インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第131話

 

 

──織斑千冬はもう終わった人間だ。

 

誰かがそう言った。

 

かつて──ISの発展途上の時代に活躍した人間であって、今現在ある程度の技術が確立された中でも最強ではないと言った。

 

 

 

──否

 

 

 

奴は強い。

 

ここ数年は表立って戦うことがなかったために実力が落ちていた事は間違いない。

 

だがここ最近はかつて失った闘争本能の牙を取り戻し、かつて以上の鋭さを見せた。

 

織斑一夏────ゼロというかつての自分を凌駕する力を持った人間、もしくはバケモノの影響によって今の千冬はかつてないほどの戦士になっていた。

 

 

 

 

先ほどまで多くの人間による混戦状態になっていたIS学園のメインアリーナには今現在二人の人間しか残っていない。

 

残ってないというよりは、その二人が作り上げる領域に入る事のできる実力を持っていないというのが正しい言葉なのかもしれない。

 

千冬の指示によってこの場から他の人間は立ち去った。先の戦闘によって生じた無人機の残骸はそこいらに転がってはいるが人の影は一つもない。

 

 

 

かつて暮れに沈んだ千冬の翼は暁の元で今再び大空へと向けて飛び立とうとしている。

 

 

 

千冬は本気中の本気だった。

 

目の前にいるのはかつて千冬が闘った相手とは違う。千冬が今まで闘って来たのはその殆どが対戦相手であって敵ではなかった。

 

だが今目の前にいるのは紛れもない外敵、かつてないほどの殺気を心の奥底に潜めながら、心の表面は波一つ立ててはいない。

 

 

 

「ハァ!!」

 

迫って来た四本の触手を躱して掻い潜り、理想郷の懐に潜り込んだ千冬は何の迷いもなく手に持っている刀『雪片・改』を首めがけて振るった。

 

『一夏』はコレを上体を逸らして躱した。そして躱された触手を引き戻して背後から千冬を襲う。

 

だがその程度の事は千冬も予想済みだ。真上に飛び上がって触手の攻撃を回避して、今度は真上から切りかかった。

 

だがそれは四本の触手によって受け止められる。

 

「……厄介だな」

 

「かつての『世界最強(ブリュンヒルデ)』に褒めてもらえるとは、作ったモノとしては非常に光栄に思わせてもらうよ」

 

触手が千冬を押し返し、直様先端を向けてエネルギーの線を放った。

 

千冬はコレを両肩の非固定ユニットで受け止めた後に地面に着地した。

 

「…………遠いな。いやはや、出来損ないだと思っていたが………思ったよりお前の首は遠いな」

 

「……出来損ない?」

 

千冬は『一夏』の言葉に少し引っかかるところがあった。

 

「となれば、此方も武装を展開するしかあるまい」

 

理想郷の左手に武器が呼び出される。それは日本刀と和弓が混じり合ったような独特のデザインであった。日本刀の鍔にあたる部分には片方に矢先、そしてその反対側には指で掴むためのグリップがある。

 

「『嘆きの弩』」

 

理想郷は右手の人差し指と中指で鍔に取り付けられたグリップを掴み、ソレを後ろに引いた。

 

するの鍔の反対側にある矢先にエネルギーが蓄えられる。

 

千冬も雪片を構えながら、いつ撃たれても反応できるようにスラスターを軽く噴かせている。

 

両者の間に緊張が走る。

 

理想郷の指がグリップから外れそうになるその瞬間を千冬が見逃す筈はなかった。

 

咄嗟に横に瞬時加速を行い今いた場所を離れる。

 

その直後………いや、それとほぼ同時に矢先からエネルギーが放たれる。そのエネルギーは矢先から放たれただけあって矢の形を作りながら、地面を砕き、つい一瞬前まで千冬がいた場所を通過して観客席ごとアリーナの壁を砕いた。

 

「威力が、高い!」

 

「休む暇はないぞ!」

 

次々と撃たれて来る矢を躱しながら、千冬は『一夏』の隙を伺う。

 

「ならば」

 

『一夏』が世界から消えた。

 

瞬間移動、ソレを千冬が察したのは消えたすぐ後の事であった。

 

息を飲み、『一夏』の出現を待つ。

 

どの方向から来ても対処できるように神経を尖らせて、全方向に意識を向ける。

 

「ッ!?」

 

千冬は咄嗟に振り返りながら、雪片を掴んでいない左手を前に突き出した。

 

何故手を延ばしたのか千冬にも良くわかってはいない。だが出したのだ。

 

ソレとほぼ同時に『一夏』が千冬が手を伸ばそうとしている先に出現した。

 

「……反応したか」

 

千冬が出現地点を予測したのに驚いてはいたが、『一夏』はそんな事関係なしに右手から弓のグリップを放した。

 

至近距離から放たれる矢を躱すことはできない。伸ばした左手の先に矢が触れる。

 

「防げ!!」

 

千冬の叫びに応えるかのように、『暁桜』は光を放ち不可視の壁を左手の前に出現させた。

 

それが『チャクラ』の壁だということは『一夏』が真っ先にわかった。

 

壁が矢を受け止め、千冬が左手を上に上げると矢は進行方向を変えて真上に飛んで行った。

 

「ぶっつけ本番だったが、何とかなるモノだな!!」

 

『一夏』にできた一瞬の隙をついて千冬が雪片で攻撃を行うが、『一夏』はそれに素早く反応して弓につけられてある刃でソレを受け止めた。

 

「驚かされたよ、まさか隠し球(チャクラ)があるとは予想もしていなかったよ」

 

互いに力を込めて刃を相手に押し込もうとするがうまくいかず、痺れを切らした二人は同時に後方に下がった。

 

「コレがあれば、貴様にも刃は届く筈だ」

 

「…………なら、此方も秘密兵器を使わせてもらうとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ずは一匹だ。逃がさんぞ、お前たちはココで、殺し尽くす」

 

ゼロはグチャグチャの残骸になったエリマキトカゲ型のISの頭部を左手で鷲掴みにしている。

 

残った胴体は四肢の至る所がちぎれていたり、ちぎれかけたりで元がどんな姿をしていたのか想像するのも困難になっている。

 

エリマキトカゲを目の前に投げ捨てたゼロはソノ頭を何のためらいもなく踏み砕いた。

 

「どうする、次は…………何れだ?」

 

黒零の瞳が赤く光り、周囲にいる他の三機に睨みをきかせる。

 

三機ともエリマキトカゲと比較すれば軽傷ではあるが、装甲の一部が破損している。

 

「………ッチ!」

 

三機のISが取った行動は撤退であった。遠距離攻撃を地面に放って目くらましを行い、三方向に散らばって逃亡した。

 

「逃げるか………追うか………いや、その必要はなさそうだ」

 

ゼロは咄嗟に三機を追いかけようとしたが、その直前にスラスターを噴かせるのをやめた。

 

「ソッチは任せたぞ!!」

 

ゼロは踵を返して三機が進んだ方向とは別の方向に移動して行った。

 

逃げる奴を追い上げるよりも他の奴らの手伝いをした方が良いと判断したからだ。

 

「任せて、一夏くん」

 

「貴方、自分で倒しなさいよ!!」

 

狐の前にはアリサが立ちふさがり、鰻の前には楯無がたちふさがった。

 

そして残された仙人掌は足止めされた二人を無視して何処かへと立ち去って行った。

 

「一夏くんが弱らせてくれたんだから、あまり文句は言わない方がいいと思いますよ」

 

アリサが自分の機体のカラーデザインに合わせた三叉撃で狐の腹を勢いよく突いた。

 

突き飛ばした狐にむけて三叉撃を投げつけ、今度は二丁の銃を呼び出して両手に構えて、落下していく狐にありったけの量の弾丸を浴びせる。

 

「こんなもの!!」

 

狐は三叉撃を弾き飛ばし、迫り来る銃弾を両手で防ぐ。

 

「なら、これならどう?」

 

アリサは今度は両刃の大剣を呼び出して狐に向けて投げつけ、自身もスラスターを使って大剣の真後ろを高速で落下する。

 

落下してきた大剣の剣先を狐が受け止める。

 

そこをアリサが高速で落下してきて速度を維持したまま、大剣の柄を踏みつけて狐の腹に強引に剣先を押し込んだ。

 

「………流石に、絶対防御までは貫けないみたいね…………今の武器だったらの話だけど」

 

アリサの手にまた別の武器が呼び出される。

 

今度の武器は大斧、足で踏んでいる大剣と同様にお姫様のようなスカート型の装甲がある『アイリス』には不釣り合いのように思えてしまう。

 

「この武器でダメなら、また別の武器を使うだけよ………私たちの単一能力は武器を生み出すことだから」

 

「……は?」

 

「私の機体に収縮されてある武装はない。今使っている武装も含めて、全てが即興で生み出されているの」

 

アリサの周囲に次々と武器が出現して、次々と消えていく。

 

そのすべての形が異なっている。

 

「勿論、お気に入りの形は記録してあるけど………殆どが私が想像して生み出しているの」

 

反則的だと狐は思ってしまった。

 

武装が即興で作られるということは、相手との間合いを計ることがほぼ不可能だということ同義である。

 

そして攻撃の受け方も変わってきてしまう。それを一瞬で判断さなければならない。

 

 

 

極一部の異常な戦闘センスをもつ人間たちならば対処できるのかもしれないが、残念ながら狐にはそこまでのセンスはなかった。

 

「時間がないから、一気に決めさせてもらうわ」

 

アリサが別の武器に持ち替えた。

 

「急がないと、他のところがもたなそうだから」

 

他の場所でも戦闘は行われている。

 

それらの場所ではネオの方が優勢になっている。なので、今目の前にいる敵に長い時間をかけるわけにはいかない。

 

「……絶対防御が発動しても関係なく倒してあげる」

 

次々と武器を試していくアリサ、そして狐の悲鳴がIS学園に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

圧倒的攻防、互いに相手を殺すための一撃を放ち続ける。

 

殺意の点と点を結び合わせて線を作り上げ、そして相手が作り上げた殺意の線を己の刃で切り裂きほどく。 

 

千冬と『一夏』、其々が極限まで集中力を研ぎ澄ませて相手の命を狙う。

 

並のパイロットであれば既に数百回は決着がついてしまうほどの攻撃でさえも、この二人の前では容易く封じられてしまう。

 

千冬は雪片を振るい、『一夏』は弓から新たに持ち替えた刀を使用している。

 

黒と金に染め上げられたその刀の美しいこと……

 

 

 

二人はほぼ同時のタイミングで相手との間合いを取った。

 

一気に片をつけるために千冬は構えを取った。

 

「零落白夜」

 

機体が黄金の輝きを放ち、彼女の必殺の一撃が発動する。

 

目の前にいるモノを倒すことだけに意識を集中させる。

 

それ以外の念は邪念、かつて世界の頂点に立った戦士の嘘偽りない必殺の一撃が発動する。

 

「成る程、それが零落白夜か………ならば此方も切り札を出させてもらう」

 

『一夏』が構えを取る。

 

千冬が二重瞬時加速で距離を一気に詰める。

 

常人が視認できる限界ギリギリの速度、それでも『一夏』は仮面の奥で余裕の笑みを浮かべている。

 

千冬が『一夏』の存在を己の間合いに捉え、刃を振り始める。

 

「希望を塗りつぶせ────」

 

そして『一夏』は絶望を口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────零落極夜」

 

世界は黒に染まる。

 

 

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