インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第115話

 

 

降臨した破壊の化身、四枚の大翼を広げて空中に佇む。

 

「アレ…………ヤバイな」

 

ゼロは相手の性能を自分の目で見て、今迄の経験を通じて精確に分析する。

 

結果は最悪、敵の力は先ほどの何倍にも膨れ上がっている。油断をしてしまえば一瞬で勝負をつけられてしまうのではないのかと思えてしまう。

 

指先に力が入ってしまう。嫌な緊張感が肉体を走る。少しの油断も許されない。身体中の神経全てがクロエに向けられている。  

 

「コレなら、コレなら」

 

自身の内側から溢れ出てくる力にクロエは感嘆している。

 

凶器と化した手を大きく広げる。

 

 

そして──クロエは世界から消え去った。

 

 

「……ッ!?」

 

ゼロにはその現象が理解できなかった。

 

確実に自分の目の前にいたはずのクロエの反応がレーダーから消え去り、そして肉眼でも確認できなくなってしまった。

 

ステルス機能でレーダーから消えたのでも、超高速移動でレーダーの範囲外にいなくなったわけでもない。

 

間違いなくクロエはこの世から消え去ってしまった。

 

「な!?何処…………ッ!?」

 

背中に悪寒が走った。

 

長年戦い続けてきたことによって得られた勘がゼロの肉体を強制的に動かす。限りなく反射運動に近かった。

 

振り返りながら零を盾のように構える。

 

衝撃。

 

吹き飛ばされるゼロ。

 

「嘘だろ!?」

 

振り返った先にいたのは先ほど消えたはずのクロエがいた。

 

こんな経験今までに一度もなかった。

 

速いとか機動力が良いと言う話ではない。もしそうならばこんな事にはならない。速度によって何かを傷つけるはずなのに、周囲には傷一つない。

 

「冗談だろ……こんなの、こんなん!」

 

ゼロの頭の中には二つの可能性が浮かんでいた。だがゼロは今すぐにでもその二つの考えを否定したかった。否定しなけれは正気で要られそうになかった。

 

「……時間停止」

 

時間停止、時間を停止させたから急に現れたように感じている。だがその考えはすぐに否定した。

 

何故なら時間を停止できるなら停止させてる間に攻撃を行えば良いはずだ。それなのにしない。

 

つまり答えはもう一方の方。

 

「瞬間移動か!」

 

瞬間移動ならば消えた理由も攻撃しない理由も説明がつく。

 

目の前からクロエが消え去り、真横に現れる。

 

そしてゼロは攻撃を防ぎながら吹き飛ばされる。

 

「オーバーテクノロジー過ぎるだろうが!!」

 

防戦一方、攻める方が得意なゼロが一方的に押し込まれている。だがそれでもゼロは巧みにクロエの瞬間移動に反応している。

 

今までの経験が全く通用しない相手ながら、自分の全てを信じて攻撃を防ぎ続ける。

 

壁を突き破って屋外に投げ出されるゼロ、スラスターを使って高速で地面に向けて移動する。

 

その間もクロエは瞬間移動を行いながら距離を詰めてくる。

 

「はは!」

 

クロエが瞬間移動ではなく単純なスラスターでの高速移動でゼロとの距離を詰めた。

 

ゼロは左手で零を持って突き刺しにかかるが瞬間移動で躱される。

 

その事はゼロも予想済み、だからこそ次にかける。

 

背後に向けて攻撃腕を構える。

 

その直後クロエが射線上に姿を現した。

 

「大当たり!」

 

ゼロは躊躇いなく零落極夜のエネルギーを放った。

 

クロエは攻撃が予想外だったのか慌てた様子でその攻撃を躱した。

 

一か八かの賭けには勝ったみたいだが、攻撃は躱されてしまった。

 

「もっと、もっと力をオオオオオオオ!!」

 

攻撃されたのがよほど癪に触ったのか怒号を上げながらNo.1000に力を求める。

 

そしてそれに呼応するように黒鍵が不気味に光を放つ。

 

「少し、キツイか?」

 

黒鍵の今の性能は黒零の性能を凌駕している。

 

そのため技量で優っていても勝つ事は困難になる。

 

だからゼロとしては誰かが応援に来て欲しいというのが正直な気持ちであった。

 

負けたくないという個人のプライドは今は何処かに捨て去らなければならない。優先すべきはより安全な状態での任務の達成。そう教え込まれてきた。

 

「……いや、必要ないみたいだ」

 

ゼロのセンサーに一つの反応がある。それは二人に向けて超高速で接近してきている。

 

「なんだ、まあまあ助かるよ」

 

少しだけ嬉しそうな声色でゼロは呟いた。

 

「兄さんは素直じゃないね。正直に喜んだらどうだい?」

 

助っ人にやってきたのは織斑百春、そしてその愛機『白式・真』。

 

黄金に光る大翼を携えながら今見参。

 

「他の奴らはどうした?」

 

「いつでも戻れるように撤退準備を始めてる……箒たちが戦えそうにないからね。ボーデヴィッヒさんに指揮を任せてる」

 

「そうか……少し見ない間に立派になったな。一安心だ」

 

「……ありがとう。今なら兄さんにも追いつける。二人で倒そう……いや、止めよう」

 

二人は空中で並んで得物を構える。ゼロは零を、百春は真花を。

 

二人とも姉の背中を見て育ってきたが、今はもうその憧れから巣立ち自分の力を持った。

 

「相手は瞬間移動を使えるから、間合いは意識するな。常に相手は自分の周辺にいると考えろ」

 

クロエに対するアドバイスを百春に送る。

 

「瞬間移動……なら!」

 

白式の黄金の大翼が唸りを上げる。

 

「お前…………」

 

ゼロも百春が何をしようとしているのかに気づいた。

 

「行くよ、シロノ」

 

仮面の奥で百春は笑った。

 

「二人になったところで!」

 

クロエが瞬間移動を行う。

 

そしてそれに僅かに遅れて百春もこの世から飛んだ。

 

「……嘘だろ」

 

百春が行ったのは間違いなく瞬間移動。衝撃的な光景であったが、これ以上無駄事は考えていられないと思い戦いに集中する。

 

空中で激しい瞬間移動合戦を繰り広げる二機、クロエの動きについていけるあたり百春の技量は確実に上がっている。

 

ここ最近のゼロによる厳しい特訓のおかげかはわからないが、百春の実力は飛躍的上昇して、今は国家代表と肩を並べる事ができるほどになっている。

 

今のゼロにできる事といえば二人の動きを可能な限り予測する事だけだろう。

 

「ならばこっちも!」

 

ゼロは二人に追従する。

 

戦いは激化していく。

 

楽園の市街地で始まった戦闘は次々と周囲の建物を破壊していく。

 

戦えば戦うほど黒鍵の性能が上がっているように感じてしまう。

 

最初は二人がかりで押していたが、徐々にクロエの力が増してきているせいか押され始める。

 

「ラア!」

 

ゼロが零をクロエに向けて振るい、クロエが瞬間移動で躱す。

 

「そこ!」

 

そこを百春が背後に瞬間移動を行って真月で切りつける。

 

……だが。

 

クロエは更にもう一度瞬間移動を行って攻撃を躱した。

 

「嘘だろ!」

 

瞬間移動を行うにはインターバルが必要になる。

 

百春はその時間をクロエの今までの行動から測っていたのだが、クロエはその時間を超えた。

 

確かに百春が計算した時間は正しかったのだが、クロエがそれを超える進化をしてしまったのだ。

 

大翼から降り注がれる大量のエネルギーの弾丸の雨、二人はそれぞれ盾を使って凌ぐ。

 

「コレは、少し──」

 

「面倒だな」

 

二人は背後を取られないように背中合わせになりながら戦う。

 

相手が瞬間移動を行ってもすぐに反応できるように、相手を信頼しきっている。

 

「勝てる手段はある?」

 

「あれば今頃実現させている。先ずは、この攻撃を防ぐ。勝機はその先で見つけて見せる」

 

クロエの放った無数の球体状のエネルギーを捌き続けながら、二人は地面に降り立つ。

 

四方八方から瞬間移動されるよりかはマシだと判断したからだ。

 

「これなら、どうだ!」

 

クロエの両手に水色のエネルギーが出現する。ソレは意識をもっているかの様に不気味に蠢いている。

 

投げつけられる二つのエネルギー、空中でカブトガニの様な姿に変えて二人に襲いかかる。

 

大口を開けて二人を狙う二匹のカブトガニは挟撃を仕掛ける。

 

「おい!」

 

「わかってる!」

 

二人は夫々単一能力を発動させてカブトガニを切り落とす。

 

そしてこのタイミングを狙ってクロエが瞬間移動で間合いを詰めた。

 

「喰らえ!」

 

エネルギーを纏った爪が百春を狙う。

 

だがそんな事は百春も事前に察知している。爪が振るわれるよりも早く瞬間移動を行ってクロエの背後を取る。

 

ゼロはその瞬間、自身の感覚を加速させる。次にクロエが行うのは確実に瞬間移動、クロエの方が短い感覚で行う事ができるので百春はもう使う事が出来ない。

 

今までの全ての戦いによる経験がゼロに答えを示してくれる。それは勘をこえた説明不可能な感覚であった。

 

「わかる」

 

体が示された答えの為に動く。

 

右手にエネルギーを溜め、虚空に向けて構える。

 

「わかる!」

 

右手の指し示した場所にクロエが出現した。

 

「なっ!?」

 

クロエは突きつけられた右手を見て、驚愕した。

 

瞬間移動で逃げようとするが発動まで時間がある。

 

それを逃がすゼロではなく、躊躇いなく零落極夜の砲撃を行った。

 

クロエは咄嗟にスラスターを使って直撃は免れたが、大翼の一つを失ってしまう。

 

「ナメルナ!」

 

大翼は直様復活した。No.1000の回復能力はどうやら並のモノではないらしい。

 

大翼を広げて空中を高速で飛び回るクロエ、ソレを百春とゼロの二人は連携攻撃をし掛けて互角に戦いを繰り広げていく。

 

ソレでも戦えば戦うほどクロエの力が増していく。底なしの壺から力を引き出している様な感覚であった。

 

「ちょっと、不味くない?」

 

「元から、だろうが!」

 

百春が瞬間移動でクロエとの距離を詰め、ゼロが予知に限りなく近い直感で二人に追従する。

 

ゼロの動きは機体の限界ギリギリを攻めている。黒零の機体性能は並のISと比べれば抜きん出ているが、今ここにいる他の二機と比べれば劣ってしまうのが事実である。

 

機体性能が足りないからこそ、ゼロは身につけた技術でその差を埋めている。

 

ゼロの目は僅か先の未来を感じている。

 

その未来に追いつける様に自分の肉体を、機体を行使する。

 

極限の動き、一切の油断がない。

 

 

だが──

 

 

ゼロの動きが突然鈍った。

 

(……唖々、そうなんだ)

 

ゼロの予知に機体がついていかなくなった。

 

(…………だが)

 

ゼロは身体中に力を入れる。機体とは即ち自分自身、機体の怪我は己の怪我。

 

「気張れやァアアアアア!!」

 

No.000に対して檄を飛ばす。

 

それに答えるかの様に黒零が僅かに光り、機能が全て回復する。

 

直ぐに戦線へと復帰、百春の加勢に入る。

 

「……ん?」

 

ゼロは気づく、此方側に近づいてくる未確認の機体が一機ある事に。

 

「百春!三秒凌ぐぞ!」

 

「どうして!?」

 

「いいから!」

 

三秒、それが何を示しているのか百春には検討がつかない。だがゼロの言う事を素直に信じる事にした。

 

百春が瞬間移動を行い、クロエとの距離を詰め、クロエはそれに反応して瞬間移動を行うが逃げた先にはゼロが既に待機していた。

 

浴びせ蹴りでクロエを地面に叩き落す。

 

「こんなモノデェ!!」

 

クロエは空中で体制を立て直そうとする。

 

 

その時、一本の閃光が闇夜を貫いた。

 

 

センサーの範囲外からの超長距離射撃、クロエは反応する事が出来ずにその身で直撃を受けてしまった。

 

「何が?」

 

百春はまず真っ先に同級生であるセシリア・オルコットによる狙撃であると思ったが、彼女ではこの距離の射撃は不可能だと思い除外した。

 

「遅いな」

 

「無茶を言うな、コレでも最高速でやってきたんだ」

 

ゼロは狙撃手の正体に気がついている様だ。

 

「織斑マドカ、蒼天。参戦する」

 

ここ楽園に全ての始まりが集まった。

 

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