負けず嫌いな新田さん 作:弥生
「それでは、第一回かくれんぼ大会を始めたいと思いますっ」
『わーいっ!』
美波がそう声を上げると、側にいたみりあと仁奈が両手を上げて喜びを露わにした。
それを微笑ましく眺めていたプロデューサーの脇を、隣の心がジト目で突っつく。
「おい、プロデューサー☆ なんで、はぁとも参加することになってるのかな? かな?」
「え? そこに佐藤がいたから?」
「強制かいっ! あと、はぁとって呼べって☆」
「アハハ、はぁとちゃん抑えて抑えて」
「……まあ、菜々パイセンがそう言うのなら」
プロデューサーを挟んだ心の反対側で、まあまあと苦笑いして宥めている菜々。
今の彼女はバイトが終わっているからか、メイド服ではなく私服だ。
ただ、キグルミみりあ達に影響されたのか、頼まれたのかわからないが、白いウサミミを着けていた。
プロデューサーに見られていることに気がつくと、菜々は横ピースをしてウィンクを飛ばす。
「ぶいっ! 子供達のために、ウサミンは頑張りますよ〜!」
「菜々パイセン無理するなよー☆」
「む、無理なんてしていませんから! なんて言ったって、ナナはピッチピチの現役JKですからね!」
ふんすふんすと鼻息荒く訂正する菜々に、プロデューサー達は揃って苦笑い。
この辺について深く掘り下げるのはあまり良くないので、菜々はウサミン星人という結論でいつも通りまとめておこう。
「それでは、ルールを説明します。かくれんぼの鬼は、プロデューサーさんです。現在時刻は午後一時なのですが、午後三時までにプロデューサーさんが全員を見つけられなければ、私達の勝ち。全員を見つけられたら、プロデューサーさんの勝ちです」
「はーい! プロデューサーさんから見つからなければいいんだよねっ!」
「キグルミの気持ちになって、かくれんぼするでごぜーます!」
張り切る様子のみりあと仁奈。
彼女達は二人ともキグルミを着込んでおり、それぞれアライグマとリスのキグルミだ。
今日もプロデューサーは美波と勝負をする予定だったのだが、その時事務所に遊びに来ていたみりあ達も混ざりたいとなり、こうして皆でかくれんぼ大会を開催することになったのである。
なお、心と菜々はたまたまそこにいたので、プロデューサーが人数合わせで巻き込んだけだった。
「それじゃあ、プロデューサーさんはそこのテーブルに伏せて百を数えてください」
「数を飛ばしたらダメだからね、プロデューサー!」
「ズルはいけねーですよ?」
「ははは、そんなことしないって。……二人を頼んだぞ」
「任せてください、キャハッ」
「大船に乗ったつもりでいていいんだぞ☆」
「泥舟の間違いじゃないか?」
「おいっ」
そんな風に会話をしながら、美波達は事務所を出ていった。
あらかじめ事務所にいるスタッフ達には今回の趣旨を説明しているので、かくれんぼを咎められることはない。
根回しは少し疲れたが、美波との勝負……いやいや、アイドル達のためなら頑張れる。
だから、このあとちひろに怒られることになっても、プロデューサーは大丈夫なのだ。
「ちひろさん怖かったなぁ」
凄みのある笑顔をするちひろを思い出し、思わず肩を震わせたプロデューサー。
根回しの協力を彼女もしてくれたのだが、その大変さから愚痴を零されてしまったのだ。
『──かくれんぼ大会については、とりあえずなにも言いません。ですが、次からはもっと計画的に行動をしてくださいね?』
まったくもってその通りだったので、プロデューサーは首をちぎれんばかりに振った。
とはいえ、こうしてかくれんぼをできるようになったのだ。ちひろにはあとで存分に労ってから、今は全力でこの勝負に挑む。
「いーち、にー、さーん──」
テーブルに伏せたプロデューサーは、一定のペースで数えていく。
かくれんぼの範囲は事務所の中だから、外に出ていることはない。
事務所はかなり広いが、立ち入り禁止区域を除いていけば、ある程度場所を絞り込めるだろう。
心と菜々は、わかりやすいところに隠れそうだ。
そもそもが大人組──ウサミンは永遠の十七歳だが──なので、身体の大きさ的に身を隠す場所が限られている。
美波も同上ではあるが、彼女は油断できないのでなんとも言えない。
反対に、みりあと仁奈は強敵だろう。
こういった遊びでは、子供は得てして大人の想像がつかない場所に隠れる可能性がある。
その小さな体躯と機転を活かして、自分達を驚かせるのだ。
「──九十八、九十九、百!」
そんなことを考えているうちに、無事に百まで数え終えた。
椅子から立ち上がったプロデューサーは、どこから探そうか目星をつけながら、事務所の扉を開く。
廊下には当然、隠れている美波達はいない。
すれ違うスタッフに会釈をしつつ、プロデューサーは手始めにレッスン室に入る。
中には誰もおらず、ここはハズレかと踵を返そうとした時。
「ん?」
たしかに、プロデューサーの耳に、物音が入ってきた。
思わず振り向き、目を凝らしてレッスン室内をくまなく見回していく。
レッスン室はダンスの動きを見るための巨大な鏡があり、扉から顔を覗かせているプロデューサーが映っている。
隅にはレッスン用具が積まれ、そこにはダンボール箱も置かれていた。そのうちの一つ。ダンボール箱から、白いウサミミが飛び出していた。
「……」
頭隠して、ウサミミ隠さず。
彼女らしいと言えば彼女らしいその姿に、プロデューサーは苦笑いが漏れる。
その方向を鏡越しに見れば、ダンボール箱の陰に隠れた菜々が、冷や汗を流しながら固まっていた。
どうやら、自分も物音を鳴らしたのを自覚しているようで、プロデューサーに見つからないか恐れているのだろう。
可愛らしく目を瞑って耐えており、どこか小動物らしい雰囲気を醸し出している。
「うーん、ここにはいないかー」
わざとらしく声を上げたプロデューサーは、一度大袈裟にレッスン室を出る。
そのまま少しだけ足音を鳴らして遠ざかり、直ぐに忍び足でとんぼ返り。今度は音を立てないようにそっと扉を開けると、鏡越しにあからさまにホッと安堵する菜々の様子が窺えた。
「ふぅ……プロデューサーさんは行きましたか。案外、ナナには隠れる才能があったりして? ウサミンパワーで、どんな人からでも隠れられます! なんちゃって」
細心の注意を払いながら、抜き足差し足でダンボール箱の群れに向かうプロデューサー。
もう自分がいないと思っているのか、声量を落とさないで変なポーズを取っている菜々を見て、微笑ましい気持ちが湧いてくる。
「今度、プロデューサーさんにそういったお仕事を頼んでみましょう!」
無事に菜々の元にたどり着き、ダンボール箱越しに立ち上がった彼女の肩を叩く。
「はぇ?」
可愛らしい声を上げた菜々は、振り向いて手を挙げるプロデューサーと対面。
「了解。次の仕事はそういった方面で調整してみる」
「…………いつから、見ていました?」
「菜々が自分の才能にニヤニヤしていたところから?」
ニヤニヤした笑顔でそう答えると、菜々の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。
羞恥からか瞳は潤み、頭からは湯気が吹き出しそうだ。
「わ、忘れてくださーいっ!」
「えー、どうしようかなー?」
「もう、どうしてプロデューサーさんはそんないじわるを言うんですかっ! それに、わざと部屋から出た振りをするなんで酷いです!」
「いやだって、菜々の耳が全然隠れてなかったからつい」
「えっ?」
濁音混じりの声で呟き、ぎこちない動きでプロデューサーを見つめる菜々。
マジですかと目で訴えかけてきたので、頷きを返すとがっくりと項垂れた。
「それじゃあ、私が間抜けだったみたいじゃないですかぁ……」
「まあ、そういうことだな。とりあえず、菜々は見つけたっと。あとは四人か」
「あ、待ってください、プロデューサーさん!」
レッスン室を出ていくプロデューサーを、菜々は慌てた様子で追いかけるのだった。
***
プロデューサーと菜々は、次に事務所の物置に赴いていた。
中は定期的に掃除されているが、やはり他の部屋よりは埃っぽい。
ハンカチを口元に当てながら、プロデューサーは物の陰などを覗いていく。
「うーん、ここにはいないかな」
「こんなところにいたら、身体を悪くしちゃいますしね」
「そうなんだけど、なーんか匂うんだよね」
「わ、私は臭くありませんよ!?」
「いや、そっちの匂いじゃなくて……ん?」
菜々に苦笑いを向けていたプロデューサーは、物置に置かれているぬいぐるみに目が止まった。
それはぴにゃこら太のぬいぐるみで、仁奈と穂乃香が監修した『ぴにゃこら太の気持ちになるですよ!』というキャッチコピーで売られた商品だ。
実際のぴにゃこら太の一分の一スケールのため、これを着込めばぴにゃこら太になれる、とぴにゃこら太ファン達の間で好評だった。
そんなみんなに人気なぴにゃこら太ぬいぐるみの一つ。壁に置かれているそれから、プロデューサーは微かな違和感を覚えたのだ。
一見どこもおかしくないように思えるが、自分の勘が見逃すなと囁いてきている。
「どうしたんですか?」
「うーむ。……しゅがしゅがー?」
『すうぃーてぃー!』
ふと、なんとなく呟いてみれば、どこからかくぐもった声が返ってきた。
声の発生源はもちろん、ぴにゃこら太の中からだ。
思わずジト目になったプロデューサーは、あちゃーとしている菜々を置いて、ぬいぐるみの前に立つ。
心なしか、動かないはずのぴにゃこら太の表情が、固く強ばっているようだ。
「おい、佐藤。そこの中に隠れているんだろ?」
『……ぴにゃ?』
「そのぴにゃこら太は鳴かないからな!?」
『えー? はぁと……おっと、いけね☆ えー、ごほん。私はどこかのぼんっきゅっぼんっですうぃーてぃーでめちゃくちゃ可愛いしゅがーはーとじゃないぴにゃよ?』
「よいしょっ!」
『いやぁん☆』
世迷い言をのたまうぴにゃこら太の頭を外せば、案の定心の顔が出てきた。
彼女はプロデューサーに見つかったことに気がつくと、お茶目な仕草で舌を覗かせる。
「見っかっちゃった。テヘペロ☆」
「はぁ……変なところに隠れるなって。身体を悪くしたらどうすんだ」
「それはちゃんとケアしてるぞ☆ はぁとはこれを被ってるから平気だし……あっ」
「佐藤は? つまり、ここにはもう一人いるってことか?」
「……」
ダラダラと冷や汗を垂らす心は、素知らぬ顔でぴにゃこら太から出た。
ぬいぐるみを元の場所に戻し、うーんと伸びをして身体をほぐしたのち、プロデューサーの肩を叩いて扉の方に親指を向ける。
「さ、他の人を探しに行こうぜっ☆」
「よし、この部屋の探索を再開するか」
「待ってええごめんなさい今のははぁとがミスったから後生だから見逃してぇ!」
しがみついてくる心を引きずりながら、プロデューサーは物置をくまなく探す。
途中で「先輩も手伝ってー!」と悲鳴を上げた心により、菜々もプロデューサーに抱きついて引き止めているが、プロデューサーは美波との勝負がかかっているのだ。
例えこの二人に止められようと、手を抜くつもりはなかった。
「うごごごご……ダメです、はぁとちゃん。ナナじゃ力になれないみたいです」
「諦めんなよ菜々パイセン! まだまだ行けるここで頑張ればプロデューサーを止められるって、だからもう少しだけ頑張る──」
「あ、仁奈みっけ」
「──あああ!?」
ぴにゃこら太のキグルミを着て他のぴにゃこら太と同化していた仁奈は、プロデューサーの言葉に残念そうに立ち上がった。
「プロデューサーさんに見つかったのでごぜーます」
「仁奈ちゃんほんとごめんっ。はぁとが余計なことを言ったばかりに」
「いいのですよー。仁奈は、はぁとおねーさんと一緒にかくれんぼができて、すげー楽しかったのですよー!」
「うぅ……仁奈ちゃんの笑顔が胸に染みる。本当に仁奈ちゃんはいい子だなー!」
「わぷっ。はぁとおねーさん、くすぐったいのでごぜーますよ?」
感極まって仁奈を可愛がる心をよそに、プロデューサーは顎に手を添えながら、残る二人が隠れそうな場所に思考を巡らせていく。
みりあはともかく、美波は一つ心当たりがあるかもしれない。
先に、彼女をさっさと見つけるべきだろう。そのあとに、ゆっくりとみりあを探せばいい。
「よし。佐藤、仁奈のことを頼んだ。俺は他の人を探してくる」
「言われるまでもなく、はぁとが責任を持って仁奈ちゃんを守るぞ☆」
「はぁとおねーさん、このマスクはもう取ってもいいのですかー?」
「もう少しだけつけていようねー」
ひとまず、プロデューサー達は物置を退室していた。
このまま心達とは別れ、プロデューサーは目星をつけた場所に行くつもりだ。
「あ、プロデューサーさん! また、仁奈とかくれんぼをしてくだせー!」
「もちろん。そのためには、二人を見つけなきゃね」
「頑張るでごぜーます!」
「せいぜい気張れよー」
満面の笑みで手を振る仁奈と、反対に適当に見送る心に手を振り返しながら、プロデューサーは菜々を連れて次の場所に向かうのだった。
***
「プロデューサーさんが予想する場所って、ここですか?」
「うん、ここだね」
プロデューサー達が赴いた場所は、マネキン室だった。
この部屋にはアイドル達が着る衣装が飾られており、実際に着た場合のイメージ補強に使われたりしている。
最近、プロデューサーはここに美波と来ていた。
その時に彼女が、面白そうに眺めていたのを思い出し、隠れ場所の候補に選んだのだ。
「うーん、プロデューサーさん。本当に、ここに美波ちゃんがいるんですか? 隠れる場所が少なそうなんですけど」
菜々の言う通り、マネキン室にはマネキンが並べられているので、物陰に身を潜ませるのが難しい。
衣装道具を仕舞うダンボール箱や、服をかけている衣紋掛けなどがある以上、まったく隠れられないわけではないが。
マネキンの間を覗いたり、ダンボール箱を開いて中を確かめたり、衣紋掛けの洋服を避けて調べたり。
とりあえず手当り次第探してみるが、残念ながら美波がいる痕跡は見当たらない。
「ハズレかあ。ここにいるかもって思ったんだけど」
「事務所は結構広いですからね。ここよりも、もっと良い隠れ場所があったのかもしれません」
「かもな。……っと、もう二時半か。あまり時間を使うのはまずい。仕方ないから、次の部屋に──」
「へくちっ」
扉の方に顔を向けていたプロデューサーは、その声を聞いて動きを止めた。
念のため菜々の方に振り返ると、彼女はプロデューサーに見つめられてから、慌てた様子でくしゃみをする素振りを見せている。
「へくちっ、へくちっ! アハハ、いやー、なぜだかくしゃみが止まらないですねっ。くしゅん、へくちっ!」
「……さっきのくしゃみは、菜々がしたのか?」
「そ、そうなんですよ! ウサミン星人は、突然くしゃみが出る病を患っていまして、だからさっきもくしゃみをしちゃったんですよー……」
ウサミン星人の新事実を早口でまくし立てる菜々だったが、無言のプロデューサーのプレッシャーに圧されたのか、冷や汗を垂らしながら目が泳いでいく。
「本当に?」
「う、いや、そのですね、なんと言いますか、はい。すみません」
しゅんと項垂れる菜々を置いて、プロデューサーはもう一度マネキン室を見回す。
先ほどは下ばかりを見ていたため、今度は部屋全体をだ。
その結果、明らかに一つ異質なマネキンを発見した。
件のマネキンは他のマネキンの間にあるのだが、その他のより肌の色が濃い。
というより、どう見ても人間の肌だった。
先入観でも働いたのだろうか。なぜ今まで気づかなかったと言わんばかりに、ポーズを取ったまま固まっている美波がそこにいたのだ。
「……美波、だよな?」
目の前に立って見つめるが、美波は認めたくないのか、硬直したまま無言。
しかし、ずっと見つめ合っていると、徐々に頬が赤く染まっていく。
「……う、うぅっ! わかりました、わかりました! 私の負けです、プロデューサーさんに見つかりましたから、そんな見つめないでください!」
ついには観念した美波がポーズを止め、プロデューサーから目を背けた。
「やっぱり美波だったか。まさか、そんな風に隠れるとは思わなかったよ」
「プロデューサーさんなら騙せると思ったんですけど。あそこでくしゃみをしちゃったのが、私が見つかった敗因ですね」
「たしかに、俺も美波がくしゃみをしなかったら、気がつかなかったかもしれない」
「というより今更ですけど、よく気づきませんでしたね。私はすぐにわかりましたけど」
「うっ……」
不思議そうな菜々に見つめられ、思わず言葉に詰まるプロデューサー。
彼女の言う通り、普通に考えれば一目でわかるような隠れ方だ。
パッと見はマネキンのように思えるが、よく見れば息遣いや肌の色など、人間らしい要素がしっかりと見て取れる。
それだけ無意識の先入観は、思わぬ落とし穴があるということだろう。
ともあれ、マネキンに扮していた美波が元の服に着替えるため、菜々と二人で外に出たプロデューサー。
腕時計に目を向けると、すでに時刻は二時四十分を過ぎていた。
かくれんぼの制限時間は午後三時まで。つまり、残り二十分ほどで、みりあを見つけなければならない。
結局、残りの十分ほどを使って探すが、みりあがどこにいるかわからなかった。
一旦事務所に戻り、先に見つけたアイドル達の前で両手を上げる。
「降参、降参だ。どこにもみりあが見つからなくて困ったよ」
「えー? 見つけられなかったの、プロデューサー? ぷぷぷ、残念だったな☆」
「つまり、この勝負は私達の勝ちってことでいいんですか?」
「ぐっ……ま、まあ、そうなるのかな?」
美波は見つけたから、実際はプロデューサーの勝ちだろう。
そんなことを言うのは簡単だったが、それはただの負け惜しみでしかない。
事前に決めたルールの通り、時間内に全員見つけられなかったので、プロデューサーは負けだ。
もちろん悔しくはあるが、だからと言って負け犬の遠吠えはしなかった。
そんなプロデューサーの葛藤が、表情に表れていたのだろう。
心は口元に両手を添え、あからさまに煽る姿勢を見せている。
反面、菜々はアハハと乾いた苦笑いを零していたが。
「あれだけはぁと達に啖呵を切ったのに、負けちゃうなんてねえ」
「それで、みりあはどこに隠れているんだ? みんなは知ってる?」
「私は知りませんけど」
「仁奈もわからないのでごぜーます。ごめんなさい」
「あ、それなら私が知っていますよ」
「菜々が?」
手を挙げた菜々に心を除く全員の注目が集まる。
複数の視線に晒された形になり、ウサミミがビクッと震えたが、直ぐに挙げた手を事務所にあるプロデューサーの机に向けた。
「ごめん調子に乗りすぎたから無視しないでプロデューサー」
「みりあちゃんはあそこにいますよ」
「え? あそこって……」
目を丸くしたプロデューサーは、自分の椅子が動いているのを見た。
そこからいそいそとみりあが顔を出し、こちらの方を向いてピースサイン。
「じゃーん! みりあはここだったのでしたー!」
「みりあちゃんすげーのです! 仁奈はこんなところにいるなんて思わなかったのです!」
「へっへーん。菜々ちゃんにこの場所を教えて貰ったんだ」
「待ってくれ。俺はここで数を数えていたけど、ここにみりあが隠れる音なんてしなかったぞ?」
プロデューサーがそう答えると、菜々は悪戯っ子のような顔で微笑む。
「実はですね。みりあちゃんは初め、私がいた場所に隠れていたんです」
「ということは、レッスン室? いやでも、あそこに菜々以外には誰も……まさか!」
「なるほど。みりあちゃんはダンボール箱に入っていたんですね」
美波が得心がいった表情を浮かべ、その言葉に心が感心した素振りで頷く。
「流石、菜々パイセンだな☆ プロデューサーを騙すなんて、やるじゃん」
「うぐっ……ま、まあ、プロデューサーさんを騙すのは心苦しかったですが、これも勝負に勝つためですから。ともかく、ナナ達は、プロデューサーさんを欺くために、ナナが囮になったのです」
「つまり、あの時の物音も?」
プロデューサーの問いかけには、苦笑いをして首を横に振った菜々。
「あれは本当にアクシデントでした。ですから、みりあちゃんが見つかるかもしれない、ってずっと不安だったんですよ」
「ごめんね、菜々ちゃん。あの時、私が箱を揺らしちゃったから」
「結果的には気づかれなかったので、オールオッケーですよっ!」
「……うん! ありがとう、菜々ちゃん!」
菜々に飛びついたみりあは、満面の笑みを浮かべた。
それを優しく受け止めて、慈愛の篭った表情でみりあの頭を撫でる菜々。
明らかに母性が漂っている雰囲気に、心は少し遠い目をしていた。
「あれ、絶対十七歳が出せないオーラだよねぇ……」
「菜々おねーさんがおかーさんみてーです!」
「お、おか!?」
「うんうん! 菜々お母さんって感じ!」
「えぇ!? そんな、ナナは永遠の十七歳で現役JKなので、まだまだお母さんになるには早いっていうか!」
ガヤガヤしはじめた菜々の周りから、少し離れた場所で見守っているプロデューサー。
そんな自分の元に、美波が近づいてくる。
「残念でしたね、みりあちゃんを見つけられなくて」
「まあ、仕方ないな。今回は、菜々達の作戦にやられたってことだし」
「意外と策士でしたね。……ということで、今回の勝負は私の勝ちですよ?」
「言われなくても、ちゃんとわかっているよ。次こそは、俺が勝ってみせるから」
「ふふふ、期待しています」
普段は美波と二人の勝負が多かったが、たまにはこうしてみんなで戦うのも悪くない。
そんなことを思いながら、プロデューサーは美波と談笑を続けるのだった。