのだと思うと少し寂しく思う。

 

 

「サフィは結婚しないでね? 私が貰うから!」

 

 

「なんか、もの凄くキケンに歪んでますが………私に誰も貰い手がいなかったらそうして下さい。40年後くらいに」

 

 

「だいぶ、賞味期限切れてるわね……」

 

 

「それはもうシワくちゃですよ」

 

 

 クレアと私は昔からの友人関係だ。

 こういった異性を意識した会話もクレアとしかしたことがない。と言うのも私の近くに歳の近い同性はクレアしかいないというのもあります。

 もちろん数ある侍女の中では私と同年代の子もいるが、私はクレアのお気に入りということであまり良い顔をされず、それに私自身あまり愛想の良い人柄でないのも関係しているでしょう。

 

 私は携帯端末を操作し、昨日送られてきたアルマ・ルイゼンハートの資料を電子データで開く。

 

 

「そういえばルイゼンハートの英雄様ってイケメンなんだよね? ちょっとは期待できるかな」

 

 

「まあ、動画とか写真を見る限りはイケメンですよね」

 

 

 私がクレアの発言に呆れているところで迂闊にもクレアに端末を、ひょいと盗られてしまった。

 

 

「あ」

 

 

 私があっけからんとしている内にクレアは端末を操作して私の見ていた資料のページを移動させアルマさんの写真をデータを開いていた。

 

「ふーむ……確かにイケメンね」

 

「クレア様にはもったいないですよね。どうせ乳しか取り柄なくて変なオッさんと婚約されるしかないと思ってましたがこんな優良物件と結婚出来るだなんて……」

 

「私怒っていいわよね?」

 

 本気でクレアの優良結婚を憂いているのに何故か睨まれました。

 

「あんまり、私に拒否権があるわけじゃないし悲観もしてないけど、今は結婚とかその先の生活とかは現実味がないわね……。それにこのアルマって奴は私の趣味じゃないし」

 

 

 う〜ん……カッコいいとは思ったんですが。まあ、あくまで一般的に見た意見ですけど。

 っていうか、おそらくアルマさんの外見がどんなものでもクレアは嫌っていたと思います。このルイゼンハートとの婚約はクレア様は人質みたいなもの……。

 ですが、ルイゼンハートとレオノールの平和の印象付けとしては必要なものだ。

 

「それに、今思い出したけどこのアルマってヤツはあんまり良い噂は聞かないわ。なんか変人みたいだし」

 

「はあ、そうなのですか? 私はそう言った事情は詳しくありませんので知りませんでした」

 

 でも、今思い返せば「アルマ」と言う名前を侍女達の噂話から聞いたことがある。

 変人と言うほど直球な言い方はしないまでも、変わり者で女性に人気があると言うぐらいだが。

 

 

「まあ、こう言った仰々しいヤツほど意外に普通の人だったりするのかもね。結婚したら従者のサフィも私の世話で付いて来るんだから縁があるわよ。男は皆メイド服フェチだから気をつけなさいよ!」

 

 

「なんで一般的な男性の趣旨がメイド服大好きなのかよく分かりませんが、メイド服ではなく侍女の制服です」

 

 クレアの本家で侍女として働かせて貰っているときは、常に侍女の制服を着てクレアの身の回りの世話やフォローをしています。

 確かにクレアの言う通りメイド服と呼ばれがちでしょうが、立派な私の仕事服です。

 

 

「別に侍女でもメイドでも同じでしょ?」

 

「どうでもいいですが、これ以上アルマさんを貶すのはやめましょう………。まあ、きっとアルマさんなら、美少女の私のメイド服を見たらサルみたいなアホヅラして喜んでくれそうなのは否定しませんが」

 

「そこまで貶してない…」

 

 

 クレアは突っ込みを入れて「しかも、さりげなく自分を美少女だとアピールしてる」などと身も蓋もないこと言っていました、失礼しちゃいます!ぷんぷん!

 

 

「……アルマって人、良い奴だといいな」

 

 

 クレアはポツリとそんな言葉を漏らした。

 

 

「大丈夫ですよ。きっと良い人です。そんな気がします」

 

「ぇー……なにそれ。でも、ありがとう」

 

 

 私達は笑い合いながらクレアの婚約相手が待つ部屋へと向かった。

 私はアルマという男がせめてクレアを不幸にする相手でないことを祈りながら……

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