「ふんふふんふふーん♪」
時は移って師走も終わりがけ、12月24日。つまりクリスマス・イブなのだ。
世間は恋人たちの甘い香りと恋人がいない人間の嫉妬の臭いで満たされている。
そんな中ゼロは何をしているのかと言うと、IS学園に行くためのモノレール駅前の広場で一人ベンチに座っていた。
服装はファッション雑誌で確認した最近の流行りの服装。自分なりに考えて黒を基調にした服装になっている。
今からはアリサとのデート。
IS学園内で待ち合わせしても良かったのだが、アリサの希望で待ち合わせする事になった。
鼻歌を歌いながら上機嫌にアリサを待つゼロ。
周囲を見ればチラホラとカップルの姿が見える。
ソロソロ待ち合わせの時間。
「一夏くん」
アリサの声がした。
ゼロは直ぐに立ち上がると声のした方向を見た。
「ゴメン、お待たせ」
見惚れた。
目の前に立つアリサの私服姿にゼロは見惚れてしまった。
「どう?」
首をかしげながら聞いてくるアリサ。
「良いねえ、美しい。もう一度惚れたよ」
「ふふっ、ありがとう。それじゃあ、行きましょうか」
二人は並んでユックリと歩き出した。
目的地はここから少し離れた市街地。
フランスでの一件の後、世界は大きな変化がおきていた。
フランスという国はかろうじて存在出来るほどに弱っていた。立て直すには何年もかかりそうだ。
死者の数は四桁にものぼり、国の重要なポストについていた権力者達はその殆どが殺された。
行方不明者も多数出ており、デュノア社の社長夫妻も含まれている。
戦争が近いのではないのかと世間は言っている。
だがそんな事は関係なしに人々はクリスマスで盛り上がっていた。
「そう言えば、一夏くんの所属している組織のクリスマスって何をしてるの?」
人通りの多い市街地を歩きながら二人は亡国機業でのクリスマスの過ごし方について話していた。
「んん?そうだな、酒飲んだり、騒いだり、デスメタ歌ったり、飯食ったり、色々してるな。ミサしたりはしねえな。基本的に好き勝手してる。文化や宗教にとらわれるのをみんな嫌ってるからな」
去年までのクリスマスの過ごし方を思い出しながら、ゼロは楽しそうにクリスマスの思い出を話せる範囲で話した。
アリサもそれを楽しそうに聞いていた。
「それなら、今日は例年以上に楽しい日にしましょう」
アリサが笑った。
「応」
ゼロはこの日のために何度もシミュレーションを行って来た。
デートの場所である街の情報を頭に叩き込んだ。最近流行りの店から、隠れた名店、そして路地の一本一本まで。
アリサの希望には直様対応する事ができる。
ティファニアとの普段のデートと比べて今回のアリサとの初めてのデートは三倍以上気合が入っている。
この男、ドン引くぐらい気合が入ってしまっている。
もしこのデートの事を考えているゼロをティファニアがみたら大爆笑するだろう。
決めるのだ。今日は決めるのだ。
決意を胸にゼロは歩く。
「ゲコッ♪」
そいつは目の前に現れた。
冬だというのに緑色のカエルのレインコートを着た少女。
左手にバニラ、右手にチョコレートのソフトクリームを持って交互に食べている。
それに加えて両腕にはビニール袋に入っている大量のお菓子が見える。
ソフトクリームを食べ終えた少女は口元を手で拭った。
「一夏くん、あれ、何?」
アリサは少女を見て何かに気づいた。
違和感、少女から感じられてしまう違和感。
「下がってろ」
ゼロはアリサの一歩前に出て少女から守る。
「上手いケロ、上手いケロ。もっともっと甘いお菓子を食べたいケロ。やっと食べられるんだからもっと食べたいケロ」
少女の食べる手が止まらない。持っていたお菓子を、食べカスを出しながら全て食べ終えるとゼロを見た。
「お前、ゼロだな。聞いてるケロ、聞いてるケロ」
ゼロは視線だけを逸らして周囲を見渡す
周囲の人々はこの存在に気づいている様子はない。
目の前のカエルレインコートを観察する。
目の前の少女の感覚は何かに似ている。答えを出すのに数秒かかった。
「生体同期型ISか………」
「ゲコッ!?何でわかったケロ!?」
確信はなかったが、相手が勝手にバラしてくれた。
「お前がバカで助かった……それで何の御用だ?俺は、今、機嫌が良いから許してやる」
優しさの中に明確な殺意を込めながら、ゼロが尋ねた。
「ゲコ、お前にはわすらの計画の為に死んでもらうケロ」
カエルレインコートの肉体が光に包まれ、光が収まるとそこには緑色のISがいた。
全身装甲、丸みを帯びたボディーラインに特徴的なカエルのような顔つきのヘルメット。
それを見た一般人たちは一斉に逃げ出した。この前のフランスでの事件があったばかりなのだ、皆恐怖しているのだ。
「わすの名前はバーブル・ヘケロット、覚えておくケロ。お前を倒した者の名前だケロ!」
カエルレインコート改めバーブルが宙に上がった。
「一夏くん」
「周囲の警護は任せた、アリサ。さっさと終わらせる」
声をかけてかけてきたアリサを下がらせ、ゼロはバーブルに対峙する。
既に心は戦闘準備完了。デート気分は終わってしまった。
「黒零」
黒零を身に包み、ゼロが飛び上がった。
高速で迫って距離を詰める。
「いくぞケロ」
バーブルが右手の手首から先端無数の小さなクローのついたチューブをゼロに向けて投げつけた。
ゼロはそれを左腕で受け止めるが、巻きつき、クローが装甲に減り込んでしまった。
「ゲコゲコ、それはISのシールドエネルギーを吸収するチューブだケロ。貴様はこのままジワジワとエネルギーを吸い取られて追い詰められていくのだ。ケロケロケロケロケロ!!」
豪快に笑ってみせるバーブル。
だがゼロはそんなの気にしていない様子で、チューブを引っ張ったり、エネルギーの減り方を確認している。
「無駄だケロ、そのチューブはそんな簡単に引きちぎれないケロ!
」
「そうか、なら助かるよ!」
ゼロは左手でチューブを掴み、力任せに引き寄せた。
黒零との力勝負に負けて強引に引き寄せられるバーブル。
「ケロ?」
「オラァッ!」
ゼロは渾身の右ストレートがバーブルの胴体に減り込んだ。
吹き飛ばされるバーブル、だが再び引き寄せられて今度は浴びせ蹴りを食らう。
再度吹き飛ばされ、今度はチューブを両手で掴みハンマー投げのように振り回す。
そもそもバーブルはチューブを巻きつけた事自体が間違いなのだ。
黒零の方が馬力が高いのに、チェーンデスマッチ紛いの事を行うなんて馬鹿なのだ。
硬い硬いアスファルトに受け身も取れずに高速でバーブルは叩きつけられる。
「ゲ……ゲコ」
「オラァッ!」
仰向けに倒れたバーブルの胃袋をゼロら高速で落下して両足で踏み潰した。
「立て」
ゼロが左手でバーブルの胸元を掴むと空いた右手で殴打を繰り返した。
容赦がないという話ではない。的確に殺す方法をとっている。
この男、只今絶賛激怒している。フランスの事件よりも怒っているのかもしれない。理由は非常に簡単だ。
近くのビルの壁に叩きつける。
「お前は俺を怒らせた。それがなんだかわかるか?」
エネルギーが減り続けているのに、ゼロは気にしている様子はない。
「……か、関係ない人を巻き込んだからケロか?」
バーブルは罪のない、幸せなクリスマスを過ごそうとした人たちに恐怖を与えた。
「否」
壁面にめり込むほどの勢いで叩きつけられた。
「ゲ、ゲコォオオオオ!!!!」
苦悶の声を上げるバーブル、だが直様息を整えて両肩からオタマジャクシ型のミサイルを発射した。
しかしソレはゼロが作り上げたチャクラの壁によって阻まれてしまった。
「いきなり暴れ出したからケロか?」
「否」
背負い投げのように、美しい半円を描きながら地面に叩きつけられる。
「こんなモノ」
ゼロはチューブに飽きたのか両手で掴むと、力任せに引きちぎった。
別に最初から引きちぎれなかったわけではない。少し楽しませてやっただけだ。
「ほら、まだだろ。立てよ」
「……ゲコゲコ、そんな余裕いつまで続けていられるか楽しみだケロ」
バーブルの体が膨れ上がった。
そして肉体を球状になるように折りたたみ始める。
「他者のエネルギーを吸って発動する我が奥義、食らうが良いケロ」
スラスターを噴かせ、バーブルが超高速回転をしながら突撃して来た。
地面を抉りながら突き進むバーブル。
「ああ?」
ゼロは迫り来る肉塊をチャクラの壁で受け止め威力を殺し、動きが止まりかけた所で側面を両手で鷲掴みにした。
「止まってしまえば、ただのバランスボールなんだよ!!」
力任せに何度も球体になったバーブルを力任せに何回も地面に叩きつける。
アスファルトに罅が入っても知ったことではない。
「ゲ……ゲコ」
弱々しい声を漏らしながらバーブルの体が開き始める。
ゼロは最後に力強く叩きつけた後、バーブルを十字路に投げ捨てた。
──零落極夜
ゼロの右手が零落極夜を纏う。
悠然と一歩一歩、地面に仰向けに倒れているバーブルに向かっている。
足音はまるで死神の呼吸音、明確な死がバーブルに近づいている。
「嫌だケロ、死にたくないケロ。やっと自由になれたのに、まだいっぱい美味しいもの食べたいのに。なんでわすらばかりこんな目に合わなくちゃならないでケロか!」
バーブルの魂からの慟哭。
彼女はヘルメットの奥で泣いていた。
「知るか」
だがそんな事、冷徹無慈悲のキリングマシーンにとっては関係ない。
バーブルの体を跨ぎら右手を硬く握り締める。
「そうだ、最後に理由を教えてやるよ」
「なんだ、ケロ?」
「俺とアリサのデートをぶち壊した事、それだけだ」
無慈悲な鉄槌が振り下ろされた。
圧倒的な破壊力、逃げられなかった衝撃が全てバーブルの肉体にも吸い込まれた。
アスファルトは砕け、崩落し、地下鉄までの通り穴ができてしまった。
「ゲ……ゲコ」
バーブルの活動が停止した。
ゼロはそれを確認するとゆっくり拳を抜いて地上に出た。
穴から飛び出してISを解除する。
「ふぅ……」
着崩れた服を直しながらアリサの
元に向かう。
「一夏くん、大丈夫だった?」
だがそれよりも早くアリサが駆け寄って来た。
「ああ、大丈夫だ。それよりも何だったんだ、アレ」
何故襲われたのか、ゼロにはわからない。そもそもアレは
何処の組織に所属している人間だったのかすらわからない。
「何なんだよ……」
思考の海に入り込もうとしたその時だ。
街にある巨大な街頭ビジョンの映像が、近日される映画の予告から変わった。
まだ予告が終わっていないのにいきなり変わった。
二人は無意識のうちにそのビジョンに目が移り、そして次に流された映像を見て言葉を失った。
それは何処かの部屋だった。
薄暗い部屋の一箇所だけがスポットライトで照らされている。
玉座と呼べるような豪奢なイスに誰かが座っている。
「一夏くん、アレ……」
信じられないものを見るような目をしながらアリサが隣にいるゼロに同意を求めた。
「ああ、間違いない」
玉座には人が座っていた。御伽噺に出てくる人間の服装をそのまま取り出したような服を着ている。
だがその服には所々赤いシミが見える。
血だ。
着ている人間の血だ。
ゼロの目から見ても、その人間が死んでいるのは間違いがなかったが、そんな事は信じたくはなかった。
何故なら、モニターに映し出された人物をよく知っているからだ。
その人物は。
篠ノ之束。
というわけで、IS学園編ラストのクリスマス回ですね。