英雄達   作:人類最強の請負人

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36話VSミノタウロス

 

 

〜ダンジョン九階層〜

 

 

それは、突然だった。

 

探索も終わりにして、地上に帰ろうとした時だった。

 

天災のような。

 

運命のような。

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

僕達は再び出会った。

 

「何で、あれがここにいるんですか⁉︎」

 

忘れもしない。

 

「逃げましょう、アル様⁉︎」

 

いや、僕は忘れていたのかもしれない。

 

「アル様⁉︎」

 

ダンジョンの恐怖を。

 

 

 

><><><><

 

 

 

空は暗く日が出る前だった。

 

人がまだ起きていない時間に目を覚まし、ダンジョンへ向かう為の装備を整える。

 

戦闘の邪魔にならない程度の小さめのバックバックを腰に着ける。

 

アイズさんに貰った短剣をレフィから貰った短剣を二本ともホルダーに挿す。

 

レフィが買ってくれた装備を装着し部屋を出る。

 

まだ誰も起きておらず静かなホーム。

 

今日ロキ・ファミリアは遠征に行く。

 

みんな万全の状態で挑む為に休んでいるのだろう。

 

廊下の真ん中を歩いて、僕は中庭へ向かった。

 

あの人に会う為に。

 

中庭に着くと、貴方は先に待っていた。

 

中庭の真ん中でデスぺレードを持ち素振りをしている。

 

こちらに気づくと、素振りをやめてこちらに笑いかける。

 

「おはよう、ベル」

 

「おはようございます、アイズさん」

 

昨日ホームに帰った際に、アイズさんから明日の誰も起きていない早朝に訓練をしたいと言われていた。

 

フィンさんから一旦止めるように言われていたが、「バレなかったら、大丈夫…?」とアイズさんは言った。

 

もちろん断る訳もなく、誰も起きていないこの時間に行われる事となった。

 

レフィに言うかどうか迷ったが、遠征の日の早朝に起こすのも悪いと思い黙っておく事にした。

 

「なんだか久しぶりだね」

 

「そうですね、皆さん忙しそうでしたから……」

 

「うん、みんな気合が入ってる」

 

体を伸ばしながらアイズさんと会話をする。

 

「最近はダンジョンに行っているって聞いたよ」

 

「そうですね、九階層までで探索をしています」

 

「豊饒の女主人で働いてるって噂も聞いてるよ」

 

……バレてる

 

別にやましい事をしている訳ではないけど、なぜか後ろめたかった。

 

「……少しだけお手伝いをしてるだけですよ」

 

「……」

 

「……」

 

会話が終わり、アイズさんと向き合う。

 

人の気配も、風もなく、この迷宮都市が眠っている様に感じる程静かだった。

 

静寂を切り裂くように、腰から短剣を抜きアイズさんに斬りかかる。

 

アイズさんは僕の攻撃を躱して、デスペレートを振り払う。

 

何とか短剣で受け流し、アイズさんと距離を取る。

 

「反応が良くなってるね」

 

今度はアイズさんから攻撃を仕掛けてくる。

 

アイズさんは正面から突き刺す、短剣で受け流す。

 

反撃を仕掛けるが、体を捻りながら避けられる。

 

その勢いのまま蹴りが来るが、腕でガードをする。

 

「っぐ……!」

 

痛い、けれど耐えられる。

 

足を押し返し、反撃する。

 

アイズさんは後ろに距離を取った。

 

「……驚いた。少し前だったら痛みで動けなくなっていたのに」

 

武器を下ろし、驚いた表情でアイズさんは言った。

 

「この九日間、痛みに耐えられるように鍛えられましたから」

 

時間にしてたった二十秒もないほどの攻防だったが、自分の成長に確かな手応えを感じることができた。

 

「うん、今のベルなら安心できる」

 

「ありがとうございます。アイズさんお気をつけて」

 

「ありがとう。ベルも頑張って」

 

 

 

-------

 

 

 

黄昏の館を出た僕は、リリと待ち合わせをしているギルドの前に歩いて向かっている。

 

空には太陽が昇りだし、うっすらと陽が出始める。

 

街にはちらほらと人が起き始め、掃除をする者、開店の準備をする者、装備をした同業者達が見え始めた。

 

「こんな朝早くに会うなんて奇遇だね」

 

道の真ん中に立っていた眠そうな目をした犬人の彼女に声をかけられる。

 

「おはようございます、ナァーザさん」

 

「おはよう。今日はこの時間にダンジョンに向かっているのかい?」

 

「はい。今日の正午からロキ・ファミリアが遠征に行くので」

 

「そう。じゃあそんなベルにプレゼントをあげる」

 

ナァーザさんはポケットから一つの小瓶を取り出して、僕の手に握らせた。

 

「何ですか、これ?」

 

普段からお世話になっている回復薬とは少し色も入れ物も違う物だ。

 

「最高級回復薬、エリクサーだよ」

 

「えぇ⁉︎そんな高い物受け取れません!」

 

「人の好意は受け取っておきなよ。普段からうちの店でポーションを買ってもらっているし、そのお礼だと思って」

 

ナァーザさんは、気をつけてねと言って帰って行った。

 

貰ったエリクサーをバックパックにしまい再びギルドに向かって歩き出す。

 

 

 

-------

 

 

 

「おはよう、リリ」

 

待ち合わせ場所に着くと、すでにリリは待っていた。

 

「おはようございます、アル様」

 

挨拶を交わし、まだ冒険者の少ない時間に二人でダンジョンに向かう。

 

「アル様。今日までリリにお付き合い頂き、本当にありがとうございました」

 

歩きながら、突然リリがそんな事を話す。

 

「ううん、僕こそ沢山ダンジョンの事を教えてくれて助かったよ。ありがとうリリ」

 

今日が最後だと思うと少し寂しい気持ちになった。

 

「もし…、もし、またリリを見かけたら一緒にダンジョンに潜ってくれる?」

 

リリとの約束は今日までだけど、これが最後になるなんて嫌だと思った。

 

少し進んだ先でリリの足音が無くなっている事に気づく、振り返るとリリは顔を伏せて立ち止まっていた。

 

「……リリ?」

 

動かなくなったリリに手を伸ばそうとすると、リリは顔を上げた。

 

「もちろんです!リリを見つけてください!」

 

そう言った彼女の顔は笑顔だった。

 

歩き出したリリは僕を抜かして、置いていかれないようついていく。

 

 

 

><><><><

 

 

 

「たどり着く先は英雄か

 

「それとも道化師か

 

「それとも未知か

 

「殻を破れ、他者の手などはねのけろ

 

「冒険に臨め、お前の見るべきは前だけだ

 

「あの方の寵愛に、応えろ」

 

 

 

><><><><

 

 

 

足が震えて動かない。

 

これは誰の足だ?

 

逃げなきゃ

 

腕が上がらず武器を構えることができない。

 

この腕は誰の腕だ?

 

逃げなきゃ

 

恐い。

 

あの怪物を再び目にした、僕は動けない。

 

逃げなきゃ

 

怪物が武器を引きずりながら、一歩一歩近づいてくる。

 

真っ直ぐと僕に向かい、歩いてくる。

 

逃げなきゃ

 

獰猛な息遣いが、僕の耳にこびりつく。

 

気づけば、怪物は目の前に立っていた。

 

逃げなきゃ

 

怪物は武器を振り上げる。

 

僕は動けなかった。

 

逃げなれない

 

怪物が大剣を振り落とす。

 

「アル様‼︎」

 

僕はリリに大きく突き飛ばされる。

 

直後にダンジョンに響く轟音が、怪物の力の威力を知らしめる。

 

怪物は振り下ろした大剣を持ち上げてこちらを向く。

 

突き飛ばされ倒れた僕は、立ち上がり怪物に対面する。

 

「……うっ、アル様、逃げて」

 

恐い。

 

けれど僕の後ろでリリの声が聞こえた。

 

守る為に闘う。

 

相手を倒す必要はない。

 

リリを逃す為に僕は立ち向かう。

 

「……リリ逃げて」

 

足の震えは止まらない。

 

けれど僕の足は動かせる。

 

腕を上げて武器を構える。

 

憧れの武器を握った僕の腕。

 

「ダメです、アル様も一緒に!」

 

僕はリリを安心させる為、出来るだけ落ち着いて声を出す。

 

「リリが逃げたら僕も逃げるよ。二人で逃げても追いつかれる、だから僕を助ける為に早く」

 

嘘ではない、状況を考えるとこれが最善だ。

 

覚悟は決まっている。

 

リリの表情は見えないけれど、残酷な事をさせてしまった。

 

「リリ早く!」

 

「っく、アル様生き延びてください。あの方々が遠征でダンジョンに入ってるかもしれません」

 

リリの声がだんだんと離れて行く。

 

「ロキ・ファミリアを連れてきます。それまで絶対に死なないでください⁉︎」

 

リリの足音が聞こえなくなり、広間は静寂に包まれる。

 

怪物はまるで邪魔者が消えるのを待っていたかのように動かずにこちらを見ていた。

 

「僕が相手だ」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

しかし心の中の恐怖が消えるわけではなく、闘う構えをしてはいるが一歩が出ない。

 

そんな僕を気遣うわけもなく怪物は迫る。

 

震える手を反射的に突き出し、叫んだ。

 

「っく、ファイアボルトォオオオ⁉︎」

 

咄嗟に出た唯一の遠距離攻撃。

 

「ブゥオ⁉︎」

 

緋色の雷が怪物をはね返す。

 

僅かだが、けど確かに、あの怪物が、後退した。

 

ほんの少しの、勝機にはほど遠い淡い希望を宿す。

 

僕は取りつかれたように魔法を使い始めた。

 

「うああああああああああああああああっ⁉︎」

 

撃つ。

 

撃つ。

 

撃つ。

 

炎が怪物の巨体を何度も炸裂する。

 

僕は魔法に縋った。

 

唯一の怪物の射程外からの遠距離攻撃。

 

願わくばこのまま倒れてくれと祈りながら魔法を乱射する。

 

「はぁ、はっ……!」

 

正気に戻って魔法を中断する。

 

視界は黒い煙に埋めつくされている。

 

僅かな気だるさ、精神疲労の一歩手前の状態。

 

「レフィ……っ!」

 

また彼女に救われた。

 

あのまま魔法を乱射していれば、僕は倒れていただろう。

 

あの日、レフィに教えてもらわなければ、今僕は立ってはいなかっただろう。

 

目の前には怪物の形が見えない。

 

ーーーーやっ、た?

 

冷静になった僕は、炎の残滓が舞っている空間を前に、突き出していた腕をさげけた。

 

「ンヴゥッ」

 

絶望が耳に届く。

 

黒煙が揺らめき、その中から巨腕が突如として伸びてくる。

 

下からアーチを描く岩のような拳は、僕の腹に吸い込まれるように収まった。

 

衝撃が爆ぜた。

 

「がっっ⁉︎」

 

視界の振動。

 

体の中の空気が引きずり出され、状況を把握しきれないまま後方に飛ばされた。

 

一つ理解した事は、僕は沢山の人に助けられたということ。

 

アイズさんに教え込まれた無意識の反射で攻撃を受け流し。

 

豊饒の女主人で叩き込まれた痛みに耐えれる精神。

 

そしてレフィに貰った装備。

 

この全てが、今の一撃から僕を救ってくれた。

 

しかし絶望的なLvの差。

 

即死しなかっただけだ。

 

僕は決河の勢いで吹き飛んで、ダンジョンの壁に叩きつけられた。

 

「〜〜〜〜〜〜っ⁉︎……ぁ、ぎ⁉︎」

 

壁面が破れる。

 

半ば壁に埋まるような格好で、僕はふりかかる痛みの渦に悶え苦しんだ。

 

ずるりと地面に尻をついた僕に石片がふりそそぐ。

 

装備は壊れた。文字通り。

 

鎧はバラバラに瓦解する。

 

上半身ボロボロになったインナー一枚にしながら、僕は震える足で何とか立ち上がった。

 

「フゥウウウウウウウウッ……!」

 

苦笑した。

 

ダメージなし。

 

あれだけの魔法を被弾してもなお、怪物は五体満足。

 

歯が、立たない。

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎」

 

リリは逃げれただろうか。

 

----勝てない。

 

雄叫びをあけるミノタウロスは、絶望にしか見えなかった。

 

僕は倒れた。

 

-------

 

ーーーーー

 

ーーー

 

『ロキ・ファミリアを連れてきます』

 

「っは!」

 

薄れ行く意識の中で思い出した、リリが言っていたこと。

 

僕は何をやっている。

 

また、助けられるのか。憧れに。

 

僕が、このオラリオに来て何を目指した。

 

違うだろ!

 

約束しただろ。

 

生きて帰るって!

 

短剣を握り地面に突き刺して、体を起こす。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!」

 

強者に吠える。

 

「レフィーヤ・ウィリディスに、もう心配させるわけにはいかないんだっ!」

 

自分を鼓舞する咆哮。

 

英雄を目指した僕の冒険。

 

僕は立ち上がり、目の前の怪物に対峙する。

 

怪物が目を見開き、そして……

 

笑った…?

 

しかしそんな事はどうでもいい。

 

「勝負だッ……‼︎」

 

僕は冒険者なんだ。

 

 

 

-------

 

 

 

痛む体の悲鳴を無視して、駆け出していく。

 

大剣を振り回す怪物の攻撃を避けながら、懐に入り込み短剣を閃かす。

 

避け切れない攻撃は受け流す。

 

怪物の一挙一動を見逃さないように立ち回る。

 

短剣で傷つけ、魔法で撹乱する。

 

一撃でも喰らえば終わりの理不尽な暴力。

 

しかし冷静だった。

 

怪物の攻撃が見える。

 

落ち着いて考えればわかった事だ、この怪物が憧れより強いはずがない。

 

魔法を乱打し、自らの視界を悪くしたのは悪手だった。

 

今までの経験が全て僕になる。

 

怪物と僕の攻防。

 

しかし、タイムリミットが近づいてくる。

 

ダメージを抱えた体がいつまでも避けれる訳もなく、だんだんと余裕がなくなってくる。

 

終わりは突然だった。

 

視界が揺らめき、足が一瞬止まる。

 

「ーーーーーウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

怪物が見逃すはずもなく、決死の一撃を屠った。

 

「……っぐは⁉︎」

 

装備もなくなり、攻撃を受け流す事が出来ず、再び広間の壁まで吹き飛ばされ激突する。

 

「ベルッ‼︎」

 

レフィの声が聞こえた気がした。

 

何とか立ち上がるが限界だ。

 

足が棒のように頼りなく踏ん張れない。

 

かろうじて腕が少しだけ動かせる。

 

口から血を吐き出す。

 

もう足が動かせない。

 

怪物は大剣を構え、僕を待っているように見えた。

 

あの時も痛む足で動けなかったな。

 

レフィが短剣を僕にくれたから、シルバーバックに立ち向かう事が……

 

レフィの短剣を取り出そうとすると、バックパックに手が当たる。

 

思い出す。

 

バックパックかは取り出したそれは

 

「エリクサー……」

 

希望が灯る。

 

今朝、偶然貰った最高級回復薬。

 

僕はまだ闘える。

 

一気に飲み干し、空になった容器を投げ捨てる。

 

体の痛みが引いていく。

 

腕を上げて、残り少ない精神で放つ。

 

「ファイアボルト!」

 

同じように繰り返しても勝てない。

 

「ファイアボルトォッ!」

 

たった一つ、全てのモンスターの共通の弱点。

 

走り出し、怪物の懐に入り込み、攻撃を躱す。

 

「あああああああああっ‼︎」

 

短剣を猛牛の魔石の位置に突き刺す。

 

しかし、刺さった短剣は魔石に届く前に折れてしまう。

 

今までありがとう。

 

逆の手で腰のレフィの短剣を全く同じ場所に突き刺す。

 

「ウヴオオオオオオオオオオオオォォォ」

 

猛牛は最後の咆哮を上げて崩れ去った。

 

 

 

勝者 ベル・クラネル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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