ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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どうも、お久しぶりです。
卒論が終わる気がしない!





第三十三話

 

 

「事情がよく()みこめないのですが……」

 

冷たい板張りの床の上で、古城は深々と土下座していた。暁家と同じ間取りだが、ほとんど格のない殺風景な部屋。雪菜のマンションのリビングである。

ひれ伏す古城を見下ろすように、彼の正面に仁王立ちしているのは雪菜。彼女の隣には、洗い髪の夏音とアスタルテの姿もある。

 

「……つまり、叶瀬さんとアスタルテさんのお風呂をのぞいたので、自首しにきた、ということですか?」

 

「違う! いや、違わないけど、最大の問題点はそこじゃない!」

 

確かに、夏音とアスタルテの入浴中に乱入してしまったのは事実だが、暁家の脱衣所が、隣の姫柊家の風呂場につながっていたのだ。古城は必死に重要な点を説こうとするが、雪菜には通じなかった。

 

「でも、のぞいたんですよね」

 

雪菜が古城を見つめたまま訊いてくる。あまりにも静かすぎる彼女の口調に、さっきのようなプレッシャーを感じて、古城はブルブルと首を振り、

 

「だから、のぞいたわけじゃない! それに、アスタルテは湯船に使ってたし、叶瀬はシャンプーの泡とかでほとんどなにも――」

 

「でも、のぞいたんですよね」

 

「すみませんでした」

 

雪菜から放たれる圧力に耐え切れず、古城は穴を開けるような勢いで床に額をぶつける。

 

「謝罪を承認」

 

「お、お粗末様でした」

 

無感情に言うアスタルテと顔を赤らめて言う夏音。

 

「いや、お粗末なんてことは……あっ……」

 

古城はお粗末と言う言葉を即座に否定したが、雪菜から来る視線の鋭さが増し、言葉を引っ込めた。雪菜は、本当に仕方のない人だ、と言わんばかりに溜息をつく。

 

「ですが、奇妙ではありますね」

 

ようやく注目すべき重要なところに雪菜に古城もそうだろ、と念を押すように言う。

 

「紗矢華さんが伝えてきたことも考え合わせると――仮説ですが、絃神島周囲の空間に、なんらかの(ひず)みが生じているのかもしれません」

 

「空間の(ひず)み……? もしかして、那月ちゃんの失踪と関係があったりするのか?」

 

「わかりません。でも、偶然にしてはタイミングが出来すぎてる気がしませんか?」

 

「だな」

 

古城が唇を歪めて頷く。

頼りの劉曹も今回のことではあてに出来ない。那月を探すにしてもどこからどういうように探せばいいのか古城には見当もつかない。

 

「とりあえず今は様子を見ましょう。先輩はご自宅に戻ってください。この状況で、下手に出歩くのも危険ですし、凪沙ちゃんや優麻さんが巻き込まれる可能性もありますし」

 

「そうだな、今回はよかったが、次また飛ばされたときにとんでもないところだったら洒落になんねーからな」

 

そういう古城に、なぜか雪菜はまた口を尖らせて、

 

「今回はよかったんですか……そうですか、やっぱり先輩はいやらしい人ですね」

 

古城の言葉を勘違いしたのか、雪菜は小さくボソボソと呟く。

 

「ん? なんだって?」

 

「なんでもありません、先輩の馬鹿!」

 

急に馬鹿呼ばわりした雪菜に、心当たりのない古城は首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城と雪菜たちがこれからのことを話し終えてから数時間後、楠家。そこのとある一部屋で床に額をこすりつけている劉曹と正座している空音の姿があった。

 

「色々聞きたいことがあるんだけどいいよね――お兄ちゃん」

 

彼らの目の前には愛華が鬼のような威圧感を放って立っている。

いつもは兄さんと呼び、丁寧な言葉遣いの愛華だが、いまはお兄ちゃんと読び、砕けたような口調になっている。それは、相当なお怒りモードなのを示していた。言葉を慎重に選ばなければ劉曹の首が飛ぶほどにいまの愛華は相当危険なのである。

 

「まず、この女の子は誰?」

 

空音を指して愛華が静かに問う。劉曹は、どう説明しようかと悩んだ。

愛華にとって空音は"いつの間にか家に入り込んでいた女の子"であり、天照大神(あまてらすおおみかみ)と言っても信じてくれる要素は一つもない。

しばし考え込んでいた劉曹に、話したくないから黙り込んでいると思った愛華からの喝が飛んでくる。

 

「早く答える!!」

 

「はい! 彼女は天照大神、本物の神です!!」

 

あっさりと口にする劉曹。愛華は驚きも疑うこともせず話を進めた。

 

「なんで天照大神がうちにいるの。それより、神様といつ、どこで知り合ったの」

 

あっさりと信じてくれた愛華に逆に劉曹が驚いた。

 

「信じるのか? 神だってことを」

 

「お兄ちゃんがこの()に及んで嘘をつくなんて思ってないよ。それで、いつどこで知り合ったの?」

 

ちゃんと信頼されているのか、それとも自分にとって重要な部分以外どうでもいいのかわからない発言に劉曹も複雑な気持ちになる。

もう彼女に隠すことは不可能だ。しかし、これを愛華に言っていいものかと劉曹は迷う。

 

「お兄ちゃん……?」

 

愛華からくる威圧に抗うことの出来ない劉曹は渋々と口を開いた。

 

「……空音――天照大神と出会ったのは十年前のアルディギア。愛華、おまえと出会う一年前だ」

 

「えっ……?」

 

愛華は言葉を失った。目の前の少女が自分より前に出会っていたとは思っていなかったからだ。

 

「わたしと出会う前……? でも、いまのいままでどこにいたの?」

 

「俺の体の中、深層意識内と言ったほうがいいか。だから意思疎通も出来るし、空音の力も借りて仕事をこなしてたときもあった」

 

劉曹の話に愛華はハッ、となる。彼と過ごすとき、やたらと独り言が多いときがあった。それはもしかして空音と話していたのではないかと――

 

「お兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「も、もしかして、十年間、ずっと一緒だった……? 片時も離れずに、四六時中……?」

 

「まあ、そうなるな」

 

愛華の問いに劉曹は正直に答えた。つい先刻までの怒りがいまの愛華には感じない。しかし、今度は虚ろな目をして、力なく笑った。

 

「そう……わたしが……だったのね。ふ、フフ……」

 

「おい、愛華?」

 

戸惑いを隠しきれず彼女の名前を呼ぶ。だが、それに反応することなく笑い続けてる。そして、

 

「わたしが…邪魔……いらない子……また、わたしは……」

 

そう呟いて、愛華はフラフラと部屋を出て行った。

 

「……」

 

「……ねえ」

 

いままでなにも喋らなかった空音が気まずそうに呼びかける。さすがの彼女もこの状況に少し焦っていた。

 

「ちょっとまずいと思うんだけど。愛華ちゃん、かなり不安定になってたよ」

 

「ああ、だからこそ愛華にはいいたくなかった。あいつは一緒に過ごした時間に執着してしまうから」

 

「まあ昔よりは全然よくなってるけど、それでも根付いているものは早々変わる分けないのはわかっていたじゃない」

 

劉曹と空音は同時に溜息を吐いた。愛華が空音のことを知らなくとも、十年前から劉曹と一緒にいた空音は愛華のことを知っているのだ。もちろん、愛華の心の傷(トラウマ)こともわかっていた。

 

「ちょっと、いってくる」

 

正座で痺れた足を無理やり動かして立つ劉曹。そのまま愛華がいるであろうリビングに足を運ぶ。

 

「いってらっしゃい」

 

すべてを知っているからこそ、空音は駄々をこねて劉曹を止めるようなことをすることなく、見守って送り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定、部屋を出てった愛華はリビングの角にうずくまっていた。近づくと、なにかブツブツと呟いている。

 

「わたしは…邪魔……いらない子……」

 

「愛華」

 

優しく声をかけるが、先ほどと同じで一人の世界に入り込んでいるようで、まったく劉曹の言葉が届かない。

 

「邪魔な子は、消えなきゃいけない……そうしないと、迷惑をかけるのだから……」

 

「愛華!」

 

今度は強く名前を呼ぶ。すると、彼女の呟きが消え、ゆっくりと虚ろな目で劉曹の方を向いた。

 

「…………お…兄……ちゃん?」

 

時間はかかったが認識できていることに、劉曹は安堵する。

 

「そうだ、愛華のお兄ちゃんだ」

 

目線をうずくまっている彼女に合わせ、わからせるように言う。しかし、手を伸ばした俺に愛華は怯えたように、

 

「ごめんなさいごめんなさい! もう姿を見せないから! だから、もう殴らないでっ!!」

 

「愛華!」

 

過去の記憶と混同しているのか、身を固めて謝る愛華。そんな彼女を見ていられなくなった劉曹は優しく彼女を包み込んだ。

 

「いや……いやぁ……」

 

まだ恐怖を感じているのか、力弱く抵抗する。劉曹は頭を撫でながら、子供をあやすように(ささや)いた。

 

「大丈夫。おまえのお兄ちゃんは殴ったりしない」

 

「ごめんなさい……邪魔な子は出て行きます……だから……」

 

「出て行かなくていい。愛華、おまえは俺の大切な家族だ。邪魔なわけがない。思い出せ。あの日、あの時に、ちゃんと約束しただろう? 俺はそれを絶対に違えない」

 

「う、あ…」

 

劉曹の言葉で、愛華の目に次第に正気が戻っていく。記憶が整理され、はっきりと自分を抱いてくれている人を間違えることなく認識する。それと同時に目の前の少年と幼い日に交わした言葉が(よみがえ)る。

 

「お兄ちゃん…」

 

「なんだ?」

 

「わたし…わたしは、また……」

 

「大丈夫だ。愛華の済むまで好きにするといい」

 

劉曹はよしよしと頭を撫でて言う。次の瞬間、愛華は泣いた。子供のように、声を上げて。

劉曹は愛華が泣き止むまで、優しく、しっかりと抱きしめているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたみたいね」

 

しばらく経った後、空音がリビングへと入ってきた。

ああ、と劉曹は頷き、すうすうと音を立てている愛華を見つめる。泣きつかれたのか、それでもどこか安心したように、劉曹の腕の中で眠っている。

まるで子供みたいね、と微笑んでみている空音に劉曹も同意する。時折、お兄ちゃん、と寝言で呟いているのがなんとも可愛らしく、劉曹も笑みがこぼれる。

だが、いつまでもそうしているわけにもいかなく、劉曹は愛華を抱え挙げて、自分の部屋へと向かい、ベッドに寝かせ毛布をかけてやる。そして、

 

「空音、愛華のことを任せてもいいか?」

 

「どこに行くの?」

 

外へ出ようとする劉曹の背中に問いかける。すると、劉曹の顔つきが変わった。

 

「LCOが動き出したみたいだ。愛華にはこれからなにするか指示してあるけど、さっきあんなことあったからな。サポートが必要だ。だから、頼む」

 

「……わかったよ」

 

真面目な面持ちで頭を下げる劉曹に、空音は渋々といった様子で頷いた。

 

「でも、一つ条件! 一段落したら私と二人で出かけること、いいね!」

 

「は、はい……」

 

ものすごい勢いで迫ってくる空音に劉曹はたじろぎながら首をたてに振るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェスタ当日の朝は色々な人達の喧騒と共にやって来た。それはマンションの住人も例外ではなく、朝から騒がしく準備を始めていた。

 

「ん……」

 

しかし、愛華は、そんな人々の声ではなくカーテンの隙間から入り込んできた日差しで目を覚ました。そもそも、このマンションは防音がしっかりしているのだ。

 

「……ここは?」

 

まだ寝ぼけていたせいで自分がどこにいるのかはわからない。だが、次第に目が覚めてくると、ここが自分がいつも寝ている場所ではないことに気がついた。

 

「ここは……兄さんの部屋? ってことはわたし、兄さんのベッドで――!?」

 

すると、ガチャと、不意に扉が開いた。混乱していた愛華は、毛布で顔を隠す。

入ってきたのは劉曹ではなく、自分と同じ年頃の女の子だった。その顔を見た瞬間、愛華は驚愕の眼差しで彼女を見た。

 

「起きてるみたいだね。どう? 気分のほうは」

 

「あなたは、昨日兄さんといた……」

 

「待って待って、とりあえず話をさせて!」

 

颯爽(さっそう)とベッドから降りて、睨む愛華に少女は敵意も戦意もないことを示す。だが、愛華の警戒は解けない。

 

「確か、天照大神――空音さんでしたっけ」

 

「うん、こうやって会うのは初めてだね、愛華ちゃん。天照大神こと空音だよ、よろしく」

 

「楠愛華です。あまりよろしくしたくないです」

 

ぶっきらぼうに本音を交えて自己紹介する愛華。彼女にとって重要なのは兄――劉曹との関係なのだ。

 

「それより、兄さんとは「はい、ストップ!」――む」

 

訊きたいことを遮られた愛華はムッとし、再度空音を睨む。

 

「まあまあ、そのこともちゃんと話すから、まずはわたしの話と質問を聞いてよ」

 

「……まあ、いいでしょう。話してください」

 

愛華は渋々承諾する。若干上から目線の彼女に空音はわたしこれでも神様なんだけど、と苦笑いしつつも口を開いた。

 

「まず第一に、心の傷(トラウマ)の方は大丈夫?」

 

「――っ!? なんであなたが……」

 

強烈な一撃を喰らったように、愛華は顔を(ゆが)ませる。初めて顔を合わせた人が自分の抱えているものを、何故、彼女は知っているのか。その答えはすぐに言ってくれた。

 

「わたしは今まで劉曹と一緒にいたんだよ? だから、愛華ちゃんのことは九年前から知っているの。昨日、劉曹が説明したんだけど……」

 

その様子だと覚えてないみたいだね、と言われて、愛華は記憶を探っていく。

絃神島の空間変異の情報を整理していた劉曹に夜食を持って、彼の部屋に入ったとき、劉曹は彼女と抱きしめあっていた。そのときに愛華は憤怒し、彼を問い詰めたのだ。しかし、問い詰めた内容や彼の答えたことなど、その後のことはなにも思い出せない。それは、自分の心の傷(トラウマ)が出てしまった証拠だと、愛華自身わかっていた。

だが、思い出せはしないが一つだけわかることがあった。絶望した暗闇にいる中で、いつも、どこからかやってきた光と温もりを感じていた。愛華はそれだけは絶対に忘れていないのだ。

そのあともざっくりとだが、過去のことから今現在に至るところまでの空音の話を聞き続けた。

 

「――まあそういうことで、わたし自体こうして外に出るのはよくないけど力を抑えれば問題ないから、お願いして出させてもらったんだ」

 

一通りの話を聞いたところで、愛華は不思議に思っていたことを問いかけた。

 

「では、兄さんが度々独り言を言っていたのは……」

 

「わたしと話してたからだね」

 

「じゃあ、兄さんが女の子になったのも……」

 

「わたしの力をフルで使ったからだね、わたしも久しぶりだったから力が鈍って、副作用を全部抑えるのは無理だった」

 

そうですか、と愛華は大方の事情を把握した。そして、いま一番問いかけたいことを口にする。

 

「あなたと……空音さんと兄さんの関係はなんですか?」

 

「そうだね――頼り頼られ、支えあって一緒に生きてきたって感じかな、愛華ちゃんと同じように」

 

最後の言葉に、愛華はえっ、となる。

 

「わたしと、同じ……? わたしは頼られたことなんて……」

 

「それは愛華ちゃんが気づいてないだけだよ、劉曹は愛華ちゃんがいたおかげで頑張れることもあった。それはほんとだよ」

 

そう言われるが、愛華はパッとしなかった。いつも迷惑をかけてばかりだと思っているからだ。心の傷(トラウマ)やLCOのことだって、ただ一人では出来ないから、劉曹に助けを求めたのだ。それは彼にとって迷惑の何者でもないと感じていた。だが、空音は否定した。

 

「それは違うよ。愛華ちゃんは一人では出来ないと思ったから劉曹に助けを求めた。それは劉曹も同じ。自分では出来ないことを愛華ちゃんに"頼った"んだよ。誰よりも真っ先にね」

 

「あ……」

 

空音の言葉に愛華は思い出す。絃神島観光のときに劉曹が愛華にいった言葉を。

 

「だから、わたし少し妬いちゃったな。すぐ頼られる愛華ちゃんに」

 

少し膨れっ面になったがその顔には笑みが混じっていた。愛華も最初のような警戒はなく、むしろ近くにいると安心できるような気持ちになった。これが彼女の人柄――ではなく神柄なのだろう。

 

「愛華ちゃんはどう思ってる? 劉曹のこと」

 

唐突に聞かれて、うぇ!? と変な声が出てしまう。なぜこんな話になるのか理解が出来なかった。だが、空音はお構い無しに続ける。

 

「わたしは好きだよ。ライクじゃなくてラブのほうで。愛華ちゃんは? 嫌い?」

 

「わ、わたしも好きです! 家族や妹としてではなく、一人の女の子として!」

 

大声でカミングアウトした愛華は羞恥で顔が紅く染まる。空音は満足そうに微笑み、頷いて、

 

「それじゃあ、これから一緒に頑張ろう、劉曹に振り向いてもらえるように! あ、これからはわたしに対して敬語禁止ね」

 

「わかりました。わたしのことはちゃん付け無しで呼んで。よろしくね ――――空音」

 

わかった、と共に握手を交わす二人。その顔はどちらも少女らしい笑顔だった。

 

「ま、とりあえずやるべきことをやってからだね。愛華、わたしがサポートに回るから」

 

こうして二人は、事件解決のために動き出す。互いに大切だと想っている少年のために。

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
卒論卒論卒論、そつろぉーん!!!!

気が狂いそうです


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