今、私の目の前には絶対的な恐怖が居る。
目の前に立つ恐怖の象徴に私は蛇に睨まれた蛙のような心境だ。
しかし、これは私の行動の代償に過ぎず、理不尽な状況というわけではない。
私の行動が今この状況を作り出した。
足が痺れ、頭が上がらなくなりいったいどれだけの時間が過ぎただろうか。
けれど、私は解放されない。
もしもこの場に英雄がいるとしても、私を助ける事なんて出来ないだろう。
私が望まない。
この状況は、私が正しいと思って行動した代償であり、対価なのだから。
あの時の行動を後悔する事を私は絶対にしない。
一秒にも一時間にも感じるような時間の流れの中、口の中が乾燥し胃酸が逆流しそうになる程の重圧に耐えながら、思考する。
あの兎の様な、冒険者はいま何をしているのだろうか。
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〜ダンジョン 五十階層〜
モンスターが産まれない安全階層にて、私たちロキ・ファミリアは野営地を形成していた。
遠征の間に挟まれる大規模な休息である。
私はみんなと一緒に作業を行うが、集中出来ていない。
そんな中で、作業音とはまた違ったざわめきが起こっていた。
「どうしたんスか、ベートさん達……」
「こっちが聞きたいわよ……」
「みなさん、いつにも増して荒々しいです……」
ラウルさんを達を筆頭に猫人のアキや少女のリーネなど、第二級以下の方々は時折及び腰になりながらひそひそ話を交わしていた。
彼らの視線の先にいるのは女戦士の双子や狼人の青年を始めとした第一級冒険者達である。
第双刃をしまいもせず「う〜ん!」と唸って同じ場所を行ったり来たりしているティオナさん。
同じく湾短刀を両手に持ちながら無言でくるくると回すティオネさん。
ベートさんに至ってはその鋭い剣幕で鍛治大派閥の上級鍛治師達を怯えさせる始末だった。
落ち着きがなく、一言も喋らず周囲を歩き回る彼等の雰囲気にラウルさん達はうろたえ、本営の側で指示を出しているフィンさん達も彼等に嘆息している。
それに、先ほどから一枚岩から動かずに階層の景色を眺めるアイズさん。
一体憧れは何を想うのか。
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〜ミノタウロス撃破〜
ベルの胸で散々泣き喚き、落ち着くまでボロボロになったベルに背中をさすられていた私はやっとベルから離れた。
ベルは申し訳なさそうに笑みを浮かべて「大丈夫だよ」と一言言った。
私達の様子を見守っていたリヴェリア様は声をかける。
「ベル、色々言いたいことはあるが、最初におめでとうと言葉を送ろう」
そう言ながらリヴェリア様は身にまとっているローブを外してベルに着せる。
「そんな格好のまま地上に戻れば、好奇の目に晒されてしまうからな、これを貸してやる」
そのままリヴェリア様はベルに横になるように言って診断を始める、リヴェリア様の後ろでベルを見ながら私は診断が終わるのを待つ。
「傷はエリクサーで塞がっているが、血を流しすぎているな。ベル、ダンジョンを出たらアミッドにも見てもらえ」
「はい、ありがとうございます」
ベルは立ち上がり御礼を言う。
すると、突然ベルの顔が青ざめベルは私達に尋ねる。
「誰か、リリを見ませんでしたか⁉︎」
そばにいたリヴェリア様は肩を掴まれて、必死なベルに驚いていたが、落ち着かせる様に優しく宥める。
「落ち着け、リリとやらは誰の事だ、私達が着いた時は誰もいなかったぞ」
「一緒にダンジョンに潜っていたんです。小人族の女の子で、ミノタウロスに襲われた時に先に逃したんです⁉︎」
小人族と聞いて思い出す、ここに来る道中に出会った人物を。
あの小人族はベルを知っていた、おそらくベルが言っている小人族とは私が出会った小人族の事だろう。
「ここに来る途中で私が出会いました。フードを被っていたので顔はよく見れなかったですけど、ちゃんと地上に向かって逃げていましたよ」
それを聞いたベルは安心したのか、リヴェリア様から手を離して安堵する。
私は少し嘘をついた。
あの小人族が地上に逃げていたかなんて知らない。
『彼の邪魔はしないでください』
それに、あの小人族の言葉の真意はわからないがベルに伝えようとは思わない。
ベルから解放されたリヴェリア様はこちらに向き、私の耳元でベルに聞こえないように言葉を話す。
「少しベルが心配だ、道中モンスターに遭遇はしないと思うが念の為一緒に地上まで同行してやれ」
是非も無い言葉に私は頷きベルの手を引っ張り歩き始める。
「行きましょう、ベル」
やはり血が足りていないのか、おぼつかない足取りで私に数歩遅れてついてくる。
なるべく、ゆっくりと、ベルの歩幅に合わせて歩き私は地上を目指した。
そんな私達を後ろから見送る第一級冒険者達は声をかけず見送りいったい何を想うのか。
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そんな事があって、途中ガレスさん達の出会ったり、地上でベルをアミッドさんに預けて、一人で十八階層まで潜り、何とか合流した。
あの闘いを見た人はここに来るまでの道中も前回と様子が違い、必死というか、がむしゃらにモンスターを蹴散らしていた。
そんな事を思い出しながら、野営地の準備もだいぶ進みもう少しで完了しそうなところで私はリヴェリア様に呼ばれた。
一緒に作業していたエルフィに大丈夫だよと手を振られ、私は作業をやめて中央に佇むテントの中に入る。
そこで待っていたのは、正面に団長、その右手にガレスさん、左手にはリヴェリア様が、三人は私を見る。
テントの中の空気は重く感じた。
というよりは、団長とガレスさんは少し困った表情でリヴェリア様は……
「レフィーヤ……」
たった一言、リヴェリア様が私の名前を呼んだだけで私の全身から汗が噴き出る。
リヴェリア様が本気で怒っている時の声色だと理解した。
「なぜ呼ばれたかは理解しているな」
恐らく、いや間違いなく九階層での出来事だろう。
みんなが闘いを止めようとした時に、私は止めようとした第一級冒険者達の前に立ち塞がったからだ。
理解した私の行動は早かった。
硬い地面の上に布一枚引かれたテントの中で正座をして頭を下げた。
ロキが言っていた最上位の謝罪の姿勢、土下座を行なっていた。
頭を下げている為、リヴェリア様が今どのような表情かはわからない。
今、私の目の前には絶対的な恐怖が居る。
目の前に立つ恐怖の象徴に私は蛇に睨まれた蛙のような心境だ。
しかし、これは私の行動の代償に過ぎず、理不尽な状況というわけではない。
私の行動が今この状況を作り出した。
足が痺れ、頭が上がらなくなりいったいどれだけの時間が過ぎただろうか。
けれど、私は解放されない。
もしもこの場に英雄がいるとしても、私を助ける事なんて出来ないだろう。
私が望まない。
この状況は、私が正しいと思って行動した代償であり、対価なのだから。
あの時の行動を後悔する事を私は絶対にしない。
一秒にも一時間にも感じるような時間の流れの中、口の中が乾燥し胃酸が逆流しそうになる程の重圧に耐えながら、思考する。
あの兎の様な、冒険者はいま何をしているのだろうか。
「はぁ……、頭を上げろレフィーヤ」
どれだけの時間土下座をしていたかわからないが、リヴェリア様から頭を上げる許可を貰い私は頭を上げようとした。
「っこのバカ弟子が!」
顔を正面に上げた瞬間、怒号と共にLv.6の拳骨が脳天に突き刺さる。
「ーーーーいっつぅ⁉︎」
あまりの衝撃に頭を上げられず、今度は完全に額が地面にくっついた姿勢になった。
「この一発で今回の件は不問にしてやる、お前も充分に理解しているようだからな」
声色が戻り、リヴェリア様はその場で膝をつき私の頭を上げさせると、優しく頭を撫で始めた。
「もしベルがあの場で死んでいたらどう思う、お前にも考えがあったのだろうが、あの場面は助けるのが家族として当然だろう」
「はい、重々承知しています」
「帰ったらベルに詫びの一つでもしてやれ、これが許す条件だ」
「わかりました」
その後痛みが和らぐまで頭を撫でてもらい、団長とガレスさんに温かな目で見守られていた。