インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第135話

 

──生きている。まだ戦える。

 

左腕を失ったゼロは消えかかる意識の中で、近くに落ちてあった『零』を呼び寄せて右手で掴んだ。

 

流れ出る血は黒零が自動で止血を行ってくれる。傷口に止血用のジェルを塗りつけ、応急処置を済ませる。

 

「………倒すつもりで胴体を狙ったのだがな、まだ戦う意思が残っているのか」

 

理想郷の刃は間違いなく黒零の胴体の装甲を破壊して動きを停止させるはずだったが、ゼロが攻撃をくらう直前によけた事で腕だけが吹き飛んでしまった。

 

 

 

亡霊のようにユラユラと揺れながら、覚束ない足取りで一歩一歩理想郷に近づくゼロ。

 

すでに肉体はズタズタ、機体にもガタがきてしまっている。

 

普通の人間ならばとっくに地面に倒れ動けなくなってしまっている。

 

だがゼロは伊達では無い。

 

もはや執念と言ってもよい感情だけで動いている。

 

「……もう、終われ」

 

理想郷の蹴りがゼロを吹き飛ばし、ゼロは地面を転げ、仰向けに倒れた。

 

「ああ……ああ」

 

声にもならないような声が倒れたゼロの口から漏れる。まるで魂が口から漏れていくかのようにだんだんと小さくなっていく。

 

「もう終わらせよう。この場所を破壊しつくしてな」

 

理想郷の背中から生えるエネルギーの翼が更に巨大になる。

 

はるか上空に飛び上がり、弓を構える。

 

翼に蓄えられた莫大な量のエネルギーは不気味に蠢き、弓に吸い込まれていく。

 

「零落極夜」

 

理想郷の紫黒色のエネルギーが零落極夜の影響で宇宙のような純粋な黒色に変わる。

 

「まだだ……」

 

ズタズタになった身体に鞭を打って強引に起き上がる。シャレにならないほどの激痛を体全体から浴びながらも、意思のみで立ち上がる。

 

ヘルメットに天空の理想郷が放とうとしているエネルギーの予想威力が表示されているが、笑うしかなかった。

 

防ぐ手段がないほどの超高威力のエネルギーの矢。どれだけ計算を行っても今の黒零の力では受け止める事が出来ず、かわせばエネルギーの矢の衝撃でこの学園全体が吹き飛んでしまう。

 

加えて零落極夜を発動させてあるのだから、絶対防御であろうと容易く貫通し操縦者を一瞬で殺してしまうだろう。

 

仮に黒零の機体状況が最善であったとしてもこの攻撃を防ぐ事ができるかは怪しい。

 

「…………ふぅ」

 

息を吐くが何も生み出さない。

 

背中は燃え盛っているかのように激熱を帯びている。まるで彼の背中にある蝶と蛾の羽の模様が何かを伝えようとしているかのようだ。

 

ジワリジワリと背中の燃え盛るような熱が背中から腕を伝い、右手に伝播する。

 

右手に伝わった熱から『零』の鼓動を知った。生物のように刻んでいるわけではないが、この武器は鼓動を刻んでいる。

 

それが何を示しているのか──

 

「使えと言うのか?賭けに出ろと?」

 

今の『零』では攻撃を受け止める事は出来ない。理想郷が放とうとしているエネルギーの総量はこの大剣一本でどうにかなるものではない。零落極夜を使用しても、無効化できなかったエネルギーがゼロを飲み込み、余波が学園を破壊し尽くすだろう。

 

そうなればこの学園にいる全員が死んでしまうかもしれない。

 

「………アリサも死ぬのか」

 

真っ先に考えたのは姉や弟に関してではなく彼が愛している一人の少女『誘宵アリサ』だった。

 

ここで彼がこの攻撃を防がなければ誘宵アリサも攻撃に巻き込まれて死んでしまうかもしれない。

 

それがどれだけ辛いことか、自分が死ぬよりも辛いかもしれないと彼は思った。

 

「………そんなことさせるか。護る。護るんだ!!」

 

『護る』、戦いの場においてその気持ちが生まれたのは初めてだった。

 

今までそんな感情は必要としていなかった。必要だったのは敵を『殺す』という感情のみ。敵を殺せば必然的に仲間を護ることに繋がるとゼロは信じていた。

 

だが今は違う。

 

殺すという感情を放棄して純粋に護る為だけに己の感情を機体に乗せる。

 

弟の百春が護る為に戦うと言っていた意味を本質的には理解していなかったが、今は理解できる。

 

「行くぞ、No.000(ゼロ)!」

 

『零』を掴む右手により一層力がこもる。次の一瞬でこの島にいる全ての人間の運命が決まる。

 

それなのにゼロは取り乱すことはない。己にできる事を全力で行うだけだ。

 

 

 

ゼロは理想郷が弓を構えている上空に向けて、今出せる最高速度で飛んだ。

 

 

 

 

 

「まだ向かってくるか…………あの傷では立ち上がるのも不可能だと思ったのだが、流石は我が孫だ」

 

此方に向かってきているゼロの存在については気がついているが、何か対策を行う事はない。

 

今のゼロではどうにもする事はできないと理想郷は気がついているのだ。

 

「各員には避難指示は出してある。巻き込まれれば不運だったということだ…………さぁ、滅びろ!!」

 

天空にいる理想郷がIS学園目掛けて矢を放った。

 

この一撃を表現するのであれば、『神罰』。

 

天空に住む神から下界に住む人間に向けて放たれる裁きの雷、人が抗う事ができないほどの威力をもったソレが容赦なくIS学園に向けて撃たれた。

 

 

 

 

『神罰』が降ってくる。

 

もうこの場からでは回避することなど不可能。真っ向から受け止めることさえ今の黒零には不可能と言っても良いだろう。

 

それでも正面から受け止めるという選択肢しかゼロは持ち合わせていなかった。

 

「残ったエネルギーの大半を零落極夜に回せ!!防いだ後のことは考えるな!!」

 

この攻撃を防ぐ。

 

その為にゼロは今やれる最善策を取るしかない。

 

「……零落極夜ァアアアア!!!」

 

残ったエネルギーの大半を零落極夜に回した。

 

『零』の刃からは発動された零落極夜が溢れ出して刃を包み、ボロボロになった右腕の至る所についてある罅からは刃から放出しきれなかった零落極夜が溢れ出している。

 

純黒の煌めき、それは今までのものよりも綺麗でまるで宇宙のようだった。

 

刃の腹を盾のように構える。左腕があれば良かったのだがそんな事は今言えない。

 

零落極夜で切り裂いた所でできるのは一部を打ち消すことであった全てを切り裂くことはできない。

 

切り裂けなかったエネルギーがIS学園を襲ってしまえば何の意味がない。

 

だから刃を盾にして真っ正面から受け止めるしか方法がないのだ。

 

 

 

『神罰』を真っ向から受け止めた。

 

 

 

「受け止められる訳がなかろう」

 

『神罰』を撃った理想郷はその反動から性能が僅かに低下していた。

 

此方も残っていたエネルギーの大くを今の一撃に回していた為、早いうち戻りたいと考えている。

 

理想郷の眼下には『神罰』を必死で受け止めようとしているゼロがいる。

 

そんなことを使用としても無意味だと理想郷は思っている。

 

この攻撃を防げるわけがない。

 

今放ったのは最高の性能を持つ理想郷による最強の一撃、いくら覚醒したコアを使用したISだからといってもボロボロの機体では受け止められる訳がない。

 

 

だが。

 

 

 

「……なんだ」

 

違和感だ。

 

『神罰』が落ちていかない。

 

予測では既にボロボロの状態であった黒零は『神罰』を受け止めることができずに一瞬で崩壊していくはずだった。

 

それなのに黒零は未だに機体の形を保ったまま『神罰』を受け止めている。

 

「何だ、何が起きている」

 

焦りが生まれる。

 

まさかここまで黒零が粘るとは理想郷も考えてはいなかった。

 

「超えてくるか!!ワシの予想を、流石は我が孫!!さぁ、可能性を見せてくれ!お前の輝きを!!」

 

 

 

『神罰』の下から、極夜の光が空を埋め尽くさんと広がっていく。その光はあまりにも神々しく、そして禍々しい。相反する二つの感想ではあるが、そう表現するのが最も適してると言うしかない。

 

その光は理想郷が放ったものではない。

 

黒零が放ったものである。

 

極夜の光に『神罰』は押され始める。

 

理想郷はその事が信じられなかった。あの上体の黒零にここまでの力が残っていたなどと予測もできなかった。

 

いや、そもそも眼下にいる黒零が先ほどまで自分と戦っていた黒零と本当に同じ機体だというのが信じられない。

 

「これが人とISの可能性か……良い!!ここにきて貴様らの繭を打ち破るか!ならばもっと見せてみろ!」

 

黒零には殆どエネルギーが残されていないはず、そして理想郷も殆どエネルギーが残っていなかった。

 

瞬間移動をするだけの力も残っていない。

 

それだけ今の『神罰』に力を込めていたのだ。

 

それなのに黒零──ゼロはソレを超えてこようとしている。

 

それが堪らなく嬉しかった。己の孫はこれほどまでの才を持っていたのかと、祖父としての狂った気持ちが今の理想郷──無限を動かしている。

 

今この瞬間だけ、無限は自身の立場を忘れてしまっていた。

 

 

 

──そして『神罰』は打ち破られた。

 

 

 

『神罰』に込められていたエネルギーを全て零落極夜によって無力化させたゼロが『神罰』を突き破って理想郷の前に出現した。

 

装甲の大半は既にボロボロのヒビ割れ状態になっており、少しでも力を加えれば全て崩れてしまいそうな脆さを感じられる。

 

背中からは溢れ出てきた零落極夜のエネルギーが左右それぞれ模様の異なる蝶のような羽を形成している。

 

ヘルメットは『神罰』を受け止めた際の衝撃によって吹き飛ばされており、頭を晒したまま理想郷に向けて突撃をしかけている。

 

目は白目を向いており、正気を保っているとはとても思えないが、なんの迷いもなく理想郷がいる場所目掛けて突撃しているのでなんらかの意識があるには間違いない。

 

白目を向き、理想郷をこの場で必ず倒すと言う意思を隠そうともしない彼の面はまるで鬼のようだった。

 

「──ゥオオオオオ!!!!」

 

魂の奥底からの叫び声をあげながらゼロが放つ零落極夜の輝きが更に一段階深く、美しく煌めく。

 

 

 

理想郷は殆ど反応ができなかった。

 

エネルギーを『神罰』に回していた事による性能低下も原因の一つではあるが、あまりにも予想外の出来事だったのも原因だ。

 

 

背中から生えた蝶の羽による加速を受けてゼロは一瞬で理想郷との距離を詰めると右腕に持っていた『零』を振り上げる。

 

「ッラァアアアアアアア!!!!!」

 

残った命の全てを振り絞るかのようにゼロは全身全霊この一撃にかけている。

 

零落極夜をまとった『零』の一撃が反応が遅れた理想郷目掛けて振り下ろされる。

 

「ッチ!!」

 

理想郷は切り裂かれる寸前の所で後方に下がり、胸の装甲だけ。破壊させた。

 

後少しでも回避が遅れていたら間違いなく胴体を真っ二つにされていた。

 

理想郷は自身の幸福に感謝していた。

 

 

 

 

「─────ぁあ」

 

全身全霊をかけた攻撃が躱され、限界を突破して動かしていた肉体にもとうとう限界がきてしまったのか、ゼロは地上に向けて落下していった。

 

まとっていた零落極夜は消え去り、彼本人も意識がなくなっているのかピクリとも動かない。

 

「……死ぬか、生きるか……」

 

ゼロが落下していく様子を見ていた理想郷は体の向きを反転させる。

 

もうこれ以上戦闘を行う気がないのか武器を収縮させた。

 

「我が同胞達に告げる。我らの存在を世界に知らしめる事は完了した。これより作戦は次の段階に移る………基地に戻り次第準備を始めるぞ、これより先は新たなる世界の始まりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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