ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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最近ようやく落ち着いてきました。燕尾です。
ああ、土日が休みってなんてすばらしいのだろうか……!


第十話

「さっきの気配、"黄金の獅子(レグルス・アウルム)"だね……ふゥん、普通の人間が第四真祖を喰ったって噂、わざわざ確かめに来たのも、案外無駄じゃなかったわけだ」

 

古城にいきなり攻撃の仕掛けておきながら、ヴァトラーは悪びれもせずに船内を進みながらそう言った。

 

「……"黄金の獅子(レグルス・アウルム)"を知ってるのか……?」

 

「"焔光の夜伯(カレイドブラッド)"アヴローラ・フロレスティーナの五番目の眷獣だろ。制御の難しい暴れ者と聞いていたけど、うまく手懐けてるじゃないか。よっぽど霊媒の血がよかったんだな」

 

淡々と告げられたヴァトラーの言葉に、古城は無言で顔をしかめた。"焔光の夜伯(カレイドブラッド)"――先代の第四真祖アヴローラ・フロレスティーナ――その言葉の響きが古城の精神をかき乱し、耐え難いほどの頭痛を引き起こす。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ああ、なんとか」

 

古城の身に起こっていることをすぐに察した劉曹は声をかけ、ほかの人に気づかれないように古城の背中に手を当てる。不思議に思っていた古城だったがすぐに異変に気づいた。先ほどまでの頭痛が完全とまではいかないが大分薄れたのだ。

するとヴァトラーが劉曹とアスタルテの方を見てニヤリと笑う。彼はアスタルテの力にも多少の興味を持ったのだろう。

 

「相変わらずすごいね、君は。うちの第一真祖(じいさん)と張り合っただけある。それに、眷獣を宿している人工生命体までいるなんてね」

 

いきなりわけのわからない話をしたため、雪菜と紗矢華はお互いに顔を見合わせている。アスタルテは無言で一礼し、劉曹は苦虫噛み潰したように顔をしかめる。

 

「そんなことより、どういう目的で絃神市に来た? 古城に挨拶ではい終わりじゃないだろ」

 

「ああ、そうだ、忘れていたな。いやなに、ちょっとした根回しって奴だよ。この魔族特区が第四真祖の領地だというのなら、まずは挨拶しておこうと思ってね。もしかしたら迷惑をかけることになるかもしれないからねェ」

 

「迷惑ってどういうことだ?」

 

古城はヴァトラーに訊く。

 

「クリストフ・ガルドシュという名前を知っているかい、古城?」

 

ヴァトラーがそういった瞬間、劉曹は溜息を吐いた。ヴァトラーが関わるという予感が見事的中したのだ。

 

「いや? 誰だ?」

 

そんな劉曹の様子もわからずに古城は首を振る。そんな古城にヴァトラーの執事らしき男がワイングラスを手渡してくる。未成年なので、と断りかけた古城だが、男の顔を見て逆らうことを諦めた。物腰は静かで知性的だが、凄まじい威圧感を備えた強面の老人だ。頬に残された大きな古傷が、彼の苛烈な人生を想像させる。

ヴァトラーも同じようにグラスを受け取って、乾杯、と古城の前に掲げて見せた。

その姿はなかなか様になっていて古城は少し悔しく思った。

話が進まないと思った劉曹が口を開く。

 

「戦王領域出身の元軍人で、欧州では少しばかり名前を知られたやつだな。黒死皇派という過激派グループの幹部で十年ほど前のプラハ国立劇場占拠事件では民間人に四百人以上の死傷者を出したテロリスト」

 

「黒死皇派って名前は聞いたことがあるな。だけど何年も前に壊滅したんじゃなかったか?」

 

古城は劉曹の説明で古いニュースを思い出す。

ヴァトラーは悠然と笑いながら、

 

「リーダーは僕が殺した。ガルドシュは黒死皇派の生き残りさ。正確に言えば、黒死皇派の残党が新たな指導者としてガルドシュを雇ったんだ。テロリストとして圧倒的な実績を持つ彼をね」

 

「ちょっと待て。あんたが絃神島に来た理由に、そのガルドシュって男が関係してるのか?」

 

嫌な予感を覚えて、古城が訊いた。ヴァトラーは感心したようにうなずいて、

 

「察しがよくて助かるよ、古城。そのとおりだ。ガルドシュが、黒死皇派の部下たちを連れて、この島に潜入したという情報があった」

 

「そういうことか……」

 

ようやくすべてのことに合点がいった劉曹は呟く。しかし、今日知ったばかりの古城は首をかしげる。

 

「どういうことだ、劉曹?」

 

「黒死皇派は、差別的な獣人優位主義者だ。奴らの目的は聖域条約の完全破棄と、第一真祖を殺して戦王領域の支配権を奪うことだ。そしてこの絃神島は聖域条約で成立している街。ここで事件を起こせば黒死皇派の健在を印象付けることができる。だが、それだけじゃない」

 

「ほかにも何かあるのか?」

 

「考えてみろ、魔族特区はほかの国にもある。それなのに奴らがわざわざ絃神島に来たということはなにか別の理由があるということだ」

 

「なにか……ってなんだ?」

 

「具体的なものはわからない。だがさっきも言ったが、最終的な奴らの目標は第一真祖を殺すか聖域条約の破棄。それらを可能にするものがこの島にあるってことだ。でなければこんなところにはこないだろ」

 

「さすがだね、劉曹。そこまでわかるなんて」

 

劉曹の説明を聞いてヴァトラーは賛辞を送る。しかし、劉曹は嬉しがることもなくヴァトラーを睨む。

 

「うるさい、今回お前が正式な外交使節としてここに来たのは正当防衛の大義名分を使って黒死皇派と殺りあうためだろうが」

 

劉曹が責めるようにヴァトラーに問いかけると、

 

「うん、そうだよ」

 

「即答かよっ!」

 

短く叫ぶ古城。しかしヴァトラーは満面の笑みを浮べて、

 

「僕の眷獣は危険が迫ったらなにをしでかすかわからない。この島を沈めるくらいのことは平気でやるヨ。だから迷惑をかけるかもしれないと思って、古城に謝っておこうと思ったのサ」

 

迷惑をかけることを詫びる様子もなく話すヴァトラーに古城は絶句し、劉曹は思わずチッと舌打ちをしてしまう。

すると冷たく澄んだ声が船内に響いた。

 

「恐れながら、あなたの出る幕ではありません、アルデアル公」

 

「姫柊?」

 

今まで黙っていた雪菜が強気に前に出る。雪菜の存在を石ころほどにも意識していなかったヴァトラーは、面白そうに彼女を見る。

 

「きみは?」

 

「獅子王機関の剣巫、姫柊雪菜と申します。今夜は第四真祖の監視役として参上いたしました」

 

「ふゥん……なるほど。紗矢華嬢のご同輩か」

 

(うやうや)しい言葉遣いで名乗る雪菜を、ヴァトラーは退屈そうに見下ろして呟いた。興味があるものにはとことんしつこいがないものには存在すらないように振舞うヴァトラー。

少し空気を嗅ぐような仕草をして雪菜を見る。

 

「そういえば、古城の身体から、きみの血と同じ匂いがするんだが……もしかしてきみが"黄金の獅子(レグルス・アウルム)"の霊媒だったりするのかな?」

 

「「……っ!?」」

 

思いがけないヴァトラーの指摘に古城と雪菜は全身がぎこちなく硬直する。まるで秘め事がばれたかのように。

 

「血の匂い……って、そんなことまでわかるものなのか……!?」

 

思い切り動揺している古城。嘘に決まってるだろ、と言おうとした劉曹だったが異常なまでの殺気を感じた。

その殺気の元は紗矢華だった。憎しみに満ちた目つきで古城を睨んでいる。古城もそれをわかっているようで紗矢華の方を見ないでいる。

 

「いや、嘘だよ。でも、きみが古城の"血の伴侶"候補だというのなら僕にとって恋敵になる。それに敬意を表して聞いてあげよう。どうして僕の出る幕はないと言うんだい? もしかして古城が、僕の代わりにガルドシュを始末してくれるとでも? だけど第四真祖より、まだ僕の眷獣たちのほうがおとなしいと思うけど」

 

ヴァトラーから問われると、雪菜は静かな決意を浮かべて首肯し、

 

「そうですね。ですから、わたしが第四真祖の代わりに、黒死皇派の残党を確保します」

 

「――雪菜!?」

 

紗矢華が悲鳴のような声を漏らす。有能ぶっている彼女も雪菜が絡むとそんな余裕はないらしい。しかし古城にも紗矢華が焦る気持ちはよくわかる。劉曹もあきれるように溜息をついた。

 

「なんでそうなる!? 代わりもなにも俺はガルドシュとかと関わるつもりなんてまったく――」

 

「先輩たちは黙っていてください。監視役として当然の判断です。第四真祖をテロリストと接触させるわけには行きませんから。相手が真祖を殺そうとしているのなら、なおさら」

 

勝手に思い込んで頑固になっている雪菜に劉曹も口を開く。

 

「だから古城はガルドシュと接触する気はないって言っているだろうが。おまえがそうやって行動することで古城が巻き込まれるのがわからないのか?」

 

「ですが、黒死皇派がこの島でテロ事件を起こすというのなら獅子王機関の管轄です。動かないわけには行きません!」

 

的外れなことを言っている雪菜にだんだん苛立ちを覚える劉曹。だが、ここはぐっ、とこらえて、

 

「少し落ち着け、この件には国家攻魔官も動いている。それに獅子王機関の管轄というのなら、増援でも求めればいいだろう」

 

「犠牲が出てからでは遅いんです!」

 

「肯定するわけじゃないが、犠牲は必ず出てしまう。それとも姫柊はこの島の五十万人を救えるとでもいうのか?」

 

「救うために未然に防ぐんです!」

 

「確かに未然に防げることができるならそれが一番だ。だが、できるのか? 黒死皇派の情報もろくに持っていないで」

 

「そ、それは……」

 

「それにだ、おまえがガルドシュたちを追っている間こいつを自由にさせるのか? できないよな、おまえの任務はこの第四真祖の監視だ。だからいってるだろ、おまえが動けば古城も来るって」

 

劉曹の話に冷静さを取り戻したのか言葉に詰まる雪菜。するとそこにヴァトラーが横槍を入れてきた。

 

「まーまー、いいじゃないか。一度彼女に任せてみるのも。僕としても獅子王機関の剣巫実力が、古城の伴侶にふさわしいか、見極めたいし」

 

「そんな理由が通るとでも思っているのか? そもそも、俺がおまえの要望を聞き入れると思うか?」

 

劉曹はヴァトラーの提案を当然ながら撥ねつける。だが、ヴァトラーは笑みを崩さず、

 

「なら、きみも手伝えばいいじゃないか。"白炎の神魔"がやるなら大事にはならない法が大きい。それに、以前からきみも黒死皇派を捕らえようとしていたんだろう? 捜査人員が増えたと思えばなんともないさ」

 

「……誰から聞いた」

 

「怖い怖いお嬢さんからだよ。どこかのね」

 

ヴァトラーが話の出所を言うと空気が凍った。劉曹は青筋を立て顔をひくつかせていた。

 

「あくまで関わらせたいのか、あの女」

 

「それに彼女に勝手に行動されるより、君の目の届くところに置いといたほうがいいと思うけど?」

 

そういわれて劉曹は黙り込んでしまう。そして何度目かわからない溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、お前は承諾したのか」

 

「はい……」

 

翌日、昨日のことを那月に報告した劉曹は床に正座させられていた。そこに真祖三人を同時に相手取った姿はなかった。

 

「まるく収めるためには、そうするしかなかったというか……あだっ!」

 

那月は黒レースの扇子を一閃する。どんな術を使ったのか、その瞬間、普通の人間なら頭蓋骨が陥没するくらいの衝撃が劉曹の額を襲った。

 

「言い訳するな。だいたいお前は考え方が甘すぎる」

 

「すみません……」

 

言い返すこともできずただただ謝る劉曹。そしてこの状況を打破するため話を変える。

 

「それで、なにか新しい情報は入ってきたのか?」

 

「ナラクヴェーラは知っているか?」

 

唐突に訊き始める那月。劉曹は思い出すように呟く。

 

「確か南アジア、第九メヘルガル遺跡から発掘された先史文明の遺産で、かつて存在した無数の都市や文明を滅ぼしたといわれている古代生物兵器だな」

 

「そうだ、昨日、カノウ・アルケミカル社にいた黒死皇派の賛同者(シンパ)を捕らえた。やつはナラクヴェーラについての石版の解読作業をしていた。おそらくナラクヴェーラ制御するためだろう」

 

無駄だと思うがな、という那月に劉曹もうなずく。

 

「たしかに、自慢ではないが、古代の石版の解析ができるのは俺ぐらいなものだからな」

 

「ああ。それに今日明日にでも特区警備隊(アイランド・ガード)がガルドシュを狩り出すつもりだそうだ。私も出るつもりでいる。捕らえられるのも時間の問題だ。だが、まだ油断はできん。おまえは引き続きアスタルテと事に当たれ」

 

了解、といって劉曹はアスタルテと部屋を出る。

校舎に戻った劉曹はまたもや好奇の目にさらされていた。原因はやはり隣のメイド人口生命体だ。

さすがに授業中は一緒ではなかったが休み時間に入ると毎度毎度劉曹のクラスにやってくるアスタルテ。そのたびにクラスのヒソヒソ話が劉曹を襲うのだ。

どうしたものかと考えていると、唐突に一定の気配を感じた

 

(……この力と殺気は、面倒だな……)

 

そう思った瞬間、劉曹はアスタルテに指示を出した。

 

「アスタルテ、屋上で面倒ごとだ。いくぞ――」

 

命令受諾(アクセプト)

 

そういって二人は昼間の廊下を駆け抜けるのだった。

 





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