英雄達   作:人類最強の請負人

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41話竜の壺

 

 

「ーー出発する」

 

静かな号令とともに、私たちロキ・ファミリア精鋭パーティは野営地を発つ。

 

戦闘員七、サポーター五、鍛治師一、総勢十三のパーティ。

 

前衛にはベートさんとティオナさん。

 

中衛にはアイズさんとティオネさんと団長。

 

後衛にはリヴェリア様とガレスさん。

 

ロキ・ファミリア第一級冒険者パーティの黄金の布陣だ。

 

この各配置に武器と道具を所持するサポーターが二名づつ加わったものが今回の隊列となる。

 

客人かつ整備職扱いの椿さんの位置は団長がいる中衛だ。

 

私は後衛でリヴェリア様の横を着く。

 

私たちはまず五十階層西端に存在する大穴を目指す。

 

「もう、何でベートと前衛なの!」

 

「うるせぇ、馬鹿アマゾネス」

 

私達サポーターは緊張し無言になりがちになる中、不壊属性の大剣を肩にかついだティオナさんが普段と変わらない様子でぶーたれている。

 

足に銀靴、腰には不壊属性の双剣、そしてナイフ型の魔剣を十振り以上装塡したレッグホルスターを両脚に装着する完全武装のベートさんは、視線も合わせず口もとをひん曲げた。

 

「はっはっ、いつだって賑やかなことだなぁロキ・ファミリアは」

 

気負わない前衛攻役達を見て、太刀の柄に手を置く椿さんが笑う。

 

「レフィーヤ、落ち着いているな。その緊張感を維持して進むぞ」

 

「はい、リヴェリア様」

 

「レフィーヤもだいぶ肝が据わってきたの。ほれ、ラウル、お前も見習わんか!」

 

「は、はいっす⁉︎」

 

隣を歩くリヴェリア様に声をかけられ、私は大きく息を吸い吐き出す。

 

片目を瞑るリヴェリア様は普段のように泰然としながら、その翡翠色の瞳で「大木の心」を忘れるなと語りかけてくる。

 

いつも通りの第一級冒険者に囲まれる中、私の前方で中衛にいる長髪の女戦士と金髪金眼の剣士が振り返る。

 

歩みは止めずにティオネさんは目配せし、アイズさんも小さく微笑んだ。

 

私も自然と笑みが浮かび頷き、筒形のバックパックを担ぎ直してパーティの前進に身を委ねる。

 

 

 

-------ー

 

 

 

パーティは歩みを止め進む先の道を見据える。

 

「さて、ここからは無駄口はなしだ。総員、戦闘準備」

 

灰の大樹林をぬけ、現れた大穴の前で団長が声を発する。

 

壁面に空いた大穴、五十階層と五十一階層を繋ぐ連絡路さ険しい坂と化している。

 

崖と同義の急斜面を見下ろすと、階下には既にいくつものモンスターの眼光が闇に浮かび上がっていた。

 

パーティ一同が静かに武器を構える中、私も杖を握り直し心を落ち着かせる。

 

「ーーー行け、ベート、ティオナ」

 

発進する。

 

凶暴な狼人と獰猛な女戦士は風になって急斜面を駆け下りる。

 

彼等の後に一団が続き、未到達領域への進攻はここに開始された。

 

安全階層を抜けて早々に発生したモンスター達との交戦はベートさんの銀靴とティオナさんの大剣が瞬く間に終了させる。

 

「予定通り正規ルートを進む!新種の接近には警戒を払え!」

 

未到達領域五十九階層を目指し、私達は高速でダンジョンを駆け抜けていく。

 

「先の通路から産まれる」

 

「前衛は構うな!アイズ、ティオネ、対応しろ!」

 

「はい!」

 

前衛が素通りした通路左右から亀裂が生じ、アイズさんの言葉通り壁面にを破って怪物の群れがどっと出現した。

 

間髪入れず、二刀の湾短刀と一振りのデスペレートが産まれて間もない怪物達を解体する。

 

「集団から振り落とされるでないぞ、お主等!」

 

追い縋るモンスターを斧で粉砕するガレスさんの大声が、パーティ最後尾より投じられる。

 

まるでダンジョンが咆哮を上げているようだ。

 

途切れないモンスターとの交戦に、しかし私達は怯まない。

 

「がるぁあああああああああああああああああ!!!」

 

立ちはだかるモンスター達を正面に、飛び出すベートさんが蹴撃の一閃と続く回し蹴りで根こそぎ敵の上半身を吹き飛ばす。

 

本来遊撃を務めるその足の速さを存分に発揮し、一撃離脱、隊から先行する形で一撃につき一匹のモンスターを撃砕してのける。

 

高速移動と蹴りの乱舞でパーティの道を切り開いていった。

 

「べ、ベートさん、いつもよりやばい……」

 

怪物の屍を量産するベートさんに、片手に自衛用の長剣を装備する前衛サポーターの一人がおののくように呟くのが聞こえた。

 

「ベートのくせにぃー!」と対抗意識を燃やすティオナさんも大剣を振り回し奮迅の活躍を見せる。

 

「レフィーヤ、迂闊に魔力を練るなよ。例の新種を引き寄せる。詠唱は奴等と遭遇してからでいい、今はアイズ達に任せろ」

 

「わかりました!」

 

後衛位置で隊員達に囲まれる中でリヴェリア様と隣り合って走る。

 

私達魔導士は仲間を信じ、己の出番に備える。

 

「ナルビィ、大双刃ちょうだい!」

 

「はい!」

 

振り返ることなく背後へ不壊属性の大剣を放り投げ、武装交換。

 

超硬金属製かつ大重量の得物を装備したティオナさんは、眼前に集結するモンスター達の極厚の壁を見据え、疾走した。

 

ベートさんの真横を抜いたティオナさんは二十にも及ぶ怪物の大群に突貫する。

 

「いっっくよおおおぉーーーーッ‼︎」

 

全身を用いた、文字通り渾身の回転切り。

 

巨大なニ刃から放たれた大斬撃が進路上にいたモンスター達を全て両断する。

 

開けた道の奥からけたたましい進撃音を察知した。

 

「ーーー来た、新種!」

 

私達が最大警戒していた芋虫型のモンスターと、とうとう遭遇を果たす。

 

「隊列変更‼︎ティオナ、下がれ!」

 

即時かつ即行の指示が司令塔の口から放たれる。

 

そして団長が言うか早いか、アイズさんは、後退するティオナさんと阿吽の呼吸で入れ替わるように中衛位置から飛び出した。

 

【目覚めよ】

 

魔法を発動し、走り出しているベートさんと肩を合わせ、突撃する。

 

「アイズ、寄こせ!」

 

「ーーー風よ」

 

ベートさんの要請を受け白銀のメタルブーツに風の力が宿る。

 

風の恩恵と不壊属性の武器を携える二人は芋虫型の大群に踊りかかった。

 

連携含め十分な対策を練ってきた私達はもはや新種相手に遅れを取らない。

 

芋虫型にとって相性最悪で有る風鎧をもって蹂躙を働き、アイズさん達は怒涛のごとく鏖殺していった。

 

敵の進軍を押し返す。

 

【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬ーー我が名はアールブ】

 

「総員、退避!」

 

そしてアイズさん達の奮闘の陰で行われていたリヴェリア様の並行詠唱が瞬く間に終了する。

 

横で現オラリオ、最高魔導士の並行詠唱を聴く。

 

以前は考えもしなかった。

 

本気で憧れに追いつきたいなんて。

 

一生かかっても追いつけないと、諦めながら惰性で前を向いていた。

 

そんな私を救ってくれた。

 

一緒に憧れを追いかけてくれる人が今はいる。

 

だから私は憧れに追いつく為にもっと強くなる。

 

その為に私は技術を、知識を、経験を、全て学びもっと強くなる。

 

【ウィン・フィンブルヴェルト】

 

三条の吹雪が通路中を突き進んだ。

 

蒼と白の砲撃が迷宮ごと前方のモンスターを凍結させる。

 

私は目指す目標の遠さを再認識し、それでも前を向く。

 

「いやはや、凄まじい魔法だ。これが魔剣で繰り出せるようになれればな」

 

「そんなことになれば魔導士の立つ瀬がない」

 

そんな事を言う椿さんにリヴェリア様が苦笑する。

 

氷と霜に覆われた壁面からはさしもの深層出身モンスターも産まれない。

 

凍りついた正規ルートを進む私達はそこからあっさりと下部階層に続く階段に辿り着いた。

 

「ここからはもう、補給できないと思ってくれ」

 

道具の使用はこの場で済ませろと言外に告げる団長、しかしここまで無傷で来た私たちは動かない。

 

ここを進めばもう止まれない。

 

「行くぞ」

 

団長の短い命令とともに、パーティは五十二階層へ先程より速まった速度で疾走する。

 

「戦闘はできるだけ回避しろ!モンスターは弾き返すだけでいい!」

 

絶えない団長の指示。

 

その中ラウルさんの声が響く。

 

「止まっちゃ駄目っす⁉︎」

 

「むっ?」

 

隊列を外れようとした椿さんの手を引っ張っていた。

 

見れば、地面に落ちた武器素材を拾おうとしたのだろうか?

 

椿さんはラウルさんに疑問を口にした。

 

「何故だ?手前はここまで深い階層に来たことがない、何かあるのか?」

 

「狙撃されるっす……⁉︎」

 

脂汗を散らしながら、ラウルさんは言った。

 

「狙撃……?」

 

私は事前に情報は聞いていた。

 

周囲を見ても自分達を狙う不審な影は見当たらない。

 

しかし、皆死に物狂いで第一級冒険者達に続く。

 

その様子は危機感に溢れ、顔色は蒼い。

 

何も知らないのであれば私達の様子に違和感を覚えるだろう。

 

地の底から昇ってきたかのような、禍々しい雄叫びが響く。

 

「……竜の、遠吠え?」

 

怪物の王の叫喚。

 

「ーーー捕捉された」

 

団長の静かな声が耳に入る。

 

「走れ!走れぇ‼︎」

 

移動をがなり立てる声は誰のものかわからない。

 

私達の走行の速度が更に上がる。

 

目の前を走る椿さんは、周囲の様子に混乱しながらも足は止めずにしっかりとついてきている。

 

「ーーー来る」

 

「ベート、転進しろ‼︎」

 

アイズさんの一言の後にすかさず団長の指示が飛び、先頭にいたベートさん、遅れてティオナさんとパーティ一団は正規ルートを外れ横道へ飛び込んだ。

 

次の瞬間。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

 

地面が爆砕した。

 

「「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ⁉︎」」」

 

突き上がる轟炎、そして紅蓮の衝撃波。

 

心臓の音がペースを上げる。

 

階層の床がまるごと紅炎に包まれ、パーティの通過点上にいたモンスター達を全て呑み込み、蒸発させる。

 

「迂回する‼︎西のルートだ‼︎」

 

激しい団長の指示にパーティが導かれる。

 

正規ルートを外れた冒険者達は迷路状の広幅の通路を全力で走った。

 

すぐに、再び轟く大爆発。

 

「芋虫型を引き寄せてもいい‼︎リヴェリア、防護魔法急げ‼︎」

 

「ーー【木霊せよーー心願を届けよ。森の衣よ】」

 

「敵の数は⁉︎」

 

「六、いや七以上⁉︎」

 

何発もの大爆砕が続き、熱風と無数の炎片が私達のもとに押し寄せる中、団長の命令が矢継ぎ早に飛ぶ。

 

返事すら惜しいのかリヴェリア様が詠唱を開始し、蹴り続けている地面を見下ろしながらティオナさんが叫び返す。

 

情報は聞いていた、覚悟は十分にしていた。

 

だが、この現象を目の当たりにして動揺を隠せない。

 

悲鳴が喉をせり上がり恐慌を来たしかける中で思い出す。

 

『大木の心』

 

私が魔導士である限り、私は私はを制御できなければならない。

 

あの子を支えれる魔導士になる為に。

 

落ち着きを取り戻したのも束の間、私の瞳はそれを視認してしまった。

 

「ラウル、避けろ⁉︎」

 

「えっ?」

 

私と同じく真っ先に気づけたのは、最後尾でパーティを守るガレスさんだけだった。

 

通路の横穴から迫り来る太糸の束に、ラウルさんは気づいていない。

 

眼前の光景に、私は咄嗟に手を伸ばす。

 

「ラウルさんっ⁉︎」

 

無茶ばかりして人を助けようとするあの子なら同じ事をするだろうと思いながら、ラウルさんをバックパックごと突き飛ばす。

 

側面から射出された太糸は、先ほどまでラウルさんがいた場所にあった私の腕を絡め取る。

 

捕縛され、ぐんっと隊列から引き剥がされる。

 

「レフィーヤ⁉︎」

 

ティオネさんの叫声が響く最中、私は横穴に引きずり込まれる。

 

太糸の先の巨大蜘蛛のモンスターは、私を捕食しようとその顎を開口させーーー燃え尽きた。

 

膨れ上がった地面が、何発もの爆炎を吹き、巨大蜘蛛を消滅させる。

 

糸に釣られ宙にいた私は。

 

階層に空いた大穴に、そのまま落下した。

 

一瞬の浮遊感の後、抵抗できない重力に身を委ねるように頭から降下していく。

 

そして、私は見た。

 

深く、深く、深過ぎる。

 

大火球によって何層もの階層をぶち抜いて形成された長大な縦穴。

 

穴の底で落ちてくる己を仰ぐのは、無数の牙の隙間から煙を吐く、数匹の巨大な紅竜。

 

戦慄する。

 

私達は数百メートル先の地の底から狙撃されていた。

 

深部の強大なモンスターの攻撃が冒険者を脅かす。

 

『階層無視』

 

竜の眼光に射竦められ私の脳裏に、今日まで聞かされてきた先達の声が過ぎる。

 

『五十階層以上の常識は、あの層域からもう通用しない』

 

『ダンジョン五十ニ階層から下は、地獄っす』

 

蘇るリヴェリア様とラウルさんの言葉を私は理解させられた。

 

既階層ならば特級の異常事態に値する現象。

 

規模が違う、尺度が違う、脅威が違い過ぎる。

 

これがダンジョン?

 

ありえない!

 

出鱈目過ぎる⁉︎

 

巨大な竜目がけて落下していく悪夢のような光景。

 

風を切り、前髪を巻き上げられながら、強大な怪物が待ち受ける縦穴の底へ。

 

他階層のモンスター達まで巻き添えを食らいばらばらと落ちていく中、全身が恐怖に屈しかける。

 

けれど恐怖を感じながらも私は信頼する。

 

呼吸をする。

 

彼等なら必ず助けに来てくれるから、私は今私のやり方で生存する為に謳う。

 

「「レフィーヤ‼︎」」

 

「足引っ張るんじゃねえノロマァ⁉︎」

 

ティオナさん、ティオネさん、そしてベートさん。

 

縦穴の壁面を蹴りつけ直下へと疾走する。

 

信頼していたとはいえ、駆け付けてくる第一級冒険者達の姿に、瞳が水面を帯び、震えた。

 

『【ヴェール・ブレス】』

 

次いで発せられた玲瓏たる響きの魔法名。

 

私達の全身をそれぞれ包み込む温かな緑光の衣。

 

攻撃から身を守るリヴェリア様の防護魔法である。

 

都市最強魔導士の恩恵を手にした三人の第一級冒険者は、壁を走って瞬く間に私のもとまで追いついた。

 

だが、ほぼ同時に大紅竜から砲撃が放たれる。

 

直径五メートルを超える大火球が打ち上がる。

 

「んにゃろおおおおおおおお‼︎」

 

銀の大剣を担ぐティオナさんが飛び出し、両手で握り締めた不壊属性の大剣を、大火球目がけ振り下ろす。

 

大爆発。

 

そして、相殺。

 

視線の先で火球が食い止められ、爆裂する。

 

あまりの出来事に謳う事をやめそうになったが、炸裂した爆光の中からティオナさんが現れた。

 

「あっちぃー⁉︎」

 

五体満足の姿を見せるティオナさんに、思わず苦笑いをしてしまう。

 

まるで狂戦士のような彼女はぴんぴんしていた。

 

「ティオネ、ベート!飛竜が来る!」

 

各階層に出現する竜が、蟻の巣のごとく縦穴に繋がる横穴から、翼を打って飛翔してくる。

 

階層の横穴から続々と出現してくる竜種に、ティオナさんとベートさんが駆け出した。

 

「ティオネ、そのノロマを守っとけ‼︎」

 

降下中ということを忘れてしまうほどの素早さでベートさんは岩盤を蹴り、矢のように真っ直ぐ飛んできた飛竜の一匹に抜剣した双剣を叩き込んだ。

 

ティオナさんも負けじと接敵した飛竜の翼を断ち切って撃墜する。

 

巻き起こる大爆光。墜落していくモンスター。耳を塞ぎたくなるほどの竜達の吠声。

 

この世のものとは思えない凄まじい光景に震え上がる。

 

「安心しなさい‼︎」

 

「!」

 

側で落下しているティオネさんが私に叫びかける。

 

「びびるな!私達が守る‼︎」

 

ティオネさんの声と力強い眼差しに胸が震える。

 

私は何に臆していたというのか。

 

強大な竜や景色を前に、私を守ってくれている都市最強の冒険者の彼等を前に何を不安に感じる事があるだろうか。

 

私の命を預けれる彼等を。

 

ティオナさんに頷き返し、手の中の杖を握り締め、謳う。

 

 

 

 

 

 

 

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