更新約半年ぶりですね……
「
あの
「おい、おまえ声かけて来いよ」 「いやいや、俺なんか相手にされるわけ無いだろ」
「ちょっと! なにあの娘ばかり見ているのよ!!」 「別に見てないぞ!? あんな綺麗な娘なんて!」 「見てるじゃないのよ!!」
混じりけの無い白く長い髪。丸みをおびた身体、汚れ一つない真っ白で綺麗な肌。二つの豊かな山脈を持ちながら腰まわりはキュッと絞まっており、スカートからはスラリと細長く、それでいてしっかりとした足が伸びている。
「落ち着かない」
街往く人々の視線を集めている少女はソプラノボイスで呟き、重々しく溜息をついた。
「そうちゃん、はやくはやく!」
「ちょっ……待って凪沙ちゃん、見える! 中見えるから!」
スカートを抑えながら、凪沙に手を引っ張られて走っている劉曹。
「よりによって、なんでこんな短いスカートを選んだの!? というか、曹ちゃんってなに!?」
目的地に着いたのか凪沙は立ち止まって振り返り、満面の笑みを浮べて、
「だってそれじゃないと罰にならないでしょ? それに今のそう君はそうちゃんになってるんだから女の子の格好をしないと不自然じゃん!」
「そうかもしれないけど……古城、姫柊、なんとかしてくれ!」
「先輩……これはちょっと……」
「ああ……破壊力ありすぎだろ……」
本当の姿はどうあれ、今の劉曹は百人に聞けば全員が首をたてに振るほどの美少女なのだ。涙目で助けを求められた古城と雪菜は顔を逸らして、ヒソヒソと話していた。
「目を
「ほらほら、そうちゃんこっちこっち! 今日はとことん付き合ってもらうんだから!」
再び劉曹の手を引き人ごみを避けてかける凪沙。その顔は楽しくて仕方が無いというようだった。
「(まあ、しょうがないか……)」
その顔を見た劉曹は諦めつつも、今日は精一杯この女の子に付き合ってあげようと心に決めたのだった。
一日付き合おう。そう心に決めたはずの劉曹は早速心が折れそうになっていた。
商業地区の海沿いにあるショッピングモール。雑貨、服、飲食、娯楽、なんでもある超大型店だ。
「あの、凪沙さん? ここは……」
劉曹は店を目の前にして現実逃避気味に問いかけた。
ショーウィンドウに飾られているのはフリフリのランジェリーを身に着けているマネキン。そして店の中には女性用下着、下着、下着のオンパレードだった。
「見ればわかるでしょ、ランジェリーショップだよ」
死刑宣告にも等しい答えを表情崩さず言う凪沙。
「それは本当に駄目だって! 俺、色々と失っちゃうから!!」
必死に声を上げて、劉曹は抗議する。
「凪沙ちゃん、いくら楠先輩が女の子になっているとはいってもここに入るのは……」
さすがに哀れに思ったのか雪菜も凪沙にストップをかける。が、
「大丈夫だよ雪菜ちゃん。それに……気にならない? 女の子になったそうちゃんがなんでこんなにスタイルがいいことに。今しかその謎を解明するチャンスはないんだよ!」
「…………気になります」
「姫柊さん!?」
さらりと好奇心に負けた雪菜に劉曹は叫んだ。そんな彼を無視して二人は話で盛り上がっている。こうなったら頼れるのは古城しかいないと彼のほうを向く。
「(悪い、劉曹。ちゃんと供養はしてやる)」
手を合わせ、一礼する古城に劉曹は諦めんなよ! と目で訴える。すると、がしっと力強く両肩をつかまれた。振り返るとそこには今まで見たことのない笑顔を浮べた二人。
「さあ、そうちゃん♪」
「行きましょうか」
「え……って、力強っ! ちょっと待って、二人とも! お願いします待ってください――いやあああああああああ――――っ!」
数十分後、三人がランジェリーショップから出てくる。
「古城……俺……もう死にたい……」
「なんで……なんでそうちゃんは……反則だよ……」
「男の人に劣るわたしたちって一体なんなんでしょうか……」
道の角で丸まって暗いオーラを漂わせ呟いている凪沙と雪菜。
「と、とりあえずどこかで休憩しないか?」
混沌とした状態の中にただ一人正常でいる古城は深く溜息をつき、提案する。
時刻はちょうど正午を回ったころ。荷物もちとして朝から同行していた古城は大分疲れてきており、ここら辺で休憩を取りたいのだ。
「そうだね……わたしたちも立ち直るのに時間が必要だし。昼ごはんでも食べに行こっか」
凪沙に続き劉曹と雪菜も頷いた。四人は近くにあったレストランの中に入る。そこには、見覚えのある顔がいた。
「浅葱?」
古城は席の一角のテーブルの上に大量の皿を山積みにして座っていた友人の名前を呟いた。
「古城に凪沙ちゃんに姫柊さん。それと――誰?」
浅葱は古城の隣にいる劉曹に目を向けて問いかける。ただ問いかけてきただけなのに古城は彼女からもの凄い威圧を感じた。
「ああ、こいつは――」
「なに、異国の王女の次はその娘? わたしが心配とかしていたあいだに随分と仲良くなったみたいね」
いつもの表情で言っているはずなのに言葉の節々にどこか
「待て浅葱。俺だ」
これ以上放置すると収拾つかなくなりそうだと感じた劉曹は前に出る。初対面だと思っていた相手に自分の名前を呼び捨てにされたのと女の子なのに男口調で話してきたことに驚いたが、浅葱は目の前にいる少女を凝視して、
「あんた、もしかして……劉曹!?」
頷く劉曹に浅葱はありえないものを見ているような目でさらに驚く。彼女が知っている劉曹は男なのだから当然の反応である。
「あんたその服装……女装癖でもあったの!?」
「そんなわけあるかぁ!」
もともと中世的な顔立ちをしている劉曹が胸を盛り、女の子の格好をしているのだ。そう疑われるのも当然ではあった。が、やっぱりあらぬ嫌疑には納得いかず叫ぶ。
「浅葱ちゃん、今そうくんはそうちゃんなんだ」
端的に教える凪沙。だが、それは浅葱の混乱を助長させた。
「え、なに? 劉曹が女の子になったっていうの? もともと女の子になりたかったから性転換したとか?」
「だから違うっつーの! 頼むから俺をそっち方面に持っていかないで頼むからちょっと落ち着いてくれ」
冷静な口調だが戸惑いを隠せていない浅葱。しかし、劉曹の懇願により何とか一息ついてくれた。
「っていうか、明日から学校なのにどうするつもりなのよ」
「那月ちゃんに頼んでうまくやってもらう。だからまずは話をさせてくれ」
次第に冷静さを取り戻した浅葱はごめんとひとこと謝る。劉曹たちはそのまま浅葱の席に座りメニューを見て注文する。
「それで、これは一体どういうことなの」
注文をし終え、料理が来るまえに浅葱が切り出した。
「昨日、誘拐された二人を助けにいったんだけどそのときに魔族と戦ったんだよ。そのとき使った力の副作用でこうなった」
凪沙もいる中ほんとのことは言えないので嘘を織り交ぜつつ話す劉曹。
「あんたって一体なに? 魔族なの?」
「そんなわけないだろ。普通の人間だよ、人間」
普通の人間は性転換なんてならないんだけど、と呆れたように呟く浅葱に古城と雪菜、凪沙までもがうんうん、と頷いた。
「それに、前々から思ってたけどあんたが使う呪術は副作用が重すぎなのよ。もっと軽いものとかはないの?」
「あるにはあるんだが、俺が関わったものって一筋縄じゃいかないものが多いんだよなあ……ナラクヴェーラとか、
最後のほうを浅葱に聞かれないように小さく呟く劉曹。
「
だが、その小さい呟きを聞き取れた浅葱は劉曹に問いかける。
「なんでもない」
「なんでもないわけないでしょう。まさかこのまえ古城と姫柊さんが誘拐されたときに戦ったのって天使なの?」
なんでそんなに勘が鋭いんだよ、と劉曹は心の中で悪態をつく。睨んでくる浅葱にどう言い訳を仕様か考えてる劉曹の前にウエイトレスがやってきた。
「ほら、頼んだものが来たぞ。食べよう」
「……どうしてあんたたちはあたしに隠そうとするのよ」
露骨に話を逸らした劉曹を睨む浅葱。その顔は明らかに不機嫌な顔をしていた。だが、自分たちの正体を知られるわけにはいかない劉曹たちはどうにか誤魔化す。
それぞれが頼んだものが自分の目の前に置かれる。
劉曹はミートスパゲッティ、古城がハンバーグで雪菜はチャーハン、凪沙はドリアを頼んだ。しかし――
「浅葱……お前それらを一人で食べるのか」
劉曹はぎょっとしたように浅葱を見る。彼女の目の前にはイチゴのショートケーキにチョコレートケーキ、モンブランや抹茶パフェとスイーツ物がこれでもかというほどずらりと並んでいる。浅葱は不機嫌そうな表情を変えることなくケーキを口へと運ぶ。
「いいのよ、ここ最近面倒ごとばかりで嫌になってきているし」
「そんなやけ食いみたいに食べると太――」
「あ゛あ゛!?」
女の子らしからぬ
次の日の朝、劉曹は那月の元にいた。彼女の手には彩海学園高等部の制服――しかも女子の。
「あの、南宮先生? これは一体……」
「見ればわかるだろう、制服だ」
「いや、でもこれ女子の……」
「わたしに任せたのはおまえだろう。それでも昨日、時間がないうちに考えたんだぞ」
笑いをこらえるように那月は言う。絶対楽しんでいるだろ! と叫びたかった劉曹だったが頼んだのは劉曹自身なのでなにもいえない。なので――
「わかりました。やっぱり元に戻るまで休ませていただきます」
劉曹は
「アスタルテ」
彼女はメイド人工生命体の名前を呼ぶ。
「
アスタルテの背から虹色の眷獣の腕が召喚され、劉曹をがっしりと拘束した。
「ちょっ……なにするんだアスタルテ!? 放せ!」
脱出するために暴れようとするも眷獣と純粋な力勝負で勝てるわけもなく、身動き一つも取れない劉曹。
そんな劉曹の目の前に口をニヤリと歪ませて制服を持ち、迫ってくる那月。
「一週間のなかで私の授業もある。休ませるはずがないだろう」
「劉曹、諦めてください」
明らかに面白がっている那月と、無機質だがどこか楽しそうな声で言うアスタルテ。
「ふざけるなよ……アスタルテ、ちょっと痛むからな。覚悟しろ」
「――っ」
洒落にならない劉曹は怒気を含めた声で呟く。それだけで、アスタルテの眷獣は消し飛ぶ。拘束が解かれた劉曹は急いで部屋から飛び出そうとする。が、
「おまえがそうすることくらいわかっている」
那月が虚空から銀の鎖を放ち、エックスの字に劉曹を再び拘束した。
「なんでこの体勢で拘束するんだ!?」
「逃げるおまえが悪い、さっさと制服を着ろ」
「こんな状態じゃ着れるわけないだろうが! ってか、そもそも着たくねェ!」
「安心しろ、アスタルテが着替えを手伝うからな」
「そういう問題じゃねええええええええ――――!!」
まだ生徒のいない学校一体に一人の少女の叫び声が響くのだった。