インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第112話

 

 

「さあ、わたしの美しさの前に跪け。我は失敗作ではない。貴様らが失敗作になったのだ」

 

場所は変わり、時は遡る。

 

楽園の都市部、百春たちが戦っていた場所とはまた違うエリアでラウラとアドルフの兄妹は進化体との戦闘を繰り広げていた。

 

二人の眼前には空中を優雅に舞い、そして燃やしている鳥を模したISがいる。

 

搭乗者の名前は『フェニック・マグマニオン』、自分の美しさに自信を持っている生粋のナルシストタイプの人間だ。

 

「見ろ、わたしの機体を。なんと美しことか。この腕と一体化した巨大な翼、何もかもを掴む鳥の腕、そして何よりもこのトサカ!唖々!唖々!完璧すぎて狂いそうっだ!」

 

空中で回転しながら自身の姿を敵に見せつける。

 

「面倒な相手だ」

 

「本当に……厄介だ。相性が悪いのか?」

 

フェニックと戦っているラウラとアドルフの二人は碌な攻撃を当てられない現状に非常にイラついていた。

 

攻撃を当てようとしても、ソレは空間に投影された幻影。別の場所にいる本体からカウンターを貰ってしまう。

 

更にフェニックの機体は火炎も厄介で、その火炎の熱さに冷静な判断を失ってしまうこともある。

 

「アドルフ……お前も少し戦い方を自重しろ。いくらナノマシンがあると言っても限度がある」

 

ラウラは隣に並び立つアドルフを見る。

 

アドルフの乗っている機体は破損箇所が目立っている。

 

「仕方がないだろ、カウンター狙いで攻撃しないと本体にはダメージを与えられない。それに、コッチにはゼロのような一撃必殺がないからな。地道にやるしかないんだよ」 

 

肉を切らせて骨を断つ、それがアドルフに浮かんだ作戦であったがこれがうまくいかない。

 

機体の性能は向こうの方が高く技術もある。

 

「だとしても、もう少しまともな作戦はないのか?」

 

「………一つだけあるが、それは最終手段だ」

 

「なんだ?」

 

「彼奴らと同じように俺たちもコアを体内に埋め込む。彼奴らができて、俺たちに出来ない理由はないだろ?」

 

「それはなんとも無茶苦茶だな!!」

 

飛んできた火炎弾を躱して、二人はフェニックに向かう。

 

「無駄なことだ!」

 

フェニックの姿が空中に無数に投影される。それら全てがISのセンサーに反応する超高性能の空間投影。

 

加えて高速で動き回っている。

 

アドルフが投影されたフェニックの群れの中に単身突撃する。

 

「マルチロックオン」

 

空間に投影された映像目掛けてアドルフは複数同時にロックオンする。

 

機体に取り付けられた全ての遠距離武器からありとあらゆる弾丸が撃ち出させれる。

 

弾丸は次々と貫いていくが未だフェニック本体を捉えることができていない。

 

貫けば貫くほどフェニックの数は増えていく。

 

だがいくら撃ってもフェニックの実体を捉えることが出来ない。機体の中にある残弾が次々と減っていく。

 

焦りが生まれる。

 

この場で勝負を決めたいアドルフはフェニックの実体をあぶり出すことに精を出している。

 

「アドルフ、後ろだ!」

 

ラウラの声が響いた。

 

背後から機体の反応、ソレは間違いなくフェニックの反応。

 

この機会を逃すわけにはいかないと二人は集中する。

 

アドルフの真後ろからフェニックが攻撃を仕掛ける。火炎を纏わせた翼でアドルフの首を狙う。

 

アドルフの機体に絶対防御は積まれておらず、この一撃は間違いなく致命傷を与えることになる。

 

ソレは避けねばならない。

 

「ラウラ!」

 

「わかってる!」

 

無駄な指示は一切ない。

 

アドルフの背後に現れたフェニックに向けてラウラがISに搭載されてあるAICを発動して、機体を束縛する。

 

空中でフェニックの動きが止まる。

 

アドルフは銃撃を停止させて、空中で反転して近接戦闘用の得物を構える。

 

狙うは敵の急所、一撃必殺の決め手を持たないアドルフは確実に殺すためにそうするしかない。

 

狙うは心臓、真正面から一撃。

 

──だが。

 

(…………違う)

 

アドルフは違和感を覚えた。

 

ソレは長い間戦い続けたことによって手に入れることのできた経験に基づく直感と言えるだろう。

 

アドルフの勘が目の前にいるフェニックを否定している。アレは違うと教えてくれる。

 

「ラウラ!解け!ソレは違う!」

 

アドルフは叫ぶ。

 

しかしソレはラウラに届いたが、彼女は意味が理解出来ずにAICを解除しなかった。ここでフェニックを逃がせば、次はないと思っているから。

 

「……ッ!」

 

そして何時の間にかラウラの背後にフェニックが迫っていた。今度は紛れもない本物であると勘が告げる。

 

ラウラはそれに気づいていない。AICを初登するデメリットとして周囲への注意が散漫になってしまうからだ。

 

「させるか!」

 

アドルフは機体にかかっているリミッターを解除する。本来ならばフェニックに確実にトドメをさせる時に使うべきだったとアドルフは思っているが、この場合はもう仕方が無い。

 

跳ね上がった機体性能はアドルフの肉体を容易く傷つける。機体に振り回されないようにアドルフは意識を集中させる。

 

超高起動性能により、AICの網を掻い潜りラウラに接近する。

 

そしてシュバルツェア・レーゲンに備え付けられたレールガンを引きちぎり、ハンマー代わりにフェニックの頭部を殴りつける。

 

「ガァッ!?」

 

予想外の一撃にフェニックは怯む。

 

そしてソレをアドルフが見逃すわけもなくレールガンを投げ捨てて連続攻撃を叩き込む。順番は無茶苦茶だがここでケリをつけるようだ。

 

休む暇なく攻撃を叩き込み続ける。

 

フェニックも炎翼で応戦するが、アドルフはソレに関しては致命傷になるであろう攻撃だけを防ぎ、残りは最小の威力になるように装甲で受け止めている。

 

だがそれと共にアドルフの纏う装甲が破損する。

 

「低性能風情が!!」

 

両の炎翼がアドルフの首を狙う。

 

「舐めるな!」

 

アドルフはソレを両手で受け止めて、両脇に抱えこんで地面に向けて自由落下を始める。

 

「アドルフ!死ぬ気か!?止まれ!」

 

アドルフが自分ごとフェニックをあの世に道連れしようとしているのをラウラは気づいた。

 

「任務くらいは達成してみせるさ」

 

落下速度があがり、勢いが増す。

 

「離せ、醜悪者!!」

 

「貴様はここで殺す。最低でもそれくらいはしてやるさ」

 

覚悟は決まっている。拘束する腕に力が入る。

 

「ブレーメン・サンセット!!」

 

閂スープレックスによく似た体勢で二人が地面に落下した。

 

だがアドルフは硬いアスファルトに直撃する寸前に肉体にかかる僅かな違和感を覚えた。

 

ソレが何なのかはすぐに理解することができた。

 

地面に直撃し、両者地面に転がる。

 

「何しやがる、ラウラァ!」

 

アドルフがあの時感じたのはAICによる束縛の感覚、それのおかげでアドルフは死ななかったが、逆をいえばフェニックに致命傷を与えることはできなかった。

 

「死ににいく馬鹿がどこにいる!兄弟を殺して生きた命なら、大切にしろ!」

 

ラウラはこの場になって、任務よりも兄弟としての情を優先させてしまった。ソレは彼女にとって良いことなのか、悪いことなのか、見る人によって変わるのであろう。

 

「……そうか、そうだな」

 

妹にそんな事を言われるとは思っていなかったアドルフは衝撃を受けた。

 

「この、この──」

 

フェニックが立ち上がる。

 

肉体から火炎が発生している。ソレは先ほどよりも熱く、激しい。

 

「劣等生物ガァアアア!!!!」

 

フェニックは二人に向けて無数の火炎弾を放った。

 

「私の美しさを傷つけた事を後悔しろ!」

 

二人に襲いかかる火炎弾、ラウラは絶対防御の使えないアドルフの盾になるがそんな事を許せるほどアドルフは気弱ではない。

 

ラウラの背中を掴み、自分の背後に隠す。

 

最大迄開放した機体性能を利用して迫り来る火炎弾を呼び出した盾で弾き続ける。

 

だがそれでも防御が追いつかず機体が破壊され続ける。

 

「アドルフ、やめろ!」

 

「黙ってろ!」

 

そして、火炎弾を全て捌ききった後には大破したアドルフの機体が残っていた。

 

「ああ……」

 

アドルフがとうとう膝をつき、崩れ落ちそうになったところをラウラが支えた。

 

「無事か?」

 

「ああ、何とかな………だが、これは困ったな。本当に最終手段を取るしかないようだ」

 

そう言ってアドルフは自分の機体からISコアを抜き取った。

 

「こんな事はしたくないのだがな、信じていいんだな」

 

アドルフの持つISコアが返答するかのように、仄かに輝いた。

 

「……待て、止めろ。余りにも無謀だ」

 

「だがしなければ、無駄死にだ。それはしたくないだろ」

 

ラウラを振り払い、アドルフは一人で立つ。

 

確実に相手を殺すために選択し続ける。その結果がこれだ。

 

「……わかった。お前がやるなら、私もやろう。それが、遺伝子強化体としての務め、兄さん一人は地獄に連れていかないさ」

 

ラウラもコアを取り出した。

 

「……後悔するなよ」

 

「しないさ、元々試験官の中から生まれたんだ。こう思えるようになれたんだ。悔いなんてするものか。冷たい試験官の中で生まれたんだ。最後は熱くいたいさ」

 

二人は体内の中にある多機能ナノマシンの性能を限界ギリギリまであげる。そうでもしなければ心臓にコアを突っ込んだ瞬間に死んでしまう。

 

「「ヤァアアアアア!!」」

 

胸に埋め込まれたISコアが心臓を飲み込む。痛覚があったのかもしれないが、脳が無意識のうち全てを遮断してくれた。

 

もしそうでなければ今頃痛みで気絶していたに違いない。

 

ナノマシンがより一層活発化する。限界まであげたはずなのに、コアの影響からか性能が引き上げられているような気がする。

 

機体と己が一体化していくのを感じる。

 

こんな無茶苦茶、この二人にしかできない。

 

「これは、手が遅れたな!」

 

今まで静観していたフェニックが二人に向けて火炎弾を放つが、ソレは二人を守るように現れたエネルギーの壁に阻まれた。

 

 

 

二人は非常に運が良かった。

 

何故なら普通にこんな行動をとっても機体は進化しない。

 

だが今回は事情が違う。

 

彼らの周囲にあった強烈な自我を持った『始まりの五つのコア』の影響で、ソレラもまた目覚めてしまった。

 

というよりも強引に引き上げられてしまったというのが正しいのか、それはよくわからない。

 

今言える事は、ソレラもまた進化したという事だ。

 

 

 

 

 

 

光が収まる。

 

そこに現れた新たなIS。

 

黒の深淵(シュバルツェア・アブグルント)

 

幻影(イルズィオーン)

 

黒を基調とした二機のIS。その性能の高さを、二人は全身で受け止めている。

 

「なんだ、それは。そんなモノは美しくない。美しさが足りないのですよ!!」

 

フェニックが再び周囲に分身を映し出す。その数は先ほどよりも多く、夫々が独立した動きで飛び回っている。

 

二人はその動きを目で追いかける。

 

「……やれるな」

 

「ああ、任せておけ」

 

ラウラは一歩前に出ると、足を広げて構えを取る。

 

生まれ変わったラウラのISの特徴は両肩に付けられた巨大な砲身だろう。今までは片側だけだったのが両側に、さらに動きやすいように稼働領域もあがっている。

 

そして何より撃てる弾丸の種類が増えた。

 

「AIC発動!」

 

突き出したラウラの両手からAICが発動される。今までは右手だけだっのが両手に、さらに発動範囲まで広がった。

 

AICの網がフェニックを絡み取る。

 

「エネルギー砲……」

 

両肩の砲身にエネルギーがたまる。今回は敵が複数いるため拡散砲撃に切り替えている。

 

「発射」

 

両肩から撃ち出されたエネルギーの波はフェニック達を飲み込み、本体の居所を露わにさせた。

 

「おのれ、おのれ」

 

エネルギー砲の直撃を受けたフェニックは運良くAICの範囲外まで飛ばされた。

 

「余所見してていいのか?」

 

その声の直後、何時の間にか背後にいたアドルフにフェニックは蹴り飛ばされた。

 

フェニックはアドルフが蹴りをいれるまでその存在に気づいていなかった。

 

それはまさしく『幻影』、スピードもパワーも今までとは比べ物にならない。

 

その姿はまるで忍者のようだった。機動力に長けた見た目に相応しく、速度でフェニックを圧倒し始める。

 

元々ゼロと肩を並べられるほどのアドルフの格闘術の技量が、ソレを再現できる程の高性能の機体に乗る事で高い力を発揮している。

 

動かそうとするのではなく、機体が思ったように動いてくれる。

 

地上に引きずり落とされたフェニックに対してアドルフは一気にかたを付ける為に連続攻撃を仕掛ける。

 

フェニックも反撃を仕掛けようとするが、アドルフの反応速度の前に全てが防がれてしまい、カウンターを貰ってしまう。

 

「ラウラ!」

 

フェニックを蹴り飛ばして、ラウラに渡す。

 

「任せろ」

 

ラウラが手に備え付けてあるプラズマブレードを起動する。プラズマブレードは激しく赤色に発光する。

 

「ベルリンの赤い雨」

 

乾坤一擲、激しい赤の一閃。

 

フェニックの片翼を切り落とした。

 

「アドルフ!」

 

蹴り飛ばしてアドルフの元に返す。

 

「行くぞ」

 

アドルフの右足に赤いエネルギーが宿る。ソレは黒零にも付けられてある装備の一つ、威力だけなら此方の方が高い。

 

スラスターを利用して高速で回転を始める。

 

独楽のような回転の状態で、迫り来るフェニックに向けて飛び回転蹴りを放つ。

 

「ブロッケンの帰還!」

 

残ったもう一つの翼を切り裂いた。

 

「まだだ、まだ私は美しい!」

 

両腕を失ってもフェニックは止まる事がない。嘴を開けて巨大な火炎球を作り上げる。

 

機体が限界を迎えているのか、ヒビ割れ始める。

 

「美しく、美しく!!」

 

火炎球が撃ち出される。その熱は周囲にある建物を溶かす。

 

「ここは私に任せろ。最高威力だ」

 

ラウラの両肩に備え付けてあるエネルギー砲がエネルギーを蓄える。

 

「収縮、一点放出!」

 

両肩から放出される圧倒的な量のエネルギーが火炎球を飲み込んでしまった。

 

圧倒的な破壊を前にしてもフェニックが折れる事はない。

 

「まだだ、まだ私は戦える。折れる事は美しない。だから私は戦い続ける。この身が美しくある為に!」

 

フェニックは美しさに固執する。その理由は二人にはわからない。そして興味がない。

 

「そうか、ならば死ね」

 

何時の間にか、フェニックの真上にアドルフがいた。手には小太刀。

 

「単一能力────『静かなる終焉』」

 

世界から音が止まった。

 

フェニックが自分の死に気がついたのは、首裏に小太刀が突き刺さってから数秒後のことであった。

 

体にしみ込むように死が体の中に広がって行くのを感じる。

 

恐怖はない。ただ回避不可能な現実が目の前に突きつけられている。拒むことはない、穏やかな心で事実を受け止める。

 

アドルフの発現させた単一能力『静かなる終焉』、ソレは黒零の

零落極夜に似ているが違う。

 

零落極夜は絶対防御やエネルギーを黒色に塗りつぶすように破壊する。

 

それに対して『静かなる終焉』は絶対防御を透過する。

 

死という結論を与えるのは同じだが、過程が違う。

 

「そうか……死ぬのか」

 

フェニックの肉体から力が抜けていく。

 

「私は美しく散れるかな…………」

 

フェニックは動かなくなった。最後まで美しくい続けようとした。

 

それでも、死んだ。

 

「…………静かに眠れ」

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