はい、前回謎のテンションだった燕尾です。
今回は粛々とお送りしたいと思います。
第九話です。どうぞ!
劉曹は非常に困っていた。それというのも……
「……なあ」
「なんでしょうか"白炎の神魔"」
劉曹の後ろをぴたりと歩いているメイド服の少女――アスタルテは無表情で訊いてくる。
端整な顔立ちをしている彼女に間近で見つめられて劉曹は少しばかり緊張した。
「その"白炎の神魔"ってのはやめてくれ。劉曹でいい。それと仕事をするのは夜からだから今からついてこなくてもいいんだが」
「否定。私には今、連絡手段がありません。よってあなたと行動した方がいいと判断します」
「それはそうなんだが……」
劉曹はここで重々しく溜息をつく、そして、
「すげえ、目立ってんだよ!!」
思い切り声を荒げた。劉曹の大声で遠巻きにいる人たちがビクッとする。
放課後とはいえ、まだ学園にはたくさん人がいるのだ。その中をメイド服を着た少女と歩けば、まわりから奇異の目で見られるのは当然のことである。
あたりからは「メイド服着せて連れまわしているなんて……」とか「あいつ楠だよな。メイド服が趣味だったのか」とか「くそう、俺の楠をあんな小娘に……」とか聞こえてくる始末だった。
「このままじゃまずいな。どこか人気のないところに……というか一人だけおかしいやつがいるし」
「あれ、劉曹?」
移動しようとしたが後ろから声をかけられる。振り向くとそこには浅葱がいた。
「あ、
「なにやってんのよこんなところで。というかその子だれ? なんでメイド服なのよ。まさかあんた……メイド服が趣味だったの?」
「違う! こいつは那月ちゃんの仕事の手伝いをしている奴だ。今は俺と行動しているだけだ!」
盛大に勘違いしている浅葱に声を上げる劉曹。しかし、
「ま、まあ、あんたにそんな趣味があってもあたしは気にしないから大丈夫よ。それじゃ球技大会の練習があるから、じゃあね!」
「だから違うっての! ちょ、逃げるようにいくな、コラ、浅葱ィーー!!」
劉曹の叫びに足を止めることなく浅葱は去っていった。残された劉曹はただ立ち尽くして、アスタルテはそんな彼を不思議そうに見つめている。その間にもまわりからは変な話が駆け巡っていた。そして……
「だー! もう我慢ならん、アスタルテ! こっちに来い!!」
まわりが余計にざわめきだしたのも無視して、アスタルテの手を引いてその場を急いで離れるのだった。
「はあ、まったく……」
二人は人気のない場所として体育館の裏に来ていた。
ただ校舎内を歩いていただけなのに疲れてしまった劉曹はふうっと息を吐く。
「とりあえず少し時間が経ってから学校を出よう、飲み物買ってくる。ちょっと待っててくれ」
そういって歩き出そうとした劉曹の裾をアスタルテがつかむ。彼女は無表情のまま黙り込んでいる。
「もしかして、那月ちゃんの命令を守ろうとしている?」
「肯定、あなたと一緒に行動するのがマスターからの命令です」
そう言われて、はあ、と何度目かわからない溜息をつきながら彼女と一緒に自販機に向かう。
そこで見覚えのある姿をみつけた。気だるげな猫背に灰色のパーカー姿の男子学生。
「あれは、古城か」
「肯定、第四真祖の特徴に一致しています」
第四真祖――暁古城もまた溜息をつきながら自販機そばのベンチに座っていた。
おい古城、と声をかけようとした瞬間、彼の座っていたベンチが膨らみきった風船のように弾け飛んだ。
「アスタルテ! 古城の護衛を頼む」
咄嗟の判断でアスタルテに指示を出す劉曹。偶然椅子が破裂したなんてありえない。何者かが古城に危害を加えようとしているのは明らかだった。
「
そして二人は古城のもとに駆け寄り、攻撃の気配を察した劉曹は、
「古城伏せろ!」
彼に目がけて発射された閃光を素手で弾く。アスタルテは眷獣の片腕だけを出現させて古城の前に立っていた。
「劉曹? それにアスタルテ!?」
いきなりの二人の登場に戸惑っている古城。だが答える暇もなく次々と古城目がけて襲ってくる閃光を劉曹は弾いていく。だが――
「めんどくさいな」
地面に刺さっていた閃光が形を変えて金属の獣の姿へと変形していく。
「ライオンと狼!?」
古城が驚いている間にも鋼鉄のライオンと狼は同時に跳躍する。狙いはもちろん古城だった。
「俺がいるのに古城を襲えると思っているのか? ――
二体の獣と同時に跳躍していた劉曹は右手に力を集中させ手刀を振り下ろす。
空中にいる二体の獣は当たってもいないのに真っ二つに切り裂かれ消え去った。
「終わりか…… ご苦労様、アスタルテ」
「否定、事態の収拾は劉曹が行いました。私は何もしていません」
そういいながらアスタルテは眷獣を消す。それでもだ、と頭を撫でる劉曹にアスタルテは無表情ながらどこか照れているようだった。
「先輩! 大丈夫ですか!?」
すると聞き慣れた凛とした少女の声が響く。
「一足遅かったな姫柊。もう片付いた」
銀色の槍を持った少女、雪菜が駆けつけてきた――チアガール姿で。だが、古城の疑問はそこではなかった。
「姫柊、どうしてここに?」
雪菜は槍の柄を握ったまま、ぎくり、と背中を硬直させて、
「先輩を監視していた私の式神が、攻撃的な呪力の存在を知らせて来たので、気になって来てみたのですが……」
「は? 監視? 式神ってなんだそれ?」
聞き
俯く彼女の横顔を、古城が無言のままじっと見つめると、雪菜はわざとらしく咳払いしながら顔を上げた。
「――任務ですから」
「ちょっと待てェ! もしかして、これまでずっとそうやって俺のこと見張ってたのか!? 今日だけじゃなくて!?」
「まあ当然だろうな……」
劉曹が呟くと、雪菜は弁解するように、
「だ、大丈夫です。先輩のプライバシーはちゃんと守ってますから、安心してください」
「安心できるかっ!」
古城は頭をかきむしりながら怒鳴る。
「そんなことよりも楠先輩、なぜアスタルテさんと? それとなぜメイド服なんですか?」
「とある依頼を受けてな、今はアスタルテと事に当たっているんだ」
「なんでアスタルテなんだ? 一応オイスタッハのオッサンのやってたことに加担していたんだぞ?」
古城の言っていることに、ごもっとも、と返す劉曹。
「その処分が三年間の保護観察だ。身元引受人は那月ちゃんだ。忠実なメイドが欲しかったんだと」
那月が身元引受人を申し出た理由に古城と雪菜は
「話を変えるが古城、誰かに狙われる覚えは?」
「やっぱり狙われているのは俺なのか?」
「目的はおまえだが、狙っているというのはまた違うか。それなら式神なんて使わないだろう。そうだよな姫柊」
「そうですね……」
雪菜は劉曹が破壊した鋼鉄製の獣の断片を拾い上げる。厚みのない安っぽい金属の薄片。
「本来は遠方にいる相手に書状などを送り届けるためのもので、こんなに攻撃的な術ではないはずなんです」
「手紙を送る? そしたらあれって……」
雪菜の説明に古城は先ほどから気になっていたところを指差す。そこには真新しい封書があった。
「あーそれは…」
その封書に見覚えがあった劉曹は疲れたような顔で溜息を吐く。
雪菜は動揺を隠し切れないようすだった。
「劉曹、姫柊、この手紙に心当たりでもあるのか? なんか嫌な気配を感じるんだが……」
「はい……ですけど、そんなはずは……」
「あるんだよ、姫柊。なんたって第四真祖だからな。ちなみに俺もその手紙が来た」
劉曹はもう一度溜息をつく。古城と雪菜は驚いた様子で劉曹のほうを見る。
「なんでおまえに?」
「それもそうですけど楠先輩、あなたは何の依頼を受けているんです?」
「ちょっとした攻魔官かぶれのことだ」
「なっ――」
「はあ!?」
劉曹がぶっきらぼうに言い放ったことに古城と雪菜は絶句する。そして怒るように、
「なに考えているんですか! 攻魔官の資格も持たない人がそんなこと!」
そういって劉曹に詰め寄る雪菜。だが劉曹は焦りもせずただ淡々と、
「落ち着け姫柊、そもそも俺はいろいろな依頼を受けて生活している。これもその
「作中とか言うな! さりげなく宣伝するな! ああ、もうツッコミどころがおおするぎる!」
「暁先輩、落ち着いてください!」
ギャーギャーと
「ひとつだけ言っておく。人はそれぞれだ。必ずしも馬が合うわけじゃあない。だからそのときは……覚悟しておけよ」
劉曹の行ったことに騒いでいた古城と雪菜は押し黙る。雪菜は劉曹を睨み、
「おい、姫柊!」
「それはどういうことですか?」
雪霞狼を構え穂先を劉曹に向ける。手元が少しでも狂えば顔を傷つけられる位置にある槍の先端にも劉曹は動揺せず、返す。
「言葉通りだ、俺の行動が必ずしも
「そんなことはありません!」
声を荒げて強く否定する雪菜。古城は何か不思議そうに劉曹を見ていた。
「ま、そう思っているならそれでいいさ。考え方もまた人それぞれだ。いくぞ、アスタルテ」
「
そういってその場を去る劉曹とアスタルテ。古城と雪菜はただ黙ってその背中を見送るだけだった。
午後十時ちょっと前、劉曹とアスタルテは港に来ていた。
「はあ、面倒臭い」
スーツ姿の劉曹はだるそうに愚痴をこぼす。
アスタルテは青色のドレスに身を包みながら黙り込んでいる。
二人の目の前にあるのは巨大な船体。
「
「
二人は船の甲板に移動する、そこには大物政治家や経済界の重鎮、政府や弦神市の要人たちがほとんどだった。
「あいつは……アッパーデッキか」
劉曹は要人たちをことごとく無視して、アスタルテとアッパーデッキにあがっていく。すると、
「やあ"白炎の神魔"! 久しぶりだね、会いたかったヨ」
歓喜の声をあげ、突然現れる白いコートの男。劉曹はその姿を見るなり嫌悪感を露にしてその男を睨む。
「相変わらず気持ち悪いな、ディミトリエ・ヴァトラー。どうやって俺を特定したんだかそれだけならまだしも家にまでこんなもん送りつけやがって」
胸元から取り出した黒の封筒を目の前の男に投げつける。
ディミトリエ・ヴァトラー、戦王領域の自治領のひとつ、アルデアル公国の君主にして第一真祖、"
「愛する君のことならすぐわかるヨ」
「あのときみたいにもう一度半殺しにしてやろうか、ああ?」
近づいてくるヴァトラーに対し、劉曹は凄まじい殺気を放つ。
おお恐い恐い、とヴァトラーは両手を上げて緊張感のない声で言う。
「で、何の用だ。弦神島の観光ってわけでもないだろう」
「まあ、それはもう一人主役が来てからにしよう」
ヴァトラーがそういった瞬間、聞きなれた声が聞こえる。
「劉曹?」
現れたのは古城と雪菜、それと長身でチャイナドレス風の衣装を着た女が古城を睨みながらアッパーデッキに上がってくる。
「よう、二人とも。そっちのやつは――」
劉曹が言いかけると突然、ヴァトラーの全身が純白の閃光に包まれ、膨大な魔力を纏う。
「おい、まてコラ!」
劉曹が制止する前に光り輝く炎の蛇の眷獣を放つヴァトラー。
いち早く気づいた古城が雪菜と長身の女を突き飛ばして、雷をまとった拳でヴァトラーの眷獣を迎え撃った。
ヴァトラーの眷獣が消滅し、それと同時に古城の稲妻も消失する。
「あっ……ぶねえ! なんだこれっ!?」
戸惑い気味に古城がうめく。
劉曹の非難の目を流し、ヴァトラーは疎らな拍手をしながら、古城のほうへ歩いていく。
「いやいや、お見事。やはりこの程度の眷獣では、傷をつけることもできなかったねェ」
のんびりとした緊張感のかけらもない声でヴァトラーが言う。古城は低く身構えたままヴァトラーを睨んでいる。
そしてヴァトラーは片膝を突き、恭しい貴族の礼をとる。
「御身の
あまりにも見事な口上に、古城はうろたえる。
銀色の槍を構えた雪菜、そして長身の女までもが呆然とその場に立ち尽くしている。
「ディミトリエ・バトラー……? 俺を呼びつけた張本人?」
かすれた声で古城が訊く。
ヴァトラーはニヤリと微笑み顔を上げる。
「初めまして、と言っておこうか、暁古城。いや、"
そこまで言いかけてヴァトラーは吹き飛んだ。
「「「……は?」」」
いきなりの出来事に三人とも唖然としている。
そしてヴァトラーのいた位置に劉曹が着地した。
「ひ、ひどいな。いきなり飛び蹴りだなんて……」
「うるさい。いきなりなにをして、なにを言っているんだ」
さっさっ、とスーツをたたく劉曹。ようやく事態を把握できた古城は劉曹に訊く。
「そうだ、何でお前がいるんだ。劉曹」
「言っただろう。俺も手紙をもらったと。それで……」
雪菜の隣にいる長身の女の方へ視線を傾ける。
「そっちの奴は昼間古城を襲った奴だな」
劉曹は長身の女を睨みつける。長身の女は身を強張らせて黙り込んでいる。
「姫柊に引っ付いているってことはお前も獅子王機関か。相変わらず面倒臭いことをしてくれる」
「あなたはいったい何者?」
女は劉曹を睨み返し、問いかける。
「人にものを尋ねるときはまずは自分からだろ」
苛立ちから高くものを言う劉曹にむっとするも女は自己紹介をする。
「失礼。私は煌坂紗矢華。獅子王機関の舞威媛よ」
「そうか、俺は楠劉曹。なんでも屋みたいなことを生業としている。普通の人間だ」
「嘘よ! そんな人間が私の攻撃を素手ではじくなんて……」
「紗矢華嬢、落ち着きたまえ。彼は"白炎の神魔"だよ、二年前のあの事件を起こした張本人」
劉曹が隠そうとしていたことをあっさりばらしたヴァトラー。
「"白炎の神魔"!? この男が!?」
ありえない、という風に劉曹を見る紗矢華。劉曹は面倒臭そうに溜息をつく。
「俺のことはどうでもいい。それより本題に入ろうか、ヴァトラー」
「まー、話は中でするよ。ついてきたまえ」
こうして、ヴァトラーの案内で船内に入り込むのだった。
はい、いかがでしたでしょうか?
週一ペースに更新できればいいなぁと思っているこの頃です(遠い目)
感想、どこかおかしいところがあればどしどしとオナシャス!!