ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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どもです。燕尾です。
春休みってなんでしょうね……

休み期間中だからってなんでシフトをポンポンポンポンポンポン入れてくるんだろうか
「春休みだからいいでしょ」とか言ってくるし。
シフト希望は夜勤週3だって最初から言ってるのにね……
四連勤週5とかふざけてる。

――関係ない愚痴をしてしまいました、でも言わずにはいられなかった!!


ということで第十八話目です。


第十八話

 

 

退屈な授業を終えて放課後。劉曹は机に()していた。傷が痛み、動くのも億劫に感じるほどだった。

顔色も余程悪いのだろう。朝に顔を合わせた古城や雪菜だけでなく、浅葱や基樹、倫にまで具合が良くないのでは、と昼休みに寄ってたかって心配されたのだ。その場では何とか誤魔化したが、これ以上悟られるわけにはいかない。

重たい身体を動かして、劉曹は校舎の外へと出る。太陽の暑い日ざしが劉曹からさらに体力を奪っていく。

 

「くそ……血が足りない……やっぱり、傷は(ふさ)がらないか」

 

小さく呟き、おぼつかない足取りで道を歩く劉曹。身体的に限界を迎えてきていた。

 

「少し休むか……」

 

劉曹は周りから見づらい木陰に入り、横になる。日差しがないだけで大分暑さが紛れ、わずかながらに気分がよくなる気がした。

 

「ヴァトラーが言っていたアルディギア飛行船の失踪――アルディギアか……」

 

反芻(はんすう)するようにとある国の名を言う。

涼しい風が真夏の人工島を駆け抜けるのを感じた。

なんともいえない気持ち良さに瞼は重たくなり、段々と劉曹の意識が薄れていく。

心地よいまどろみの中で浮かんでくる、白衣を着た白髪交じりの男。年齢は五十になるかどうかくらい。

さして大柄ではないが、奇妙な威圧感のある男だった。しかし劉曹は昔に一度だけ、アルディギアの王宮で見たことのある顔だった。確か名前は……

 

叶瀬賢生(かなせけんせい)……」

 

魔導技師で知られている男の名前を呟いて、劉曹の意識は堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう……劉曹……

 

 

どこからか少女の声が聞こえる。透き通るような綺麗な声だった。

 

「誰だ? 誰が俺を呼んでいるんだ」

 

声がしたと感じる方向へと振り向くもそこには誰もいない。そしてやけに視線が低いと感じる。

 

「ん? なぜか都合よくこんなところに鏡が――って、なんだ、これ!?」

 

目の前に都合良く置かれていた鏡を見た劉曹は驚く。

 

身長は百三十センチ後半、くりんと大きな瞳に少し膨らんでいるように見える頬。髪も背中ではなく肩くらいのセミロング。

 

「これは……小さい頃の俺……?」

 

 

――劉曹、私はここです……

 

 

「とはいっても、誰だ……一体どこから……」

 

声の主を見つけようと周りを見渡しても、白一色の世界。自分が今どの方向を向いているのか、誰が声をかけているのかもわからない。

 

 

いつかわたしの手を……わたしをここから連れ出してくださいね。約束ですよ――

 

 

そういわれた刹那、劉曹は幼い少女が手をこちらに伸ばしている姿が見えた。しかし、肝心の容姿が見えない。

 

「待ってくれ、お前は――」

 

劉曹が最後まで言おうとした瞬間、視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――! おい劉曹!」

 

「楠先輩、しっかりください!」

 

「ん……誰だ、お前ら?」

 

重たい(まぶた)を開けて、自分の顔を覗き込んでいる二人に問う。

二人は、ホッと息をつき劉曹に厳しい視線を送る。

 

「……ぼけてんのか? 俺たちだ。古城と姫柊だ」

 

「古城と姫柊……ここは? ああ、そうか」

 

いつの間にか眠っていたことにようやく気づいた劉曹。

一人で勝手に納得している劉曹に古城と雪菜は呆れたような、しかしどこか安心したような顔をする。

 

「で、どうしたんだ二人とも? そろいもそろって」

 

劉曹がそう問いかけると二人とも頭が痛いという風に手を当てる。

 

「おまえな……どうしたじゃねーよ、お前がそこに倒れていたから俺も姫柊も心配していたんだぞ」

 

「は……?」

 

何のことか分からないといったような顔をしている劉曹に雪菜が付け足す。

 

「楠先輩が血を流して倒れているのを暁先輩が見つけまして……」

 

「血……?」

 

腹部を見ると服から染み出した血がぽたぽたと垂れている。その血が劉曹の周囲を真っ赤に染め上げていた。

傍から見れば殺人現場にしか見えないだろう。

 

「なるほどな、いや悪かった。俺はただ寝てただけなんだが……それより、よく見つけられたな? ここは周りから死角になっていて、気にしない限り見つけることなんてできないのに」

 

「それは、暁先輩が血の臭いがするといって……」

 

雪菜のささやきに劉曹はまたか、と苦笑い交じりに呟いて、古城の肩にポンッと手を置く。

 

「古城、お前の将来は安定だな。いい給料出してもらえるぞ――警察犬は」

 

「なんでまた警察犬なんだよ!?」

 

「いいじゃないか、警察犬。誰一人として職に就くことが出来ない特別だ。古城だけのオンリーワン(・・・・・・)だ」

 

「犬だけにってか? やかましいわ!!」

 

「お前がやかましい」

 

ぎゃーぎゃーと喚く古城の鳩尾に拳を入れて物理的に黙らせる劉曹。

理不尽だ、と、うめく古城を無視して劉曹ははいままで一言も言葉を発していない少女に目を向ける。

 

「それで今更だけど……そこのお嬢さんはどちら様?」

 

劉曹の視線の先の少女は銀色の髪を揺らして、子猫を三匹抱いている。

古城とのやり取りと劉曹の状態があいまって恐怖感を覚えたのか、少女は少しぎこちない笑みを浮かべて、

 

叶瀬夏音(かなせかのん)です」

 

そう名乗って、ぺこりと頭を下げる。

あー、と苦笑いを浮べて、

 

「楠劉曹だ。今はこんななりだが、気にしないでくれ。俺のことは呼びやすいもので呼んでくれ」

 

手をぷらぷらと振り笑顔で答え返す劉曹。

しかし、血を失いすぎてかなり顔は真っ青になっている。

 

「あ、はい。……では、劉さんと呼ばせていただきます。私のことは夏音(かのん)で構いません」

 

気にするなという言葉をすんなり聞いて、触れてこないあたりは彼女の優しさなのだろう。今はその気使いがとても嬉しい。

 

「わかった、よろしく、夏音(かのん)

 

「劉さんはお兄さんと姫柊さんのお友達……ですか?」

 

「お兄さん……? ああ、まあそんな感じだな。夏音と古城たちは今日知り合ったみたいだな?」

 

視線を古城と雪菜に向けると、古城は逃げるように目を逸らし、雪菜は苦笑いしている。何か訳ありのようだ。

 

「実は――」

 

「昨日の夕方に凪沙ちゃんに手紙を渡した男子がいて、それが気になった古城は今日の放課後に中等部の校舎の屋上でなにをしているか確認しようとしたけど変な声がしたから乗り込んでみたものの凪沙ちゃんはただ猫と(たわむ)れていただけで、実は夏音の保護した大量の猫の里親探しを手伝っていただけだった……ってところか」

 

「ええ、そうなんですよ――ってなんでわかったんですか!?」

 

「そのリアクションはもう凪沙ちゃんがしたよ。結局のところ、古城のシスコンが発動したってことだな」

 

「そういうんじゃねーよ」

 

ニヤニヤと笑いシスコン発言する劉曹を軽く睨み、そっぽを向く古城。

妹のことが心配なのは劉曹もわからなくはないが、古城は度を越している気がする。もう少し人のプライベートも考えたらいいのではないだろうか。

そんなことを思っていた劉曹に雪菜が近づき耳打ちをする。

 

「あの……楠先輩も手伝ってくれませんか?」

 

「俺が?」

 

「先輩が行っていたとおり、叶瀬さんは多くの猫を保護しているみたいでわたしたちだけで探すのも無理があるので」

 

「ああ……夏音、俺も手伝わせてもらってもいいか?」

 

「えっ? でも……」

 

夏音は戸惑った様子で口ごもる。

ためらうのも無理はない。重傷の状態を見てそれでもモノを頼む人は誰もいないだろう。劉曹だって気が引ける。

 

「手伝うっていっても猫好きのツテとかがいるからその紹介と交渉ぐらいだ。そんな負担じゃない。それに――」

 

劉曹は夏音の頭に手を置きゆっくりと撫でる。

 

「俺がやりたいからやるんだ。だから夏音は気にしなくていい」

 

優しい声色で言う劉曹に夏音は少し顔を赤らめる。そしてまっすぐ劉曹を見て柔和に微笑んだ。

 

「……はい、お願いします。劉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏音についていって向かった先は学校の裏手にある丘の上の廃墟となっている灰色の建物だった。

 

「……これって、教会か?」

 

建物の屋根に刻まれたレリーフを見上げて、古城は訊いた。

 

「私が幼い頃にお世話になっていた修道院でした」

 

夏音は少し懐かしそうに、朽ち果てた中庭を見つめていた。

 

「夏音はシスターなのか?」

 

「いえ、違います。憧れでした……けど」

 

劉曹の疑問に、夏音は静かに首を振る。古城がなにか訊こうとする前に、夏音は建物の扉に手をかけた。ぎしぎしと蝶番(ちょうつがい)(きし)ませて、傷んだ木製の扉が開く。

 

「わっ……」

 

ボロボロになった建物の中を覗きこみ、雪菜がかわいらしい歓声を()らした。

勢いよく振り返った彼女の瞳が、めずらしく年相応の無邪気な感情を(あらわ)にして輝いていた。

 

「猫! 猫です! 猫ですよ、先輩!」

 

「あ、ああ。それは見ればわかるが……」

 

雪菜の普段見せることのないテンションの高さに、古城は軽く気圧される。

 

「おーい、助けてくれ……」

 

突然、劉曹の情けない声が聞こえた。

おそらくこの修道院にいるであろうすべての子猫が劉曹の足元に殺到していた。

 

「楠先輩……うらやましいです……」

 

雪菜が羨望(せんぼう)の眼差しで劉曹を見ている。

 

「劉さん、すごいです。中には人見知りする子達もいたのですが」

 

「そういえば劉曹って何故か動物に好かれやすいやつだったな。ずいぶん前に凪沙に付き合わされてペットショップに行ったときは大変だったほどに……」

 

「これは、好かれやすいというレベルで片付けていいのか? はぁ……」

 

劉曹は諦めたように言いながら座り込み、子猫の相手をし始める。すると、雪菜もそばに寄ってきて、

 

「楠先輩、私が抱いても大丈夫でしょうか?」

 

「ああ、基本子猫はおとなしいからな。嫌なことをしなければ大丈夫だ」

 

おどおどして近寄る雪菜に、ほら、と一匹渡す。

 

「ふわあ……可愛い……よしよし、よしよし……」

 

不慣れながらも子猫を抱き上げて、雪菜が幸せそうに笑う。

 

「えーと、これって、全部、きみが育てているのか?」

 

子猫の相手をしている劉曹と雪菜を眺めて、古城は夏音に訊いた。

夏音は、慣れた手つきでキャットフードの準備をしながら頷いた。

 

「みんな……捨てられた子たち、でした。引き取り手が見つかるまで、預かっているだけのつもりだったんですけど」

 

「引き取り手を見つけるって……これだけの数はさすがに無理だろ……」

 

「だから凪沙ちゃんとかに手伝ってもらっていたんだろ」

 

軽く唖然としながら言う古城に劉曹が口を開く。

 

「……いまのお前、すごいことになってるな」

 

いきなり、猫の相手をしていた劉曹が喋ったので、そちらを向くとすごい格好になっていた。

劉曹の頭の上に乗っかってくつろぐ子猫がいれば、背中に張り付く猫やひざの上でくつろぐ猫、とにかく劉曹は子猫のくつろぎスペースと化していた。

 

「劉さんの言うとおり、私一人では無理でした。だから凪沙ちゃんや、他の人にも助けてもらってました」

 

「……凪沙が俺に手伝えといってたのは、このことか」

 

やれやれと肩をすくめる古城を見上げて、夏音が遠慮がちに訊く。

 

「すいませんでした。迷惑でしたか?」

 

「さっきのことがあるから、頼まれたら嫌とはいえないんだけどさ。姫柊や劉曹もこんなだし」

 

「よかった。少し悩んでたんです。この子たちの面倒をいつまで見られるか、自信がなくて」

 

淡い碧眼を細めながら、夏音は愛おしげに雪菜や劉曹と(たわむ)れている子猫とたちを見つめて呟いく。

 

「……叶瀬さんは、きっといいシスターになれると思うよ」

 

正直な感想を口にした古城を、夏音が驚いたように見上げた。

 

「ありがとうございます。その言葉だけで私には十分……でした」

 

夏音はやわらかく微笑む。

その言葉の前に夏音に一瞬だけ(かげ)がよぎったのを劉曹は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと片付いたな……」

 

夏音と出会ってから数日、金曜の放課後。古城が子猫が入ったダンボールをクラスメイトに渡すのを見て劉曹は呟いた。

もともと、凪沙や夏音が何日もかけて里親を探し続けていたので、劉曹や古城が手伝うことはほとんどなかった。

 

「全員に引き取り手が見つかってよかったな」

 

「はい。あとは、さっき拾ってきた一匹だけですから、私一人でも大丈夫です」

 

「また拾ったのか……」

 

夏音が抱いていた毛布の中に眠っている子猫を見て、劉曹は溜息をついた。

 

「夏音がそういうのなら大丈夫だと思うが、また増やすなよ?」

 

劉曹は念のために軽く釘を刺しておくと夏音は、はい、と頷く。

話をしていた古城も戻ってきたのだが夏音が抱いている子猫を見ると、さすがに愕然としていた。

夏音が劉曹にした説明をして、古城がなにか夏音に訊こうとしかけたとき、

 

「――ほう、美味そうな子猫だな」

 

日傘をさした小柄な女性が、横合いからぬっと顔を出す。

 

「那月ちゃん?」

 

「担任教師をちゃん付けで呼ぶな」

 

脇腹(わきばら)に強烈な肘打(ひじう)ちを喰らって、古城は苦悶の声を()らした。南宮那月は、古城や劉曹を涼しげな顔で見返して、

 

「知っていたか、暁に楠。学校内への生き物の持ち込みは禁止だ。というわけで、その子猫は、私が没収する。ちょうど今夜は(なべ)の予定だったしな」

 

淡々と告げられる那月の言葉に、夏音が、ひうっ、と息を()んだ。そんな彼女を見つめて那月は舌なめずりするように笑う。

 

「――すみませんでした、お兄さん、劉さん。私は逃げます」

 

「お、おう……気をつけてな」

 

銀髪を揺らして駆け出す夏音を、古城は安堵の息を吐きながら見送った。

那月は心なしか傷ついたように口を尖らせて、

 

「ふん。冗談の通じないやつだ。なにも本気で逃げなくてもいいだろうに」

 

「アンタが言うと冗談に聞こえないんだよ」

 

そういう劉曹に古城も頷く。

 

「それで、なにか用か?」

 

「ああ……ところで今の小娘は誰だ?」

 

「自分の学校の生徒に向かって小娘はないだろ。中等部の三年生だよ。叶瀬夏音」

 

古城は疲れたように息を吐いて、那月に教える。

ほう、と走り去っていく夏音の背中を見つめ、そして劉曹を見る那月。

 

「なかなかの気合の入った髪だな。楠と同じ反抗期か?」

 

「いやいや、劉曹はともかく叶瀬は違うだろ。 父親が外国人みたいなことを言っていたから、そのせいじゃないか? 親父(おやじ)さんの国籍とか、詳しいことは本人も知らないみたいだけど」

 

「那月先生、俺の事情は知っているはずですよね? それと古城、ちゃんと俺のこともフォローしろよ」

 

「そうか」

 

劉曹の一言を無視して、ふむ、と那月は、少し思案するような表情を浮かべたが、すぐに顔を上げて古城を見た。

そのとき劉曹は何か悪い予感がした。

 

「暁古城、おまえ、今夜、私につき合え」

 

那月の言葉は劉曹の悪い予感が的中させるものだった。

 

 




いかがでしたでしょうか

次はもっと早く更新できるといいなあ(遠い目)
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