ただ春の夜の夢の如し 作:優鶴
紫門四家の一つ唯家の姫である唯燈姫は、内心の不機嫌を隠しながら後宮の回廊を歩いていた。
先日、霄太師に半ば押し切られる形で決まった後宮入り。
筆頭女官補佐であるため、彼女の室は筆頭女官の隣である。顔見知りである筆頭女官の顔を思い出して、燈姫は少し気持ちを落ち着けた。
「燈姫。」
「珠翠っ・・・様。」
声をかけられ、思わず上ずった声でその名を呼びそうになって慌てて敬称を付ける。声の主―――珠翠は、にっこりと微笑んだ。
「久しぶりね、燈姫。元気にしていた?」
「はい、珠翠様こそお元気そうでよかったですわ。」
「貴女が後宮に戻ってきてくれると知って嬉しかったのよ。これからまたよろしくね、燈姫。」
「はい、珠翠様!」
「まずは荷物を部屋に置いてきなさい。それから、私の部屋に来てくれる?」
微笑んで頷くと、燈姫は足取り軽く自分の部屋へと入っていった。
(やっぱり筆頭女官補佐にしてもらってよかったわ、珠翠と一緒にいられるもの。)
部屋に荷物を運び入れ終わったので、珠翠の部屋―――といっても、隣だが―――に足を運ぶ。軽く戸を叩くと、中から返事があった。
「燈姫?」
「はい、珠翠様。」
「入ってください。」
周囲に誰もいないことを素早く確認すると、燈姫は珠翠の部屋に入って彼女に抱きついた。
「珠翠!」
「燈姫様。」
燈姫を受け止めつつ、珠翠は苦笑する。
「燈姫様と呼ばせていただきたいのですが、後宮ではなかなかそうもいかないようで・・・申し訳ありません、燈姫様。」
「いいのよ、珠翠。こうやって主従逆転遊戯も楽しいでしょう?」
「燈姫様らしいですね。」
「でも筆頭女官補佐を選んでよかったわ。珠翠と一緒にいられるもの!」
「そう思っていただけて嬉しいです。」
「・・・やっぱり貴女、可愛いわ。珠翠。」
「・・・燈姫様、可愛いって何ですか・・・。一応私、年上のはずなのですが。」
「一つしか違わないでしょ。」
「そうですね。・・・それで、燈姫様。」
「?」
「秀麗様をお迎えするにあたって、少し相談があるのですが。」
珠翠に抱きついたままだった燈姫は真剣な顔をして抱きついていた腕をほどいた。
「・・・そうね、秀麗ちゃんを迎えるにあたって。後宮内で事情を知っているのは私と珠翠だけでいいのね?」
「ええ、それで傍付きなのですが。」
「傍付き?」
「はい、秀麗様の傍付きの女官です。侍女のような仕事をすると思ってください。」
「えっと・・・私?」
「燈姫様は筆頭女官補佐です!燈姫様にだけ任せることはできません。」
「そう・・・じゃあ、誰にするの?」
「・・・香鈴、という女官をご存知ですか。」
「ああ―――鴛洵殿の養い子ね。」
「はい。彼女を秀麗様の傍付きにしようと思います。」
「それはまた、なぜ?貴女の眼鏡にかなう何かがあったの?」
珠翠は燈姫の鋭い視線を受け止めて、口を開いた。
「―――勘です。彼女にすべきだと。」
「そう。珠翠の勘なら信用するわ、彼女にしましょう。」
「ありがとうございます、燈姫様。」
「私に相談する必要はあったの?」
「・・・いえ、安心材料です。燈姫様が大丈夫とおっしゃれば大丈夫な気がしたのです。」
「買いかぶりだわ。でも―――そういうことに、しておきましょう。」
「はい、燈姫様。」
「じゃあ、珠翠。行くわよ。」
「・・・行く、って、どこにですか?」
「府庫よ。邵可殿のところ。」
「えっ!?ど、どうしてですか・・・!?」
「お菓子でもつくって持っていきましょう。時間はあるでしょう?」
「あ、ありますけど・・・。」
「私を甘やかしてくれたご褒美。珠翠のお菓子と邵可殿のお茶を楽しませてもらいましょう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「行くわよ、珠翠!」
「・・・わかりました、燈姫様・・・。」
ヒロインの名前を出せました。
彼女は珠翠と仲良しです。