お久しぶりです。二十六話目です。
どうぞ楽しんでいってください。
第二十六話
「楠、お前あの力を使ったな?」
「いや……あのですね……」
プルプルと小刻みに震える
「那月ちゃんが感じたものはまったく別の「使ったな?」――はい」
ウサギがトラに喰われた瞬間である。
(まあまあ、那月ちゃん。そんな怒らないで)
「やっぱりいたか、
呆れたように呟く那月。この二人―― 一人と一柱はある一件で知り合っているのだ。
(ちょっ、最高神に
那月の脳内に直接語りかけ叫ぶ空音に、彼女は
「わたしをちゃん付けで呼ぶな!」
持っている扇子を劉曹の頭に振り下ろした。人間が出さない音を出した劉曹は悶絶する。
「何で俺が叩かれるんだ……」
「楠、気をつけておけ。おまえが大きな力を使うほど正体がばれやすい。あまりにもお前が力を使うようなら、
「ああ、わかってるよ」
(わたしと劉曹なら誰にも負けないよ)
返す劉曹たちに那月はふっと笑みをこぼす。
「ならいい、この件の後始末は
言い訳? と、意味がわからなかった劉曹は聞き返す。しかし、那月はそのまま巡視船へと入っていった。
「どういうことだ?」
(さあ? わたしは劉曹が来るまでずっと"あっち"ですごしてたから。"あっち"、ですごしてたから)
言葉を強調し、不機嫌そうに答える空音。劉曹は軽く溜息をつく。
「悪かったよ。ここ数年、色々あったんだよ。たまに見てたからわかってるだろ」
(それはそうだけど、もう少しわたしに頼ってくれたっていいじゃない……)
神様はしょんぼりと語気を弱めていく。
「それじゃ、駄目だったんだよ。空音の力を借りず、自分でやらないと……」
「一人でなにを言っているのですか?」
すると、いきなり後ろから声をかけられた。
「ら、ラ・フォリア!?」
空音との話で近づいてくるのがわからなかった劉曹は突如現れた王女に驚いた。
「悪い、またあとでな」
(もーーーー!!)
ギャーギャー喚いている神様をおいて、劉曹はラ・フォリアのほうに向き直る。
「どうしたのですか?」
慌てていた様子を不思議に思ったのか、王女は問いかける。
「なんでもない。それより夏音の容態はどうだ?」
「劉曹が治癒をかけてくれたので命に別状はありませんがまだ少し衰弱しています。そのほかのことを考えるとしばらくの入院が必要でしょう」
夏音は天使に進化するために無理やり霊的中枢をと体に取り込んだのだ。肉体の
「おーい、劉曹、ラ・フォリア!」
「船が出ますよ!」
船の甲板から顔をのぞかせた古城と雪菜が呼びかけてくる。
「劉曹、いきましょうか」
ラ・フォリアは優雅に微笑み手を差し出してくる。ここでなにをしなければいけないのかわからない劉曹ではない。差し出された手を劉曹は優しくとろうとする。が、
(ごめん、劉曹。時間みたい)
不意にうちにいる神が申し訳ないように呟いた。その直後――
「――っ!!」
「劉曹!?」
呼吸が出来ないほどの激痛が胸に走り、劉曹は膝をつく。ラ・フォリアは突然のことで戸惑いを隠せなかった。
「どうしたんだ!?」
「楠先輩、大丈夫ですか!?」
劉曹の様子がおかしくなったのを見ていた古城と雪菜の二人も船から飛び出してくる。
「大……丈夫……離れてろ……」
なんとか立ち上がる劉曹。その体は淡い光に包まれていた。なにが原因がわからない三人はその場に立ち尽くしている。
「ぐ……あ……」
次第に体を包む光が強くなっていく。それに比例して、劉曹を襲う痛みが強まる。
「あああああああああああああああ――――!!!!」
劉曹の絶叫と共に辺り一帯が光に包まれた。あまりのまぶしさに古城たちは目を伏せる。
しばらく経つと、三人の視界が晴れた。
まだ慣れない目で状況を確認する。劉曹はその場に倒れていた。
「劉曹、しっかりしろ――……?」
古城は倒れている劉曹を抱き起こす。そのとき微かな違和感を感じた。
丸みを帯びた肩、キュッとくびれた腰、元から華奢な体つきをしている劉曹だったがあの一瞬でさらに拍車がかかったようだった。そして――
「柔らかい……」
脇から抱えあげている古城に劉曹からは絶対に感じることの無い柔らかさ。
「――って、えええええええええ――!?」
無意識に呟き、ようやく思考が追いついた古城は叫ぶ。
「く、楠先輩が……」
「女の子になっていますね……」
状況を理解した雪菜とラ・フォリアも驚愕の表情をして、それぞれ呟いた。
「なにがどうなってんだ……」
古城は疲れたように呻く。しかし、どれだけ考えても古城たちにわかるはずが無かった。
「とりあえず、絃神島に帰還しましょう。このことについては劉曹が目覚めてからではないと分りませんし」
ラ・フォリアの提案に古城と雪菜は頷く。この状況を説明できるのはこの場にいる劉曹だけなのだ。彼が目覚めなければ、なにも進まない。
「古城、劉曹を船までお願いします」
わかった、と頷き、古城は劉曹を抱え上げる。
先輩、変なことをしないでくださいね、と冷ややかな視線を送ってくる雪菜に、なにもしねーよと、呆れたように返しながら船へと入っていった。
劉曹が目を覚ましたのは
すでに日は傾き始め、水平の彼方に沈もうとしている。
自分が気を失っていたことを思い出した劉曹は深く溜息をつく。
とりあえず古城たちのところに行こう、とベッドから体を出す。そのとき体に妙な重さを感じる。
「これは、胸? まさか、嘘だろ」
その正体がなんなのかわかるまでに時間はかからなかった。
都合よくあった姿見で自分の姿を見て、その瞬間唖然とする。
「空音! おい、空音!」
劉曹は驚きをあまり隠せない様子で神に声をかける。
(……なあに?)
寝起きのようなやる気の無い声で答える神様。
「なんで俺は女になっている!? まさかこれが……?」
普段とはまったく違うソプラノボイスで、劉曹は率直な質問を空音に投げかける。
(えーとねー……それがー……わたしと融合した代償だよー……)
空音も今まで寝ていたらしく、まだ意識がはっきりしない様子で答える。だが、彼女が言っていることは間違っていないだろう。
「まじかよ……。声もなんか変わってるし、これはいつまで続くんだ?」
(軽く一週間ぐらいかな~)
「い、一週間……?」
あまりの長さにオウム返しよろしく繰り返す劉曹。
(まあ、それだけで済んでよかったと思いなよ。そうじゃなかったら今頃生死の境を
「学校どうしようか……」
今は当然、夏休みや冬休みなどではない。明後日からは普通に学校が始まるのだ。そのことが劉曹をさらに絶望の淵へと突き落とす。
「とりあえず、那月ちゃんに相談するか……」
劉曹は那月と連絡を取るべく、部屋を後にする。
船の甲板にいたのは古城、雪菜、ラ・フォリア、紗矢華の四人。那月はどこにもいなかった。
「お、おう、劉曹、体の調子は大丈夫なのか」
古城が目を逸らしながら訊いてくる。古城、雪菜、ラ・フォリアの間に変な緊張が走っていた。紗矢華に至っては知らなかったのか、劉曹の姿を見て絶句していた。
「ああ、問題ない」
一言返しただけで四人全員が驚いていた。劉曹は不思議そうにして、
「なんでそんなに驚くんだよ」
「「「「誰だって驚くだろ(きますよ)(きます)(わ)!!!!」」」」
四人は口をそろえて返す。
「女になって、声がそこまで変わったら誰だって驚くに決まってるだろ……」
疲れたように言う古城に三人はうんうんと頷いた。
「まあ、しょうがないさ。これが代償なんだから」
「代償?」
「ああ、瀕死から回復して、神をも殺せる力を得る」
「それだけ聞くとあんたってとんでもない人間よね……」
しれっと言う劉曹に紗矢華が頭を抱えながら呟く。
「ま、本来ならまた瀕死状態に戻るものなんだけどな。あいつがサービスしてくれたおかげで楽なもんだ。それでもこの姿で一週間って言うのはちょっと厳しいけど――」
「あいつって……誰ですか、劉曹?」
劉曹の言葉を遮って問いかけたのはラ・フォリアだった。
「いや……その……」
「誰ですか? 劉曹」
自分の失言に気づいた劉曹は
「お、王女! そろそろ時間です!」
そこで助け舟を出してくれたのは紗矢華だった。
「帰るのか?」
話を盛大に逸らした劉曹を王女はむっと不満そうに見つめる。しかし、予定を狂わせるわけにもいかないと感じたのか諦めたように語る。
「これから病院に向かうのです。墜落した飛行船の生存者が収容されているそうなので」
「そうか。なら、労りの言葉をかけてやれ。大変だろうけどそれだけでも嬉しいもんだからな」
「はい。あまり時間はありませんがそうするつもりです。そのあとこちらに戻って劉曹を問い詰めたいところですが――」
恐ろしいことを言う王女に体を強張らせる劉曹。彼女は
「んっ……」
「――!?」
柔らかい唇を劉曹の唇に押し当てる。驚いて固まっている劉曹を見たラ・フォリアは好きなだけキスの感触を味わっていた。
「今回はこれで我慢しましょう。では、ごきげんよう」
それだけを言って王女は満足げに去っていった。劉曹は一歩も動けずにその場に立ち尽くしていた。
「そーうーくーんー?」
直後、背後から異常な殺気が感じられた。劉曹は振り返らずともソレを発している人物がわかった。そもそも自分をこう呼ぶ人物は一人ぐらいしかいない。
「な、凪沙ちゃん……!?」
うろたえる劉曹に詰め寄り、下から覗き込むようにして睨み、
「なんでまた病院を勝手に抜け出したのかな? 反省していないのかな? お仕事なのはわかったけど無理してたら死んじゃったかもしれないんだよ。わたしとの約束をそう君はもう破るつもりなのかな? しかもさっき外国の美人さんとキスしてたよね。わたしはすっごく心配していたのにそう君はあの王女様みたいな人とイチャイチャしてたんだ」
怒りで我を忘れているのか劉曹が女になっているのも気づかないで言葉をまくし立てる凪沙。
「凪沙、少し落ち着け。というか、なんで、おまえがこんなところに……?」
古城は怒り狂っている凪沙を
「あ、浅葱……? なんでおまえまで……?」
なぜか気合の入った私服姿の浅葱が、うろたえる古城を愉快そうに見つめていた。
「あたしが連れてきたのよ。煌坂さんが、あんたがこの船に乗ってるって教えてくれたから」
「おまえ、いつのまに煌坂と結託していたんだ…………!?」
背筋をじっとりと汗で湿らせて、古城がうめく。
「軍隊がらみの企業に誘拐されたって言うから心配してたんだけど。余計なお世話だったみたいね。可愛い外国人の女の子とそこにいる女の子とも随分と仲良くなったみたいで」
「まてまてまて! ラ・フォリアとはなにも無いし、そこにいるのは劉曹だぞ!?」
「まあいいわ。時間はたっぷりあることだし、嘘までついて隠そうとする理由をゆっくりと聞かせてもらおうじゃないの。絵のモデルでもやりながら」
「絵のモデルって……ああ!!」
古城は思い出したように叫ぶ。それが逆鱗に触れたようで、浅葱はこめかみに青筋を立てている。
「そう君に似合うスカートはどれがいいかな? 深森ちゃんにも相談しよう。明日から楽しくなりそうだなあ!」
「凪沙ちゃん落ち着いて!? お願いだからぁ!」
高速で携帯を操作している凪沙にソプラノボイスで叫ぶ劉曹(女)。
「まさか嫌とは言わないわよね。おかげで俄然、創作意欲が湧いてきたし」
「まて、それは創作意欲とは言わない!」
華やかな笑みを浮べて、ポキポキと指を鳴らす浅葱に顔を引きつらせている古城。
「なんでしょうか、この状況は……」
一人
いかがでしたでしょうか?
アドバイスという名の感想などを求めています。
よろしくお願いします。