"しん"の呼吸して鬼狩る話   作:低次元領域

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過去を語る真の柱

 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがそれはそれは仲睦まじく住んでおりました。

 朝は畑の世話をし、日が昇った昼は二人で一つの水筒を使い木陰で休み、夕方には明日のための準備をする。

 

 とても働き者な二人は、年を食っても生活に困ることはない程度の貯えもあり、毎日を幸せに暮らしていました。

 

 ──ですが、ある日の夜の事。

 二人は突然やってきた""に食い殺されてしまいました。

 

 珍しくない事です。この世には鬼という人食いの化け物がおります。

 鬼は日の光が嫌いなのか、単にそうであるだけのなのか、夜に動いては人を食らい、力を増しまた人を食いに動きます。

 鬼は怪物らしく、首を切り落としても死にません。では、人の手で彼らを斃すことは不可能なのでしょうか?

 

「……遅かったか」

 

「あーぁ?」

 

 ──いえいえ、そんなこともありません。

 獣がいて獣狩りを生業とする人が居る様に、

 鬼がいれば鬼を狩る人もいるものなのです。

 

 年老いた婆の肉を不味そうに食い漁っていた鬼の前に現れたるは、背丈5尺8寸ばかり(現代で言えば175cm近く)の偉丈夫。

 色もそろわぬ着物を着て、自分で切ったのだろうと直ぐにわかるほどに形が滅茶苦茶な髪型。

 肩に()をかけ、酷く不機嫌そうに目の前の鬼をにらみ下ろすのが彼。

 

「……なんだぁてめぇ、変な恰好しやがって」

 

「……」

 

 奇妙だった。鬼は顔を顰め、首を傾げ、男を見やり喋る。

 ……そう、鬼は人語を解します。故に対話が出来ると思う人もいるのかもしれません。

 

 けれど、この男は知っています。鬼とは理解できない生き物であり、人語に似たような鳴き声を話すだけであって答えても意味がない事に。

 少なくとも彼はそう信じていますし、それが変わることもないのでしょう。

 だからこそ、彼は何も言わず鉈を構えます。

 

「──ぷっ」

 

 それを見て、鬼は吹き出してしまいました。

 当たり前です。鬼にとっては物は怖くはありません。彼らはいくら切られようと死ぬこともありませんし、放っておけば再生します。

 つまり鬼は目の前の男を「無知な馬鹿者」と思い込んでしまったのです。

 

 それが、鬼の命運を尽き……いえ、違うのでしょう。

 この男が鬼を見つけた、その時点で決まっていたのです。

 

「鬼の頭一つで十円、強い鬼なら更に」

 

 男は、自分で確認するように何度か呟きました。

 銭の計算です。既に目の前の鬼は狩ったものと考え、今月はどう生きて行こうかと算段しているのです。

 

──スゥッ、ハァー……

 

 深い、深い深呼吸の音だけが家屋に響きます。

 その発信源は当然、男のものです。

 

「……狩りの時間だ」

 

 やがて、彼は鉈を振りかぶり向かっていきました。

 結果は書くまでもありません。

 

 ──これは強い強い、日本一金に執着した男による鬼退治のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時はやや遡ること十年。

 男、少年は、自己を理解したころには両親がいなった。

 よくあることだ。殺されたのか、はたまた捨てられたのかも知らない。ただ「あれ、親ってのがいないな」と思い気が付いただけ。

 ……自分の事に気が付くにはかなり遅い歳ではあったが、過去の事などどうでもいいと探る気配もない。

 

 別段そんな不幸を嘆こうとも思わなかった。

 そんなことをしても腹も膨れぬし、体も汚くなっていくだけ。いい事なんて何もない。

 だから、少年は物乞いを始めた。

 

 少年にとって幸運だったのは、彼が貨幣の存在を理解していたこと。そして自分の立場をよく理解できるだけの地頭の良さがあったことか。

 

 周りの人間はやたら金を持っているのがいる。子供が情けなくお恵みをねだればまぁ何人かは気前よく何かをくれる。

 たまに暴力に訴え気を晴らそうとするものもいたが、そういう時には正義感が強そうなものに見せつける様に転んで事なきを得た。

 

 ……正義感が強そうなものに拾ってもらえばいい? 生憎だがそんな幸運は起きなかった。

 町で生きる以上、乞食の存在は絶対。気まぐれで助けようとする者はいれど、ずっと続けようとするものなどいなかった。

 

 少年はやがて、ただ乞うだけでは埒が明かぬと商売を……いわゆる「靴を磨いてやるから金をくれ」或いは「その辺で摘んだ綺麗な花を買わんかね」という、何かの対価として金銭を要求するようになる。

 そうして稼いだ金のほんの少しだけを食費として使い、金は誰にもとられぬように隠し生き抜いた。

 

 そうして、そうして、そうして……少年はいつのまにやら、鬼狩りとなっていた。

 

 話が飛んでしまった? 仕方がないだろう。しばらくはただ金をためて、身なりを良くし少しでも稼げる日銭を多くしようとする日々が続くのだ。

 そんなことを綴っても面白くもないだろう。これは鬼退治のお話なのだ。

 

 簡潔に言えば、なにか手っ取り早く稼げる仕事はないものかと探していた時、獣狩りの仕事の手伝いを見つけた。

 そうして都を離れ森や山に進むうちに、"鬼"なるものの存在を知った。

 

 曰く、鬼とは太陽が出ている時は姿を隠し、月夜に人を襲い食らうのだという。

 曰く、鬼とは不死の存在で、どれだけ切り落としても食らいつい来て、いつのまにやら再生しているのだという。

 曰く、そんな鬼を狩ることが出来る「鬼狩り」というものがこの世には存在しているのだという。

 

 冬眠できなかったクマなんてものよりももっと恐ろしい。そうマタギの爺さんは話していた。

 少年は思った。「鬼狩りになれたのなら、どこへなりと鬼を狩ることと引き換えに多額の報酬をせびることが出来るのではないか?」と。

 

 幸いなことに、その日の帰りに弾き語りでもして稼ごうと寄った居酒屋にて「鬼狩りを名乗る男」を見つけることが出来た。

 

「ん~おじさんに師事したいー? 駄目駄目、鬼狩りってのは厳しい仕事なのさ。お前さんみたいなお子様じゃむりむり。

あ、熱燗でも飲めば少しは教えてやらんこともないなー」

 

 ちょっと怪しいおじさんだった。

 ……あの、この人本当に鬼狩りだったんですか? あ、そうなの……。

 

 ──んん、少年はそれでなれるのなら安いものだと熱燗一本を驕りました。

 

「……んくっ、カァーッ! うまい、やっぱり他人の金で飲む酒は美味いっ!」

 

 ……すっごい最低なことを吐きながら、飲んだくれ──失礼、男は語りました。

 

「いいかぁ坊主? 鬼狩りってのはなぁ、そりゃぁ厳しい厳しい教えを受けた人たちなんだよ。だからな、ちっせぇ猪退治ごときでへばってるようなお前さんじゃ無理なのさ。

もう少し筋肉付けてから出直しなぁ……どんくらいだって?

 

──そうだ」

 

 酒を飲み干し、すっかりといい気分になった男はうんうんと首を回しながら話します。

 ……そうだ、とか言ってる時点でなにも考えずに話している気がしてならないんですけど。大丈夫なのでしょうか。

 やがて、頼んでいた冷奴を口に入れながら話します。

 

「木を一本、難なく……そりゃもう豆腐を切る様にさ」

 

 ありえない提案でした。

 ……ここではまだ少年は知りませんが、鬼狩りたちは「全集中の呼吸」という特殊な呼吸法を会得しています。彼らが人並み越えた力を引き出せているのはひとえにこれのおかげでなのです。

 当然、そんなものを知らない少年はいくら鍛錬してもそこに辿りつけるはずがありません。

 とても分かりやすい、冗談の言でした。

 

 ……え、冗談じゃない?

 

 えっ、本当に切り倒したんですか!?

 一か月ほど鍛錬を続けてようやく人間の腕位の、なんてことない木だったから半ば詐欺の様なものだったって……生木ですよね? その時の年齢は? 12、いやいやいや……えぇ……?

 

 と、とにかく! 少年は、そのことを男に報告したんですね。

 男……ええっと、お師匠さんは何て言われたんですか?

 

「え、本当にやったの?」だった? 当たり前ですよそりゃ! なんで? いやもう逆にこっちがなんで……お話を進めましょう。

 それで、その後は一体どうしたのですか? 

 

 ははあ、第一段階は突破したから、次の教えをくださいと言ったと。

 返しは? 師匠の言葉は一言一句覚えているとよく言っておりましたし分かりますよね?

 

「え、え~と……鬼狩りは特殊な呼吸をするのだ。お前もそれが出来なければ鬼狩りのおの字にも到達できないぞ!」

 

 ……あれ、この人本当に鬼狩りなんですかね。だからそう言っている? いやそれまでの言動が少し不安で……。

 えーと、ここで「真の呼吸」なるものを教わったと。それが今の稼ぎを支えているから感謝していると。そうなんですね。

 

 ──失礼、かなり文体が砕けておりました。

 少年は鍛えた肉体を見せようやく合格を貰い、苦難の末についに鬼狩りとしての第一歩とも言える呼吸法を教わることになったのです。

 まずはどのようなものか見せて欲しい、そう懇願すると男は快く答えます。

 

「……え、えっと……今日はちょっと喉の調子が良く無くてな」

 

 ……快く、ではないかもしれませんが、鬼狩りとしてふさわしい呼吸を披露するのです。

 その瞬間を今か今かと少年は待ちわびておりました。

 

「よ、よし見ておけ──スゥー……ハァー……」

 

 ……。

 

「…………よし、今のがしんの呼吸だ!!

 

 あの、この人……深呼吸しただけなように思えるのですが。

 だからお前は分かっていない? いやまぁそりゃ師事を受けて未だに真の呼吸にたどり着けていない不出来な弟子ですが。

 ……一度流しましょう。この後はどうされたので?

 全集中の呼吸をひたすらしたと、はい。

 

「お、おー……お前には才能があるのかもなぁ。まさかこの呼吸法をすぐに覚えるとは」

 

 と師匠からも太鼓判だった程、少年の体にその呼吸はよく馴染んだ。

 まるで生まれた時からしていた様に、赤子の手をひねるが如く……。

 ……深呼吸なんじゃやっぱり

 

 そ、それで呼吸法も習得したのですね。

 

 では次はやはり選抜試験へ……へ、なにそれってえ?

 う、受けてらっしゃらないんですか!? 鬼殺隊の人たちはてっきり皆あれを受けて鬼狩りになるものとばかり……。

 

 へっ? そもそも最初は鬼殺隊ではなく流れの鬼狩りとして活動していた?

 

 な、なるほどそうなんですね。では真の呼吸を学んだ後は鬼狩りとしてしばらく活動をなさって……あれ。

 ち、ちなみに鬼の斃し方などはお師匠さんから教わって?

 そうですよね、そうでないと殺せませんものね。よかったよかった。ちなみになんとおっしゃったんですか?

 

「……あの……その……や、奴らが日の光を嫌うとは知っているだろう!?」

 

 ……だいぶ言動が怪しい男は、自分の部屋に置いてあった鉈を一丁取り出し、少年に渡しました。

 ……え、まさか?

 

か、刀でもなんでもいい! 刻んで刻んで肉片一つまでにして……日の光にでも当てればいいんだろう、多分、きっと!!

 

 師匠! やっぱりこの師匠の師匠、詐欺師ですよ!? 

 え、失礼なことを言うな? 実際にこれで斃せた? いやまぁ間違ってはないですけども……本当にこの男が鬼狩りならもっといい得物を持っているはずで、その陽の光を長い間受けた鉱石が──待ってください。

 

 その……いつも師匠が大事に手入れし持っている鉈って……。

 

 まだ使えるから持っている……って、つまり鬼殺の剣じゃないってことですよね!?

 

 

 え、うちの師匠毎回鬼狩るとき太陽の光による直火!?

 

 なんでそれで鬼殺の中でも最上位に位置する柱になれたんですか貴方!?

 全ては真の呼吸のおかげって……絶対深呼吸ですよねこれ!?

 

「今回の授業料はもらっていくぞ、もう仕事だ」

 

 あ、待ってください師匠、せめて私の刀を持って行ってください!

 え、使いづらいからいい? そ、そうじゃなくて……!

 

 誰か、誰でもいいからうちの、真柱(しんばしら)の師匠に本当の事を教えてください!!

 

 アンタがやってるのはただの深呼吸だし、鬼は陽の光を浴びた鉱石で作った武器で切り落とすものなんだって!!

 




・懺悔
 鬼滅の刃はまったので……
普段はイナイレなどではしゃいでおります。世界観的に合わなすぎる主人公ですが、どうかご容赦をば……。


~オリキャラ紹介~
・真柱くん
 まことばしらとか色々誤読されるけど本当は しんばしら。
成りあがり夢見て鍛えまくりいつの間にか柱になった。強い。
けどそもそも全集中の呼吸を勘違いしている。

・弟子くんちゃん
 性別不明にしておきたい作者の思惑のせいで一人称を私にされた。
真柱の継子という弟子ポジを獲得したが、条件が金払いとかいうやべー奴。才能はない。
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