「そういやベルの【英雄願望】がどんな効果なのかはわかったんか?」
「いえ。わからないままですね」
黄昏の館、主神室でお茶に誘われて、僕はロキ様と二人座って会話をしている。
「結局、わからんままLv.2になってしもうたなぁ。まぁそれで十分に戦えてるんなら問題ないんやけど」
ロキ様と僕のスキル『英雄願望』について話す。
「『能動的行動に対するチャージ実行権』って書かれとるから、なんらかの強化やと思うんやけどな」
「僕が気づいていないだけで、実際には効果が出ているのでしょうか?」
「その可能性もあるんやけどなぁ……、神からの恩恵やで、しかもこのロキ様の恩恵や。気づかんほど地味なもんとは考えにくいわ」
「そうですよね」
「ん~……、何かしらの発動条件があるんやろうな。経験が少ないからこれから気づいたらええわ」
「はい。レフィが帰ってきたら一緒に考えてみます」
「そうやな。帰ってきたらランクアップも報告せなあかんしな。レフィーヤ、泣いて喜んでくれるで」
にししと笑った神様は立ち上がり窓から外を眺める。
「ベルのおかげで鼻が高いわ。元々アイズたんの持っとった最短記録を、超超大幅に超えてくれたお陰で、他の神からの嫉妬が心地ええわ」
ここ数日はオラリオの街を案内すると言う名目で、他の神様達にひたすら僕を自慢しに行って楽しんでいるロキ様は機嫌が良さそうだ。
「フィン達もそろそろ帰ってくるやろ」
ロキ様は正門が見える窓際へ移動する。
「っと噂をすれば……」
外を眺めているロキ様は首を傾げた。
「ベート?なんで一人なんや。……とりあえず迎えに行くか」
ロキ様と一緒に本館入口の広間まで行くと、疲れた様子のベートさんが水を飲みながら座っていた。
飲み終わったコップをその場に置くと、階段から降りる僕たちに気づいて近づいてくる。
「ロキ。今から言う解毒薬を大量に集めろ、帰りに厄介な毒を貰っちまって十八階層で動けなくなった」
「なるほど、了解や。ベートは休んどき、寝ずに走ったんやろ薬はこっちで用意するわ」
「すぐに集めろ。準備が出来たら起こせ」
ベートさんはロキ様に必要な情報を伝えてから、自室の方へ向かった。
「ベル。お使いを頼まれてくれんか」
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「わかった、急いで用意するよ」
僕はお使いでナァーザさんのお店に来ている。
「ただあいにくその薬を切らしていて、すぐには用意出来ない」
「どのくらいかかりそうですか?」
「そうだね。一人で薬の調合をするとなると三日はかかりそうだ」
「三日……ですか」
そんなに時間がかかるとは思わず戸惑ってしまう。
「急いでいるんです。何か僕に手伝える事は無いですか?」
「うーん……」
無茶を承知でなんとか出来ないかとナァーザさんに聞く。
困った表情でナァーザさんは顎に手を当てて考える。
すると入口が開く音が聞こえた。
入口の方へと目を向けたナァーザさんはニヤリとする。
「ベルは何も手伝えないけれど、そこのヒューマンなら手伝えるよ」
ナァーザさんが指差した入口の方を向くと、入ってきたのはオラリオに来てから何度もお世話になったあの人だった。
「おやベルさん、こんなところでお会いするなんて奇遇ですね。ナァーザ、頼まれていた物を持ってきましたよ」
「丁度良いタイミングで来たね、アミッド」
都市最高の治療師 アミッド・テアサナーレ
「何かお困り事ですか?」
「そうなんだよ。この兎さんが早く薬を用意しろってイチャモンつけてくるんだよ」
「そうなんですか?まったく困った兎さんですね」
「今度飼い主が来たらちゃんと躾けるように言わないとね」
「ふふ、そうですね」
アミッドさんは持っていた荷物を渡し、ナァーザさんと一緒に僕を揶揄いながら静かに笑う。
「これを大至急になんだけどさ、そっちで頼める?」
「おや。こちらであれば先日大口の発注が来て用意したはいいものの、全てキャンセルになったので余らせていますよ」
「本当ですか⁉︎」
「大量に余っていますので数は足りるでしょう。店で準備をしておきますので、ダンジョンへ行く前に立ち寄ってください」
「ありがとうございます!」
「それでは、また後で会いましょう」
頭を少し下げてからアミッドさんは店を出た。
「ベル、良かったね。たまたま大キャンセルがでてて」
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自室で新しい装備を装着して準備を行う。
「短剣は一本」
アイズさんから貰った短剣はヴェルフさんに預けたまま打ち直しをしてもらってるから手元にはない。
今あるのは怪物祭の日にレフィから貰った短剣一本だけだ。
「闘いに潜るわけじゃ無いから大丈夫か」
薬を十八階層へ届ける為に準備をする。
『ベート一人だけでもええんやけど、せっかくやから一緒に行き。ベートには主神命令やって言っとったるから』
ということで僕も行くことになった。
「会えるのかな」
久々に会う彼女達の顔を思い出しながら入念にチェックを行う。
「サイズピッタリだ……」
新しい装備はヴェルフさんに調整してもらい合わせてくれた。
最後にバックパックを腰につけてから部屋を出る。
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豊饒の女主人の扉にはcloseと看板がかかっている。
しかし入口からは見えない奥のテーブル席に座る者がいた。
「さて。いったい何回目の顔合わせになるんだろうか」
神、ヘスティア。
「さぁ。そんな些細な事、私は知らないわね」
神、フレイヤ。
「何回目だって構わないさ。なぁ、我が友よ」
神、ヘルメス。
「そうだな。何度目だってやる事は変わらないさ」
神、エレボス。
「そうね。私達の目的地は一緒だものね」
神、アストレア。
集まった五神は誰もいない店内で、目の前にある紅茶を飲みながら談笑する。
「エレボスとアストレアは昨日帰ってきたんだろう?疲れている体で来てくれてありがとう」
「礼はいらないさヘスティア。俺はやりたい事をやっているだけさ」
「そうね。私も子共達の正義の為にやっている事だもの」
ヘスティアが頭を下げようとするのをエレボスとアストレアは止める。
「おいおい。俺も昨日帰ってきたっていうのに、労いの一言もないのか」
ヘラヘラとした表情で、わざとらしく両手を広げて首を振りながらヘルメスは言う。
「君はしょっちゅう行ったり来たりをしてるだろう。二人は何年振りにオラリオに帰ってきたと思ってるんだい」
「わかっているさ。冗談だよヘスティア」
「それで。ミアハとディアンケヒトを連れて行った成果はどうだったのかしら?」
フレイヤは一口飲んだ紅茶を置いてから尋ねる。
「西に進んだ私はそれなりの成果よ。途中アルテミスにも会って、一緒に遺跡の探索をしたり、厄介な怪物と闘ったりしたわ」
「アルテミスに会ったのかい⁉︎久しぶりにまた会いたいなぁ」
「こっちもそれなりだ。あの怪物の残骸も手に入った。今頃それぞれの成果や知識の共有をしているだろう」
「そう。ちゃんと払ったお金分の働きをしているならいいわ」
「忘れてないさ。あんな大金を用意してくれて本当に感謝しているさフレイヤ」
「次は私が北に行くわ」
「なら俺が南に行こう」
アストレアとエレボスは二人目を合わせ頷く。
「次はいつ出発するんだい?」
「ミアハとディアンケヒト次第だな」
「けど、すぐに出発はしないわ。子ども達も休ませてあげたいし」
「そうか。なら、ゆっくり休んでくれ。話したいこともあるからな」
そう言ったヘルメスは視線をエレボスとアストレアからヘスティアへ移す。
その表情は、先程までヘラヘラとしていたものではなく真剣な表情でヘスティアに問う。
「さて、今日俺が一番聴きたかった事は、何故【ベル・クラネル】は【ロキ・ファミリア】にいるかだ」
ヘルメス以外の四神も真面目な顔付きになる。
先程までの和気藹々と空気は無くなり、皆の視線がヘスティアに集まる。
ヘスティアは腕を組んだまま目を瞑っていた。
皆はヘスティアが答えるまで口を開かず待った。
「……そうだね。何故と聞かれるなら答えなくちゃいけないね」
そう言ったヘスティアは目の前のティーカップを持ち上げ、紅茶を回し中に目を落とす。
「単純だよ。ロキが僕より先に【ベル・クラネル】を見つけた。僕は見つけることが出来なかったんだ」
ヘスティアは紅茶を飲まずに視線は紅茶を見たままティーカップを置く。
「だから何だ。先に見つける事が出来なかったから諦めたのか?」
ヘルメスの質問は続く。
「諦める?」
ヘスティアは鼻で笑った。
「僕がいったい何を諦めた」
ヘスティアはヘルメスと目を合わせる。
「僕達の目的は元々違う。目的地と道中が一緒なだけだ」
話す言葉はだんだんと強くなって行く。
「たとえこの身が滅びようと、天界に帰れなくなったとしても、僕の目的は変わらない」
ヘスティアはテーブルに拳を叩きつける。
「たとえそれが【ヘスティア・ファミリア】のベルくんじゃなくとも構わない。ベルくんが英雄になれるのなら、ロキの所でもフレイヤの所でも僕は歯を食いしばって我慢できるさ」
息を切らしながら自身の思いを吐き出す。
「ベルくんの為に、僕は僕の全てを犠牲にしてでも進み続ける」
ヘスティアが言い切った後、少しの沈黙が続いた。
「すまなかった」
ヘルメスは帽子を取り、帽子を胸の前に置いて謝罪した。
「ヘスティアの覚悟を甘く見ていた。軽率な質問だったと反省している」
そう言って頭を下げた。
「謝らなくていいよヘルメス。見つける事が出来なかったのは僕の落ち度だ」
「そうよ。結果的に今の彼は聞かされている限り、今までよりも強く育っているらしいわ」
フレイヤは妖艶な表情で言う。
「フレイヤ。言っておくけれど、僕達が今協力しているのは、僕がベルくんの為だと判断したからだ」
「そうね。お互いの目的の為の手段は問わないが邪魔をしない。それがルールよね」
「ただし利害が一致しなくなれば」
「私達は敵になる」
ヘスティアとフレイヤは目を合わせる事なくルールの確認を行う。
「けれど。今は味方だろ」
エレボスが口を開く。
「敵になるのはまだまだ先の話だ。それまでは互いに協力し合おうじゃないか」
ヘスティアは苦い顔をしながらため息を吐く。
「悪かったよ」
ヘスティアは謝る。
フレイヤは何も言わなかったが、何も言わないフレイヤにヘスティアは何も言わなかった。
「所でその、ベル・クラネルは今どこにいるんだ?」
「そろそろダンジョンに潜る頃じゃ無いかしら。ロキ・ファミリアが十八階層にいるから、そこに向かうはずよ」
エレボスの質問にフレイヤが答える。
「そうか。なら俺はそいつを見に行くとするかな」
「ダンジョンに入るつもり?」
「何だよアストレア。君だって昔入った事があるだろう」
「いえ咎めるつもりじゃ無いわ。途中私の子供がいるだろうから一緒に行動してもらいなさい」
「助かるよ」
「私の子供も一人貸してあげるわ。どうせ一人でも十八階層に行くだろうから、貴方の護衛につかせるわ」
「フレイヤもありがとう」
ヘルメスが手を叩く。
「さてそろそろ解散だな」
その顔は先程の真剣な表情ではなく、いつも通りのヘラヘラとした表情に戻っていた。
「ここは俺達の結束を高める為、今一度自身の目的を改めて口に出し、これからも励もうじゃないか」
ヘスティアとフレイヤは嫌な顔をした。
「良いわね。私は嫌いじゃ無いわ」
「我が友の言う事なら付き合うさ」
多数決でやる事になった。
神、ヘスティア
「ベルくんを英雄にする為」
神、フレイヤ
「未来の伴侶の為」
神、ヘルメス
「過去の英雄達の為」
神、エレボス
「数多の英雄の為」
神、アストレア
「子供達の未来の為」
「「忘れるな我々は【神を殺す者達】だ」」