「パーティを組んだほうがいい」
お昼の賄いを食べている時に、突然リューさんに言われた一言。
「魔法を覚え、ダンジョン攻略にも、余裕が出てくるんではないでしょうか?」
確かに、一昨日レフィとダンジョンに魔法を試し打ちに行った時や、昨日一人でダンジョンに潜った時、以前とは違い中距離での攻撃ができるようになり、だいぶ楽になったと感じた。
「ロキ・ファミリアでパーティに入れないんですか?」
正直なところ、レフィのお陰で交友はあるが、まだ一人では声を掛けづらい。さらに遠征前だからか、若干ピリピリした空気があるから厳しい。
「なるほど」
「ならミャーと一緒にダンジョンに潜るにゃ!」
横で会話を聞いていたアーニャさんが指を僕の頬に突き刺しながら言う。
「白髪頭も水臭いにゃ、ミャーに頼めばダンジョンぐらい、一緒に行ってあげても良いニャー」
「アーニャが一緒にだと、どうせ足を引っ張るだけニャ」
「店をサボりたくて言ってるだけでしょ、あんたにそんな暇がいつあるんだか」
クロエさんとルノアさんの容赦の無い言葉がアーニャさんを襲う。
「にゃんだとー!ニャーはおみゃーらよりダンジョンに詳しいニャー!」
アーニャさんはクロエさんとルノアさんのいつもの口喧嘩が始まる。
「アーニャの事は置いておいて、サポーターと一緒にダンジョンに潜るだけで、一人での負担は大きく変わります」
リヴェリアさんの講座でも、ダンジョンでの死亡のリスクを減らすなど、パーティのメリットは沢山学んでいる。
実際に一人でダンジョンに潜り、死にかけた事もあったし。
「まぁ、無理にとは言いません。貴方が決める事です」
そう言ってリューさんは、最後の一口を食べ終える。
僕も暴れていたアーニャさんが、ミアさんに「やかましい!」と拳骨をくらうのを見ながら、最後の一口を食べ終えて、豊饒の女主人を後にする。
ちなみに皿洗いは、騒いだ罰でアーニャさんになった。
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「パーティを組みたい?私と?」
僕はポーションを買うために、ナァーザさんのお店に訪ね、ダメ元でナァーザさんをパーティを誘った。
「無理だね」
結果は撃沈。
「いやね、私がベルとパーティを組むのが嫌と言うわけではなくてね、私にはトラウマがあるんだよ」
「トラウマですか?」
「そうさ、私達は体の傷は癒せても、心の傷は治せないんだ」
ナァーザさんは一度深く息を吸って、吐き出す。そして僕の僕を見てゆっくりと話し始める。
「私はモンスターにこの腕を食われた事があるんだ、それからモンスターの気配がある所では、私は動けなくなる。
死んでしまうと感じた恐怖を私の体が、私の心が忘れられないんだ
……だからベルとダンジョンに入っても、私は足を引っ張るだけの置物になる」
僕は驚く。
「……ナァーザさんも死にかけた事があるんですね」
「昔の話さ、今は生きているし、薬作りは楽しいからね」
「すみません、そんな話をさせてしまって」
「謝らなくても良いさ、話をしたのは私だよ」
それでも…
「だから、ベル。私は君を凄いと思う。一度死にかけたのに、ダンジョンに挑戦し続ける君が」
「……」
僕は何も言えなかった。
「まぁ、悪いと思ってくれるのなら、また薬を買いに来てよ。これからもずっと……ね」
生きて帰って来て、ダンジョンに挑み続けるならまた必要になるだろう。そう言ってナァーザさんは笑顔で見送ってくれた。
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〜ギルド前 広間〜
ここまで来たのは良いものの。
「結局ソロで、ダンジョンに入っちゃうんだよな〜」
一応フィンさんに、十階層までだったらソロで潜っても良いと言われてはいるけど、リューさんの話を聞いた後では、なんとなく入りづらい。
……入るけど。
若干気乗りしないまま、一歩踏み出そうとたが
「お兄さん、お兄さん」
自分と思しき物を呼ぶ声に、行動を中断された。
「えっ?」
声の下方向に振り向く。
しかし自分に近づいては追い抜いていく冒険者達が視界を過るだけで、声の人物らしき者は見当たらない。
「お兄さん、下、下ですよ」
少女の声に従って下を向くと、いた。
身長およそ百センチ、クリーム色のゆったりとしたローブを身につけ、深くかぶったフードから栗色の前髪がはみ出ている。
背には、その小さな体よりひと回りもふた回り、いやもっとそれ以上に大きい、思わずぎょっとするようなバックパックを背負っていた。
「……君は?」
「お兄さん。突然ですが、サポーターなんか探していたりしませんか?」
そう言った少女は人差し指を僕の背へ向けた。
示す方向にあるのは僕のバックパック。
ソロと思われる冒険者がバックパックを装備している光景を見れば、誰であってもその心中を察するのは容易だ。
……なるほど。
「混乱しているんですか?でも今の状況は簡単ですよ?冒険者さんのおこぼれにあずかりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです」
少女はお日様のようににこっと笑ってみせた。
「……?お兄さん、意外と落ち着いてます?何か反応していただけると嬉しいのですが?」
少女は首を傾げる。
「……っあ、すみません。少し驚いてて」
「それでお兄さん、どうですか、サポーターはいりませんか?」
「ええっと……で、できるなら、欲しいかな……?」
「本当ですかっ!なら、私を連れていってくれませんか、お兄さん!」
少女の笑顔から見える大きな瞳は、僕の目をしっかりと見ていた。
「よろしくお願いします」