ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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どうも、燕尾です
特にここで語ることはありません、三十五話目です。





第三十五話

 

 

「美味しいですね、このカボチャプリン」

 

「私もさっき食べたところでした。こちらのパンプキンパイもなかなかです」

 

「空音、このモンブラン食べてごらん。はい、あーん」

 

「あー……もぐもぐ……うん、甘くて美味しい!」

 

お菓子よりも甘い光景をただ見つめている古城。自分がいまどんな状況なのかさえ、(かす)んでしまいそうだった。

西地区の繁華街のカフェ。古城たちはそこのケーキバイキング九十分コースをオーダーし、お茶をしていた。

 

「おかわりをどうぞ、第四真祖」

 

「ああ……サンキュ」

 

アスタルテが選んできたドリンクバーの紅茶を受け取って、古城は物憂げに溜息をつく。

 

「一緒に菓子の追加はいかがですか、と提案。この店舗の通常価格とケーキバイキングの料金を比較すると、損益分岐点を越えるためにはあと三品注文する必要がありますが」

 

「そ、そうか。だったら、シフォンケーキとスコーンを……って、ちがーう!」

 

古城は思わずテーブルをたたいて声を荒げる。雪菜と夏音は、驚いたように食事の手を休めて顔を上げた。空音とアスタルテはマイペースに紅茶とケーキをいただいている。

 

「まぁまぁ、古城さん。このケーキ美味しいですよ。はい、あーん」

 

愛華は微笑みながらフォークを無理やり古城の口につっこんだ。

 

「むぐむぐ……ん? これは……っ!」

 

「どうですか?」

 

「紅茶を飲んだ後なのに甘すぎずくどすぎない味。しっかりとした重量があるけどそれでいてふわふわのスポンジ。ケーキとしては最大点の……だからそうじゃなくて! 愛華さん、わざとやってるだろ!?」

 

そういわれ、愛華はフフッと笑っていた。まるで恋人のようなやり取りをしている二人を雪菜はむくれた様子で睨む。我慢の限界がきたのか古城はだーっ、と叫び愛華に迫った。

 

「今こうしている間にも優麻が俺の身体を使ってなにかしようとしているんだぞ!? まだ俺たちはなにも情報を得てないのに、なんでのんびりケーキバイキングに挑戦してるんだよ!?」

 

古城の言うことはもっともだった。だが、それに対して雪菜は口にケーキを運ぶ手を止め、冷静な口調で返す。

 

「落ち着いてください、先輩。優麻さんを探そうにも、なんの手がかりも無いですし。それに、下手に移動して大変な場所に転移してしまったら危険ですから」

 

正論で返す雪菜に、ぐ、と言葉に詰まる古城。愛華も雪菜に賛同した。

 

「そうですね、それにいま、兄さんも動いているはずですから」

 

ケーキを口に運びながら言った愛華の言葉に古城は思い出したように愛華に向き直る。

 

「そういえば愛華さん。劉曹はどこでどうしているんだ?」

 

「そうですね。最近、楠先輩の様子が変だったようですし」

 

二人の問いかけに、愛華はやってしまったといわんばかりの気まずい表情をする。目を逸らそうとするも、二人の視線から逃れられなかった愛華は一息溜息をついた。

 

「おそらくですが、兄さんはいま、優麻さんと対峙しているでしょう」

 

「「なっ――!?」」

 

「古城さんの家で優麻さんがこの島に来るということを知ってから兄さんは彼女のことを警戒していました。そもそも、兄さんは優麻さんが魔女だって最初から知ってましたから」

 

初めから優麻の正体を看破して、なおかつ彼女の居場所を突き止めている劉曹に、雪菜は驚愕する。

 

「それならなんで俺たちに言ってくれなかったんだ!」

 

だが、古城は多少の怒りをこめて愛華に詰め寄った。彼女は取り乱すことなく真正面から古城を見つめる。そして、出会ってからの愛華からは聞くことのないような冷ややかな口調で返された。

 

「言ったところでどうなるっていうのですか。優麻さんの正体を知って、古城さんはどうしたんですか。優麻さんに――犯罪組織に所属している彼女にあなたはなにができますか」

 

「愛華さん! それは――」

 

さすがに言い過ぎだと雪菜は(とが)める。だが、古城はそれを手で抑えた。

確かに愛華の言う通り、優麻が魔女だということを知ったところで古城はなにもできないし、どうもしなかっただろう。彼女は彼女で変わりはないと、その存在を受け入れるだけだった。

冷静に考えれば劉曹や愛華が黙っていた理由も頷ける。世界最強の吸血鬼、第四真祖になってしまったとはいえ、古城は半年前まではただの学生だったのだ。雪菜のように剣巫の訓練を行ったわけでもなく、劉曹のように実戦を積み重ねたわけではない。それを知っているからこそ、楠兄妹は古城を普通の少年として扱い、危険な目に遭わせたくない。ただ、それだけなのだ。

 

「愛華さんの言ったことは正しいと思う。だけど……それでも俺は……」

 

優麻を止めたい、あいつの友達だから――

古城の言葉は静かに響いた。

しばらく視線が交錯する古城と愛華。夏音たちも緊張した面持ちでその場を見守っている。

先に折れたのは愛華のほうだった。諦めたように愛華はため息をつく。

 

「……わかりました。優麻さんの居場所を教えましょう」

 

「えっ?」

 

知っていたのか、と訊く古城。だが、愛華は首を横に振った。

 

「私も兄さんも予測を立てているだけです。ですが、十中八九そこに現れるでしょう」

 

そう言ってのける愛華、そして彼女の兄であり、いま優麻の元に辿り着いているであろう劉曹。古城は改めて楠兄妹の凄さがわかった。

 

「それで愛華さん、優麻さんの居場所はどこですか?」

 

雪菜は銀の槍を展開しながら訊く。古城もすぐさま向かうつもりだ。

 

「キーストーンゲート頂上部。そこに優麻さんと兄さんはいます。ですが……」

 

愛華は席を立ち、店の入り口付近を睨む。そこには死神のような黒いローブを包んだ男たちがあちらこちらで監視していた。

気づいていない古城たちを店の外に出させると、彼らはこぞっと妨害するように立ちふさがった。

 

「なんだ、こいつら!?」

 

「私たちをずっと監視していた者たちです。ざっと数十人はいます」

 

古城の戸惑いにすぐ愛華は答えた。

よくよく考えればあたりまえのことである。身体を取り戻そうと古城が動けば優麻の計画に障害をきたすのは明白であり、彼女は当然警戒するはずだ。古城は自分の間抜けさに歯噛みする。

そして、それに追い討ちをかけるように店の周りに人が集まってきた。おそらく波朧院フェスタの路上パフォーマンスと勘違いされたらしい。これでは完全に逃げ場を失ったも同然であった。

 

「あなたたちをこの先に行かせるなというご命令です。おとなしくしてください」

 

黒ローブの男たちの一人が腰低く言った。だが、愛華は一蹴する。

 

「わたしたちがあなたたちのような犯罪組織に従うとでも思っているのですか?」

 

「そのときは致しかたありません。従わなければ殺せという命令なので、覚悟してもらいます」

 

「組織の(した)()(ごと)きが随分と言いますね――アスタルテさん、叶瀬さんをお願いします」

 

命令受諾(アクセプト)

 

愛華は、無防備に立ち尽くしている夏音の保護を指示する。アスタルテは頷いて、自分の眷獣を召喚した。彼女の背中に出現した翼が、左右一対の巨大な腕の姿へと変わる。

それを見た周囲の人々がなぜか、おおっ、と歓声を上げた。次々に拍手が巻き起こる。

 

「完全に祭りのアトラクションだと思われてるぞ……」

 

「どうしましょうか……騒ぎにならないの好都合ですけど、この人混みでは……」

 

古城と雪菜は途方に暮れたような表情をする。そんな二人の前に愛華は進み出た。

 

「二人とも下がってください、すぐ終わらせます」

 

「すぐ終わらせるって、どうやって……」

 

不安そうにする二人に、愛華は安心するような笑みを浮かべ、

 

「まあ、見ていてください」

 

そういって愛華は目を閉じる。その間にも黒ローブの男たちは動きを止めるために手を伸ばす。一人の男の手が、愛華に触れようとする。

瞬間、微弱な風が吹き抜けた。意識しないと気がつかない非常に弱い風。

その風が収まると同時に愛華たちを取り囲んでいた男たちは白目をむいて倒れた。

 

「いったい、どうなってんだ……!?」

 

「わ、わかりません……」

 

「す、凄い……でした、愛華さん」

 

「肯定、さすがです」

 

古城たちはなにが起きたのかわからなかった。唯一(ただひと)つ理解できるのは、彼らが突然気を失ったということだけだった。

 

「いまので全員ですか……わかってはいましたが、所詮彼らは雑兵(ぞうひょう)だったということですか」

 

つまらなさそうに男たちを見下ろし、冷徹な言葉を浴びせる愛華。そんな彼女に代表して雪菜が質問した。

 

「愛華さん、いまのはいったい……?」

 

「威圧と殺気です。それを彼らだけにぶつけただけですよ」

 

然も当然のように答える愛華に古城と雪菜は愕然とする。気絶するほどの威圧と殺気など、普通の人間には持ち合わせるようなものではないからだ。人類最強といわれる"白焔の神魔"の妹はやはり伊達ではないらしい。

万雷の拍手の中、夏音をアスタルテに任せて愛華の案内の元、古城たちは走り出した。

祭りが終わるのはまだまだ先である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"徳叉迦(タクシャカ)"!」

 

ヴァトラーの冷淡な指示の声と共に全長数十メートルに達する禍々しい緑色の大蛇が、瞳から閃光を放つ。

 

「――っ! "反射"!!」

 

劉曹は空中へ回避すると共に鏡のような結界をキーストーンゲート頂上部一帯にはった。閃光は着弾する前に結界によって空の彼方へと弾かれる。

 

「ヴァトラーのやつ、塔内にいる人達なんて気にもしていないな! いや、わかってたけど!!」

 

「"(ル・ブルー)"!」

 

一人ごちていると優麻の守護者である青い鎧騎士の剣が劉曹を襲う。劉曹は身体を捻って剣の腹を蹴り、弾き飛ばす。弾いた勢いは、鎧騎士を出現させている優麻を地上へと落とす。すると、優麻と鎧騎士の影から無数の蛇が飛び掛ってきた。ヴァトラーの眷獣だ。

だが、劉曹に届く前に下から来た白い焔によって焼き尽くされる。劉曹が従えている赤獅子のブレスである。

無事に着地できた劉曹は。寄り添ってきた赤獅子の頭を撫で、薄気味悪い笑みを浮べているヴァトラーを睨む。

 

「さすがだヨ、劉曹。もっとボクを楽しませてくれ……"摩那斯(マナシン)"、"優鉢羅(ウハツラ)"!」

 

ヴァトラーは二体の眷獣を召喚する。それぞれ紫と青色に輝く蛇だった。

そして出現した直後、二匹の巨大な蛇は絡まりあうように一体化する。"蛇遣い"と呼ばれる所以(ゆえん)の一つ、眷獣の融合だ。

 

「劉曹の相手はボク一人でするから、君は早く監獄結界を見つけてくれ」

 

ヴァトラーは優麻にわき目も振らずそう言った。優麻はヴァトラーの性格を知っているのか(かしこ)まりましたとただ一礼して"魔導書No.539"へと向かおうとする。

阻止しようとするが、ヴァトラーの眷獣が先ほどよりも大きい閃光を放ち、劉曹を狙う。

 

「――フッ!!」

 

一息入れて、手を前に振りかざす。それだけで身体を貫こうとした閃光は届く前に消滅した。

ヴァトラーの眷獣を赤獅子に任せ、劉曹は魔力を供給している優麻に迫る。魔力の制御のために優麻は動けない。

だが、劉曹の手が優麻に触れようとした瞬間、強烈な殺気を感じた。そして、

 

「がっ――」

 

突然、身体の内部を破壊するような衝撃が劉曹を襲った。

劉曹自身、なにが起こったかわからない。ただ、攻撃を受けたという時間があの一瞬の間に割り込んできたというような感覚だった。

内臓をズタズタに壊されたらしく、血反吐を吐く。

そんな劉曹を見下ろすような形で一人の少女が現れた。彼女を見た劉曹は自分の身になにが起こったのか理解できた。それと同時に怒りがこみ上げてくる。

 

「ふざけるなよ…それがおまえたちがすることなのか……」

 

「いま、あなたに終わらされると困るのです。彼を完全な第四真祖にするためには」

 

「それでお前が出しゃばるのか――獅子王機関"三聖"の長、"静寂破り(ペーパーノイズ)"」

 

少女は無言でどこからか槍を取り出し、展開する。それは雪菜が持っている銀色の槍に似ていた。その槍を劉曹の頭へと突きつける。

 

「さようならです、"白焔の神魔"」

 

無慈悲な言葉と共に銀色の一閃が振り下ろされた。

 

 

 







いかっがでしたでしょうか?
ここでも特に語ることはありません、ではまた次回に



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