「ああ、さっきよりか大分まともじゃねえか。まあそれもそうか、そうじゃねえと意味がねえよな。親の愛情の象徴ともいえる機体をそんなになるまで堕ちて穢したんだからな」
「なんで、なんで......この力を使っても勝てないんだ!」
IS学園中庭で繰り広げられているゼロとデュノアの戦いは両者実力が拮抗しておらず、ゼロによる一方的な戦いが広がっている。
ネオによって渡されたプログラムによって変質してしまった『リィン・カーネーション』は搭乗者の意思を無視して敵を倒すために必要な最適解の戦闘手段をとり続けていた。
しかし、その動きはゼロと『黒零』に見切られ、カウンターを逆にもらってしまっている。けっして『リィン・カーネーション』が弱いわけではない。プログラムが行う動きはゼロにとっては非常にヨミやすいものなだけであった。
正確無比にゼロを倒そうとするがあまり、最短経路で倒すための戦いをしているために、攻撃が来る場所が非常に予想しやすい。
プログラムのおかげで性能は最大限引き出せてはいるが、厄介さで言ったら元のデュノアのほうが上だったのかもしれない。
あえて言うならば、遊び心が存在しないというべきなのだろうか。
「簡単にヨメてしまうな、おおよそ試作機か何かを渡されたか......それともそんな玩具で俺に勝てると本気で思っているのだろうか」
ゆっくりとわざと歩いて、地面に膝をつけているデュノアに歩み寄っていく。相手が次にどんな手を打ってくるのか、ゼロは待っている。そして何が起きても対処することが可能であると彼は確信している。
その時だ。
黒零のセンサーに新たに数機のISの反応があった。そのどれもがIS学園のモノではなく、また束が作ったISコアの反応とも異なっている。
「…………無人機どもか」
ゼロを取り囲むように複数の無人ISが出現した。それらはパリで多大な被害を発生させた機体によく似ているが細部が少し異なっているので改修機なのかもしれない。
ゼロの視線が無人機の両肩に備え付けられてある巨大なバインダーに向けられる。アレはパリでの戦いのときに使われた自動兵器、あれだけで千を超える数の市民が殺されたことをゼロは記憶している。
そんなものがこのIS学園に解き放たれたらどうなるのか、考えるだけでも冷汗が無意識のうちに出てしまう。
今は一か所に固まっているが、もし無人機すべてが学園中に分散してしまったならばゼロ一人で対処するのは。非常に困難である。
「......何が目的だ?」
何故現れたのかを考える。デュノアがあらかじめ仕込んでいたものなのか、それとも別の誰かが何らかの目的で仕込んでいたのか。
後者なら少なくとも他にネオの人間がいる事になる。
「……………俺以外が目的か?俺をここに縛り付けておく事が目的なのか?」
ゼロは一つの結論に辿り着いたが、それに対する確信は一切なかった。
直感とも言えるモノであり、道筋は一切作り上げられていない。
「だとすれば、敵は……………」
ゼロの視線が不意に下に向けられる。それがなぜそんな事をしたのか一切わからない。
だが、わかる。
「下か」
学園の地下には様々なものがある。例えば学園のセキュリティーを管理するメインコンピュータールーム、いくら学園のセキュリティーが侵入者に対して簡単に破られてしまうようなガバガバなものであったとしても、ないよりかあったほうが心強いのだ。
だから敵はそこを狙っているのかもしれない。
上にいる無人機やデュノアは本来の目的の為の囮、だがデュノア自身はその事を知らないのかもしれない。
いや、むしろ知らないほうが敵にとっては好都合なのかもしれない。何も知らずに行動してもらえば、勝手な行動をとられる心配がないと思われるからだ。情報を与えず、人質を取ることで判断能力を奪い操りやすくする。
「面倒な事態になりやがったな。すでに敵が侵入している可能背が非常に高いな......こいつらをさっさと殺して、下に行くか。それとも、他の奴に任せて俺が下に行くか......」
相手が動く気配はない。今のうちに誰かが来てくれればうれしいのだが......
「兄さん!」
白式を身に纏い、百春とその後ろから凰鈴音が増援として来てくれた。百春の実力があれば何も心配する必要がないとゼロは心の中で思った。
「いったい何が起きてるんだ!どうしてシャルと戦っているんだ!?それにシャルのISの色だっていつもとは違うし──」
「話は後だ。ここは任せたぞ、俺は地下に向かう。すでに敵が侵入している可能性が高い」
「............?どういうこと?」
百春はゼロからの返答を求めるが、ゼロは何も言わずに近くにあった地下への進入口に入っていった。残された百春と鈴音はゼロの様子から何か面倒なことが起きていると察することができた。
そしてまた、厄介なことを押し付けられたということも理解することができた。
「兄さんは面倒ごとを押し付けるのが得意みたいだね」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ」
残された二人は武器を構える。取り敢えずは目の前にいる敵を倒すのが先決である。
凰の乗る『甲龍』は第二次移行を完了させている。
こうなったのはつい先日の事で、本人曰く『振り切れた』から第二次移行をする事ができたそうだ。
機体名は『凰仙甲龍』、この進化によって甲龍の持つ龍砲は更なる進化を遂げる事ができた。
装甲は胸部を中心に強固になり、機動能力も破壊力も飛躍している。
性能は『リィン・カーネーション』に劣ってはいるが、鈴音は今のデュノアに負ける気はしない。
「シャルロット………あんた、自分が何をしているのか理解してるの?」
非固定ユニットの龍砲の全ての銃口がシャルロットに向けて突きつけられる。
彼女の中では今のデュノアは敵認定されているらしい。
「鈴にはわからないさ……こうするしかないんだ。彼を倒さないといけないんだ…………こうしないと、僕は………私は幸せになれない」
既に彼女の精神はネオによっておいつめられ、正常な判断ができない状態にまで陥ってしまっている。
「シャル………」
「百春、私と一緒に来て…………アイツを倒そう……そうすれば、そうしたら、幸せになるから……みんな、幸せになるから」
もはや壊れているのかもしれない。
「それはできない」
縋ろうとする手を百春は払いのける。今の彼にデュノアの手を掴む気はない。
彼には決意がある。
「僕には、僕の世界がある。その世界は今の君の世界とは相入れない………だから、僕はその手を拒む」
「………そうか、アイツが、アイツが君を誑かしたんだ………なら、私は──」
その時、鈴音の放った龍砲の弾丸がデュノアを吹き飛ばした。
「……鈴」
余りにも突然な出来事に百春は呆然と驚くことしかできなかった。
「百春、無人機は任せたわ。私はあの馬鹿を止めてくる…………安心して、今の彼奴に負ける気はしないから」
強い覚悟を持っているということは、百春からも感じられた。
ここは何も言わずに任せた方が良さそうだ。
「わかった。任せた」
「ええ、任されたわ」
デュノアを鈴音に任せて、百春は無人機の元へ向かって行った。
「さて、彼奴を止めて来ますか」