アイズさんがLv.6になったと聞いたのは、ティオナさんとティオネさんの二人と、一緒に朝食を食べているときだった。
「アイズさんランクアップしたんですか?」
「そーなんだよ、昨日の夜一緒にご飯食べてたらさー、いきなり言うんだもん」
「先を越されちゃったわね」
二人は少し悔しそうで、けどとても嬉しそうに話します。
「アイズ、ベルと一緒に訓練するようになってから、なんていうか少し変わった感じがするのよね、落ち着いた感じがする」
「そうなんですか?けど朝の訓練は楽しそうにしてますけど」
「あぁ兎狩り?」
「ぶふぅ!!」
ティオネさんの言葉に思わず、口に含んでいた食事を吹き出してしまう。
「兎狩りって、なんですか⁉︎」
「知らないの?あんた達の訓練を見て誰かが言ったのよ。兎を狩っているみたいって」
確かに、ベルに容赦の無いアイズさんですが。まさかそんな風に言われているなんて……
「アイズもだけどレフィーヤもちょっと変わったよね」
「っえ、そうですか?」
「そうね、怪物祭から自分に自信が戻ってきてる感じがするわ」
「……そうですね」
口の周りを拭きながら、あの日の事を思い出す。
ベルが私を必要としてくれたから、私も前に進まなきゃと思った。
「アイズがもしベルとの訓練で強くなれたのなら、今度私も兎狩りに参加させてね」
「私も私も、兎くんと闘ってみたかったんだよね」
「是非、お待ちしています」
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お昼が過ぎ、リヴェリア様との訓練も終わって、私はある場所に向かっていた。
『レフィーヤ、すまないがこの後、遠征用の薬を取りに行ってもらえないか』
私はリヴェリア様に頼まれ、用事も特には無かったのでお使いに出向いている。
店に着き扉を開け中に入ると、一人のお客と店主がカウンターで座っているのが見えた。
「いらっしゃい、おや次は【千の妖精】かい」
「ナァーザさんそっちの名前で呼ばないでください……。次?私の前に誰か来たんですか?」
「君のペットの兎くんが来ていたよ」
私のペットって……
「今日は、ファミリアの頼んでいたものを取りにきました」
「あぁ、少し待っててくれ、持ってこよう」
そう言ってナァーザさんは奥の部屋に入っていった。
ナァーザさんが戻って来るまで、展示している商品でも見ようと思っていたが、私は商品を見る事は出来なかった。
「レフィーヤさん……でよかったかな?」
私は先程ナァーザさんと一緒にカウンターに座っていた、彼女が話しかけてきたから。
「私はフィルヴィス・シャリア、初めまして。貴方と話をしたいと思っていたんだ」
フィルヴィスと名乗った彼女は綺麗で真っ直ぐに伸びた黒い髪に、汚れのない白い肌で、心から美しいエルフの女性だと私は思った。
「どうした……?」
はっ!
見惚れ少しぼーっとしていた。
「すみません、私はレフィーヤ・ウィリディスです」
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フィルヴィスさんと少し会話をし、彼女はどうやら先日の怪物祭の時、アイズさん達と花のモンスターと闘う私を見ていたと。
その後、この店でナァーザさんが私がたまに来る事を聞いて、私に会う為に暇な時は店に来るようにしていたと。
「こんなに早く会えるとは思っていなかったが」
「私に感謝してね」
話の途中で戻ってきたナァーザさんも会話に混ざっていた。
「傷つきながらも闘う貴方に私は目を離せなくなり、同じエルフとして話がしたかった」
「いえ、あの時は必死で」
「正直あの傷で動けるとは思わなかった、闘っていた三人でも負ける事は無かったと思うが……、どうして貴方は立ち上がった」
どうしてか……
私は少し考えてから、言葉を出す。
「みんなを守りたかったから」
だれかのペットの白兎のおかげで、私もそう思えるようになったんでしょうね。
「そうか」
フィルヴィスさんはそう一言口にして、満足そうな顔で笑った。
少しの沈黙の後、ナァーザさんが外の様子を伺ってから私に質問をする。
「ところでレフィーヤさん、今日は一人で来たのかい」
「……?えぇ、そうですが」
「あー、頼まれてたもの全部用意してるんだけどさ……」
煮え切らない様子で言葉を繋ぐナァーザさん。
「どうかしましたか?」
何か不都合でもあるのだろうか?
少し不安になる。
「一人で運ぶの多分無理だよ」
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「すみません、運ぶのを手伝ってもらって」
ナァーザさんが用意した薬の量は、私が思っていた二倍はあり、無理をすれば一人でも運ぶ事は出来そうだが、転んだりして薬を落としてしまった時には大変な事になる。
なので一度ホームに帰り助っ人を連れてこようとしたら、フィルヴィスさんが「私でよければ手伝おう」と申し出てくれて、一緒に運んでいる途中だ。
「尊敬する同胞が困っているんだ、手伝わせてくれ」
「尊敬だなんて」
そんな事を言われたのは、初めてでとても嬉しかった。
その後も色々な事を話しながら、ロキ・ファミリアのホームに帰り、門番の方と一緒に荷物を中に入れた。
「フィルヴィスさん、本当にありがとうございました。このお礼は必ずさせていただきます」
私は深々と頭下げてお礼言う。
「気にするな、私がしたかった事だ」
「……でも」
「そんな顔をしないでくれ。わかった、では私のダンジョン探索に付き合ってくれないか?」
「っえ?私がですか?」
「そうだ、貴方と一緒にダンジョンを潜ってみたい」