インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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再会と戦闘

    艦を飛び出して目の前に広がった光景、目下に雲の海が広がる夜の星空。世界の果てまで広がっていそうな雲の海、点高く広がっていく美しい星空。そんな漆黒の世界に思わず心奪われそうになるが、直ぐに部隊のメンバーの位置を確認する。

 

    二、三秒の探索の後、部隊のメンバーの位置がヘルメットのモニターに表示される。その場所はこの雲の海の下、どうやら先に目標の施設に向かったらしい。

 

    体を下に傾けて、雲の海目掛けて突撃しその中を潜行していく。

 

この海を超えた先に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    海を超えた先にあったのは吹雪く大地。右を見ても左を見ても針葉樹林が広がっている。しかし、一点だけ林がなくなっている箇所があった。吹雪のせいで視界が定まらないがスコープを使いその場所を確認して見るとそこには人工物があった。どうやらあれが今回の目的地らしい。

 

「他の奴らは……いた!」

 

    スコープを使い、仲間がいないか確認する。僅かに探した後、オータムを発見した。スラスターを使用して体を傾けてオータムに近づく。オータムも近づいてくる俺に気づいたのか手をあげる。

 

「オータム、スコールさんたちは先にいったか?」

 

「ああそうだゼロ。私たちは二人で行動しろってさ」

 

「そうか、了解した」

 

    降下して行くに連れて、施設が大きくなっていく。少しだが心拍数が上がって行くのがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    スコールさんたちが爆破して開けて侵入した入り口から俺たちも入って行く。ISがニ機並んで走行するには十分な広さの廊下だ。

 

「歩兵部隊の突入まで残り三分、とりあえず誘拐されていた奴らはクーネさんが見つけてくれた、か」

 

    施設内をランドホイールで走行すること数分、施設内の探索も一段落ついたところで俺たちはいったん停止している。

 

「んー」

 

    何だろう、この違和感は。モヤモヤと俺の頭の中を漂っている違和感は。

 

    もしかしたら何かまだ見落としている何かがあるのかもしれない。そう思いながら、五機のISが走行して得たデータを元に作られたこの施設のマップをヘルメットのモニターに広げて見る。

 

三階建ての作り

 

誘拐されていた子供がいた場所

 

…………あれ?あの場所がない。もしかして違和感の正体はこれか?

 

「……なあ、オータム」

 

「どうしたんだ、ゼロ」

 

「ここが俺たちのいた施設と同じ様な場所なら殺しあうための場所があるはずだろ。でもなこのマップにはそれが書かれていないんだよ」

 

「あぁ、そんなの見落としているだけじゃないのか。この施設結構広いし」

 

「いや、このマップと上空から見たこの施設の形を照らし合わせて見たが見落としている場所なんて一つもない。それに俺たちはこの施設の周から中心に向かう様に動いて行き、今は一階にいる。ならば何処にそれがあると思う?」

 

    オータムは俺の問いかけに数秒間だけ考えた後

 

「……地下、か?」

 

「多分な。まあ、運良く俺たちは一階にいるからな。虱潰しに探していけばいつか見つかるだろう。オータム、スコールさんに連絡を頼む。俺はどうにかして見つけるからさ」

 

    取り敢えず簡単なのはこの施設にいる人間を一人か二人捕まえて聞き出すのが一番手っ取り早いんだけど…………その手のことに関しては何も習ってないし、見様見真似でやってみるかな。

 

    そんな事を考えていると廊下のT字路から一機のISが飛び出してきた。

 

   全身装甲、薄く地味な黄土色と緑を混ぜ合わせた様なボディーカラーに、丸みを帯びた両肩のアーマー。右腕には西洋風のランスが固定されている。そしてガスマスクを装着した上に安全ヘルメットを被ったかのような特徴的なヘッドパーツ。

 

「どうやら、俺たちが当たりだったようだな。奴を倒して情報を聞き出すぞ」

 

「わかった」

 

    二人同時にキアストレートを展開する。そして直様俺が敵に向かって突撃し、その背後からオータムが追尾していく。敵も右腕の槍を構える。

 

    次第に距離を詰めて行き、互いの武器が相手に届く範囲にまではいる。

 

    初手、敵からの鋭い突きが俺の喉元目掛けて襲いかかる。咄嗟にしゃがみ込みながら、キアストレートをランスに擦り付けるように動かす。金属同士が擦り合う高い音が響く。手元に近づくに連れて半径が増していくランス、そして手元まで近づいたところでランスを弾く。敵はランスを弾かれたことにより僅かに体制が崩れる。

 

    そして、その一瞬を待っていたかのようにしゃがんだ俺の頭の上をオータムが撃ったビームが三発通過する。敵の両肩、腹にビームが直撃する。

 

    敵は体制を立て直そうと後ろに下がろうとする。俺はキアストレートを持っていた右手を離すと、

右手を突き出しながら背中のスラスターを噴出して勢いよく飛び上がる。

 

    狙うは一点、それは敵の顎。

 

    敵の顎に吸い込まれるように俺の右手から繰り出した掌底が直撃する。敵が倒れこみそうになるが、力強く地面を踏みしめ、キッと此方を睨んでくる。

 

    何だろう……このモヤモヤとする違和感は。

 

   ISと言うものは機体数が467……いや、俺の000も含めれば468機しかこの世界に存在していない。それなのにそんな貴重ISがこんなとこにいる事にも驚いているのに、なんでこいつはこんなにも弱いんだ? 

 

    最初の突きだって俺が反応できるくらい遅かった。ISに乗るくらいならもう少し速くても良いはずだ。それなのに何故……

 

何か裏があるのか、それにこいつからは……

 

 

 

「まあ、後でゆっくり考えるか」

 

    キアストレートを背後に投げ、腰につけられているデスペラートをそれぞれ抜き取り、両手に装備する。

 

    引鉄に指をかけ、迷うことなく引く。その瞬間、銃口から大量のビームの弾丸が敵目掛けて放たれる。敵は腕をクロスして弾丸を顔から守る。

 

    引鉄を引いたまま、ランドスピナーを使用してしゃがみながら後ろに交代していく。

 

ブン

 

    空を切る音とともにオータムが俺の上を飛び越える。オータムの両手にはオータムが展開したキアストレートと俺が投げ渡したキアストレートが握られている。

 

    オータムが前に出たのを確認すると、俺は引鉄から指を離してさらに距離をとる。

 

「ハアアッ!」

 

    オータムは一方の剣で敵のランスを捌き、もう一方の剣で果敢に敵に対して攻撃をしかけている。

 

「〜〜〜〜!!」

 

    敵も押されたままでいるのは癪なのか、何かを叫びながらランスを深く構えオータムの胴体目掛けて突きを放つ。

 

「甘い!」

 

    放たれた突きを、オータムは剣と剣の刃で挟み込んで動きを止める。

 

    ギリッ、ギリっと音を立てるそれぞれの武器。オータムは剣をハサミの様に使い、敵の武器を切断していく。敵もオータムの目的に気づいたのか、ランスを剣から離そうとするがオータムがそれをさせない。

 

    そしてランスの耐久力が限界を超えたのか、ランスが剣によって切断される。オータムはすかさず敵の腹に蹴りを入れた後、後方に下がる。

 

    前衛後衛の交代、スラスターを噴出させ敵に向けて直線的な移動を開始する。

 

    瞬時加速を行い、更に速度をましていく。そしてある程度の距離まで近づいたところで俺は跳躍する。そしてそのまま足を前方目掛けて突き出し、敵の顔面を狙う……いわゆるドロップキックという奴だ。

 

    敵の装甲に足がめり込む感覚が、ISを通して伝わってくる。膝を曲げ、最大限の力を溜める。そして限界まできたところでバネを利用して脚を伸ばして敵を吹き飛ばす。

 

    敵は床を転がりながら壁にめり込んだ。…………めり込んだ?勢いよく蹴って、ISの重量があってもめり込むのはおかしいだろ。それによくみたら壁の一部が外れている。これはもしかしたら……

 

「オータム、運がいいかもしれないぜ」

 

「どういう事だ?」

 

「近づけばわかるさ」

 

    オータムは近づいてきて、俺にキアストレートを投げ渡す。俺はそれを受け取り、ランドホイールを使用して敵の元まで近づいていく。

 

    敵は気絶したのか、全く動かない。顔のパーツはドロップキックの衝撃で砕けている。

 

「……やっぱりな、どうやらこの先が地下に続いているみたいだな」

 

壊れた壁を見ながら俺は呟いた。

 

「行くのか?」

 

「いや、先にスコールさん達に連絡を…………は?」

 

    連絡しようとした矢先、俺はあるものを見て驚いた。それはスコールさん達全員がそれぞれISと戦闘を行っているということを見て。

 

    地図にあるそれぞれの機体を表す印がISとの戦闘中のものになっている。

 

    これは異常だ

 

「どういう事だよ、おい」

 

「どうしたんだ、ISと戦っているのがそんなにおかしいのか?」

 

    オータムはこの事に気づいていないのか、問いかけてくる。

 

「オータム、今世界には何個ISコアが存在している」

 

「467個だろ」

 

「そうだ、もっと正確にいえば俺の000も含めたら468個。そう世界に468個しかない。それらは全て管理されていて、保管されてある。まあ、俺たちの様に奪った奴らもいるがな」

 

「それでどうしたんだよ、今の話とこの状況に何か関係があるのか?」

 

「なんでそんな貴重なものがこんな辺境の地に四つもあるんだよ。おかしいとは思わないか。それにさっき戦った奴も妙に弱かった。つまり、何でこんな辺境の地に四つもあって、敵が弱かったかというと」

 

「……コア自体が量産されていて、ある程度の人間には配備されているってことか?」

 

「多分な……取り敢えず、敵の機体を捕獲するぞ」

 

    そう言って、敵に向かって手を伸ばしたその時、モニターの左側に警報が表示される。俺は慌てて左側をみるとそこにはアサルトライフルを二丁構えている先ほどと同じタイプのISがいた。

 

「避けろ、オータム!」

 

    俺はオータムに向かって飛ぶ。そして廊下の壁に隠れながら、オータムの盾になる様に抱きしめる。そしてその僅か後にアサルトライフルから放たれた弾丸が俺たちがいた場所を通り過ぎた。

 

「サンキュー、ゼロ」

 

「気にするな、ってヤバイ」

 

    倒された敵の指が僅かに動いた。その事に気づいた俺は行動に移そうすると敵が此方に切断されたランスをむけてきた。そして煙をあげながらランスが射出され、俺目掛けて飛んでくる。キアストレートの腹でそれを咄嗟に防ぐ。

 

    そこからの敵の行動は早かった。壁から離れると此方を一瞥もせずに仲間の元まで飛行して行く。オータムはそれを追いかけようとするが、敵の踝のあたりあった筒が装甲から離れる。その数秒後、筒から光が漏れ出して当たり一面を光で包み込む。俺たちは目を塞ぎ、光が収まるのを待った。光が収まるのを確認し、目を開けるとそこには敵がいなかった。

 

「逃走用のスタングレネードまで用意していたのか……どうするゼロ、追う?」

 

「いや、捕まってる奴らの保護が優先だ。急がないと敵がここから脱出してしまう」

 

「わかった」

 

    壊れた壁まで向かうと、手を使って壁を剥がしISが通れるだけの隙間を確保する。

 

    さあ、行こう。そう思った時、スコールさんからの通信があった。敵は倒したみたいだ。

 

『ゼロ、あなたはもう気づいてる?』

 

「敵がコアを量産してるかもしれないってことですか?」

 

『そう、よくわかったわね』

 

「こっちでも一機倒したんですけど、別の奴が増援にきてのがしてしまいました」

 

『安心しなさい、私が一機捕獲したから。貴方達は任務に集中しなさい』

 

「わかりました、俺たちはこれから地下に向かいます。場所は既にマッピングしてあります」

 

『了解』

 

    その言葉と同時に通信が切られた。

 

「オータム、行くぞ」

 

    俺は空いた壁から地下に向かった。

 

(あと何機いやがんだよ、全く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    地下は意外にも広かった。おそらく俺とオータムがいたのもこれくらい広かったのだろう。そう思いながら探索すること一、二分、俺たちは連れてこられた子供達の宿舎を発見した。

 

「似てるね」

 

「ああ、似てるな」

 

    そんな感想を互いに述べてしまうほど、その場所は酷似していた。無機質な壁、通路の両側にそれぞれつけらている錆かけの鉄製の扉。作りまでも似ている。

 

「どうやって、扉開ける?」

 

「こじ開けるか、切るしか無いだろ。俺は右をやるから、お前は左側を頼む。救助班がくるまで何分だ?」

 

「だいたい、五分ぐらいって」

 

    互いに扉に近づいて行き、そして破壊していく。

 

    一つ目を切り裂いた。中には一人の男の子がいた。多分白人系だろう。多分というのは汚れていてわかりづらいからだ。

 

    男の子は俺に驚いたのか、ギャーギャー何かわめいている。それをライダが自動翻訳し、モニターに表示される。どうやらオランダ語の様だ。俺はオランダ語を話せないから、ライダを介して話す。俺が話した言葉は全てオランダ語に変換される。

 

「あー、取り敢えず落ち着け。私たちは君を助けにきた。頼むから素直に従ってくれ」

 

    ジェスチャーを交えながら、

男の子に説明する。すると男の子は次第に落ち着いて行き、俺の話を聞く様になった。よかった聞いてくれて。

 

    1人目を救出し終え、次々と扉を破壊して救出していく。オータムの方も順調らしい。

 

    そして最後の一つの扉をこじ開け、中に入る。中にいたのは女の子、年齢は俺と同じくらいだろう。腰まで届きそうなクリーム色の髪、本当は綺麗なのだろうが今は埃のせいで薄汚れている。少女は眠っているのかベッドの上で全く動かない。

 

    俺は女の子を助ける為にベッドまで近づいて行く。そして薄暗くて入り口ではわからなかった顔を見て、俺は驚愕した。

 

「何で……こいつがここに」

 

    彼女の顔は知っていた。初めて出会ったのは一昨年の夏、アリサ達と行ったハワイ。それから五年生に上がる前の春休みにアリサの家にきてた時にもう一度だけ。しかし、顔を忘れることはなかった。

 

ティファニア・ノーム

 

    何故、ティファがここにいる。いや、今はそんなことを考えている暇はない。早く戻らないと。俺はティファを抱きかかえ、部屋から出た。

 

 

 

 

 

    部屋から出ると既にオータムは全員を救出し終えていた。救助班がくるまであと少し。

 

「救助班はまだ見たいだな」

 

「そうだね、それよりその子はどうしたの?」

 

「ああ、寝てたから抱きかかえつれてーー」

 

    俺が喋り終わる前に何かが砕ける様な音がした。俺は音がした方を見るとそこにはISがいた。

 

    先ほどの奴に似ているが、色や形が所々異なる。色は地味な迷彩色から淡い紫へと変わり、丸みを帯びていた装甲は何処か角ばっているように見える。恐らくカスタム機、もしくは後継機だろう。つまり、先ほどの奴よりかは格上。

 

    敵のゴーグルが怪しく赤く光る。

 

考えている暇はない

 

「オータム、こいつらは任せた。あいつは俺が止めるッ!」

 

    ティファをオータムに渡し、臨戦体制を取る。

 

「待てゼロ、スコールたちを待つんだ。もしくは二人がかりで」

 

「んな悠長なこと言ってられるか、それに誰がそいつらを守る…………だからこいつは俺が倒すッ!」

 

    敵が突っ込んでくる。俺はそれに合わせて加速して、敵にタックルを決めてこの場からできる限り離す。敵が破壊してきた壁を通り過ぎ、さらに奥の廊下の壁にぶつかる。

 

    廊下の壁にぶつかるとそれは砕け、より広い場所に出る。

 

やはりあったか、子どもたちが殺しあう為の場所が。

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    肌に伝わってくるこのピリピリとした感覚。初めてかもしれない。

 

    小学生だったころ何度も何度も喧嘩を売られ、全員を二度と喧嘩を売らなくなるように倒してきた。

 

    亡国機業に入ってからは何度も戦闘のプロと模擬戦を行ってきた。

 

    けれど今まで一度もこの感覚を味わったことはない。小学生のころは所詮子供の喧嘩、亡国機業に入ってからは所謂模擬戦だけ。

 

    どれも命をかけて戦ったことはない。

 

 

 

 

これが戦場

 

 

 

 

これが実戦

 

 

 

 

これが生命のやり取り

 

 

 

 

    この感覚、気持ち悪くはない。寧ろ心地よいかもしれない。

 

「行くぞ……」

 

    キアストレートを展開し、腰を低くして構える。剣道の様な構えではない、模擬戦を行ううちに自然に作られてしまった構え。

 

    部屋の中はかなり広い、流石に亡国機業のアリーナよりかは狭いけど、あの施設と同じように様々な建物が並んでいる。

 

    互いに同時に動き出して距離を詰める。接近戦での間合いは奴の方がランスである分優れている。

 

    関係ねえ

 

    キアストレートを構え、ビームを三発撃つ。敵は地面を滑るようにかわして行き、どんどんと近づいて行く。

 

    そしてやがて距離はなくなり

 

ガギンッ!

 

    金属と金属がぶつかり、接触店から火花が散る。キアストレートを持つ左手に敵の一撃の重みが伝わってくる。

 

    キアストレートをぶつけたまま、剣を滑らせて敵との距離を詰める。右手を伸ばして首を狙う。敵はこれを弾いて反らす。

 

    やはり一筋縄では行かないか。

 

    弾かれた右手を流れるように動かしてデスペラートの引き金に手をかける。そしてそのままデスペラートを抜き取り、うちながら距離を取る。そしてそのまま建物の影に隠れる。

 

    さて、どうしたものか。相手は俺と同格か格上、けれど少なくともスコールさんクラスの人間ではない。持久戦は不利かな?エネルギーの量が差があるのはわかる。

 

    グレネードを展開、栓を抜いて敵めがけて投げつける。数秒後、爆発音が上がる。敵が上空に上がって行くのが、モニターで確認できる。

 

    俺も敵めがけて飛翔する。敵は既に此方に向けて銃を構えていた。放たれるアサルトライフル、弧を描くような軌道で弾丸を躱しながら敵めがけて近づく。

 

    キアストレートを振り、ランスに阻まれる。

 

そんなのは予測済みである。

 

    キアストレートの刃の接続部分を外して、銃部分だけになったキアストレートを突きつける。

 

    敵の右肩を掴み、できる限りの回数引き金を引く。何度も何度も撃つ。敵は振りほどこうとする。

 

「〜〜!!」

 

    敵は左足を振り上げて、ミドルキックを放つ。

 

「ィッ!」

 

    体に衝撃が走り、キアストレートを手放してしまう。敵のミドルキックが俺の右横腹に食い込む。いくら装甲があるとはいえ、直撃は身体に堪える。胃から何かが逆流しそうになるが、堪える。

 

    上げられた左脚を両手で掴み、回転し始める。スラスターによる加速を受け、さらに回転速度はましていく。

 

    ジャイアントスイング、そして速度が最大に達したところで建物の目掛けて投げる。

 

    敵は建物の壁を突き破り、停止する。

 

    両手に武器は持っていない、デスペラートでは決定力に欠ける。

 

ならば

 

    俺の両手の回りが光、その光が止むと手は新たな装備に包まれていた。

 

    グローブ状の新たな装備はリリスさんが作った試験型の装備、ゼロ距離からグローブにつけられた小型のスラスターによって加速された拳が、最大限の衝撃を相手に与えるもの。デメリットとしては敵に可能な限り接近しなくてはいけないということと、完全に腕が伸び切る前に当てなければ加速した反動で肘を痛めるということ。

 

 

その名も『青竜蝦』

 

 

「行くぞォッ!」

 

    瞬時加速を使い、地面に倒れこんでいる敵まで数秒で接近する。

 

    拳のスラスターから推進材が噴出し始める。両脚が地面につき、地面に罅が入る。右の拳を一旦引き、そしてスラスターからの補助により加速した拳を振り下ろす。

 

    敵は慌ててスラスターを吹かせて飛びのいた。もう既に拳はとまらない。加速された拳はぶつかりめり込み、地面に罅を作り上げる。地面から拳を引き抜き、再び構える。

 

    疲れた、いつもより息が荒い。心拍数も高い。だが不思議と辛さというものは感じはしない。寧ろ先ほどよりかだんだんと集中し始め、意識がクリアになって行っている気がする。

 

 

 

    これが実戦というやつか、生命のやり取りはここまで俺に『生きている』というとを実感させるのか。

    

 

 

    スラスターで再接近、拳を引いて小型スラスターを噴出開始。敵も俺に向けてランスを構える。狙いはカウンター……か。

 

    敵を捉えられる範囲に接近完了、後はスラスターの加速を利用して一撃を叩き込む。

 

    腕が敵の胴体に伸びて行く。敵は未だ動かない。てきの胴体に拳が入る、そう思ったその時敵に動きがあった。

 

    バックステップで距離を取った。たったそれだけのことだが俺にとってはかなりマズイ。このままいけば肘が完全に伸び切ってしまい、痛めてしまう。さらに隙ができてしまう。

 

    何をすればいい。そう思うこともなく、自然に身体が動いていく。

 

    右肘を曲げて拳を内側に巻き込む。それと同時に左肩を動かして回転する。拳のスラスターによる恩恵を受け、ほんの一瞬で一回転し終える。

 

    一回転し終えると既に身体はもう一度拳を撃てる体制になっている。

 

    拳を伸ばすのと敵がランスでついてくるの、どちらが早かったかはわからない。ただ一つ言えることは、敵のランスが俺の横腹を掠めたこと。

 

    火花が散る。金属音がなる。

 

    けれど俺は拳を止めない。

 

    今度は直撃した。敵の胸の部分に拳が当たり、敵の装甲にめり込んでいき、敵が後ろに飛んだ。

 

    敵は空中で体制を立て直し、ランスを支えにしながら着地する。

 

    仕留め損ねたか、でも敵も満身創痍なはず。もう長くは続かないだろう。仕掛けるなら次だとおもう。無論俺もだがな。

 

「ふぅーーッ」

 

    身体の中の全ての空気を入れ替える様に深く深く深呼吸を行う。

 

    敵がランスを前に突き出しら白煙と共にそれが射出された。狙いは俺の顔面、ならば顔だけを動かしてよける。

 

    敵が近づいてくる。

 

    敵が蹴り上げる。それと同時に敵の脚から筒状のものが飛んだ。

 

    フラッシュグレネード

 

    それに気づくのに僅かに遅れた。その僅かが反応を遅らせた。

 

    フラッシュグレネードが炸裂し、中から膨大な光が漏れる。目を塞ぐ前にその光が届き、俺の目を眩ませる。

 

ゴグッ!

 

    顎から突き上げられる感覚が来る。敵の掌底が俺の顎を上に向けてぶつける。どれだけの力で殴ればここまでの威力になるのだろう。

 

 

    脚から力が抜ける

 

 

    手が痺れる

 

 

    意識が薄れる

 

 

    敗北を意識した。このままいけば倒れてしまう。その後にどうなるのかわからない。でもここで死んだら、もう二度と誰にも会えなくなる。

 

 

そんなのは

 

 

「しゃらくせーーッ!!」

 

 

絶対に嫌だね

 

 

    こいつを殺してでも生き残る

 

 

    脚と手に力を入れる

 

 

    目がやっと戻ってきた

 

 

    思考能力入らない。後は全て本能に従うのみ

 

 

    青竜蝦を収縮、首を動かして敵の拳を払いのける。敵は俺に攻撃した後、すぐに離れれば良かった。けれどしなかった。

 

    それは命取りになる。

 

    自由になった顔を使い、敵の顔めがけて頭突き。相手がひるむ。

 

    そして相手の顎を左手でつかむ。そのまま背後に回り込み、股下に腕を通して左手で装甲をつかむ。担ぎ上げて、両肩に敵を乗せる。顎を完全にクラッチして敵の身体を弓なりに反らす。

 

アルゼンチンバックブリーカー

 

    決して逃さず、これで確実に仕留める。敵が暴れる。それに合わせて力の加減を変えて行く。

 

    エネルギー残量の確認既に四分の一は切っている。

 

仕留めるならば今、上空に向けて跳躍。そして最高地点に到着した瞬間、下方に向けて瞬時加速。この機体が出せる最高の速度で両脚から地面に着地する。

 

    着地の衝撃は俺の身体を通って、敵の背骨に伝わって行く。

 

    それからどれくらいすぎただろうか、敵も抵抗するのをやめていた。

 

まだだ

 

まだ

 

まだ

 

まだ

 

もしかしたら敵は俺を騙しているのかもしれない、そうおもうと攻撃を緩めずにはいられなかった。

 

「おい、もうやめろ」

 

    誰かから肩を叩かれた。肩を叩いた方を振り返るとヘルメットを外したシルヴィアさんがいた。

 

    彼女の顔を見て、俺は安心して

 

「ゼロ、アンタの勝ちだ。そいつはもう……」

 

    シルヴィアさんの声を最後まで聞かず、俺は意識を失った。

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