ただ春の夜の夢の如し 作:優鶴
「ねえ、珠翠・・・いえ、珠翠様。」
「誰も見ていませんし大丈夫ですよ?」
「ええ、確かにそれはそうなんだけど。後宮は誰の目が、耳があるから、わからないし。さっきは珠翠に会えて少し気が緩んでしまったの。これからは、ちゃんと珠翠様って呼んで敬語使うからね?」
「・・・二人の時もですか?」
心なしかムッとした声音の珠翠に燈姫が笑う。
「ええ。」
「誰かいれば気配くらい察せますわ。燈姫様もそうでございましょう?」
「あら、そうかしら?手練れならそうともいかないわよ。・・・私の素性がバレても、厄介だし。」
「・・・わかりましたよ。では燈姫。」
「はい、珠翠様。お菓子も出来上がりましたし、邵可殿のところに向かいましょう!」
「そうですね。」
やっぱり様付けはとれても敬語は抜けないか、と燈姫は軽くため息を吐いた。
「失礼いたします、邵可様。」
「お久しぶりです、邵可殿。お変わりないようで。」
「これは、ら・・・。」
何かを言いかけた邵可に、燈姫は人差し指を口に当てて片目を瞑って見せる。
「わたくしは唯燈姫ですわ。」
「・・・そうでしたね、燈姫殿。」
「気をつけてくださいませ、邵可殿。ところで・・・珠翠と一緒にお菓子を作ってきたのです。ご一緒にお茶でもいかがです?」
「それはいいですね。では、お茶を淹れてきます。」
「ありがとうございます、邵可殿。」
「あ・・・あの、邵可さ・・・。」
珠翠が引き止めるまもなく邵可はお茶を淹れにいってしまう。沈黙する珠翠を見て、燈姫は首を傾げた。
「あら、どうされましたか?珠翠様。」
「・あの…知っていらっしゃるはずですよね・・・?」
「知っているって、何がでしょう?」
「え・・・あの・・・その。」
「邵可殿にお茶を淹れてもらうだけですよ?」
「そ、そうですが…。」
「何か問題でもあるのですか?」
「え・・・だって邵可様のお茶は・・・。」
「私のお茶は何だい?」
「しょっ、邵可様っ!いっ、いえ、何でもありませんっ!」
飛び上がる珠翠を尻目に燈姫は微笑む。
「邵可殿、相変わらず健康に良さそうなお茶ですね!」
「けんこうっ・・・!」
「燈姫殿もそう思いますか?」
「はい。では、いただかせてもらいますわね。」
何食わぬ顔でお茶を飲み干した燈姫に、珠翠がしんじられないという顔をしたがすぐに我に返り、持ってきたお菓子を邵可に渡す。
「邵可様、あのこちらを・・・」
「ああ、珠翠と燈姫殿で作ってくれたお菓子があったね。・・・うん、美味しい。」
「それならよかったです・・・。」
(・・・珠翠、やっぱり貴女可愛いわよ。初々しいんだから。)
視線に気づくことなく楽しげに話す二人に、燈姫は黙って嘆息した。
「よかったですわね、珠翠様。とても楽しそうでしたよ?」
「そうでしたか?」
「敬語はお法度よ。筆頭女官様?」
「・・・ええ、そうね。そう見えていたかしら?」
「とっても楽しそうでしたわよ。恋する乙女の顔をしていらして。」
「・・・っ///!」
「まあ、珠翠様ってば頬が紅いですわよ?可愛らしいこと。」
「・・・。」
女官ごっこ編。
主人公は笑って父茶を飲めるつわものです。