お久しぶりです。
前回から一ヶ月以上経ってしまって申し訳ないです。
そう長くないうちに更新すると嘘をついてしまいました本当にすみません。
第十三話です、どうぞ。
劉曹と雪菜が浅葱を背負って保健室に向かってから十数分後、気を失っていた紗矢華は目を覚ます。
「ん、ここは……」
陽の光がまぶしく。はっきりと目を開けることが出来ない。しかし突然、影が差す。
「ようやく目を覚ましたか。気分のほうは大丈夫か?」
紗矢華は自分の顔を覗きこみ、気だるそうに声をかけてきた少年を睨む。
「なに人の顔じっと見ているのよ暁古城。ていうか、離れなさいよ。空気感染で妊娠したりしたらどうしてくれるのよ?」
「そんなわけあるかっ! おまえは吸血鬼をなんだと思ってやがる」
変な理屈を挙げながら拒絶してくる紗矢華にさすがの古城もツッコミを入れる。
「あなたならやりかねないわ。私の雪菜の血を吸ったくせに私の雪菜の血を吸ったくせに」
しかし、古城のツッコミを聞くこともなく、紗矢華は恨みがましく
雪菜のことをすごく大切にしていることがわかるが、そろそろ鬱陶しく思ってきた古城。
ボソボソといまだに何かを言っている紗矢華を無視して古城は劉曹に言われたことを実行する。
「んじゃ、アスタルテ。よろしく頼む」
「
アスタルテも劉曹が居ない間は古城の言う事を聞け、と言いつけられているので、素直に古城の指示に従う。
「なんのつもり?」
近くに寄って紗矢華の身体に触れ始めるアスタルテ。害意がないことをわかっているのかアスタルテを跳ね除けるようなことはしないが、その代わり思い切り警戒し古城を睨む紗矢華。
「劉曹から聞いたんだが、アスタルテはもともと、医療品メーカーに設計された臨床試験用の
「別にわたしは大丈夫だからそんなことしなくてもいいのだけれど」
「それはあいつがおまえの傷を治したからだ。だけど、念のために診たほうがいいだろ」
「余計なお世話よ。そもそも、私を殺そうとしてたやつがどうして私の傷を治すのよ。意味わかんないんだけど」
まあそうだよな、と紗矢華の言い分に頷く古城。どう説明したら紗矢華が納得するか悩んだ古城は頭を掻く。
「俺は途中から気づいたんだが、あいつは最初からおまえを殺すつもりなんてなかったんだよ」
「は? それって――」
「――|診察を終了しました《メディカル・チェックアップ・コンプリーテッド》」
問いただそうとする紗矢華の声をアスタルテの無感情な声が遮った。古城たちが会話をしている間も診察を進めていたアスタルテはその結果を報告する。
「身体に異常はありませんでした。ですが不可解なことがあります」
不可解なこと? と、聞き返す二人にコクリと頷くアスタルテ。
「先ほどの劉曹の攻撃の痕跡がまったくありません。それとミス煌坂の身体に多少の活性が見られます」
「たしかに……身体が軽い気がするわ」
「劉曹が回復させたからじゃないのか?」
「活性はそれで説明がつきます。ですが、負傷した事実は変わりません。傷が治っても多少の情報は肉体に残ります」
そういうことか、と二人は同時に理解する。
「つまり、煌坂はもともとダメージを受けていなかったってことになっているのか」
肯定、とアスタルテは頷き心配するような顔で続ける。
「そして、治癒の術をかけた後の劉曹は明らかに様態が悪化していました。以上のことから――」
「――楠劉曹は私が負った傷を自分が代わりに受けた、そう言いたいのね」
紗矢華がそう言うと三人の間に沈黙が訪れた。
その沈黙が気まずかったのか、はあ、とため息をつき古城は口を開く。
「なんかというか、悪いな。いろいろと」
唐突に謝りだした古城に紗矢華はきょとんとしている。
「そうしてあなたが謝るのよ? 気持ち悪いんだけど」
「うるせえな! ……劉曹はあんなこと言っていたけど、煌坂が言っていたことは正しいと思ってさ」
古城は頭をぽりぽりと掻きながら紗矢華から目を逸らす。こういう話をするのはどこかやはり恥ずかしい。
「殲教師のオッサンのときも、今回のテロリスト騒ぎでも、姫柊は俺のせいで面倒な事件に巻き込まれたのは間違いじゃない。だから姫柊の友達が怒るのは無理も無いかな、とか」
「たしかにあなたのせいだけど、雪菜は任務だから仕方なくあなたの監視をしているだけで、好きで協力しているわけじゃないんだからね。別にあなたが気にすることないじゃない」
「あー……まあそうなんだけどな。助けてもらったのも本当だし。監視は迷惑だけど姫柊はいいやつだしな」
「どうしようもない男だと思っていたけど、少しは見る目があるみたいね。そこだけは認めてあげてもいいわ」
どこか嬉しそうに、どこまでも上から目線で言ってくる紗矢華に古城もうんざりする。しかしそんな古城の気持ちも露知らず紗矢華はますます調子に乗って、
「でも、いい奴、なんて陳腐な表現は感心しないわね。雪菜のことを褒める以上は、それなりの覚悟と誠意を持ってやってもらわないと」
「……覚悟と誠意が必要な褒め言葉ってなんだ?」
「そんなに難しいことじゃないわ。あるがままの雪菜の姿を忠実に再現すれば言いだけだから。きめ細やかな肌、金色の産毛、鎖骨の下にあるほくろ。天使の翼のような肩甲骨から、引き締まったわき腹と、骨盤にかけての高低差が織りなす黄金比――!」
「身体のことだけじゃねえか! もっとほかに褒めるところがあるだろ! たとえば、真面目なこととか、努力家なこととか、人見知りのくせに意外に世話焼きなこととか、気が強いくせになんだかんだで甘くて押しに弱いところとか――」
次々と雪菜のことをあげる古城に紗矢華は呆気にとられる。
「や……やるわね、暁古城。まさかこの私とここまで張り合うなんて……言っとくけど、わたしは雪菜と一緒にお風呂に入ったことだってあるんだからね!」
一瞬言葉に詰まるが、それでもあくまで自分が上ということを示したいらしい。どんどん変な方向に話が逸れていく。
「知るかんなこと! わけわからん対抗心を燃やされても困るわ!」
「うるさいわね! 私はあの子が七歳のときから一緒にいたのよ。雪菜の本当の家族よりも私のほうがあの子といた時間が長いんだから――」
そういいながら紗矢華は勝ち誇ったように自分の携帯電話を古城の前に突き出した。
画面に表示されていたのは幼いころの雪菜と紗矢華だった。
「ふーん。たしかにこれは可愛いかもな」
「かもじゃなくて可愛いのよ。私の雪菜は天使なの」
「いや、姫柊もそうだけど、おまえもこのころから美人だったんだなー」
「は……!?」
考えなしのただ率直な古城の感想に紗矢華は固まる。
「ば、ばか……な……なにを……」
異性からいわれたことのない言葉に紗矢華は茹蛸のように顔を真っ赤に染め上げて
「やっぱりあなたはここで殺すわ!」
「なんでそうなる!?」
剣を突きつけてくる紗矢華から慌てて距離をとろうとする古城。すると今まで無言で二人の話を聞いていたアスタルテが二人の間に割り込んだ。
「――
「「は?」」
アスタルテの言葉に声をそろえて固まる古城と紗矢華。
「不審者? アスタルテ、そいつはどこに向かっているかわかるか?」
「
アスタルテが淡々と告げた直後、一瞬、強烈な閃光がどこからか放たれ、少し遅れて爆音が鳴り響いた。
「なにいまの? まさか黒死皇派が……!?」
古城はくそっ、と悪態をついて屋上から出て行く。嫌な予感しかしない。
「ちょ――、暁古城、待ちなさい!」
古城についていくように紗矢華とアスタルテも屋上を後にした。
「鬼ごっこは終わりだ。我々と来てもらおう」
ガルドシュら保健室に来た獣人たちに加え、増援を求めたのか先ほどより多くの獣人たちに囲まれている雪菜たち。
「くっ……」
苦虫を噛み潰したような表情をする雪菜。素手で獣人を倒すことは出来なくはないが、いささか数が多すぎる。"雪霞狼"が無い今の雪菜にこの包囲網を崩すことは不可能だった。
それに、浅葱の前で彼らと戦うのは自分の正体をばらすのと同じだ。自分のが誰なのかを知られれば古城が第四真祖と気づかれる可能性が格段に高くなる。
すると雪菜と眠っている凪沙をかばうように浅葱が前に出た。
「ちょっと待って、あいつは……? 劉曹はどうしたの!?」
浅葱は嫌な予感を感じつつ、ガルドシュに問う。彼らがここにいるということは当然劉曹が張った結界をどうにかしたことになる。
ガルドシュは敬意を表した表情で無常な一言を放った。
「彼は死んだ」
「なん……ですって……」
浅葱は言葉を失う。嘘だと信じたい。だが、その希望は目の前にいる彼らが否定している。
「最期の最後まで彼はわれわれの結界を解くことはなかった。そして安らかに逝った」
「嘘よ……」
続けて語られたガルドシュの言葉は浅葱には聞こえず、彼女は崩れるようにへたり込む。
「藍羽先輩、気をたしかに持ってください!」
雪菜が声をかけるが浅葱は何も答えない。ただ呆然と虚空を眺めている。
無理もないだろう。友人の死を告げられて正気でいられるほど精神的に強い人はそういない。
「いつまでもそうしていられるのも困る。もう一度言おう、我々と来てもらう」
詰め寄ってくるガルドシュ。しばらく黙っていた浅葱だったが、
「……本当に仕事が終われば解放してくれるんでしょうね」
睨みつけるように見上げて言う。
「君が仕事終えたときはそこの彼女たち二人含め必ず無事に解放すると約束しよう」
浅葱は決意した目で、ガルドシュらを睨む。
「わかったわ」
「……藍羽先輩」
承諾した浅葱を不安そうに見つめる雪菜。だが、ここで雪菜がなにを言っても浅葱が揺らぐことはないだろう。
「ごめん、少しだけ付き合って」
困ったような笑顔を浮かべそういうのだった。
「なんだ……これ……」
古城たちは絶句していた。
屋上から飛び出した後、階段を駆け下りている途中に血の臭いがしたのだ。臭いを頼りにたどっていくとそこは保健室だった。しかし、その中は荒れていた。
保健室の備品は所々破壊されており、ベッドもひっくり返っており、そして様々なところに血痕が付着していた。
そして壁にもたれかかり、血塗れになっている少年を見つけた古城は膝をついた。
「おい……嘘……だろ……」
「……劉曹の脈が止まっています。彼はもう――」
劉曹の手をとり、無感情な声で告げるアスタルテ。だが、その声にはどこか悲しみと怒りが入り混じっていたようだった。
「どうして……」
さすがの紗矢華も動揺を隠しきれていなかった。
「なんでおまえは……死んでんだよ……」
激しい怒りとともに古城の身体の中から膨大な力がこみ上げてくる。異変に気づいた紗矢華は声を上げる。
「暁古城、落ち着きなさい! ここで暴走してはだめよ!!」
「わか……っている……!」
紗矢華の言うとおり、ここで暴走してしまえばこの島を沈めてしまいかねない。古城はやるせない気持ちと爆発しそうな力を必死に抑えている。
しかし、抑えきれない魔力が古城から漏れ出して、周囲を破壊していた。
多少とはいえ第四真祖の力は強大なものだ。もはや学校の崩壊は免れない、そう思った瞬間、古城の額に腕が伸び、こつん、と指で打たれる。
「まったく、なにやってんだ」
聞こえるはずが無いと思っていた声が三人の耳に届く。三人は目を見開きながら声の主に視線を向ける。声の主はなんともないような平然とした声で、
「学園を壊すつもりか、アホ」
「劉…曹……?」
そういった直後――
「ゴフッ――」
劉曹の口から大きな血塊がこぼれた。ゲホ、ゲホッ、とむせたように血を吐いている劉曹を古城は支える。
「おまえほんとに大丈夫なのか!?」
「ああ、問題ない。見てみろ」
袖で口をぬぐった劉曹は吐き出した血塊を指差す。そこには複数の弾丸が含まれていた。
唖然とする古城。普通ならば銃弾を口から出すことは出来るはずがない。紗矢華もわけがわからないというように呟く。
「あなたの身体はどうなっているのよ、もしかして新種の魔族?」
「違う。俺は人間だ」
そういう劉曹に紗矢華は半眼で睨む。
「普通の人間は打ち込まれた弾丸を吐き出すことなんてできないわよ」
「おまえがなんと言おうと俺は人間だ。それは揺るがない事実だ」
それより、と劉曹は古城たちを見回してため息をつく。
「古城とアスタルテと煌坂しかいないということは姫柊たちは連れて行かれたか」
「「は?」」
古城と紗矢華が固まっている中、アスタルテは冷静に劉曹に訊く。
「どういうことですか? 説明を求めます、劉曹」
「ああ、アスタルテは気づいたと思うが獣人たちが侵入したんだよ、この学校に」
「肯定。しかしわかったのは侵入者がいるというだけでした。なにかに阻まれて魔族の種類、位置の特定は出来ませんでした」
「なら、よくここにたどり着いたな?」
「それは俺が血の臭いを嗅ぎ取ったからだ」
劉曹の率直な疑問に古城が答えた。吸血鬼の五感は人間より鋭い。古城は屋上から出たあとすぐに血の異臭を感じたのだ。
「嗅ぎ取ったって……古城、おまえ将来警察犬にでも就けばいいんじゃないか」
「うるさいわ! そもそも警察犬は職業じゃねえ!」
ギャーギャー横で喚く古城を無視して劉曹は話を戻す。
「話がそれたな、侵入者の獣人はクリストフ・ガルドシュたち、黒死皇派のテロリストたちだ」
「「なんだ(です)って!?」」
まさか学園に黒死皇派の頭がくるとは思ってなかった古城と紗矢華はほぼ同時に驚く。そんな二人に劉曹は思わず苦笑いする。
「おまえら仲いいな」
「「仲良くないわ!!」」
また同時にツッコム二人に、息ピッタリじゃん、と心の中で呟きながらも話を進める劉曹。
「ガルドシュたちは浅葱に頼みたい仕事があるといっていた」
「それってナラクヴェーラのことでか?」
「ああ、おそらくそいつの制御プログラムの解析とかだな。それで奴らは浅葱と一緒に姫柊と凪沙ちゃんを人質として連れて行っただろう」
「凪沙!? なんであいつまで!?」
自分の妹が
「浅葱を保健室に連れてくときに会ったんだよ。教室から飛び出していった姫柊を探していたらしい。一緒にいる奴を人質として連れて行くのは定石だ」
「それならなんであなたは撃たれたの? ……っていうかどうやって生き返ったのよ」
紗矢華は疑問に思っていたことを口に出す。人質として連れて行くのが普通ならば本来劉曹も連れて行かれるはずである。しかし、彼は撃たれて放置されていたのだ。劉曹の言動とガルドシュたちの行動が合わない。
「まあ、いろいろとな……」
そういって紗矢華から視線を逸らす劉曹。あからさまな態度に紗矢華は劉曹をジト目で睨む。
「ひ、姫柊には古城たちと合流するように言っておいたんだ。おまえらがここにいるってことは連れて行かれた可能性が高い」
「でも、どこに連れて行かれたかわからないだろ」
「おそらくアジトだろうな、おまえらには心当たりあるんじゃないのか?」
「心当たりっていわれてもな」
劉曹に指摘されて、古城はしばらく考え込む。いつまでも答えを出せない古城に紗矢華は呆れたように言う。
「暁古城。さっきあなたもなにかが爆発したのを見たと思うけど、それはおそらく黒死皇派と
「そんなことがあったのか」
関心もない無感情な声で言う劉曹を無視して、紗矢華は続ける。
「今この島でそんな戦闘があるとしたら、どこだと思う?」
「あ……」
思い当たる場所を思い出した古城は、ぽん、と両手を鳴らす。劉曹もなるほどな、と呟く。
「そっちはおまえらに任せる。俺はちょっと寄っていくところがあるから、後で合流しよう。行くぞ、アスタルテ――」
「
「ちょっと待て劉曹。おまえ――っていない!?」
劉曹は古城が言い終わる前にアスタルテとともにその場からいなくなっていた。
残された古城と紗矢華はただ呆然としており、
「ねえ、暁古城」
「……なんだ」
「彼って本当に人間なの?」
「人間……だと思う」
紗矢華の質問に古城は自信ないように答えた。
いかがでしたでしょうか
更新まで期間が空くことはありますが失踪はしないのでお付き合いの程よろしくお願いします