「君の祖父だ」
その言葉は俺がここにきてから聞いた言葉の中でも三本の指にはいるほどの衝撃的な一言であった。
祖父?どういう事だ。確かにここにくる前から親戚については知らなかった。だが何故ここに?考えても考えても考えつかない。
「それでーーーー」
総帥、轡木十蔵は話を続けようとする。
「待ってください」
右手を前に突き出して、話を一旦止める。このまま話されてしまったのならば整理できずにより混乱してしまうだろう。なのでここは少し時間が欲しい。
「どうかしましたか?」
「その、すいません。まだ状況が読み込めないんですが、貴方が俺の祖父であるとして、母と父、何方のですか、それとその証拠はあるんですか?」
この人が俺の祖父だという証拠はない。だからこのまま話を信じる言葉は、例え総帥であってもできない。
「ふむ、そうですね」
目の前に座る総帥は腕を組んで考えはじめた。そして考えること数秒後、口を開いた。
「儂は君の母親、轡木季菜の父親だ…………そして、それを証明するのには君自身が証明してくれますよ」
「……どういうことですか?」
話が読めない。何故俺が証明になるのだ。DNA検査でも行うのか?だがそんなものはいくらでもデータを改竄するのは簡単だろう。ここのコンピュータは大半がリリスさんの管理下に置かれているのだからな。
「君の背には生まれながら翅があるだろ」
ハネ?…………そういう事か。
「ええ、確かに。物心ついた時にはそんな模様が背中についていましたけど、それがこの話に関係あるんですか」
背中のハネ、生まれた時から存在していたソレは俺が同級生たちに疎外される原因にもなった。まあ、アリサとティファが認めてくれたからいいけど。
「関係はあるさ。何故ならその翅は轡木家の血を継ぐもの一部に代々あらわれてきたものだからね」
そう言うと轡木さんは着ていた羽織をはだけさせて、左肩を露出させる。そして後ろを振り返って、俺に背中を見せつける。
そこには俺と同じように、鮮やかで美しい蛾の翅が存在していた。しかし、俺のモノとは違う。俺のは完成された一対の翅なのに対して、総帥のモノは左側の翅しかなく、右の翅は存在していない。
「これで、君と儂に血縁関係がある事を理解したかね?」
服装を整えながら総帥が聞いてきた。
「ああ、どうやら本当みたいですね。でもどうして今になって現れたんですか?父さんたちが死んでから、いくらでも俺たちに会う時間はあったはずです。それに右の翅は何ですか」
父さん達が死んでから今日この日までかなりの時間があった。一年や二年ではない。五年以上もあった。だが俺がこの人の顔を見たのは今日が初めてのはずだ。
何故会いにこなかった。何が目的なのか、それを探る必要がありそうだ。
「まず、右の翅については君の父親、織斑数児の血が関わっているね。アレもコチラと同じ、唯の家紋のようなモノだからさ」
「というと、父さんの家も何か特別な…………そもそも轡木の家ってなんなんですか」
背中に翅の模様がある人間なんて俺を除いて他には聞いた事がない。
それなのに今の総帥の話し方では、轡木そして父さんの血筋の人間には当たり前のようにも聞こえた。
「轡木、そして君の父親の家系は遥か昔より日本に存在している、名家のようなものだ。一説によれば飛鳥時代、下手したらより昔から存在している。だが決して表に出る事はなく裏から日本を見てきた一族、それが轡木だよ。そして背中の翅は代々家を継ぐ資格があるモノの背中に現れるのさ。といっても今の時代じゃほとんど関係ないけどね。何故背中に翅が現れるのかも科学的に証明されていない」
「そんなものが存在するんですか?」
「疑っているけどこれは事実だ。莫大な資産を持って日本を見て、世界を知ろうとした一族。今でも日本国内でもそれなりの力はあるよ」
「マジかよ」
今でも信じられない。そんなモノがあるなんて。
「話を戻そうか、儂が君たちに関わらなかったのは幾つか理由があったんじゃよ」
右の翅は父さんの血のモノか。となるとこの血筋はどういう意味なのか。それに。
「理由?」
「一つは君の両親の頼みでね。季菜は昔から病弱でね、現代の医学でも治療が困難なものだった。医者からは長くないと言われておったんだ。轡木の女は早死にすると昔から言われていた」
感慨深そうに話し出した総帥。目には死んだ子を思い浮かべているのか、悲しんでいるように見える。
「それで、二人に頼まれたんじゃよ。残りの人生は子ども達と暮らしたいってね。それで君と弟、そして養子だった千冬くんとマドカくんを連れていったんだよ」
三歳までの記憶を人は忘れてしまうと聞いた事がある。俺も轡木の家にいた事があるという事か。だがその話だと、織斑千冬はこの家の事を知っていると思うのだが、一度も話した事はなかったはずだ。
「……それで、もう一つは」
真打はこっちだ。
真剣な表情で尋ねた俺を見て、総帥は満足気な表情を浮かべた。
「その顔は、よく分かっているねえ。もう一つの理由は君達家族を隠す為だよ」
「隠す?」
「そう、隠すことさ…………君はモンド・グロッソの時に誘拐されただろ?」
「はい」
何故今その話をする。こんな場面でする話であるのだから、関係ない事ではないのだろう。
「あれは君が織斑千冬の弟だから誘拐されたわけではない。君が君だから誘拐されたんだよ」
「……どういう事ですか?」
あれは織斑千冬の決勝戦出場を阻む為にやったものではないのか。だが何故俺だから誘拐されたのだ。
「気になる事が沢山あるみたいだね。ではその事も含めて、少しばかり君の爺さんの話を聞いてくれ」
それから話をされた。
血筋について、ネオと亡国機業について。
正直な事を言えば信じられない。言葉を頭で処理することができない。
爺さんからの話を聞いて、俺は顔を伏せ続けていた。頭をあげることができないのだ。
「…………一つ、聞いていいですか?」
顔を伏せたまま爺さんにあることを尋ねる。
「なんだい?」
「亡国機業の目的は何だ、そもそも亡国機業とは何だ」
上司に向けるような目つきではない鋭い射殺すような目を総帥に向けてしまう。
俺は今まで亡国機業に所属してきたが、その目的についてはスコールさんから少しだけ教えられたが、それは多分枝にすぎない。だからこそ今の俺には木を知る必要がある。
「その目は似てるな。いいですよ、君も幹部予備軍の一人ですから、知る必要がありますね」
ニコリと優しい笑みを浮かべ、話し始めた。
ファントム・タスク、日本名で言えば亡国機業。その起源は第二次世界大戦以前に遡る。世界中には轡木一族のように裏の世界で活躍するモノたちが沢山いた。
そしてそいつらは技術が発達して行く世界を見てこう思った、世界というモノは無数に散らばる小さな国から一つの大きな国へと変貌していくだろうと。
そこで一部の裏の人間たちは手を取り合って、世界を円滑に統合する為の組織を作り上げることにした。
本部をとある小国に隠し、その国の実権を握り、組織を立ち上げた。
それが
幻影のように世界の裏から動き、与えられた仕事をこなす。
国を亡ぼし、小さな国から巨大な世界を織りなしていく機業。
それこそが
「こんなものかな。今の裏の世界はほぼ二つの勢力に別れている。亡国機業とネオ、亡国機業が一つに結ぶ為に活動しているとすれば、ネオはほどくために活動していると言ってもいい。二つの組織は表にも力はある。亡国機業はアメリカやイギリスなんかだね。それで、他に聞きたいことは?」
爺さんがこちらに問いかけてくる。
「いや、ないよ。爺さん」
俺はそれを言って、ゆっくりとソファーから立ち上がる。
やることは決まった。
「ありがとうございます、総帥。貴方の話でやることは決まりました。俺が、俺のこの手でネオを滅ぼしてみせます。それが俺のすべきことですから」
今の俺の顔は何処まで醜いのだろうか、まだ見ぬ何かに対する殺意を胸に俺はこの世界を生きていく。
説明不足かな?
次回は多分二章最後になる予定の戦闘回。
最後に、マリーさんマジ、ヴィヴ・ラ・フランス♪