目を開くと知ってる天井だった。
「レフィ……?」
多分、前と同じ病室のベットで目が覚めた。
朧げな意識の中、覚えている記憶は怪物との死闘とレフィが泣いていた事。
「僕が泣かせたんだよな……」
胸が苦しくなる。
レフィにこれ以上心配をかけさせたく無いと思っていた。
右手を上げ顔の前で拳を握り額に当て目を瞑る。
「僕は弱い……」
「何、悲劇の主人公みたいな事言ってんねん」
突然の横槍に驚き声の方に顔を向けると、そこにロキ様がいつもと変わらぬ笑顔で座っていた。
「また大変な目にあったんやってな、オラリオに来てから波瀾万丈すぎるで。ベル」
「本当にいろんな目にあいましたね」
苦笑しながら言い返す。
「オラリオは楽しいやろ」
苦しい事、痛い事、辛い事、確かにオラリオに来てから沢山傷ついたけど。
「すごく楽しいです」
それらを全部帳消しにしてくれるほどにオラリオは楽しい。
家族ができて、憧れができて、守りたい人が沢山できて、支えてくれる人達ができて。
「ベル」
「はい?」
「おかえり」
「……ただいま。ロキ様」
僕は恵まれている。
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その後、目を覚ました事をロキ様がアミッドさんに伝えると、診断をしてもらい。「特に異常は見られません」とお言葉を頂きホームに帰ってきた。
黄昏の館にはいつもとは様子が変わり人が少なぬ静かに感じた。
「そりゃそうや、みーんな遠征に行っとるんやから。ここに残っとるんは館の警護の人間だけや」
そう言いながら、ロキ様は僕を主神室まで連れていく。
部屋に入るとロキ様はベッドに座り手招きする。
僕はベッドの横に置かれている椅子に座る。
「ほら、はよ脱ぎ」
今はもう慣れ上着を脱ぐのに抵抗は無くなり、ステータス更新をする。
最初の頃はロキ様に撫で回されたりもしてたけど、「うちの罪悪感がぁ…」と言って最近は何もしてこなくなった。
少し前の事を思い出しているとどうやら終わったようだ。
「おおかた話はレフィから聞いとったんやけど、やっぱりというか、そうやろうなぁ」
書き写したステータスを見ながらロキ様はため息をついた。
「Lv.2やベル。よう頑張ったな」
ステータス、オールS
僕のLv.1での最終ステータス
このステータスが異常な事に僕はまだ気づかない。
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〜豊穣の女主人〜
「今日は貸し切りにゃ〜‼︎」
あれから数日がたち、お世話になった方々にランクアップの報告をしていたら、いつの間にか豊穣の女主人での宴会が決まっていた。
飲み会と言っても、集まっているのは豊穣の女主人の従業員だけでの宴会である。
僕の為だけに貸し切りにするのは申し訳ないと断ったのだけれど、ミアお母さんに『私の料理が食えないのか』と言われて断りきれなかった。
「ほら、はしゃいでないでちゃっちゃと料理運んじゃうよ。ベルは沢山食べるんだから」
僕以外の皆は、テーブルを一つの場所に集めてその上に次々に料理を運んでいく。
従業員の皆と一緒に食べるから、最初に一気に料理を作って皆で食べれるようにする為だ。
もちろん、足りなくなればその都度料理を作れば良い。
しかし皆が運ぶ料理のほとんどは僕の近くの席に置かれていく。
あの死闘の前日に財布を空にするまで食べた僕をミア母さんは知っているから、僕以外が女性だけの宴会では食べきれないと思われる量の料理が運ばれる。
「こいつで一旦最後だよ。飲み物も適当に持っていきな」
着々と準備が進み、流石飲食店の従業員だけあってものすごい早さで料理が運び終わる。
調理組は切り上げてエプロンを外し、普段あまり見る事のない私服の姿で着座していく。
それはホールの従業員も同じで全員が私服であった。
「ベルは何を飲みますか?」
リューさんが横から尋ねる。
「お酒以外でお願いします」
「わかりました」
そう言って厨房の方へ向かい、樽ジョッキを二つの持ってくる。
「こちらの水をどうぞ」
一つを僕の前に置く。
「ありがとうございます」
「この水はリヴェリア様やウィリディスさんが好まれて飲むエルフの里で汲んだ水です」
リューさんの言葉で思い出す、ロキ・ファミリアの宴会に初めて参加した時リヴェリア様がお酒ではなく水を飲んでいた事を。
「ほとんどのエルフは水しか飲まないのですよ。もちろんお酒を飲むエルフもいますが」
そう言ったリューさんも同じ水をテーブルに置いて、僕の横の席に座る。
「あー、リューずるいにゃベルの横はミャーが座るのにゃ」
「アーニャ、まだもう一つ横が空いていますよ」
アーニャさんも座り、左にリューさん右にアーニャさん真ん中に僕となった。
アーニャさんはよくリューさんとの訓練でもお世話になっている。
以外と朝は強く毎日ではないが付き合ってくれた。
「それにしても、Lv.1でミノタウロスに勝つにゃんて、ミャーの訓練のおかげだにゃー」
「ベルの努力あってこそですよ。私たちは闘い方を少し教えただけです」
「そんにゃ事ないにゃ、最初はミャーの槍で軽く小付いただけでもがいてたベルが痛みに耐えれるように鍛えたのはミャーにゃ」
「それはアーニャの加減が下手なだけでしょう」
僕を挟んで言い合いをするリューさんとアーニャさん、訓練の時もよく言い合いを始めて二人が剣と槍を交える事は少なくなかった。
お互い本気ではなかったのだろうが高Lvの冒険者の戦闘は凄まじかった。
そんな事を思い出しながら、普段ならそろそろミア母さんに拳骨を落とされる頃なのだが、今日は騒いでもある程度は目をつぶるらしく、厨房の方でこちらを眺めているだけだった。
準備もほとんど終わり、厨房にいるミア母さん以外が席に座って、いまかいまかと待ち侘びている。
厨房から出てきたミア母さんが片手に飲み物を持ち立ったまま話し出す。
「今日はベルのランクアップの祝いだよ、店を壊さない程度に騒ぎな!」
その言葉を皮切りに皆一斉に自分の飲み物を掲げる。
「「「かんぱーい!!!」」」
始まってからは皆が目の前にある料理を食べ始め一斉に賑やかになる。
豊饒の女主人の従業員と僕だけの宴会なので、いつも冒険者が賑わっている程騒がしくはないが、皆存分に楽しんでいるようだ。
食事や飲み物がとても豪勢な物でお金の心配をしたが、ミア母さんは「既にもらっているよ」と言っていた。
誰から貰ったかは教えてくれなかったが聞こうとしたら睨まれたので僕は考えるのをやめた。
何にせよ僕の為に本当に嬉しくなる。
「ベル、ぼーっとしてないでいっぱい食べるにゃ」
口に料理を運びながらなんだかんだ気にかけてくれるアーニャさん。
「そうですね。いっぱい食べましょう」
「そうにゃ。この量をベルが食べなかったら全部食べれないのにゃ。残すと拳骨にゃー。」
「確かに、この量は私達にはきついですね」
そうして僕も料理に手をつけ始めた。
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日が完全に沈み日付が変わる前には片付けも終わり賑やかだった豊饒の女主人は静かになっていた。
あれから騒ぎすぎたアーニャさんとクロエさんがミア母さんに拳骨を落とされたり、そこにルノアさんが巻き込まれたり。
いつもと変わらないと言えばそうなのだが、みんないつもより笑っていた気がする。
ちなみに今回も皿洗いはアーニャさんがさせられていた。
「どうしました。ベル?」
今この場に残っているのは僕とリューさんの二人でカウンターに座っている。
皆は明日の為に帰っていた。
「いえ、今日は楽しかったなって思い出していました」
「そうですね。私の知る限り店を閉じて私達で宴会を開くのは初めてだったので、皆舞い上がっていました」
それを聞いて僕の為と思うと少し申し訳なさと嬉しさが込み上げる。
「ベルはそれだけの事をしましたし、私達もベルを祝いたかった」
そう言ってリューさんは立ち上がる。
「もう夜も遅い、私たちも帰りましょう」
僕も立ち上がりリューさんと一緒に豊饒の女主人を出る。
するとオラリオに鐘が鳴り響く。
この音を聞きながら、ゆっくりと僕のホームへ帰ろう。