亡国機業本部訓練棟の武道場。今は訓練の時間である。
「ふうう……」
「…………」
俺の目の前には構えをとる同僚のアドルフ。こいつとは何度も闘っているのだが今のところ負け越している。同じ年の人間との喧嘩は誘拐される前は一度も負けたことはなかった。けれど、こいつとであってから何度も負けている。無論、俺も勝ってはいる。
アドルフの紅色の瞳が俺を見据える。余りにも鋭い、この年齢でこんな目をできるのか信じられない。
かれこれ数分ぐらい試合をしているがケリが付かず、今は膠着状態になっている。肌にまとわりつく嫌な緊張感。動けばやられるか?
ピーーーー!!
「はーいやめ、お疲れさん」
室内に電子音が響き、試合を見ていたアレキサンダー先輩が試合を止める。
俺たちは互いに構えを解いて、礼をする。
「今は俺が負け越してるっけ?」
「……ああ」
抑揚の無い声でアドルフが返事をした。アドルフはテンションが高い方ではないが、ノリが悪いわけではない。むしろ良い方だ。
「飯?」
「ああ、ジークは先に行ってると言ってた」
「じゃあ、行くか」
「おーい、一人忘れてっぞ」
武道場を出ようとしたところを先輩に呼び止められた。先輩の方を向くとある方向を指差していた。そちらを向くと、ジークとの試合で気絶したグレイがいた。忘れていたぜ。
「右」
「なら、左」
顔を合わせることなく、俺が左足を、アドルフがジークの右足を掴んで引き摺る。このまま食堂まで行こう。グレイが目覚めたらそれで良いだろう。
「恥かしい……本当、なんで起こさねえんだよ」
食堂、目の前の料理に手を付けることなく、グレイは両手で顔を覆っている。
結局あの後グレイは起きることなく、食堂の前で俺たちが叩き起こすことになった。一応、気絶している間に俺とアドルフで更衣室で着替えさせた。
周りにいた人に爆笑されていた。その事が恥ずかしかったのか、先ほどから顔を覆っている。
「いや……まさか……なあ、アドルフ」
引きつった笑いをしながら俺はアドルフに目を向ける。アドルフは俺やグレイと目を合わせないように視線をそらした。
「まさか……最後まで起きないとは思わなかったんだよ。途中で起きると思ってたからな……だから、なあ」
俺もアドルフもグレイから目を逸らす。
だって予想外だもん。
「それにしても、僕たちがであってから一年以上が経ったよね」
場の空気を戻すためにジークが話題をふる。それに思わず俺たちは救いを感じた。流石俺たち同室の良心。
「そうか……もうそんなにか」
思い返せば色々なことが起きた。
アリサにキスをされ、誘拐されて、スコールさんに助けられ、マドカと再開して、ISを動かして、部隊に入って、こいつらにあって、任務に出て、ティファを助けて、束さんとあって、アリサを助けて、アリサにキスをした。
「訓練きつかったな」
何時の間にかグレイが立ち直っていた。
思い出す訓練の数々、何度も死ぬような思いをした。
山中での実戦訓練、無人島やジャングルでの一週間ほどのサバイバル生活。
「色々ありすぎたな」
「色々あったよな」
「色々だな」
「色々……か」
四人とも苦笑いしている。
「中でもあれだな」
グレイが話をし始めた。
「この前の無人島サバイバルはやばかったな。ナイフ持たされて、一週間暮らせって言われたやつ。水を見つけて大騒ぎして、火をつけて興奮したよな。最後のほうは殆ど野生児みたいでさ」
ケラケラと笑いながらグレイが話す。確かにあれは辛かった。
「まあ、一番思いで深いのは訓練が終わって本部に戻ってきた時だよな」
こちらをみてニヤリと笑うグレイ。そしてジークがその事を思い出したのか話し始める。
「ああ、一夏がティファニアに抱きついたのでしょ。確かにあれは凄かったね。一夏、叫んでたもん。性欲が溢れたんだろうね」
「あれは仕方がないだろう。一週間も禁欲的な生活をしていて、帰ってきたらティファが抱きついてきて、風呂上りなのか知らないがいい匂いがした。なら、わかるだろ。抱きついてきたから、抱き返して、匂いを嗅いだんだよ。そしたら、内側から本能が芽を出したんだよ。俺の雄が雌を叫んだんだよ」
抱きついたことも、叫んだことも否定はしない。だって事実なのだから。
「まあ、あの場面ならそうなるわな。俺もそうするよ、相手がいれば。けど……いないだろ」
グレイが捨てられた仔犬のような悲しげな瞳をして呟いた。
「でも、本当に早いんだね。時間が経つのは」
ジークの言葉には同意せざるを得ない。ここにきてからは生きてる実感があるからかわからないが、時間が経つのが早い。
だからかな、もうすぐで始まるんだよ。第二回モンド・グロッソが。
というわけで次回から多分モンド・グロッソやります。