豊饒の女主人で宴会をした次の日、僕はバベルの商業施設に向かっていた。
目的は新しい装備を買う為だ。
レフィに買ってもらった装備はミノタウロスとの死闘で砕け散った。
またダンジョンに挑む為に装備を整えなければいけないのだが……
「まったく同じものは売っていないよなぁ」
一目惚れした装備は思いのほか自分の体にフィットしていて動きの邪魔にもならず、軽さもちょうど良いものだった。
同じものがあればと淡い希望を持って、前回購入したお店に向かう。
目的のお店に向かうまでに第一級冒険者が持つような装備が目に入り、その値段に驚きながら店の前まで着いた。
相変わらず色々な店で冒険者がよく出入りして賑わっている。
その中で目的の店の反対側で座り込んで寝ている冒険者がいて、横には購入した装備なのか木箱を横に置いており不思議に思いながら店の中へ入る。
無愛想な店主に会釈をし、店内の装備を端から端まで探していく。
店内は狭いが棚の段数が多く、蓋のない箱に装備が入っていて、かなりの個数敷き詰められている。
それらを一つ一つ見て探すが中々見つからない。
一刻ほど経ち、店舗にある装備の半分は見たが一向に見つかる気配がない。
「こんな事なら誰の作品か聞くべきだったなぁ」
諦め半分で次の箱を確認しようとしたところで、入り口の方から会話が聞こえてきた。
「いけねぇ、寝ちまってたぜ。今日はまだ来てないか?」
店主がこちらを無愛想に首だけで僕の方を示す。
店主に話しかけていた赤い髪の黒い作業服を着た男がこちらを向く。
「おっ⁉︎やっと来たか、待ちくたびれたぞ【未完の少年(リトル・ルーキー)】」
男はまるで十年来の友人に声をかけるような声色で僕の二つ名を呼んだ。
「こいつが必要だろ」
男はそう言って担いでいた木箱をカウンターに置く。
中を見るとそれはまさしく僕が探していた装備だった。
「とりあえずついてきな。腰を据えて話そうぜ」
男に言われるままついて行きバベルから離れ、着いた場所は古い民家にだった。
「入ってくれ」
男は扉を開け僕を招き入れる。
中には炉と加工するための道具が綺麗に並べられてあった。
まさしく鍛冶場であった。
「とりあえず、どこから話すべきか……」
男は腕を組み頭をかしげながら悩んでいる。
「そういえばまだ名前を言っていなかったな。俺はヘファイストス・ファミリアの鍛治師ヴェルフ、ただのヴェルフだ」
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少し時は遡る
「今日の《神会》はうちが司会か」
神々が集まり定期的に行われる神会、ここ最近の近況だったり様々な事を神々で共有したり意見を求める場だ。
新種のモンスターについて探りも入れなあかんなぁ。
しかしそれよりも今日はベルの二つ名をどうするかや。
伊達にオラリオ最大派閥を名乗っているゆえに、こちらの意見を通しやすくはあるが……
「色ボケ女神が参加するっちゅう事は、そうゆう事なんやろうなぁ」
美の女神に対してめんどくささを感じながら、神会へと向かう。
そしてその美の女神と口論になり、ベルの二つ名が無難なものになるのは別のお話。
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簡単な自己紹介をした後、ヴェルフさんは何故僕を探していたかを話した。
「俺の装備を使っているって聞いてな、ロキ・ファミリアの駆け出し冒険者ってのは知っていたんだ。しかも何とそいつがランクアップしたって聞いたらよ、居ても立っても居られなくってな。待ち伏せさせてもらった」
「僕があのお店に来るってよく分かりましたね」
「ギルドでお前を見かけたんだよ。ボロボロの装備でで治療室の方に向かっている所をな」
なるほど。
それで、また装備を買いに来るとわかったのか。
「さぁて、ここからが本題なんだがな……俺の頼みを聞いてくれないか」
「頼みですか?」
「あぁ、勿論話を聞いてから断ってくれてもいい。」
ヴェルフさんは目を瞑り、一呼吸置いてから話す。
「俺と専属契約を結ばないか」
「専属…契約?」
リヴェリアさんから聞いた事があるような気がするが思い出せない。
僕がその意味をわかりかねていると、ヴェルフさんは簡潔に説明してくれた。
それは鍛治師と冒険者が結ぶ契約、より強固なギブアンドテイクだと。
冒険者は鍛治師のためにダンジョンからドロップアイテムを持ち帰り、鍛治師は冒険者のために強力な武器を作製し格安で譲る。
持ちつ持たれつ。鍛治師と冒険者の助け合い。
そして何より、特定の誰かのために打った武具は、特別な威力を発揮する。
「……つーわけだ。どうだ?」
それは魅力的な誘いだった。
防具の性能に関してはあの怪物との死闘で実感している。
あの装備を作った張本人からの申し出に断る理由なんてなかった。
「んっ、その短剣折れてるのか?」
返事をしようとした時、ヴェルフさんは僕の腰に刺してあるアイズさんから貰った短剣に気づいた。
「ミノタウロスとの闘いの時に折れてしまって、お守りとしてこの短剣とミノタウロスの角を持ち歩いているんです」
「ちょっと見てもいいか?」
「はい。どうぞ」
腰から短剣を抜きヴェルフさんに渡す。
ヴェルフさんは先程と目つきが変わり短剣を色々な角度から見る。
一通り見終わってからお礼を言って僕にかえす。
「この短剣をまた使いたいか?」
「えっ⁉︎」
「まったく同じ武器を作ることは出来ないが、そのミノタウロスの角があれば以前の短剣より丈夫な武器が打てるぞ」
「本当ですか⁉︎」
「あぁ、任せてくれるか?」
僕は首を何度も縦に振る。
「そうだ、ならこうしようぜ。この短剣を打ってお前が気に入らなければ直接契約の話は忘れてくれ。けど気に入ってくれるのなら俺と直接契約を結ばないか?当然金は貰わない」
どうだ?と言ってヴェルフさんは笑った。